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第八節:運命の翻弄

「……」

「ハイル、話は終わったかね?」

「終わりました。鑑定、ありがとうございます」


 俺は自分がわからなくなった。否、元々分かっていなかったのだ。自分を理解しようとしなかった。理解した気でいたのだ。自分を理解していなかったという恐怖が俺を蝕む。


「ハイル、今日はもう休むのだ。今、お前は壊れかかっておる。今ならまだ間に合うかも知れないが壊れてしまってはもう手の施しようがない。だからこそ、今日はここまでにしておくのじゃ」

「……分かりました。お気遣い、感謝します」

「うむ、刀に関しては明日以降また聞こう」


 鑑定を終えた俺とイサミさんは共に和室を出てお店側まできた。店には俺と同じように鑑定や研ぎをお願いする人や、新たに刀を購入しようとしている人、そして店のベンチに座って団子を食べながらお茶をしている人がいた。団子を食べながらお茶をしているのは、サクラとヨミコさんだった。


「おっ、ハイル! どうだったんだい刀は?」

「えぇ、『蒼穹ノ太刀』は強化できるらしいんですが、他は無理そうです」

「おじい様ですら強化できないとなると、それはもう神の領域じゃないかっ!」


 早速俺の持っている刀が神刀であることがばれてしまった。それを聞いて反応したのは隣にいたサクラである。


「ハイルっ!」

「は、はい」

「私にも刀みせてっ!」

「……人が少ないところなら」

「えぇっ!? そんな、人が少ないところなんて……まだ早いと……ごにょごにょ」

「??」


 俺が人が少ない所と指定したら、サクラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。周りの人たちも、男からは尊敬? の声があり、女からは黄色い声が上がった。俺は何かまずいことでもいったのだろうか?


「あの、私の家に……きませんか? 私一人暮らしなので」

「え? あぁ、うん。そうする」


 サクラは頬を朱色に染めたまま言ったが俺はなぜそんな顔なのかイマイチわかっていなかった。だからこそ、俺はこの後自分が盛大に誤爆したことを反省するのだが。サクラにつれられ鍛冶武具店をあとにする。コンドー家の悪い顔が出てたのもなにかあったのかと勘違いしている今の俺は、なんと頭がお花畑なことか。


「ここが私の家です! ちょっと汚いかもしれませんけど幻滅しないでくださいね!?」

「いや、しないよ……」


 サクラの家は長屋の角部屋だった。角部屋と聞くと日当たりが良いとか隣の声に気を散らされにくいとかメリットがたくさんある。その分、相場も高くなってしまうのが難点だが。サクラの部屋に招かれ入ってみるとやはり女の子だからなのか綺麗に整えられていた。しかし、やはりといって良いのかサクラの部屋も和室である。

 サクラに促され、サクラの対面に座った。まだ顔が赤く見えるが、先ほどよりは落ち着いていたので安心する。


「あの~、えっと、その……」

「刀を見せればいいんだよね?」

「そ、それもそうなんですが! それ以上に聞きたいことが、あったり~なかったり~……?」

「ん? 答えられる範囲であれば何でも聞いてくれてかまわないが……」


 サクラはモジモジしながら、あーでもないこーでもないと独り言をつぶやきはじめ、何かを決心した様子で聞いてきた。


「ハイルってあのキョーヤ様の子供なんだよね? フジワラ家の長男『剣術師』の」

「まあ、たぶんそうなんだと思う。父さんから貰った刀があのコンドー家が当時の技術全てをつぎ込んだ世界に一本しかない刀だったから」

「それでね、ヨミコさんに聞いたら半年で白金級にまで上がった天才って……」

「……俺は天才なんかじゃない」


 何だろう。わからない。なぜ俺は怒りを感じている?


「天才だよっ!本来冒険者になって銅級から白金級に上がるのに最速でも十年はかかるんだよ? それを半年って、それは天才だよ!」

「……ただがむしゃらにやってただけだ。俺はただの人間で無力だ」

「そんなことn」

「あるんだよっ! 世の中どんなに天才といわれようがただの人間には限界がある! どんなに足掻こうと、どんなに手を伸ばそうと届かないものがあるんだっ!」

「ちょ、落ち着いて」

「俺は! 俺は、ただ守りたかっただけなんだ。愛する人を失いたくなかった。でも、俺が願ったものは、俺が手に入れたいと思ったものは全てこの手から落ちていく。わかるか? 俺には何も守れやしない。何も救えない。こんなことなら、生まれてくるんじゃなかった……」


 俺が言葉をこぼした時だった。サクラに殴られた。女性らしく、威力自体はそこまでないが、サクラが涙を流しながら殴ったことに俺は驚きを隠せなかった。そして、気づいた時にはサクラに抱き寄せられていた。


「生まれてくるんじゃなかったなんて言わないで。それは、絶対だめ!」

「サクラには……関係ないじゃないか」

「関係あるっ!私の知り合いが傷ついてる、それも、きっと私のせいで。だから、私は関係あるの!」

「……」

「ごめんね? ハイルのこと何も知らないのに天才なんて持ち上げて。お願いだから、落ち着いてお話しよ?」


 さっきまでの怒りが嘘だったかのように無くなり、俺は冷静になった。そして気づいた。果たして俺はあの時、レナと分かれた時は冷静だったのだろうか? レナの両親に言われたことで冷静さを欠いていたのかもしれない。

 ……そうか。俺は冷静じゃなかったのか。


「ありがとう、それとごめん、サクラ。俺も冷静じゃなかったよ」

「ううん、私のせいで、こっちこそごめんね?」

「なあ、こんなときに言うのもあれなんだけどさ」

「何かな」

「俺とパーティーを組んでくれないか? 今まで一人でやってきたけど、ここら辺の事、俺知らないからさ。」


 サクラは快く了承してくれた。サクラもソロだったらしく一人に限界を感じていたらしい。

 この日、俺は改めて冷静になって、自分を見つめ直すことにした。こっちでの生活が落ち着いてきたら……手紙を出そうと思う。

 ――――


「そろそろ、動き出さないとね」

「僕は別に良いと思うんだけどなぁ」

「あなた、息子の幸せを望むなら動きなさい」

「は、はい」

「ハイル、あなたは器の大きい子よ。女の子の一人や二人くらい娶ってみなさい」

「ちょ、二人はまずくない?」

「あら、あたしの様にいい子よ? そのくらいできなきゃあたしの息子じゃないわ」

「……ハイル、ドンマイ」

 続

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