#23 巨大屍兵
なにこれ、さっきの三倍はあるぞ? 作り出した本人がそれを見て、背筋に寒気を感じながら恐怖する。
「ぼ……ヴォーシュト!」
「ゴオオオォォォッ!!」
前進を命じた途端、その巨大屍兵は地面をも揺らすほどの雄叫びを上げる。手始めにそいつは、目前に迫り来る三体のゴーレムを、その長い腕を振りはらう。
あっという間に、三体のゴーレムがバラバラに砕け散る。すごい、ゴーレムはあの屍兵相手にまるで歯が立たない。あの大きなゴーレムが三体も、それもたった一振りで蹴散らされてしまった。なんという化け物だ。これ本当に、私が作り出したのか? とても信じられない。
で、最初に作り出した屍兵はというと、まだ一体のゴーレムとやり合っている。今ちょうど相手の腕を叩き落としたところだ。そして何かを叫びながら、そのゴーレムに抱きついている。
バラバラと砕けて、砂塵へと変わっていくゴーレム。と同時に、その屍兵も消滅する。この間見た光景と同じだ。あの大きさでは、一体をやっつけるのがやっとというところか。それはそれですごいことなんだけど、どうしてもあの巨大屍兵と比べてしまう。
一方で、二体目の四つ足屍兵も、果敢にゴーレムへと向かっていく。こいつはどんな戦いを見せてくれるのか。私は固唾を呑んで、その行く末を見守る。
ズシン、ズシンと重い足音を立てて迫る一体のゴーレムが、その四本足を捉える。上から腕を振り下ろし、その四本足の胴体の辺りを殴りつける。
その勢いで、地面に這いつくばる四本足。立ちあがろうとするも、てっぺんを抑えられてその場でジタバタともがくほかない。ゴーレムはさらにもう一方の腕を振り下ろす。するとその腕は砂塵と化すが、四本足も消えてしまった。
弱っ。なにあれ、いくらなんでも弱すぎだ。腕一本しか潰せないとか、なんて情けない。
「四角いハムの戦果は、腕一本……と」
横ではカルデローニさんが、ハムごとの戦いぶりをカメラで撮りつつ記録している。あの四角いハムはダメだな。まるで歯が立たなかった。今度からあれを使うのはやめよう。
一方の三体目のあの屍兵だが、まだ暴れている。まるで衰える様子がない。近づくゴーレムを、長い腕で捉えては砂塵に変えていく。が、自身は消滅する気配すらない。
もはや、無敵だな。二体目の四本足とは対照的だ。魔力溢れたその巨大屍兵は、周囲のゴーレムを狩り尽くし、さらに獲物を求めて前進する。一方のゴーレムの方も、この強敵に抗うべく密集する。
軽く三十体は集まったか。あれだけの数が相手では、さすがの巨大屍兵も敵わないだろう。などという考えが私の頭によぎるが、その巨大屍兵はとんでもない行動に出る。
ズシンと腕を下ろし四つん這いになったかと思うと、その顔の部分が大きく裂け始める。それは大きく口を開いた火龍のようにも見える。
そしてまさに火龍のごとく、こいつはその大きな口から何かを吐き出した。
「ヴオオオオオオォォッ!!」
なんてやつだ、黒い炎を、吐き出しやがった。直後、猛烈な風が吹き荒れる。そのあまりの強風に、私はその場で吹き倒される。カルデローニさんすらも耐えられず、私と同様その場に倒れ込む。
「痛たたっ……な、なんて威力だよ」
目の前は、砂塵が舞い上がっていた。おそらくはあの迫り来る大量のゴーレムの一部が、黒い炎を浴びて砂塵となったのだろう。
あの一撃で、どれくらいやられたんだろうか? 相手は三十体はいた。そう易々とやられる数ではない。砂塵が少しづつ晴れ、ゴーレムたちがいた場所が、徐々に見えてくる。
が、もはやそこにゴーレムの姿はない。
「オオオオォォッ!!」
雄叫びを上げる巨大屍兵、しかし、それに抗おうという岩の巨身の姿はもうどこにも見当たらない。すべてを斃し尽くしたその無敵の巨体は、その力を持て余しつつ雄叫びを上げていた。
「エルマさん、だめだ、危なすぎる。ここは引き上げよう」
「ちょ、ちょっと待ってください、あと一つ残ってます」
この場を離れようというカルデローニさんだが、私は箱の中に残っていた最後の一つを手に取る。
これも、さっきとは違う銘柄だが、四角いやつだ。あまり期待はできないが、試してみよう。そう思って私はそれを持ち、詠唱する。
「グェフ マファン アンダズェ……」
ところがだ、詠唱の最中に、私はぐらっと身体が揺れるのを感じる。
手に持ったハムは浮き上がり、徐々に瘴気をまとい始める。やや小さめの四本足の獣のような屍兵に変貌するが、目の前が突然、ぐるりと回る。
「え、エルマさん!」
ドサッと音がしたかと思うと、私の目の前には青い空が映る。どうやら、倒れてしまったらしい。その視線の先にカルデローニさんの顔が見えたかと思うと、真っ暗に変わる。
遠のく意識の中で、私は思った。
ああ、これはきっと、魔力切れだ、と。
気がついたら私は、ベッドの上にいた。真っ白なシーツ、白い天井、腕には、透明な管がつながれていた。
目線を動かすと、ここが白いカーテンで仕切られた場所だと分かる。見たことがない場所。どこだろう、ここは?
