第18話 ほんとにチョロい
最後のチャンスで二人そろってお目当てだった鈴木里子の色紙を当てた。
夕焼けの中、外した眼鏡を後ろ手に持って振り返りながら微笑む様子が描かれている。
劇場版のクライマックスを飾ったシーンだ。
「よかったな」
俺はそう言い、山下さんに色紙を渡すが、
「それはいいよ。喜入くんが持ってて。私は一枚あればいいし」
「そうか? せっかくだし一枚は保存用とかにすればいいんじゃないの?」
「ううん。喜入くんに持っていてほしいの」
山下さんのすがるような視線を受けて俺は素直に従うことにした。
けど、俺に持っててほしい、か。
これは――完全に脈ありだな。
あとは山下さんが里子のように美少女に化けてくれるのを待つだけだ。
それも映画と自分を重ねてるいまなら一気に実現しそうだ。
今日一日、一緒に過ごしてみて、意外と楽しいこともわかったし、しばらく遊ぶのにはちょうど良さそうだ。
だから俺は山下さんの言葉に頷くだけでなく、一言付け加えることにした。
「そっか、じゃあそうするよ。けどさ、これを見てたらちょっと気になることがあるんだけど、いいかな?」
「うん、どうしたの?」
「ほら、眼鏡を取る前の里子ってさ、なんとなく山下さんに似てると思うんだよね。だから山下さんもコンタクトにしたら里子みたいにきれいになるんじゃないかな」
「……っ!」
何気なさを装って告げた俺の言葉に山下さんは顔を真っ赤にしている。
きっと彼女はこんな言葉を待っていたんだろう。
それだけ里子に心情移入していたのは十分伝わってきていた。
「そう、かな?」
俯けた顔から上目遣いを向けてくるその表情は間違いなく恋する女の子のものだ。
「うん、だって山下さんもきれいな目をしてると思うから」
ずいと顔を近付けて俺は山下さんの瞳を覗き込む。
安っぽい言葉と仕草だと自覚しているけど、効果はてきめんだ。
山下さんは顔をさらに赤く染めている。
「喜入くんがそう言うのなら、してみようかな。……コンタクトに」
「それがいいよ。きっと似合うから」
「あの、ごめん、私、もう行かなくちゃ」
よっぽど恥ずかしかったのか、山下さんは口早に言うと立ち上がって駆け出した。
けれど少しだけ進むと、立ち止まって振り返る。
「今日は付き合ってくれてありがとね」
はにかんだ笑顔で言って胸の前で小さく手を振ると、今度こそ週末の雑踏に姿を消した。
その寸前。
ちらりと覗いた耳たぶが真っ赤に染まっているのを見て俺は確信する。
――彼女は間違いなく落ちた。
ほんとにチョロい。




