第28話 これはデートだからねっ!
さくらにプレゼントを渡すのに思っていたより時間がかかってしまった。
パッと手渡してそれでおしまいってするつもりだったのに、そうはいかなかった。
結果、俺は加那さんとの待ち合わせの時間に遅刻した。
試合が始まる1時間前の夕方6時にスタジアムで落ち合うことにしていたのに、公園を出られたのはその15分ほど前。
大慌てで自転車をとばしても、俺がスタジアムに着いたときには時計の針は6時を過ぎていた。
加那さんがどう思っているかはさておき、俺はこのサッカー観戦をデートだなんて思ってはいないけど、それでも女の子を待たせるなんて最悪だ。
自転車を止めると、焦燥感に駆られながら足早に加那さんを探す。
平日の夜にも関わらず九州ダービーということもあって、スタジアムは大勢の人でにぎわっている。
これじゃ簡単には見つからないと思ったのだが、雑踏の中でも加那さんは一際輝いていてすぐに見つけることができた。
小走りに近寄ると加那さんも俺に気づいたらしい。
腰に両手を当てて頬を膨らませている。
「せっかくのデートなのに、こんな美少女を待たせるなんてどういうつもりなのかな?」
「遅れたのはすいません。この前にちょっとした用事があって。でもデートじゃないですよ。これは会長というよりも、一生徒からの依頼を人助け係として俺が受けただけですから」
「なんで颯真くんはそんなことを言うのかな?」
「だって会長がそうするって言ったんじゃないですか」
「うっ……! それはそうかもしれないけど。でもっ、これはデートだからねっ!」
「……めんどくさいな」
「あっ、ひどいこと言ってるっ!」
この人ごみの中なら聞こえないだろうと油断して声に出してしまった。
耳ざとく俺のつぶやきを拾った加那さんは俺のことをビシッと指差す。
ほんとにめんどくさい。
が、このままじゃあ試合が始まってしまう。試合も見ずにだらだらしてると、ほんとにただのデートみたいだ。
さっきから横を通る大人たちが俺と加那さんのことを見てあたたかい視線を送ってくるし。
きっと付き合いたてのカップルかなんかだと勘違いしているんだろう。
加那さんに気を取り直してもらうためにも、とりあえず見た目でも軽くほめとこう。
女の子はなんでもいいからほめれば、すぐに機嫌を良くするし。
と、加那さんのほうを見て俺はあることに気づく。
「それ、ポールスター鹿児島のユニフォームですよね?」
「もちろん。今日は大事な試合だから気合を入れて着てきたんだよ」
大きく頷く加那さんが身にまとっているのはチームカラーのネイビーのユニフォーム。
ふわふわしたオフホワイトのロングスカートとも合っている。
ただ俺が気になるのはユニフォームの胸元。
大きく蠱惑的に膨らむ胸元でチームのロゴマークが歪んでいるのが気になるってわけじゃなくて。
いや、それもジッと見つめたくはなるけどそうじゃない。
問題はそこに描かれたスポンサーのロゴ。たしか今年から変わったはずだけど。
「どうして去年のユニフォームを着てるんですか?」
「へっ? ユニフォームって毎年変わるの?」
「はい。デザインも変わりますし、スポンサーも変わりますよ」
「えっ?」
加那さんは慌てて首を振って周りを行き交う人たちを眺める。
「ほんとだ……。みんな、私のとは違うの着てるね」
「いつも私は生徒会長だからなんでも知ってるんだよっていうわりに、知らないこともあるんですね」
普段の意趣返しとばかりにからかうと、加那さんは顔を真っ赤に染める。
「でっ、でもっ! 私は颯真くんのことだったらなんでも知ってるから」
「へえ、そうなんですか」
「そうだよっ、生徒会長だからね」
「あっ、お決まりのセリフですね」
「ああげえ! いつから颯真くんはそんなに意地悪な子になったのかな」
「前からですよ。俺はなにも変わってません」
「そうならいいけどね……」
さっきまで声を荒げていたかと思えば、今度はそっとつぶやく加那さん。
コロコロ変わる表情の豊かさは見ていて飽きないけど、そろそろスタジアムの中に入らないといけない時間だ。
「そろそろ行きましょうか? 試合始まっちゃいますよ」
「そうだね。でもゲートの前でちょっとだけ待ってて」
加那さんは俺に有無を言わさず駆け出した。




