第10話 ライバルは少ないほうがいいから、いいけどね
「じゃあ当日はよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる山下さんに俺は苦笑する。
「そんなにかしこまらなくていいって」
「でも喜入くん、『おれはる』見たこともないって言うのに、手伝ってもらって悪いなって」
「いや、さっきも言ったけど困ってる人を助けるのは俺の仕事だからさ」
「そっか。……でもなんでこんな面倒なことしてるの?」
「大した理由じゃないんだけど、まっ、簡単に言えば暇だからかな。中学校までやってたサッカーもやめたし、これといって趣味があるわけでもないし」
「ふーん」
なんとなく納得していなさそうな様子で山下さんは頷く。
けれどそれほど興味はなかったのか、すぐに違う話題を振ってくる。
「そういえば中学生のころとだいぶ雰囲気変わったよね?」
「颯真くんの中学生のときってどんな感じだったの?」
どう答えるべきなのか一瞬迷ったのが間違いだった。
ランランと目を輝かせて加那さんが会話に加わってきてしまった。
「うーん、なんていうか、もっとギラギラした感じでしたね。いつもかわいい女の子たちに囲まれてて、私みたいな地味な子は話しかけられない雰囲気でした」
「ふーん、私がいくら誘っても、決して心を動かさない颯真くんがかわいい女の子に囲まれていた、ね」
加那さんは意味ありげな視線を俺に送ってくる。
山下さんの言葉は間違いじゃない。
モテたいと思っていた俺が自分でそういう環境をつくっていた。
高校生になってからは周りにバレずに関係を進めたほうがいいと気付いて、そんな雰囲気はできるだけ出さないようにしている。
だって当事者は俺のことを忘れても、その友達とかは俺のことを覚えているわけだから。
別れたあとに、俺のことを忘れてるなんてことが周りの人に知られると面倒なことになるのは間違いない。
ただそんなことを説明するわけにもいかないし、とにかくここは適当なことを言って誤魔化すしかない。
「ただのモテ期ってやつだったんじゃないですかね? 人生に何回かあるって言いますし」
「そう……。颯真くんがそう言うならいいけど」
加那さんはそう簡単に納得してくれないだろうと思っていたのだが、意外とすんなり引き下がってくれた。
どうやら俺の加那さんのあしらい方も少しは板についてきたらしい。
と、思っていたのだけれど再度礼を言った山下さんが部屋を出たあと、加那さんは俺に話を振ってきた。
「ねぇ颯真くん、なんで山下さんに本当のことを言わなかったの?」
「なんのことですか?」
「人助け係をやってる理由だよ。中学校も同じっていう仲なら、教えてあげても良かったんじゃないのかな?」
「わざわざ自分で言うことじゃないですし、それに中学校が同じって言ってもそんなに話をしたこともないんですよ」
「ふーん。でも妹さんと二人暮らしで、生活を少しでも楽にするために特待生並みの特典を受けられる人助け係を引き受けてるなんて知ったら好感度は上がると思うけどな」
「……俺は別に好感度なんて上げたくないですから」
女の子と知り合うために人助け係をやっているなんてことを知られるわけにはいかないので、ここは適当に話を流しておく。
けどたしかに妹思いなんていうのは好感度を上げるポイントなのかもしれない。
加那さんは俺の真意を確かめるように目を見つめてから、フフっと笑う。
「私としてはライバルは少ないほうがいいから、いいけどね」
「ライバルってなんのですか?」
「なんのって、わかってるでしょ?」
「わかりませんし、わかろうとも思いません」
なにが言いたいのかは分かるけど、これ以上加那さんにしゃべらせるとまた面倒なだけだ。
俺は手早く荷物をまとめると、「お先に失礼します」と言い残し部屋を出た。




