YA少年刑務所
三 YA少年刑務所
刑務所には種類があります。
YA級 初犯少年刑務所
YB級 累犯少年刑務所
A級 初犯刑務所
B級 累犯刑務所
LA級 長期初犯刑務所
LB級 長期累犯刑務所
W級 女子刑務所
もっと細かく別れているらしいのですが、大体こんなもので、私はこれだけしか知りません。
初犯とは、初めて刑務所に入る人のことです。
累犯とは、二回目以上刑務所に入る人のことです。
長期とは、刑期が八年以上の人で、無期懲役の人はこの長期刑務所に入ります。
今回私が入る、少年刑務所は、二六歳未満の人が入る刑務所で、事件が大きいと、本当の少年もここに入って居ます。
九州にあるYA少年刑務所、私はここで残刑を過ごすことになるのです。
分類センターからYA少年刑務所までは、手錠をされて、もう一人の受刑者と数珠繋ぎに成って一般のJRで行きます。
早朝ではあったが、めっちゃ恥ずかしく、連れ出しの刑務官は私服ですが、きっと見る人が見たらバレバレでしょう。
分類センターを出る前に、今から九州のYA刑務所に移送すると告知があり、その時初めて自分が行く刑務所を知りました。
そして九州までの移送ですが、まるで市中引き回しの刑を受けて居る気分です。
しばらく見る事の出来ない、娑婆の風景だけど、恥ずかしくて、私は下ばかり見て居ました。
途中、修学旅行の学生たちと合致して、指を指され、コソコソ私たちの事を話す声が聴こえて来ます。大変恥ずかしい思いをしました。(お願い、こっち見ないで~)
数珠繋ぎの相棒も、きっと恥ずかしいだろうなと思い、一応見てみると、堂々と学生たちに、ガンを飛ばして居ました。
コイツはバカなのかな?と思いましたが、きっと大物になるでしょう。
数時間の移送ではありましたが、私には物凄く長いものに感じられました。
しかし、これで暫らくの間、娑婆とはお別れです。(さようなら、シャバ・・・)
そんな感傷的な気持ちにも成りましたが、とにかく早く目的地に着いて欲しいと、思いました。
そして昼過ぎ頃になってやっと、目的地の九州YA刑務所に到着しました。
到着初日は、領置品調べや、入浴、とかで一日を使い、翌日から考査工場と言う所へ配属されます。
この考査工場には、二週間居る事になるのです。
二週間の間に、刑務所での所作などを教えられ、どこの工場へ配属するかを、決められます。
その期間として、二週間ほどこの考査工場で過ごすのですが、ここがまた、嫌な所なのです・・・
担当職員もネチネチしていて、受刑者の間からサバとあだ名をされるくらい、嫌なオヤジでした。
雑役という受刑者がいます。
これは配属される各工場にも、必ず一人は居ます。
工場受刑者の中から、業績や作業態度や、犯罪傾向などを見て、菅(刑務所側)が指定してきめるのですが、まぁいわゆる懲役囚のエリートです。
娑婆で言えば、犯罪傾向も進んで居ない、イモ引きタイプが、菅から見たら、まだ更生が可能な者と見て、そう言った重要なポストに付けて、特別扱いするのです。
少年刑務所のそれも考査工場の雑役といえば、十中八九生意気な勘違い野郎が多いとききます。
この九州YA刑務所の考査工場雑役も、他聞に漏れず、生意気勘違い野郎でした。
初めての刑務所に、皆、不安でどうしたら良いか解らないのに、上からの発言ばかり、挙句の果てには、担当オヤジと一緒に叱ってきたりもします。
雑役とは、本来、新入の面倒を見てやり、刑務所の生活を教えてくれたりする役目なのです。
工場の雑役は、工場の中から選ぶと言う決まりがあるから、考査工場の雑役も考査工場の中から選ぶのです。
タイミングの問題で、たまたま考査雑役が出所するので、考査に居る受刑者の中から、今一番良さそうな奴を選ぶのです。
初めて刑務所に入り、二週間で雑役に成るのだから、勘違いするのでしょう。
それと衛生夫というのも、どこの工場にもいますが、この衛生夫の人は、洗濯したり、工場内を清掃したりと忙しく働いて居て、雑役ほどの権限がないが、良い人でした。
この考査期間中に、刑務所の幹部連中からの講話と言うのがあります。
処遇部長だの、会計課長だの、何かしら肩書の付いた職員からのお話しです。
この講話中も、話しを聴く態度やら姿勢やらをチェックされていて、配役される工場のポイントになります。
作業は、拘置所の確定房でやって居た、紙袋を作る内職みたいなものだが、各自テーブルが決って居て、姿勢から作業のやり方、全て監視されています。
椅子に座る際も、両足のつま先を揃えて座らないと、注意を受けます。
注意と言いましたが、ヤクザ顔負けの巻き舌で、頭ごなしで来られます。
この注意一回で、配役ポイントは下がります。
刑務所、特に少年刑務所に来たら、皆、目当ては仮釈放です。
初犯刑務所で、それも少年刑務所なので、他の刑務所に比べて、仮釈放の確率が高いのです。
持ち刑の三分の一なんて当たり前、そりゃ真面目にして早く出たいですからね、皆。
炊事工場なんかに配役されると、二分一から三分一の間も仮釈が貰えると噂され、配役に成りたい工場ナンバー1でした。
私も希望は炊事工場にしていました。
炊事工場は重い物を扱うので、重い物は持てるかと聞かれたら、炊事工場配役は間違いないと噂も流れて居たのです。
配役前面接の時に、希望する工場はどこかと聞かれた時には
「娑婆で飲食関係の仕事に携わっていたので炊事工場を希望します」
と、嘘八百を並べ立て、アピールをしました。
「君は重い物を持てるかね」(キター)
「はい、重い物を持つのは大好きです」
私の中では、サイコーのアピールをして、その手応えは充分感じました。
明日は考査期間の終了、ネチネチのサバや生意気な雑役からもやっと解放される。
その嬉しさと、今から始まる本当の受刑生活を思うと、朝まで寝られませんでした。