閑話:勇者たち1
『剣星』レナは相変わらず廃人と化していた。
その様子を勇者はとても不憫に感じている。
彼らが新たなる仲間として破竹の勢いで白金級に上り詰めたハイルが勇者たちを恨んでいるということが世間に出回ったからだ。
「ゆうしゃさま。はいるとはいつあえるの」
「……中央都市まで来たのは間違いないみたい。エネにお願いして痕跡を探してもらってるよ」
『術星』、歩く魔導書と呼ばれているエネに頼んでハイル君の痕跡をたどってもらっている勇者。本来であれば魔王討伐に戻らなくてはいけないのだが、彼はハイルを探すことに躍起になっていた。
それは、【凄く嫌な予感がする】からである。
勇者の能力としての勘だが、それ以上に勇者の勘が警鐘を鳴らしていた。このままではいけないと。
そもそも、魔王討伐には勇者と七極星と呼ばれる七人の神託者によって初めてできる。しかし、勇者はそれでもハイルを欲しがる理由があった。
「あの時のあの感じ……。彼も覚醒者のはずなんだ」
「ゆうしゃさま? おかおがこわいですよ?」
ついつぶやいた【覚醒者】。本来であれば人は魔王に対抗できず、勇者に頼るしかない。しかし、覚醒者は違う。
世界のシステムから逸脱した、もしくは神によって逸脱することが許された人類最大の到達点。過去に勇者が現れたときに一人だけ得られるもの。
条件がはっきりしないものの、唯一分かっているのは当代勇者と同姓であり勇者の周りの人間に縁深い人間が覚醒者となる。
そして覚醒者は、単独での魔王討伐を可能とする。ある意味勇者の上位互換である。
まるで勇者がダメだった時の保険のようにも見える。
勇者はそれゆえに、いやそれ以上に友になりたいと願いながら勇者はハイルに会いに行ったのだ。
しかし、自国の愚王。父親による余計な些事によって全てがくるってしまった。
勇者はハイルの友になるどころか、嫌われ憎悪の対象にされてしまった。余計なことをしたことによって、事態が思ってもいなかったことの方に起きてしまった。
「おのれ父王。この代償は高くつくぞ」
「たかくつくぞー!」
「……アルメニアに頼んで精神を安定させる魔法をお願いしよう」
ぽつりと勇者は自分に言い聞かせるようにして、ハイルの捜索を再開する。
まさか自国の王、父親が復讐のために覚醒した魔王によって殺され未曾有の危機に陥っているともつゆ知らずに。
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