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#2 回収

 私は、考える。あれはもしや、ゴーレムではないか、と。

 しかしゴーレムならば、身体は岩でできている上に、あのように複雑な形をしていない。ましてや岩の化身であるゴーレムが、空に浮かぶなんて話は聞いたこともない。まるで王国貴族が集まる宮殿の中庭で披露される、宮廷道化師の空中演技を見せられているようだ。それをあの重たいゴーレムごときがやっている。

 その三体の内、二体があの窪みの辺りに降り立つ。そして一体が、我々のところへと近づいてくる。まるで宙を滑るように接近するそのゴーレムのごとき異形の化け物は、私と魔導士の前に降り立った。

 ズシンという音と共に、地面が揺れる。あの巨身がいかに重いかが実感される。それは太い脚を上げて踏み出すと、ズシンとまた音を立てて歩み寄る。

 そしてその巨身は、いきなり大声を上げる。

『あー、あーっ! マイクのテスト中!』

 奇妙な叫び声だ。だがそれは、人の声にも聞こえる。だが、あまりに太く大きなその声に、私もあの魔導士も生きた心地がしない。

 その巨身は、続ける。

『えーっ、地上にいるケムニッツェ王国軍に告ぐ。我々は地球(アース)七七二、遠征艦隊所属の重機隊である。ズーデルアルデ王国宮殿からの要請、および連合軍規の第五三条により、貴国の放った魔物兵器を排除させていただいた。これ以上の戦闘継続は、無意味である。直ちに武器を納め、この場から撤収されたし』

 急に流暢なズーデルアルデ語で話し始めるこの巨身、人にあらざる身でありながら、何という滑らかで大きな声を発するのか。しかし、言葉は分かるものの、ところどころ意味の通らない単語もある。アース? えんせいかんたい? じゅうきたい? それは地名なのか、それとも騎士団の通称なのか、皆目見当もつかない。

『なお、我々はあなた方の持つ力を遥かに凌駕する武器を保有している。なおも戦うつもりならば、我々はその武器を使用せざるを得ないだろう』

 と、このゴーレムほどの巨身は叫ぶと、その腕を横に伸ばす。その腕には筒状の何かが付いているが、その筒の先から青い光の筋が放たれる。

 バンッと乾いた音が響いたかと思うと、その先に生えていた一本の大木を青い光の柱が貫く。と、その太い木が、まるで麦を詰めた麻袋を太い槍で突いたかのようにパッと四散すると、猛烈な風と轟音が襲い掛かってくる。その風でまた私は、地面に叩きつけられる。

 なんという力だ。魔導の一種か? だが、こんな魔導、見たことがない。光の魔導でもあれほどの力を発したりはしない。しかも、無詠唱だ。力の差を見せつけた巨身は、今度はその筒の先をこちらに向けてきた。

 それを見た読心魔導士と周りの兵士らは、一目散に逃げ出す。魔導士は私の首につながった鎖を引くが、私は腰に力が入らず立ち上がれないとみるや、その鎖を放り出して逃げ去っていった。

 あとには、私だけが残された。

「あ……あわわ……」

 恐怖で、声も出ない。まだ舞い上がる土ぼこりの、その向こうに立つあの巨身が、私に強大な光の魔導を発する筒を突きつけたまま、動かない。

 その巨身だが、筒を私に向けたまま、その場にしゃがみ込む。するとあの首の代わりについている透明な皮が上に持ち上がる。するとその中には、なにやら丸い不思議な被り物をした人物らしきものが見える。

