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第十節:血の匂い

 人斬りにあってから数日が経った。あの後、俺はサクラの家に戻り、事の顛末を話した。サクラは驚いていたが俺に怪我無いのを確かめると安心したようだった。その後、イサミさんに新しい刀を注文したり街の大まかな配置を覚えたりと忙しいかったが充実した数日だったといえる。


「ねぇ、話聞いてる?」

「悪い、全然聞いてなかった」

「もぉ~! 最近忙しかったのは分かるけどさぁ~」


 この通り、サクラとの距離が近くなったのも一つの変化だろう。使う武器がちがうからなのか、戦闘時の連携も心なしか上手くいくのだ。ただ、この距離感に俺が慣れてないことに若干の不満があるようだが。


「今日は何の依頼行く? 私的にはハイルとならどこでも楽しみだけど……」

「あのなぁ――。そんな事他の人の前で言うなよ? 男はすぐ勘違いするんだから」

「?? よくわからないよ~」

「はぁ……とりあえず今日は迷宮に行かないか? 丁度ギルドからの調査依頼もあったし」

「お給料がっぽがっぽだし?」

「まあな」


 少し笑みを含ませて言うサクラ。少しドキッとしたのは言うまでもない。そもそも、サクラは無自覚でやっている。天然も良いところだ。俺は依頼の紙を受付に渡しに行った。迷宮の探索は実力があると認められている金級以上の冒険者が受注することができる依頼で、報酬も百ゴールドと多めの金額がもらえる。

 極東の貨幣はゴールドではなく、ミナやドラクマ、タラントといった単位で数えられており、それぞれ一ドラクマが十ゴールド相当、一ミナが百ゴールド相当、一タラントが千ゴールド相当という感じに割り振られている。要するに、今回の依頼は極東の単位で言うと一ミナなのだ。


「一ミナ有ればもう少しいい飯が食えそうだ……」

「え、ポーションとかじゃないの?」


 俺の独り言にサクラが突っ込む。


「ポーションには宛があるからな。足りなくなる前に手紙とお金さえ払えば届けてくれる」

「やっぱり白金級冒険者は違うねぇ~」

「白金級だからどうとは言わないけど……」


 ギルドを後にして迷宮に向かう。迷宮というと街の外などにあるように感じるかもしれないが、実際は街の中にある。迷宮は未だに踏破されたものはなく、その全てが未だに第五階層までしか到達されてないのだ。その下にあと何階層あるのかすら分からない未知の領域である。

 また、踏破されている階層も未だに全容が分からないと分からないことだらけなのだからブラックボックスと言っても過言ではない。


「食糧は干し肉と野菜、後はテント……」

「……なんでどんどん物が消えるのか聞いても良い?」

「アイテムボックスだけど?」

「……」


 サクラは口を開けたまま黙ってしまった。アイテムボックスは珍しいものではないが値が張るため持っている人は少ない。驚くのも無理はないだろう。俺は荷物をアイテムボックスに収納していくが、ふと腰に挿している刀を見る。流石に全部持っているわけにはいかないので、『蛇毒ノ流水』と『紅桜ノ審判』を腰から抜き、アイテムボックスに収納することにした。

 そもそも、蛇毒は対人戦用だし紅桜はいまだ休眠中なのだから仕方ない。


「そろそろ行くぞ、サクラ」

「……っは! ちょっと待ってよ!」


 意識が無かったのか急いで武器と荷物を持っているサクラだった。

 迷宮の入り口に来た俺達は、持ち物の再確認をして入って行った。迷宮の中はヒカリゴケが壁に茂っており、ヘタな洞窟よりも明るかった。しかし、明るくても外の世界に比べれば全然暗い。


「サクラ、俺からあまり離れないようにしてくれ。思った以上に広い」

「通路だけで私たちの家の大きさを超えるとか聞いてないんだけど……」


 そう、通路だけで家一つ分の広さがあったのだ。刀を使う分には良いのだがいかんせん索敵が散漫しやすくて困る。お互いの背をくっつけてなるべく全方位を見るようにしていた。

 その時、俺の足元に液体を踏んだ音がした。それもただの液体ではなく少し粘り気のある液体の。

 そこには。

 無残にもボロボロになった、人の形を成していたであろう物が転がっていた。

 足元には赤い液体がこれでもかとぶちまけられている。


 俺は思わず吐きそうになる。何度見ても人の死体は慣れないものだ。錆びた鉄のような匂いが鼻孔を突き抜けていく。サクラが水をくれたのでそれを飲み何とか吐き気を抑え込む。


「た、助けてくれぇ!!」


 声が少し近いところで聞こえた。声のする方向に目をやるとうっすら人影が見え、その後ろにははいつくばって走る巨体が見えた。徐々にこちらに向かってきている。


「た、助けてくれ! み、みんな死んじまって……逃がそうとしてくれたんだけど逃げられなくてっ!!」

「分かった。サクラ、この人の手当てをしてくれ。俺はあの巨体を切り伏せてくる」


 その男の装備は破れたり壊れたり、彼の武器も刃こぼれが酷く、命辛々逃げてきたことがうかがえる。俺は姿勢を低くし抜刀の体制に入る。腰にはいつもの『蒼穹ノ太刀』。人斬り事件の後に蛇毒が言っていたことを思い出す。そう、この数日間ただ買い物や散策をしていたのではない。

 自身の本領を発揮するために蛇毒から教わった魔法でもスキルでもないこの力を信じ、刀を握る手に力を籠める。


「心を縛る鎖よ、いつか夢見た理想を散らし、己が力を解き放て。蒼穹の刀の名のもとにかの敵を討ち取らん。中級抜刀術、『菊十文字』!!」


 姿の見えたトカゲのようなものを十字に斬りつける。それを追いかけるように斬撃が後を追って行った。新たに習得した『言の御霊(ことのみたま)』の力によって一時的に枷を外すことを可能にしたのだ。蛇毒曰く、一種の自己暗示らしい。斬られたトカゲは絶命し二度と動くことは無かった。


 ――――


「ほら、きっとここにハイル君はいるよ」

「ハイルはここにいるよ?」

「……少し大人になったハイル君を見に行かないかい?」

「おとなのハイル? みにいくー!」


 やっとのことでハイル君の足取りを掴むことができた。そして、ハイル君のあの時の言葉も理解できた。


『……結婚をするから身を引けって話なら知ってますよ』


 国からの使いを問いただすことで国王が何をしようとしたのかもわかった。ただただ殺意しかわかない。だからこそ、誤解であることを彼に伝えなければ。

 あぁ、()()()()()()()。僕と同じ目をした人間になってしまった。


 続

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