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刑務所ライフ  作者: ちゃんマー
1/4

拘置所、確定房

 【刑務所ライフ】


 はじめに


 私は、人生の中で六度ほど刑務所に服役して、通算で二十年ほど人生を無駄に過ごして参りました。

 そこで気付いたことがあります。

 各刑務所によって、スタイルが全然違うと言う事です。

 基本の監獄法は同じなのですが、そのスタイルによって、務める側の私たちにとって、どれだけ違うかと言う事です。

 楽な部分は全国統一してほしく、厳しい部分は廃止にして貰いたいと思う今日この頃であります。

 もし、これから刑務所へ入る方、知人にその様な方が居る、ただ興味がある方、その様な人に読んでみて貰いたいと思います。

 まずその事と、今回なぜ執筆することにしたかと申しますと、ズバリ、暇だからです。

そうです、ただの自己満足です、オナニーなのです。

 しばらくの間、私のオナニーに付き合って頂けたら幸いです。


         大坂正純ちゃんマー


 一 拘置所、確定房


 事件は言いません(言えません)ホンマしょうもない事件です。


 弁当(執行猶予)を持って居たので、今回は務め(刑務所へ入る事)に行かないといけません。自分の中で覚悟していました。ですが裁判官から、懲役三年六カ月と判決を言い渡された時は、その後に「しかし」と言ってくれ~と心の中で祈って居ました。


 執行猶予の場合、懲役〇年、しかしそれを〇年猶予する、と言うからです。


 しかし私の場合、その様なダブル執行(執行猶予中にもう一度執行猶予に成る事)の様な奇跡が起こる事も無く判決が下りました。


 判決が告知された日から、十四日以内は上告、控訴する期間があり、その間は未決の扱いです。私はもやもやした気持ちで過ごしました。


 保釈で娑婆に居たら、一日でも長く娑婆に居られる様に、控訴して伸ばす方法もありますが、その時の私は保釈も通らず、拘置所で生活を送って居りました。


 拘置所生活と言っても自由など無く、テレビも無い寂しい生活です。


 その頃の私は、刑務所も同じ様なものだろうと、安易に考えて居た一人です。


 後から思えば、かなりキツイ拘置所生活ですが、それが天国に感じます。


 話しは戻りますが、上訴期間を返上してさっさと努めに行く剛の者も居ます。


 返上した分だけ早く出られる訳でも無いのに、まったく不思議です。


 私はもう少しお菓子を食べて、雑居房の皆さんとペラ花を咲かせたい(話しが盛り上がる意味)気持ちで、自然に確定するまで未決にしがみついて居ました。


 いつまでもこの中途半端な日々が、続いて欲しいなと思って居ました。


「おい大坂、荷物はまとめたな、行くぞ」


 オヤジ(刑務官)の声で出発します。


 現在は監獄法が改正され、私物は持ち放題です。貸与のキャリーバックをパンパンにして出発します。しかしこの当時はまだ改正前だったので、籠の中に三冊の私本と箸箱、タオル、洗面道具だけの荷物です。


 廊下を歩くたびに、箸箱がカタンカタンと音を鳴らしていたのを記憶しています。


 出発と言っても、拘置所内にある、領置調べ室と言う場所です。


 そこでは、自分の持ち物を、これどうするか?これは?と淡々と聴いてきます。


 刑務所に持って行ける物や、持って行けない物を、聴いて居るのです。タオル、歯ブラシ、チューブ、石鹸、石鹸箱、箸、箸箱、何冊かの私本以外は、ほとんど不許可、廃棄箱の中に捨てられます。


