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第一節:悲劇の幕開け

元作品がありますが、作者は同一人物です。

なお、元作品と一緒なのは第一部まで、第二部以降からプロットの作成をし直しているので第二部までは編集終わり次第随時更新されます。

 この世界には勇者がおり、魔王がいた。


 互いは互いを憎みあい、いつしかそれは人類と魔族の戦争に発展していった。


 勇者は世界の神から力を受け、いつの時代も魔王を倒し、世界に平和をもたらしてきた。


 勇者は人類の希望と呼ばれいつしかそれは信仰の対象にまでなっていった。


 あるとき、勇者の策略によってとある村の少年の婚約者が奪われ、その婚約者は少年を裏切り者とした。


 少年は悲しみのあまり単身で魔族領に乗り込み、魔族の二分の一を屠った後、勇者と婚約者を呪いながら息絶えた。


 少年の思いを創造神が汲み取ったのか邪悪なる勇者と少年の婚約者は異例の若さで死を迎えていった。


 この時の出来事を踏まえ、人類は勇者の認識を改めることになる。


 長い年月を迎え、勇者により不幸になった純粋な心を持った人間は創造神の権限により、――の神と――の神の加護を受け、その先の人生は神の加護により自らを殺さない限り天寿を全うすることが神託として下った。


 ――――――


 イラーニア村の中心にある冒険者ギルド。そこの受付と話す少年。少年は極東部に伝わる着物と呼ばれる服を纏い、腰には同じく極東部に伝わる斬ることに特化した刀と呼ばれる武器を下げていた。


これは俺、ハイル=クローデルが後世に伝わる話の始まりである。


 この村で育ち、同い年の婚約者である『剣星』を幼馴染に持つ、簡単に言えば恵まれた人間と言えるだろう。幼馴染は半年前に勇者パーティのメンバーとして王都に行った。そんな今日は久しぶりにその幼馴染が村に帰ってくるということで俺は嬉しさを隠しきれなかった。

 幼馴染、レナ=ジーレムはスキル『剣星』を得てから離れてしまったが、俺はレナに見合うように冒険者として異例の速さで白金級の冒険者になった。ちなみに下から銅級、銀級、金級、白金級、虹級となっており、俺は上から二つ目の階級になる。

 俺のスキル『抜刀術』は今は亡き両親の父親が極東出身だった由縁だと思う。俺にはこのスキルがあったからこそ俺は白金級の冒険者になることができたのだろう。


「ハイルさん! A級依頼の達成を確認しましたよ! こちら報酬の1200ゴールドです!」

「ありがとう、今回はクエストの割に報酬が良かったから嬉しいよ」

「ハイルさん結婚資金を貯めてるんでしたっけ? いいなぁ~相手がレナ様でなければ私が奪ったのに……」

「駄目だよ、俺じゃなくても他人のものを取っちゃいけない」

「お母様――セレーナさんの心得でしたっけ? 冒険者としての大事なことが載ってる――」

「そうだよ、世界で五人目に虹級になった冒険者。俺の誇りだよ」


 受付嬢の女の子は流石ですよね~と言いながら報酬を渡してくれた。受付を離れ、近くの席に着いた後も他の冒険者たちから労いの言葉をもらった。そんな中で大きな体をした俺と同じぐらいの丈の斧を背負った男が対面に座った。その男はジール=セヴァステンと言って長年この村で冒険者をやっている男だった。


「よう、今日は雷帝を討伐してきたそうじゃないか」

「雷帝と言っても幼体、子どもだったからな。討伐するのは心苦しかったよ」

「お前は純粋だからな。なんならテイマーになるのも良いんじゃないか?」

「収入はあった方がいいし、結婚資金の為だ。俺はレナの為にすべてを捧げるって決めたんだ」

「……なるほどな。守るものがある、それがお前の強さか」

「さあな。俺はレナの親から呼ばれてるからそろそろ行く」

「ハイル! おめぇはちゃんと幸せになれよ」

「言われなくてもなってやるさ。でも気持ちはあり難く受け取っておくよ、ありがとうジール」

「……。本当に幸せになれよ」


 俺は席を立ちギルドを後にした。レナが帰ってくるまで時間はまだある。おじさん達は何故俺を呼んだのだろうか?


 ――――


「レナと別れてくれないか……?」


 おじさんに言われてのはその一言だった。目の前が真っ暗になりそうで、感情が溢れそうで、辛くて、苦しかった。言われたことを理解した時、俺は暗に婚約を破棄しろと言われていることに気が付いた。


「何故、と聞いても良いですか?」


 俺はあくまで冷静さを保つ。冷静さを失えば俺は人を切ってしまいそうだったのだ。

 おじさんはゆっくり話し始める。


「レナは、勇者様との婚約が決まった。だから……ただの冒険者と婚約していたなどと知られれば勇者様に泥を塗ることになる。だから娘と別れてくれ」

「つまり、俺の存在が邪魔だから潔く身を引けと?」

「――そういうことになる」

「そうか、いつから勇者と恋仲なんだ?」

「……二ヶ月前ほどからだ」

「――そうか、その申し出受けよう。俺とレナとの間に関係はない。赤の他人として振る舞えばいいんだな」

「な! そこまではいってn」

「おじさん達には言ったはずだ。俺の両親はパーティの裏切りで命を落とした。俺にとって裏切りは忌み嫌うものであり、されたら容赦なく、どんな形であれ関係を断つと。あんたらはそこまでのことをしたんだ」


