第七節:復讐鬼の末裔
「さて、その二本の刀はわし……いや、世界の誰もが強化をできない代物じゃ」
「世界のって、それはまた大袈裟な!」
「いいや、大袈裟なんかじゃないわい。わしもはじめてみたが、この刀はわしら人間が扱えるような代物じゃないのだ。何故キョーヤ様はこのような刀を持っていたのか疑問じゃが……。とりあえず、そのステータスをみてお前さんが判断しなさい」
そういってイサミさんは目の前に二つの刀をステータス紙と共に渡してくれた。はじめに見たのは亡き母さんの形見である赤色と言うには薄いが桃色というには濃い色をした刀があり、時々であるが金色に淡く光る刀だった。
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神刀 紅桜ノ審判
能力:獄炎
使用者:――
製作者:――の女神
ランク:SS
前使用者:『魔眼』フジワラ=セレーナ=クローデル
覚醒状態:休眠
神が作りだした魔眼の一族に伝わる伝説の神刀。振れば炎が荒れ狂い、突けば熱い衝動波を放ち、大地に突き刺せば大いなる大地からマグマを噴出させることができる奇跡の刀。現在休眠状態だが、一定時間熱を与えると覚醒する。また、言語を理解して会話を行うことも可能。
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俺はあっけにとられてしまった。
最初からぶっ壊れているなぁ……。もう驚きを通り越して呆れだよ母さん。しかし、世の中には神が創ったといわれる武具があるのは知っていたが、それがこの刀だったとは。しかも会話ができる刀なんて見たことがない。これはイサミさんも驚くわけだ。俺も少しため息をついたが、何せ虹級冒険者だった母さんのことだ。このくらいなきゃやはり虹級にはなれないのだろうと改めて思わされた。
刀を鞘に戻し、今度は亡き父親の形見の刀を見る。刀身は紫色でなんとも毒々しい風貌だが、何故か俺はそれを美しいと感じてしまった。きっとほかの人が見たら真っ先に敬遠するような刀なのに。俺はこの謎の見入り方が何なのかわからないままステータス紙をみた。
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闇刀 蛇毒ノ流水
能力:毒雷撃、闇術
使用者:ハイル=クローデル
製作者:――の神
ランク:?
前使用者:『剣術師』フジワラ=キョーヤ=クローデル
覚醒状態:覚醒
神が作りだした神刀に対をなす刀。人に裏切られ、その悪意が刀に現れたのが紫色の刀身である。使用者の体や技術、心内環境によって変化する形を持たない希少な刀である。人を斬る事に特化しており、対人を想定された軽さと能力がある。雷撃や闇術を増加することやそれに毒を付与させる力がある。意思を持っており、言葉を理解するため会話も可能
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こんな刀はじめてみた。そもそも、物体というのは固定された形を有している。たとえ溶けたとしてもその性質はほとんど変わらず、まして名前など変わるはずもない。しかし、この刀は人の体や技術、それに心内環境によって変化するなんて、神が創った刀は何でも有りかっ!
心底呆れとため息が出てしまう二本の刀は僕が扱うことができないようなものばかりだった。それもそうだろう、大陸最強のパーティーの内の二人が俺の両親なんだ。そんなすごい存在にたどり着けない。俺は何よりも俺の両親に追いつくことに固着していた。だからこそ、俺はそれが非常に難しいものであることを突きつけられて心が折れかけた。……いや、もう折・れ・て・た・のかもしれない。
そんなときだった。
「うっわ、超辛気臭い顔してるよコイツ。あーさぶっ!」
声が聞こえたのだ。それは俺の声でなければ、イサミさんでもない別の声だった。俺は声の主を探すために周りを見渡したが誰もいない。
「おい、なにキョロキョロしてんだ? 下だよ! し~た~!」
「下……? 刀しかないが」
「それが俺様だって! 何? S? お前ドS?」
「……ふぁ!?刀がしゃべった!?」
「いや、ステータスに書いてあるじゃん会話できるって。なに? お前馬鹿なの?」
ことごとく人を煽る刀だ。性格が悪い。そもそも書いてあってもしゃべる刀とか驚くだろう……!
「まったく、コイツがキョーヤとセレーナの子供とは思えないな」
「そう見えなくて悪かったな!」
「……まあでも、心の内に秘めたその感情。俺は理解できるぜ。初代よりも強い復讐心、それを理性で抑えてるのはほめてやる」
「復讐……心」
「お前の心は俺に投影される。お前を俺は所有者として認めたからな」
俺の心にある人が持ってはいけない心。復讐心があることがこの刀にはばれているようだ。俺の両親を殺したパーティーのやつ等や勇者。あいつらを殺したいほどの憎しみが、心にある。それは刀がいった通り理性で何とか抑えているものだ。
「俺は人を切ることに特化しているが魔物は切れねぇ。つまりは冒険者向きではないわけだ。だから言っておいてやるぜ、ハイル。俺を使うときは、人を斬る時だけにしな」
刀はんじゃそゆことでっ、と声を発しなくなった。
俺は、いったい何をしたかったのだろう。
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彼女が壊れてから早くも一週間が過ぎた。僕は現在イラーニア村で宿をとってすごしている。彼女の婚約者、ハイル君が居なくなってからこの村は大騒ぎだった。彼女を罵る者や物を投げつける人が多く居た。皆、純粋無垢なハイルを返せと。彼女自身が何も理解できていないのに。
彼女の両親の話を聞いたときに、彼女は壊れてしまった。僕は、勇者として、1人の人間として何もできなかった。僕は、何のためにここに来たのだろう。僕はただ、彼と仲良くなりたかった。それなのに。
「ハイルーきょうはなにしたの? わたしはねーおひるねしたよー! こんど、ハイルもやろうねー」
「……早く彼を見つけないと」
ああ、愛しいあなたよ。僕はがんばるから君も僕が居ないことを嘆かないでほしい。
必ず迎えにいくよ。
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