 拘置所では、お菓子やら整髪料、クシ、クリーム等、結構色々な物が買えるのですが、刑務所には持って行けません。


 食べきれないほど購入して居た、お菓子やジュース、パンなどが廃棄箱の中に消えて行きました。


 出所までお預けです。さようなら。


 私本も、検査に回すからと、取り上げられます。


 そして、ここからが屈辱的なのですが、裸にされてお尻の穴まで調べられます。


 前に、飴を隠して居た奴が居たとかで、念入りに調べられました。


 そんな飴誰が食ぅねん、とツッコミを入れたいところですが、そんな雰囲気ではなく、ただお尻を突き出して、それをジックリと調べると言う、妙な時間が流れました。


 そして、受刑服に着替えます。


 あぁ、これでとうとう受刑者に成ったのだな、と思う瞬間です。


 受刑服を着た私は、みすぼらしいドブネズミのようです。


「よし、今日からお前は二〇四番だ、覚えて置くように」


 そうオヤジから言われ、頭の中で何回か復唱しました。


 因みに、未決の場合は千番代、死刑囚は一桁です。


 死刑囚はこの「拘置所」に居ます。


 死刑判決が出て、執行されるまでの間、拘置所で未決と同じ生活を送ります。


 もちろん独居房ですが、お菓子も食べられるし優雅なものです。


 死刑執行されるには、法務大臣が判を押さないといけません。心情的に法務大臣もなかなか判を押しません。死刑が確定しても、十年以上拘置生活を送る人が沢山居ます。


 その期間、お菓子やジュースを購入するお金を捻出する為、マスコミに自分の心情を語り、お金を稼ぐのです。


 死刑囚の手記、みたいな本を出すのです。


 私の知るところでは、刺青の下絵(めっちゃ下手クソ)をブランド化して売ろうとして居るバカな死刑囚もいます。


 いつ死刑執行になるのか恐れて、わざと窓ガラスを割り器物破損事件を起こす死刑囚も居ます。刑務官に箸を突き刺して、傷害事件を起こす死刑囚も居ます。


 事件を起こしたら裁判になります。その期間は死刑執行がストップに成るのです。


 人殺しの癖に、自分の命には執着するのです、哀れですね。


 話しが少しそれました。


 私が台車に僅かな荷物を載せると、

「いいか、今日から歩く時は行進だ」

 とオヤジに言われました。


 台車を押しながらの行進は、とても難しくて、意味が解りません。


 途中で布団やら就寝具を台車に乗せ、オヤジの掛け声に合わせて、足のみ行進で台車を押して進みます。


「いっちにぃ、いっちにぃ」


 ドブネズミが台車を押して行進です。


 きっとこの辺りから、私の心を折に来て居るのだと理解しました。


 拘置所の隅っこの棟が、確定房です。


 カタン、コトン、トントン


 シーンとした棟に、各房から音が響いて来ます。受刑者の人たちが、紙袋を作る内職の様な事をしています。


「おい、横を見るな、真っ直ぐ行け」


 オヤジが時々かましを入れて来ます。


 基本、拘置所の職員は、優しい職員が多いのですが、ここではかまして来ます。


 房の前を通るたびに、受刑者達が横目で見て来ます。(自分も受刑者なのですが)


 房は独居房でとても狭いです。


 今朝まで雑居房で、皆とワイワイ楽しく暮らして居たので、圧迫感が凄いです。


 トイレも廊下から視察出来る様に、便器がむき出しで、申し訳なさそうに衝立が立って居るだけ、プライバシーはゼロです。


 これに慣れるまで時間が掛りました。


「取りあえず、部屋の掃除をしたり、布団を畳んだりしておけ」


 ひとかまし入れられて、ここまで連れて来たオヤジは去って行きました。


 しばらく掃除をしました。百均に売って居る様なほうきと塵取り、布団の余り生地で作った雑巾で掃除をしました。


 ほうきは固すぎて、ゴミが飛んで行くだけです。


 畳はガタガタだから、いくらやっても塵取りに入りません。


 雑巾は濡らしても、水を吸いません。


 やって居て馬鹿馬鹿しくなった頃を見計らって官房のドアが開きました。


「おい、そこに正座しろ。 今日から俺がお前の面倒を見る。解ったか二〇四番」


 なめられない様に、いきなりかましを入れられました。


 このオヤジ(職員)が、この確定房の正担当です。


 ここでの生活を、一から十まで説明してくれました。


 まず、布団のたたみ方には順番と法則があります。視察窓から見た時に、たたんだ横側が、ケーキを切った時の様な状態にしないといけません。


 職員とは、要件以外は絶対に眼を合せたら行けません。


 職員と話すときは、必ず正座をして、まず番号、それから要件を言います。


 職員の命令、指示は絶対に守らないといけません。


 作業(内職)中によそ見をすると、懲罰を受ける事に成ります。(チラ見もダメ)


 要件がある時は、報知器(ドアの所にボタンが付いて居て、押すと札が倒れて遠くの職員から見える仕組み)を押して、正座の体制で下を向き職員が来るまで静かに待ちます。


 その様な事を、淡々と説明してくれましたが、一度には覚えられません。


「おやっさん(始めからオヤジとは呼べないで居た)私本はいつ帰ってくるのですか?」


 私が一番気になった事はそのことでした。本が無いと気が狂ってしまいそうです。


 当時の監獄法では、三冊しか私本は所持出来ません。残りは領置されて居て、他の本と取り替えたい場合は、願箋がんせんと言う名前の書類を一々作成して提出しなくては成らないのです。その上、願箋日と言う日が週一で決って居て、それを逃したら大変な事に成ります。


