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第26話 誕生日プレゼントだよ

 加那さんとサッカーを見に行くことになっていた水曜の朝。

 目覚めは最悪だった。

 変な夢を見たせいだ。どうにも気持ちの悪い夢だった。


 夢のはずなのに、なぜかそうだと言い切れない。

 俺の記憶にはないことなのに、本当にあったことのようにも感じられた。

 隣にいた女の子の顔は最後まで分からなかったけれど、でもその声はどこかで聞いたことがある気がする。


 頭の中がグルグルかき回されてとにかく気持ちが悪かった。


 水だけ飲んで学校へ行くと、クラスメイトともろくにあいさつもせず、俺は自席に腰を落ち着けた。

 気持ち悪い夜を過ごしたおかげで、この日の授業中はほとんど寝て過ごしたから、気付いたら放課後だった。

 終礼をすませると、トイレで顔を洗って無理やり目を覚まして、また誰とも話さずに家へと急いだ。


 帰宅すると、多少気分は落ち着いていた。

 授業中にじゅうぶん睡眠をとれたからだろう。

 加那さんと出かけるのはやっぱり気乗りしないけど、変に機嫌を損ねられても生徒会の活動はやりにくくなる。


「変な勘違いをされないように気をつけさえすればいい」


 自分に言い聞かせるように声に出して言うと、スタジアムへ向かう身支度をすませる。

 葵の食事の準備をすませると、俺はスマホでメッセージを送って、自宅近くの公園へと向かった。



 夕焼け小焼けが町内会のスピーカーから流れるころ。

 泥だらけの子どもたちが帰宅するのと入れ替わるように公園に足を踏み入れた。

 約束の時間には少しだけ早い。

 

 ブランコの前の柵に腰を下ろして、なんとはなしに周りを見やる。

 子どものころ、さくらや葵とよく遊んだ公園の遊具はところどころペンキがはがれている。

 けれど定期的に手入れされているのか、雑草はそれほど目立たない。


 誰かが忘れていった小さなサッカーボールが転がっている。

 寝床に帰る小鳥たちの羽ばたきにつられて視線を上げる。

 空は朱色から群青色に変わろうとしていた。

 なんとはなしに、ふうと息を吐いたときだった。


「待たせてしまったかしら?」


 かけられた声に視線を落とすとさくらが立っていた。

 手には大きなスポーツバッグとなぎなた。

 真っ白な袴を身にまとっている。

 申し訳なさそうな顔をしているけれど時間通りだ。

 袴のままってことは部活が終わってすぐに大急ぎで来てくれたんだろう。


「いや、来てくれるように頼んだのは俺なんだから気にしないでくれ。こっちこそ、部活が終わって疲れているときに悪いな」

「それはいいのだけれど、わざわざここに呼び出すなんてどうしたのかしら? いつものように颯真の家に行っても良かったのよ」

「これから出かける用事があってな。そのついでだよ」


 言いながら俺はショルダーバッグから小さな紙袋を取り出してさくらに渡す。


「これは?」

「誕生日プレゼントだよ。おめでとう」


 照れているのがさくらにばれないようにそっと目を逸らす。

 女の子に誕生日プレゼントを贈るのは実は初めてのことだったりする。これまで付き合った女の子たちには、そんなイベントを迎える前に俺のことを忘れてもらっている。


 そんなわけで、あらたまってプレゼントを渡すという行為に意外と照れてしまう。

 幼馴染相手でも恥ずかしいものは恥ずかしい。


 だから反応は気になるんだけど、さくらはなにも言ってくれない。

 お気に召していただけなかったかなと、恐る恐る目を上げると――さくらは顔を真っ赤にしていた。

 人の顔ってこんなにも赤くなるんだなって思うほどに。

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