 その丸い被り物を脱ぐと、その人物は巨身の腕と胴体を伝って降りてくる。不思議なことに、その巨身はピクリとも動かない。地上に降りたその人物を、私は見上げる。

 見たところ、男だ。ズーデルアルデ王国の兵士だと思われるが、着ている服に見覚えはない。いや、こんな光魔導を使い、巨身にまたがる魔導士のことなど聞いたことがない。

 唖然として見上げる私の前に立つ男。その男は私を見るなり、こう言い出す。

「あの、逃げないんですか?」

 変なことを言い出す男だ。私はその場で背後を見るが、もうケムニッツェ軍の馬車も兵士の姿もない。つまり私は、捨て駒にされたということか。

 所詮、私はズーデルアルデ王国人であり、ケムニッツェ王国からすれば同胞でも何でもない。戦場で役に立たないと分かるや、こうもあっさりと捨てられるとは。いや、今までも酷い扱いだった。ズーデルアルデ王国にいた時も差別は受けていたが、ケムニッツェ王国へ逃れた結果は、魔術を封じられた上に読心魔導士によって監視され続け、家畜のような扱いを受けてしまった。

 そんなところに戻ったところで、さらに酷い待遇を受けるだけだろう。

「お……置いていかれた……」

 だから、こう答えるのが精一杯だった。

「えっ、そうなんですか?」

「はい……」

「うーん、困ったな」

 奇妙な男だ。彼らからすれば敵側の私に逃げないのかと言ったかと思えば、逃げないとみるや困り果てる。普通なら敵兵を前にすれば即座に殺すだろうが、なぜかこの兵士はそれをしようとしない。

 もしかして、まだ私には生き延びる機会はあるのか?

「仕方ない、連れ帰ってズーデルアルデ王国に引き渡すか」

 ところがだ、この男はとんでもないことを言い出す。私はズーデルアルデ王国を裏切った蘇生魔術士だ、王国に引き渡されたら、私は間違いなく処刑されてしまう。

「だ、ダメです! そんなことしたら、私、殺されてしまう!」

 つい反射的に反論したが、このやり取りで一つ、不可解に感じることがある。

 もしやこの男は、ズーデルアルデ王国軍の者ではないのか?

 王国に引き渡すも何も、こいつはズーデルアルデ王国の者ではないのか。今の言葉を素直に解釈するならば、こいつは少なくともズーデルアルデ王国の人間ではない、ということになる。

 だから私は、こいつにすがった。

「お、お願いです。実は私、ズーデルアルデ王国を抜け出してケムニッツェ王国に逃れたんですが、そこで酷い目に会わされていたんです。どちらに戻っても、私は裏切り者か厄介者として殺されてしまう。だから、何とかしてほしいんです」

 まだ恐怖から抜け切れていないが、もうなりふりなど構っていられない。私はこの男に訴えた。

「えっ、なにそれ、めんどくさい……」

 ところがこの男が私に返した言葉がこれである。めんどくさいとはなんだ。こっちは命がかかってるんだぞ。なんてこと言うんだ。

「な、なんてことを……」

「なんだと言われても、つまりあなた、今のその言い様だと、ズーデルアルデ王国を裏切って抜け出た。さらにその先での待遇が悪かった。だから、僕に何とかしてくれって言ってるんでしょ?」

 ドキッとした。こいつまさか、私の心が読めるのか? 読心魔導の心得がある者は数多いる。こいつもその魔導を心得ているのではないか?

「でもまあ、置き去りにするわけにはいかないしなぁ。この辺りはゴブリンの群れが出るっていうし……ちょっと待っててください」

 この男はそう私に告げると、何やら胸から薄い板切れのようなものを取り出す。それを耳に当てて、独り言を話し始めた。

「カルデローニ少尉です。現在、蘇生魔術とやらで動き出した数体のモンスターを攻撃、これを破壊。その後、その魔術を使ったと思われる集団を発見したため、威嚇発砲を行ったのですが……はい、そうです。それでですね、一人だけ、取り残されてまして……はい……そうですね……」

 なにやら誰かと話をしているようだ。まさかこの男、遠方の者と話ができる念話魔導も使えるのか? 一人で、二つ以上の魔導使いとは珍しい。あの光の魔導も巨身を操る術もこやつの仕業となれば、こやつはとんでもない男ということになる。

 にしても、そのように強い男でありながら、何ともその態度は間が抜けている。緊張感がないというか、やる気が感じられないというか、そんな雰囲気を受ける。

 ついさっきまでこちらは、命の危機すら感じたというのに。おかげで少し、下の方が漏れてしまったような……悔しさからか、恐怖心がだんだんと怒りへと変わっていく。私は立ち上がり、パンパンと服や身体に付いた土を払い落とす。