 因みに私本の交換願箋を提出して、手元に届くまで二週間くらい掛ります。


「まず願箋を書け、本来なら昨日が願箋日だが、特別に取り計らってやる」


「有難う御座います、お願いします」


 オヤジに値打ちを付けられて、思わず頭をさげてしまいました。


 官(刑務所側)には、へつらわないと心に決めて居たのですが、早速心が揺らいでしまいました。


「おやっさん、もし良ければ官本をかして貰えませんか」


「おう、適当に選んで、後から持って来てやるから、待っとけ」


「はい、待っております」


 いつの間にか、恭順に成って居ました。


 刑務所で生活するにあたって、担当のオヤジに気に入られる事はとても大事です。


「取りあえず、昼までそこにある冊子を読んどけ」


「はい、わかりました」(ペコペコ)


 冊子とは、どこの官房にも備え付けられている、刑務所遵守事項と刑務所のしおりのことです。


 こんなの数ページしかないのに、昼まで読めるか、と思いましたが、良い子にして読みました。


 キーンコーンカーンコーン


「お、休憩や」


 作業をしていたら、この時間に用便トイレをすることに成る、逆に言えば、この時間しか用便が出来ないのです。


 今の私の作業は、冊子を読む事なので、中断して用便をすることにしました。


 用便を済ませて壁に寄りかかって休んでいると、いきなりドアが開きました。


「オイお前、壁に寄りかかるな、壁が汚れるだろ、解ったか」


「はい、すいません」


 私が汚れるのじゃ無くて、汚れるのは壁だそうです。


 なるほどね、こうして少しずつ心を折って来る作戦ね、なるほど、なるほど。


 よし、ロボットになろう、しばらくの間私はロボットに成ろうと決心しました。


「運動、運動、運動、運動・・・」


 奥の方から官房のドアが開いて行きます。


「おい、運動出るか」


 私の官房のドアも開きました。


「はい、出ます」


「出房する時は番号を言って出ろ」


「に、二〇四番」


「よし、出たら壁の前で黙想」


 この一連の動作をしないと、出房出来ないのです。


 これから始まる刑務所生活で欠かせない動作です。特にこの壁に向かって黙想はたまらないのです。


 壁に向かって直立不動の姿勢で、眼をつぶるのです。実に馬鹿馬鹿しいです。


「右向け、右、前に、進め」


 ここからは行進が始まります。


 ロボット、ロボット、私はロボットです。


 運動と言っても、ビルの屋上位のスペースで、そこをクルクル回るくらいしかできないのです。


「正純、やっと来たか」


「誠ちゃん」


 地獄に仏とは、まさにこのことで、そこには地元の先輩が居ました。


 拘置所での手紙のやり取りは、面白いもので、拘置所の住所と相手の名前を書いて、切手を貼って、一度外の郵便局を経由してやり取りします。


 なんとも面倒臭いのだが、それしか方法は無く、いつの間にか慣れるのです。


 この先輩とは文通して居たのです。


「確定日から計算して、今日辺り来ると思って居たわ」


「良かった、誠ちゃんに会えて」


「俺も移送前に正純に会えて良かったわ」


 この拘置所の確定房は、刑務所へ移送されるまでの間、留め置かれる所です。


 拘置所の分類課の職員が、過去の行状とかを吟味して、どこの刑務所へ送るのが良いかを決めるのです。


 因みにどこの刑務所へ送られるかは、本人はもちろん、家族でさえ知らされません。


 移送になる一日前には隔離されます。作業も無く、運動にも出られません。


 慣れて来ると、何曜日はどこの刑務所へ移送と言うのが解って来ます。あの人は今日運動に出て来なかったから、隔離だ、明日移送ならあそこの刑務所だ、と大体解ります。運動は毎日あるから解るのです。


 運動から帰ると、官本が舎房に三冊投げ捨てられて居ました。


 題名は、なんとか特急殺人事件(下巻)、吾輩は猫である、シティーハンター(6巻)でした・・・なめとんか。


 現在もそうだが、拘置所ではテレビがないのです。ラジオのみです。


 そのラジオが全然面白くないのです。


 音の風景、だとか討論会だとか、きっとそんな誰も聴かない様な番組を、わざと選んで流しているとしか思えません。


 私本が来るまでの二週間、この期間が私は一番辛かったです。


 拘置所の確定房は、別名、移送待ちと言われて居て、大体一ヵ月ほど置かれるのです。


 しかし私の場合、六カ月も留め置かれたのです。


「お前みたいに長いのは初めてや」


 と、オヤジからもお褒めの言葉を頂きました。



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