「あ、目が覚めた?」
と、私に声をかける人がいる。声の持ち主はすぐに分かった。カルデローニさんだ。私は声のする方を見る。
「あ……カルデローニ、さん」
「よかった、気づいたようだね」
カルデローニさんは、透明な細い管がつながった手を握る。私も握り返す。その手の温もりが、私がまだ生きていることを実感させてくれた。
「あの、ここは……」
「ここは、強襲艦の診療所だよ」
「診療所……あの、私、どうしてここに?」
「ハムに魔術をかけようとして、いきなり倒れちゃったんだよ。それで慌てて僕が重機に乗せて強襲艦に戻り、ここに連れてきたんだ」
「ああ、やっぱり私、倒れたんだ」
「血中糖分が極端に少なくて、低血糖症になりかかったみたいだよ。で、点滴で今、糖分を補給しているんだ」
といって、細い管の先にある透明な袋を指差した。それを見ながら私はふと、あの屍兵のことを思い出す。
「あ、あの、そういえば屍兵、どうなったんですか?」
「エルマさんが倒れた後も、あの巨大なやつはしばらくの間、暴れまわっててね。ゴーレムが現れる度に、まるで飢えた狼のように襲いかかり、次々に倒していったよ」
「はぁ、そうなんですか……てことはもしかしてまだ、暴れてるんですか?」
「いや、それがしばらくして、ゴーレムが出現する崖に突進したんだ。するとその崖を丸ごと砂塵に変えながら、消滅していったよ」
と話しながら、その時の様子を写した動画を見せてくれた。あのおぞましい巨体を白い岩肌にぶつけたかと思うと、砂煙をあげながら徐々に消えていくのが見える。まるで焼石にかけられた水のようだな。これでようやく魔力が尽きたようで、その後、あの巨体はようやく姿を消す。
「とんでもない力だったな」
と、そこに現れたのはテトラツィーノさんだ。気づけばいつの間にか、カルデローニさんの背後にいて動画を眺めていた。
「ともかく、ハムが貴殿の魔力に呼応して、とてつもない化け物に変わることが立証されたわけだ。理由はまだ分からないが、その銘柄や形によってもその強さが変わるのも興味深い。いや、それ以上に、ゴーレムを駆動させる力を打ち消すあの魔力というやつの正体が分かれば、もしかするとこの宇宙に革命をもたらすほどの……」
なにやら訳のわからないことを口走り始めたぞ。何が面白んだろうか、強面な顔に似つかわしくない笑みを浮かべながら、嬉々として語っている。そしてブツブツと呟きながら、その場から去っていった。
「とにかく、エルマさんは力を使いすぎたみたいだ。しばらくここで、休むといいよ」
「あ、はい……」
カルデローニさんが私に、優しくそう言ってくれる。そして私をベッドに寝かせると、シーツをかけてくれる。そして手を振ってカーテンを閉めると、その場を去っていった。
天井を眺めながら、私はふと思う。あの二体目の化け物が、私の魔力のほとんどを奪っていったのだろう。そしてその魔力量の多さに私自身、恐怖を感じる。
あれを数体、死の渓谷にバラまいたら、それだけであの渓谷に湧き出すゴーレムを全滅できるんじゃないだろうか? しかし、ゴーレムが消えたその地には、今度はあの黒い化け物が……あの巨体を上手く操る術を得ないと、渓谷の主人が変わるだけ。そこは死の渓谷であり続けてしまうだろう。
ところで、私は今回の戦いによって、ハムをもらった。二体目を生み出したあの高級なやつだ。宿舎に戻ると、私はそれをアンドレオーニさんと一緒に食べる。
それは、とても美味しい。まさに、悪魔的な美味さだった。




