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第三節:極東への旅路 前編

 

 ヨミコさんの商業馬車に乗せてもらって極東に向かって3日程経った。ヨミコさんは昔冒険者をしていたらしく、結婚をきっかけに冒険者を引退して商人になったそうだ。


「旦那が頼むから死なない仕事にしろとうるさくてねぇ……あたしゃまだまだいけるってんだ!」

「ヨミコさんは元気ですね。俺には、何も残らなかったんで。尊敬します」

「……ハイル、何があったかは聞かないよ。それはあたしら極東の土地では御法度だからねぇ。でもハイルにはまだ未来がある。それに向かっていけばいつかは幸せになれるさ」


 今までの豪快さとは違い、母親のように包み込むような優しさを向けられた。久しく向けられなかったその行動に俺は驚きを隠せなった。世界にはまだ、このように優しさを与えてくれる人がいる、そう感じれるほどに、俺は親の存在を欲していたのかもしれない。


 片目から流れた雫をぬぐい、前を向く。父に言われたことである『女の前では泣くな』という言いつけを無意識に行動に移したからだ。温かい。そう感じたのは数年以来のことで、俺は懐かしんでいた、その時。

 後ろからヨミコさんと俺の間を抜けるように飛んで行った物体があった。弓矢である。


「ヨミコさん! 馬車を走らせて! 山賊かもしれない!」

「あぁ! あの弓は毒が塗ってある特殊な矢だよ、当たらないよう気を付けておくれ! ハイル!」


 ヨミコさんが馬車の速度を上げる。しかし、矢の攻撃は収まるどころか多くなっている。これはもしかすると……。


「ヨミコさん、敵が多い。矢は俺が斬るから、ヨミコさんは前を!」

「あいよっ!」


 俺は馬車の後方部の貨物が置いてある所まで行き、敵の人数を確認する。およそ八人の山賊が弓をこちらに構えている。これは、話してもダメそうだ。俺は若干の諦めを感じつつ、腰の刀に手を添える。『抜刀術』の威力は抜刀する瞬間にこそ発動する。しかし、同時に八つの相手に気を張るのは難しいので、俺は少し魔法に頼ることにした。


 山賊が一斉に矢を放つ。その瞬間に魔力を活性化させ、周囲に影響を及ぼさせる。本来口にすることは恥ずかしく、一人の時にしか使わないが今回ばっかりは仕方ないと腹をくくり、俺は大きな声で叫んだ。


「『時ノ軌跡』!!」


 叫んだ瞬間、時間がゆっくりになる。いや、俺だけが時間を引き延ばされてるといった方が正しいかもしれない。極度の集中状態に強制的に持っていき、見るものをゆっくりにさせる身体強化魔法の一つである。


 この状態に持ってきたことによってゆっくりと近づく矢尻を見据え、抜刀の準備に入る。座ることができないので腰をなるべく低く構え、添えていた手に力を込めていく。チャンスは一度のみ、失敗すればそこで人生終了。俺だけならともかくヨミコさんを道連れにするわけにいかない!!


 矢が俺の腕二本分より少ないかの距離に入ったところで俺は抜刀した。左下から右上に向けて刀を抜ききったところで魔法を解く。矢はすべて斬られ、後ろにいた()()()()()までも断ち切られていた。


「初級抜刀術『一閃』」


 静かに技名をつぶやく。俺が一人なのはこうして声に出したくなる癖のせいでありそれを隠すために今まで一人で冒険者をやらざるをえなかったといえるだろう。

 ヨミコさんの元に戻り、山賊を倒したことを伝えるとすごい褒められた。今まで褒められるなど銅級冒険者だった時以来で、俺はものすごく恥ずかしかった。

 ヨミコさんは俺の刀を見ると商人の顔から職人の顔に代わっていった。


「ハイル、あんたがさっき使った刀を見せてくれないかい? 職人でもある以上気になって仕方がねぇんだ!」

「これですか? 父からの譲りものですけどいいですよ」


 刀を抜き、ヨミコさんに渡す。ヨミコさんはその刀を見た瞬間、驚いていた。


「ハイル……この刀は父から貰ったといったね?」

「? えぇ、父から冒険者になった時のお祝いに貰ったものですが……?」

「てことはあんたの父親はキョーヤ=フジワラってことかい!?」

「苗字は教えてもらえませんでしたが、名前はキョーヤですよ。もしかして、なんかやばいとかですか?」


 もしや父は極東で何かやらかしたのかと焦っていると、ヨミコさんは若干興奮しながら教えてくれた。


「キョーヤ様は私の町の領主の息子で最強の剣術師だったお方だよ! それにこの刀、これは世界に一本しかない『蒼穹ノ太刀』じゃないか! あたしが生まれるちょっと前に作られた()()()()()の技術すべてをつぎ込んで作ったといわれるおじい様の刀を見れるだなんて!」


 ん? 今刀を作ったのがコンドー家って言った?


「え、えええええぇぇぇぇぇ!?!?」


 今日一番の叫びが山々の中に轟く。

 それは周囲の動物が驚くほどだったそうだ。


 ――――


 ある時、少年は極東に渡りそこで同じ境遇にあった少女と出会った。


 彼女の腰には少年と同じく、一本の刀を携えていた。


 彼女こそ、女神に愛された女であり後に妻となるものである。


 二人は極東の人たちの心を見て、凍り付いた心を溶かしていった。


 いつしか極東では他人を裏切ることを法律によって極刑に相当する罪として、後世に知られていった。


 少女は少年と共に歩むことを決め、少年の信頼を勝ち得るためにあらゆる武器を少年に与えた。


 少女の与えられた刀は『紅桜ノ――』。


 その刀の刀身は赤色と桃色を混ぜた美しいものだった。


 続

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