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#21 魔法少女

 ぼーっとしたまま、宇宙港内を歩く。アンドレオーニさんに手を引かれたまま、売店のある辺りに差し掛かった時、いきなり声をかけられる。

「あ、魔法少女さんだ!」

 奇妙な呼び名に、最初は私のことだとは気づかなかった。が、それがどこかで聞いたことのある声だったことで、私は振り向く。そこには、男の子が手を振っていた。

「あ、あれ……あなたが今、私のこと、呼んだの?」

「そうだよ。魔法少女さんでしょ?」

 その魔法少女ってなんだ? 私は魔術士であって、魔法少女ではない。そもそも「魔法」という言葉になじみがない。響きからすると、魔術や魔導の類か。

「ちょっとダリオ! ダメでしょ、エルマさんをそんな呼び方しちゃあ」

 と、もう一人、現れたのは母親だ。そうだ、やはりこの二人、どこかで見た覚えがある。

 それを確信させてくれた人物が、その後ろから現れる。

「おいダリオ、何をしているんだ……なんだ、エルマ殿か」

 現れたのはテトラツィーノさんだ。その姿を見たアンドレオーニさんは、早速敬礼をする。

「あの、どうしてテトラツィーノさんがここに?」

「どうして、と言われてもだな。私はこの星の魔術、魔導調査の担当だからだ。それで家族を連れてここ、地球(アース)一〇五六へさっき、下りてきたところだ」

 うわぁ、てことは私、この人にまた調べられたりするのかな。強面のその顔で、私を睨みつけるように見つめるテトラツィーノさんの足元には、可愛らしい男の子がしがみついている。

「パパぁ、この人が魔法少女さんだよね?」

「そうだよ、ダリオ」

 で、直後に判明したのは、私を魔法少女と名付けたのがこの強面のテトラツィーノさんだということだ。

「あの、ちょっとお聞きしますが、『魔法少女』って何ですか?」

「逆に聞きたいのだが、魔法少女というものをエルマ殿は知らないのか?」

 知るわけがないだろう。なにそれ、魔導士や魔術士のようなものかな?

「ああ、エルマちゃん、魔法少女、知らない、かな……」

 アンドレオーニさんは知っているらしい。でも、変だな。魔術や魔導の類はない星だと言っていたのに、魔法少女というものはいるのだろうか。

「ほら、お姉ちゃん、魔法少女ってこれのことだよ」

 で、ダリオ君が見せてくれたのが、人の形をした透明な札。そこには薄紅色の髪の毛に大きな目、大きな飾りが腰の辺りについた、派手過ぎる服を着た、破廉恥な幼顔の娘らしき者の絵が描かれている。

 まさか、これが魔法少女なのか? でも、どうみてもこれはただの絵だ。

「ほら、今、ちょうどやってるアニメなんだ」

 といって、さらにその男の子が見せてくれたのは、スマホの画面だ。そこには先ほどの薄紅色の髪の娘がいる。というか、この絵、動くぞ。

 その動く絵の娘は、きらびやかな光に包まれたかと思うと、あの派手な服の姿に変わっていく。手に持った杖を前につき出すと、黒い魔物らしき存在に向けて、魔導を放つ。

 短い動画だったが、衝撃的だった。私の知る魔術士、魔導士とは違うものだ。そもそも、絵を生き物のように動かせるこの魔導が気になる。

「……息子のダリオが、なぜか魔法少女アニメ好きでな。それゆえに、エルマ殿のことを説明するのに、つい魔法少女と答えてしまったのだ。だが、魔力を使うという点では同じようなものだし、見た目もまあ……少女と言えなくもない。あながち、間違いとは言えぬだろう」

 うん、今この人、私のことを少し馬鹿にしたような気がするな。私って「少女」に見えるのか? するとすかさず、アンドレオーニさんが口を出す。

「いえ、少女では、ないです。どちらかというと、少年……」

 もっと酷いことを言われた気がするな。そういえばアンドレオーニさん、いつも私のことを少年のようだと言っていたが、人前で言われるのは少しカチンとくる。

「でさ、お姉ちゃん。魔法使えるんでしょ?」

「え、ええ、まあ、魔術なら……」

「確か、死んだ肉を思い通りに動かす魔法だよね?」

 子供が言うと、とてもえげつない魔術に聞こえるぞ。いや、間違いではないけれど、おぞましいものとしか聞こえない。私ってばこの子に、どう思われてるんだろうか。

「と、言うわけで、これからもよろしく頼む。では、これで」

 と言って、三人の親子は去っていった。ダリオ君は私に手を振る。私も手を振って応えた。

「さ、私たちも、行こう」

 で、アンドレオーニさんが私の手を握る。私もその手を握り返し、売店前をあとにした。

 が、今度は宇宙港の出口付近で異変が起こる。

「あ、魔法少女さんだ!」「ほんとだ、魔法少女さんだ」

 今度は、見ず知らずの人だ。私の姿を見て、また魔法少女と呼ぶ。私としては、あれとは似ても似つかないと思っているから、正直面食らう。

 いや、それ以上に問題がある。それはつまり、見ず知らずの人までもが、私が魔術士だと知っていることになる。変だな、一握りの人にしか知られていないはずなのに、どうして面識のない人までが私を「魔法少女」と呼ぶ?