 俺の言い分を聞き腹を立てたのか怒り始めたおじさんを一喝し、話し始めたのは静かにそこに座っていたおばさんだった。


「ハイル君、貴方の言い分は分かるわ。うちの娘は二股をした屑、それは避けようのない事実ね」

「おい! 自分の娘を屑呼ばわりだと!?」


 おばさんは黙りなさい!! っともう一度一喝し、話をつづけた。


「貴方の気持ちや努力を知らない訳じゃない。だからこそあなたのその瞳に映る憤怒もうなずけるわ。でも幼馴染という関係まで切り捨てるの?」

「……そうだ。俺が居ればより拗れたことになる。だからこそ俺は貴方たちと、この村との関係を断つ。俺は今夜村を出るからあんたらはあんたらで幸せに暮らせばいい。俺には関係ないことだ」

「……そう、私たちに止める権利はないわね」

「……俺はこれで失礼するよ。貴方たちには育ててもらった恩があるが、それとこれとは話が別だ。あんたらとレナの上に災いが無いことを願うよ」


 俺は席を立ちレナの家を出る。日はもう夕刻になり空には星がちらほらと瞬いていた。

 俺はひとまず荷物を取りに自宅へ帰った。ドアを開けても返事は帰ってくるはずもなく、俺は必要なものだけを取って行った。結婚資金にしていた金貨を袋に入れ、替えの服を巾着にしまい込み、季節外れのマフラーを巻いた。最後に、両親の部屋にあった二本の刀を腰に挿して、家をでた。

 村には門が一つしかなく、そこには帰ってくる『剣星』に会おうと人がごった返していた。俺は群衆の中を縫うように進んでいき、門の近くまできた。しかし、目の前には勇者とその仲間達、そして剣星である幼馴染が立っていたのだ。


「ハ、ハイル!?」

「……これは、『剣星』のレナ=ジーレム様・ではありませんか」

「ハイル! 私たち幼馴染でしょう? いつものように呼んでくれないの?」

「俺はただの冒険者なので、このような平民が勇者様のパーティーメンバーである『剣星』様をいつものようになど……おこがましくてできませんよ」


 レナの表情が蒼くなっていき、驚愕している。そんなことは俺の預かり知らぬことだ。後ろから鎧に身を包んだ男がレナと入れ替わるように前に出た。この時点で村の人たちは驚きを隠せなくなっていた。


「やあ、僕はティール=ナンディ。一応勇者だよ」

「お会いできて光栄です勇者様」


 形といえど膝をつく。救いの象徴である勇者に不敬な態度を示せば極刑も免れないだろうから。


「顔を上げてくれ! 僕はそんな大層なものじゃないよ? それに今日は君に会いに来たんだ」

「……結婚をするから身を引けって話なら知ってますよ」


 先ほどの話を言うと、レナは驚愕していた表情がさらに酷くなった。それはきっと焦りからくるものだろう。


「結婚の話? なんの事だか分からないけど違うよ。僕たちは今日、君をパーティに招待したくて来たんだ!」


 最初は怪訝な顔をしたが、すぐに先ほどのような笑顔に戻りありもしないことを言い始めた。


「君の噂はレナからも、ギルドの噂でも聞いているよ! 半年で白金級の冒険者になった天才少年ってね! その力量を見込んで僕たちのパーティに入ってほしいんだ。それに君も婚約者と一緒に居られるから一石二鳥だよ!」


 俺は今ほど人を憎いと感じたことを忘れない。俺の婚約者を奪い、幸せそうに見ているのを陰で指を咥えてみていろと? ふざけるな! 俺が憎いか! なら、こちらにも考えがある。

 俺は一度深呼吸をして、瞳に怒りを灯しながらも笑顔で言った。


「とてもうれしいお話ですが、お断りします。俺はただの冒険者で、貴方達は勇者とそのパーティメンバー。住む世界が違い過ぎるのです」

「そんなことない! 僕だって勇者の加護が無ければただの人間だ! だから」

「俺は! 今からこの村を出ます。もう帰ってくることは無いでしょう。そんな人間を勇者のパーティになどと言っては泥を塗ることになります! だから、パーティの件は無かったことにして下さい。……失礼します」


 俺はもう一度礼をして外へと歩き出す。そして一度振り返り、()()()()に向かって言った。これは俺のけじめであり、全てを捨てる覚悟を示すためだ。


「さようなら、『剣星』レナ=ジーレム様。一時の甘い夢は嬉しかったです。勇者様とお幸せに」

「ちょっと待って! 話を聞いてよ! ハイルゥゥゥゥゥ!!」


 村の門は閉じていくなか、レナが手を伸ばしていることを俺は知らない。

 これは、勘違いが生んでしまった亀裂だった。

 俺は知らない。俺の心が死んでいることを。

 レナは知らない。自分の両親のせいで最愛の人を無くしたことを。

 ――――

「ハイル、お前は望まないかもしれないが仲間を失わせたあの一家を俺は許さないぜ」


 黒い布に身を包んだ大男は村を出たハイルに向けて独り言をつぶやいた。


 続

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