第二節:不吉なしらせ
ギルドの中に入るといつもとは違う喧騒が場を満たしていた。
冒険者たちもいくらか殺気立っており、職員は焦りながらも何かの準備をしている。
俺たちはその異様な雰囲気の中で依頼を受けるような状態ではないことを本能的に感じ、受付にいた職員に話を聞きに行った。
「なんだかいつもと違う気がするんだが。何かあったのか?」
「これはハイル様、現在例外なくすべての冒険者に依頼を停止してもらっています。その理由が理由なだけに冒険者も気持ちの整理がついていないようで」
「依頼を停止? その理由も気になるところだが」
職員は少し気まずそうにしながらも理由を話すため、俺とサクラを所長がいる部屋に連れて行った。本来であればこのような措置はしていないがどうやら俺に関連することがある為、別室で話をする必要があるようだ。
「こちらに所長がいるので、所長から直接聞いてください。多分、お辛い話にもなるので」
職員は、私はここより先に入る権限が現在ありませんのでここまでとなります、と言い残し自分の仕事に戻っていく。
「またここか」
「ハイルはきたことあるの?」
「初めてここに来た時に騒ぎにならないよう連れてこられた」
サクラもここに来るのは初めてのようで不謹慎ながらもワクワクしているようだった。まぁ状況が違えばここに来るのは指名依頼やそれこそ白金級に上がるときくらいだし、興奮するのも無理はない。
そんな中ではあるが俺は戸を叩き、中から所長のどうぞという許可を聞いて入室する。
所長は仕事をしている最中だったのか書類を見ながら目の前のソファに座るよう促されたのでとりあえず座って待ってることにした。書類を見終わった所長がこちらに来て体面に座って話し始めた。
「まずは急な呼び出しに対応してくれて感謝している」
「呼び出しも何もギルドに来たらこうなっただけだ」
「そうか、しかし事態は一刻を争う為事実だけを言う」
そういうと所長は何か言うことをためらいながらも覚悟を決めた面持ちで話し始めた。
「アージア神聖国の依り代が暴走、新たな魔王として君臨しこの極東に侵攻を始めた」
「つまりアージア神聖国は……」
「事実上の陥落、軍も魔王によって操られ魔物と共に現在こちらに侵攻を開始した。その数十五万」
十五万の軍、しかも魔物との連合状態で攻めてきているという事実に俺は驚きを隠せなかったがそれ以上に気になることがありすぎた。
「聞くだけでもまずいことは分かりますが、依り代は一体……」
「本来であれば第一級秘匿事項ではあるが致し方ないとして説明します」
所長は本棚からある神話が書かれた本を取り出しながら話をつづけた。
「古代の文明から今に伝わる話です。現在は神話、御伽噺として巷では広がっている話になります」
そういいながら所長は本を開き語り始めた。
――――
――
はじめは光も闇もなかった。すべてが一つの存在。
十九の神はこれを憂い、一つの星に生命を与えた。
進化と衰退を繰り返し、やがて現れる知識の泉を得し生命の誕生を。
あるとき、神たちが予期せぬ生命が誕生した。知識を得て生まれた『人』という存在を。
『人』は進化や衰退というくくりから外れた生命。しかし、神が望んだ生命でもあった。
神は善と悪に分かれて知識の均衡を保つことを決めた。世界が善だけであれば知識は育たず、悪だけであれば生命がなくなることを知っていたからである。
神が作りし『勇者』と『魔王』。善と悪の均衡を守りし守り手。
一つの小競り合いとして作り出したそれに、二十番目の神が偏りを作った。
小競り合いが争いに、争いが戦争に、戦争が滅びを呼んだ。
滅びを救う為、十九の神は必要な対立を作り、二十の神を地に落とす。
しかし、二十の神はこれ幸いと地を支配しさらなる混沌を生み出した。
二つの守り手に澱みを作り、歪ませ、滅びを得ようとした。
十九の神たちは星を安定させ、生命を保つため。
七つの光と十二の闇によって星に安定をもたらす。
そしていつか来る二十の神を屠らんとした。
しかし、二十の神を屠りし者現る。
人の身でありながら神にいたりし一人の少年。
闇の力を宿したるは神殺し。
復讐と憎悪を持ちし少年、神殺しと共に世界を裂く。
輪廻から外れ少年は力を来世へと引き渡し、神に至らんとする。
目的は全ての神の抹殺。
神は哀れに思い、復讐と憎悪を取り除き、光を少年に宿した。
その光、人の手によって失われ。
世界が滅びる。
人は人に、王国は王国に対して立ち上がり。
各地で滅びの鐘の音、鳴り響く。
これらすべて苦しみの激痛の始まり。
滅びの印あらわるとき。
月は光を失い、太陽は暗く、天の力は揺り動かされる。
その結末は
少年によって紡がれる
――
――――
「というわけで、この神話に出てくる十九の神、そのうち闇を司る十二神によってもたらされるのが神の獣です。それを内に宿している人が依り代と呼ばれるわけです」
「なんだか壮大な話だが所詮神話ではないのか?」
そうだったらどれだけよかったことか、と言いながら所長は写真を見せてくる。
「こちらは『星間航行記録装置』と呼ばれる滅びた文明の遺物なのですがこの遺物にこれまでのことが詳細に記録されています。今もなお」
「今もだと!?」
「はい、この遺物があるおかげでこの世界の歴史は一部の狂いもなく正確に記録、公開されています」
「一部の狂いもなく……」
俺たちはそんなものがあることに驚いていたが、それ以上に驚いたことはこれまでの歴史に不確定はなくすべて真実であったことだった。
それを察してか所長は説明を付け加えて話す。
「もっとも、国や世界にとって体裁が悪いものや抹消しておきたいものは意図的に一般史には乗らないようにはなっています」
「だとしてもなんでそんな情報を知っていて俺たちに?」
「それは、私が冒険者ギルドの所長であるのと同時に闇ギルド『アラガウモノ』の成員だからです」
それを聞いた瞬間、俺は即座に刀を抜き所長に切りかかる。
サクラは驚きを隠せないまま俺と所長を見ていた。
闇ギルド。聞くだけでも苛立ちを覚える。
だって。
「あんたらが、俺の親を殺したのか!!!!」
そう、俺の親は、闇ギルドに殺されたと聞いたからだ。
さて、ここにきて闇ギルドも登場ですね。
しかし、闇ギルドって呼ばれてるだけで、それは本当に悪でしょうか?
答えはすでに読者の元に。
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