 魔術士だと知られたら、いずれ私は王国に引き戻されるかもしれない。そうなると、ゴブリン・コロシアムだ。頭がくらくらする。だから黙っていたのに、どうしてこんなに多くの人が私のことを魔術士だと分かるんだ?

「途中、戦闘に突入したと聞いていたから心配したが、無事、帰還できたようだな」

 その時、背中から声がする。振り向くと、それはダミアーニさんだった。街中でゴーレム相手にハムで立ち向かった後に、私を尋問した人だ。

「はっ、ダミアーニ中佐、帰還、いたしました……」

「うむ、アンドレオーニ少尉、ご苦労だった」

 敬礼しながら、アンドレオーニさんが答える。そういえばと、私は尋ねる。

「あの、一つお聞きしたいのですが」

「なんだ、エルマ君」

「ええと、どういうわけか周りの人が、さっきから私のことを魔法少女と呼ぶんですよ。まさかとは思うのですが、魔術士だと知られてるんじゃないかって……」

「それはそうだ。軍部がエルマ君のことを、高らかに宣伝したからな」

「へ?」

 予想外の答えが返ってきた。つまりそれって、ダミアーニさんたちが私の正体を言いふらしたってこと?

「で、でも、私のことを口外しないようにってあの時……」

「うむ、確かにそういった。が、その後司令部の中で議論したのだが、街の住人を安心させるために、我々の側には切り札があることを周知した方が良いのではないかということになった。それで、貴殿の名を広めることになったのだ」

 ええーっ、話が違うじゃないか。だからみんな、私のことを知っているのか。

「そもそもだが、貴殿は魔術士だと分かる服を着て歩いているではないか。それで魔術士であることを隠しているというのは、いささか無理ではないか?」

 う、痛いところを突かれてしまった。でも、この街の人はこれが魔術士の服だとは知らないし、この姿の方が何かと都合がいいし。

「それに、王国側とは交渉した。これ以上、王国側に不利益となる行為をしないことを条件に、エルマ君の罪を問わない、という確約を得たのだ。ならば、魔術士と知られても問題はなかろう」

「えっ、そうなんですか!?」

「ズーデルアルデ王国としても、ゴーレム対策には頭を痛めているという。貴殿がそれに尽力するならばと、我々の免罪の申し出を受けてくれたのだ。建前上は、先月にヘンドリック王子が国王陛下に即位されたので、その恩赦ということになっている」

 驚くべきことを告げられた。ズーデルアルデ王国では、国外逃亡してケムニッツェ王国に協力したその罪に問われないことになった、というのだ。ということは、ゴブリン・コロシアムの刑に怯えなくてもいいんだ。願ったり叶ったりだな。

「一つだけ、問題が残った」

「えっ、まだ何かあるんですか?」

「うむ、ケムニッツェ王国の方だ。あの王国は、貴殿の身柄引き渡しを要求してきたのだ」

「そうだったんですか? まさか……」

「応じるわけがないだろう。だからケムニッツェ王国には、貴殿はあの戦場で逃げ遅れて死んだと報告しておいた。そういうことだから、口裏を合わせておいてくれたまえ。では」

 ズーデルアルデ王国には見事な采配を見せたのに、ケムニッツェ王国への対応は雑な印象だなぁ。口裏を合わせろって言われても、ケムニッツェ王国の人に合う度に「私はもう死んでいる」って言うのかな。

 さて、知らない間に私のことを宣伝されたおかげで、それからが大変だった。

 宿舎に戻るまでの道のりで、何度も声をかけられる。時々囲まれて、写真の撮影を求められた。

 私はもちろん、アンドレオーニさんもそれでかなり消耗してしまった。その晩は珍しく、何事もなく寝てしまうことになる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うむ、ダリオ君は将来が有ぼ…、心配だなぁ(^_^;) [気になる点] ダリオ「魔法少女ということは、3話目に気をつけてようね…」 [一言] “私はもう死んでいる” 格好いい響きだなぁ、中二…
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