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第九節:人斬りは雑魚ではないはず

さて、散々慰められた挙句泣いてしまった俺だが、ある重要なことに気がついた。俺は今、住むところがないのだ。こちらに来たのは今日、しかも今は夕刻である。さすがにこの時間では役所も開いていないだろう。俺の表情を見たからか、サクラが問いかけてくる。


「ハイル? どうかした?」

「いや、色々まずいことを思い出して……」

「へ? なに、まずい事って」

「俺、家がない。宿も取ってないしこの時間じゃどこも満室だ……」

「つまり、寝る場所がないってこと!?」

「そ、そうなる」


 俺は頭を抱えてしゃがみこんでしまう。ギルドに頼めば泊まらせてくれるかもしれないが、自分のものが取られない保障はない。そもそも、今まで殆ど休みなしに冒険者として依頼をこなしていたせいか、まともな休息も取れていないのだ。このままだと確実に……野宿だ。

 過去に野宿したら女と間違われてゴブリンに襲われたトラウマが戻ってくるかもしれないが、やるしかないか……。俺は野宿することをサクラに伝えることにした。


「サクラ、俺は野宿するから今日はこれで。明日からの依頼、がんばろうな」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って! ハイルって家事できる……?」

「家事か? まあ、数年間一人暮らしだったのもあって基本的にはできるが……」

「ならさ! 私の同居人になってくれないかな?」

「はぁ!? ちょ、それはまずいだろう! 俺たちは男と女でしかも恋人でもないパーティーの仲間程度だぞ!? 俺がサクラを襲ったらどうするんだ!」

「ほ、ほら! 同居人が増えるとお金も安くなるし、打ち合わせとかもスムーズになるし! あとあと、待ち合わせの必要もなくなるじゃない? だから、一緒に住もうよー!」


 なんだか、村の子供たちが駄々をこねている時のようで少し笑いそうになってしまった。だが、やはり男と女であるが故に気が引けてしまうのが事実だ。しかし、見た感じだとこれは村の子供たちより性質が悪いかもしれない。


「わかったよ、じゃあ一緒に住む。でも、その分ルールをしっかり設けような?」

「さっすがハイルは融通が利くねー! じゃあ早速ルールを決めていこー!」


 こうして、俺はサクラの住む長屋に同居することになった。長屋の割には部屋数があり、それぞれで個人のスペースを作ることができた。さて、肝心のルールだがこれが問題である。サクラに聞いたところ、ハイルが作っちゃっていいよー、とのお言葉を貰えたので今現在考えているわけだが。


 一 お互いの時間を尊重する。

 二 お互いの空間を尊重する。

 三 家事は基本当番制。

 四 


 ここまでできたのはいいが、あまりにも多すぎると窮屈なので最後の一個を考えている。最後の一個にふさわしいルール……。いや、ルールに縛られなくてもよいのではないか? こう、纏めていう感じの言葉が思いつかない。……極東、俺の来た理由、国の違い。……はっ!! これでよいのではないだろうか!


 一 お互いの時間を尊重する。

 二 お互いの空間を尊重する。

 三 家事は基本当番制。

 四 仲間を裏切らない。


 極東の人であれば守れるこれで。サクラに聞いたところ、思いのほか少ないようにも感じたらしいがこれでいいとの了承が得られた。今日の家事担当はサクラがするそうなので、俺は買い物に行くことにした。


 長屋の近くには被服屋があったので新しい着物を見に行くことにした。今来ている深緑色と焦げ茶色のと二つあるが、これから生活していく上で二着だけというのはあまりにも不衛生なのでもう三着くらい買おうと思ったのだ。適当に黒と紺、それと灰色を購入し帰路についていた時のことだった。


 目の前から突然刃物が飛んできた。どんなものかまでは判別できなかったが、避けなかった時のことを考えると鳥肌が立つ。目の前には笠をかぶった男が立っていた。


「……不意打ちをした筈だが、なぜ避けられる?」

「あいにくこれでも感はいい方でね、お前は誰だ」

「生憎名乗るような暇がないんでねぇ。さっさと斬らせてもらう」


 男は腰に刺していた刀を抜き、上段に構えて飛び掛ってきた。何とか紙一重で避け、男と距離をとる。しかし、男のほうが一瞬早く動き、横薙ぎに刀を振るい頬に傷がつく。


『おい、早く俺を抜け! 死ぬぞ!』


 寝ていたはずの刀、『蛇毒ノ流水』が俺の内側から叫ぶ。しかし、そっちに気を向けられないぐらい相手は油断ならなかった。こちらが刀を抜く体勢になる前に、男はこちらに斬りかかってくる。正直、避けるので精一杯だ。


『……ちっ。しかたなねぇ、ハイル! 体借りるぞ!』

「え、ちょ、まっ」


 もう、長い名前を言いたくないので蛇毒と略称するが、唐突に体が勝手に動いた。というより、自然に抜刀の体勢に入り、男が飛び掛ってきた瞬間に懐へ入って抜刀を行っていた。

刹那の時間。人がギリギリ認識できるかどうかの一瞬。その最中に俺の体は勝手に刀を抜いていた。

男はまだ生きているらしく、呼吸はしている。体の強制力がなくなり、俺は急いで長屋のほうへ走っていった。


「どういうことだよ? あの時、体が勝手に……」

『俺様がお前の体の力を引き出しただけだ。あと、ちょっと操った』

「何? ちょっとって? おい答えろ」

『……いや、なんか知らないけどお前本来の十分の一しか力を使ってなくてきついっ! てなってるの見てこいつあほだなーって思ったから乗っ取った』

「お前最低だな」

『おう、最低で結構』


 それ以降、蛇毒は声を出さなくなった。しかし、蛇毒の言っていた本来の力の十分の一というのがすごく気になる。


 ――――

「頭領、仲間は無事っす。あれは絶対斬られたと思ったのに」

「それだけハイルが強いってことだろ。だから言ったはずだぜ、虹級に王手をかけているあいつに手をだすなと」

「これでダイゾウも懲りたことでしょう。あっしはギルドのほうに戻りまっせ」

「分かった。それと、闇の爪々(シャドウ・クローズ)に通達しとけ。『頭領権限により我々はハイルを守護対象にする』と」

「サーイエッサー!!」

 しっかし、あの後から後ろを追いかけたが山賊に襲われるわ神刀の保持者になるわで大変そうだな。それでも、あいつに笑顔が戻ったことは喜ぶべきだろう。なあ、ハイル。俺はいつだってお前を支えるから、ちゃんと幸せになってくれよ。


 続

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