「話しがつきました。とりあえず、あなたを連れてくるようにとのことです」

「はぁ……それだけですか」

「えっ?」

 実は私、今日の昼食を食べていない。あの読心魔導士が、私の心によからぬものを見たと言い出して、昼食を抜かれたからだ。おかげで余計に機嫌が悪い。

「私は、命を落とすかと思ったんですよ。それが、急に連れて行くだなんて。ちょっと虫が良すぎるんじゃないですか!?」

「えっ、それじゃあ、置いていった方がいいってこと?」

「う……」

 考えもなしに突っかかった私も悪いが、この男もなんてことを言い出すんだろうか。こんなところに置いていかれては、私は確実に行き倒れてしまう。

「……置いていかれては、困ります」

「そうですか。それじゃあ、ついてきてください」

 ズーデルアルデ王国を抜け出したのも、王国で三人しかいない能力を有しながらも、そのおぞましき技ゆえに貴族らから受ける心無い言葉に耐えかねてのことだった。が、その結果はさらに過酷な生活だった。魔力封じの首輪と監視の読心魔導士をつけられて、さらに自由のない暮らしを送るハメになってしまった。

 この上、さらに忍耐力を切らせてしまえば、さらなる過酷な運命が待っているかもしれない。ここはひとまず、我慢だ。

 ピクリとも動かなくなったあの不思議な巨身の太い脚によじ登る男の後についていく。その男はひょいっとその太い脚の上に軽々と登るが、私は背が低い。おまけに腹が減って力が出ない。なんとかよじのぼろうとするが、そこで息切れを起こしてへたり込んでしまう。

「しょうがないなぁ」

 半ば呆れ気味に、私の横に降りる男。するといきなりその男は、私の肩を掴む。

 何を……私に緊張が走るが、男は私の背中と足に腕を通すと、軽々と持ち上げる。

 な、なんて力強い。思わず私はその腕力に魅入ってしまう。ただの不遜な男かと思っていたが、この力強さに触れて少し見直した。

 男は私を抱えたまま巨身の脚を登り、そのまま腹の辺りを乗り越えて頭に達する。中を覗くと、椅子のようなものが二つ、前後に並んでいる。

 その後ろの椅子に、この男は私をそっと下ろす。ああ、もうちょっと抱かれていたかったなぁ。そんなことを考えながら、男の顔を見る。すると男は私にこう告げる。

「あの、失礼ながら一つ、尋ねてもよろしいですか?」

「は、はい! なんでしょう!?」

 急に、なんだろうか? なぜか私はドキドキしてしまう。が、その男はとんでもないことを言い出す。

「もしかしてあなたさっき、漏らしちゃいました?」

 えっ? あ……そうだった、この巨身が私を追い詰めた際に、そういえば私は少しだけ、漏らしてしまった。

「ええと、あの……少しだけ」

「やっぱり。腕に少しついちゃったよ。最悪だなぁ」

 腕の辺りを臭いながら、怪訝な顔でこう答える男を見て、私は幻滅する。うう、さっきのあの胸の高鳴りを、返してほしい。

「それじゃあ、行きますよ」

 前の椅子に座った男がそう声をかける。すると上の透明な覆いがゆっくりと閉じる。

 そういえば私、あの巨身の中にいるんだ。何が始まるんだろうか? すると男の前に並んだ黒く四角い板の並びが光り始める。細々とした奇妙な光を放つその小さなテーブルのようなそれは、よく見ると私の前にもある。遅れてこちら側もその奇妙な光を放ち始める。

 すると、フォーンという隙間風が立てる音をやや大きくしたような変な音が聞こえてきた。それに呼応するかのように、テーブルの奇妙な光が変化する。

「人型重機二番機、コールサイン『ナポリタン』、発進する!」

 この掛け声の直後、この不可思議な巨身は空へと浮き始めた。

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[良い点] 若い女性のならご褒美、…ゲフンゲフン
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