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やっぱり最推しが一番!

「……ふぅ」


 会場の熱気から少し離れた場所、目立たないよう端の方に移動した私は息を吐く。

 お父様と挨拶回りをした後、お父様と一曲踊り終えた私は許可を得てようやく一息吐けたところだ。


(分かってはいたことだけど、お母様のことを良くご存知の方々や私への興味本位で近寄ってくる方の絶えないこと……)


 お母様を慕って下さる方は良いとして、すぐに私を引き合いに出したり、悪口のようなことを言ったりするのは本当にやめて頂きたい。


(まあ、お父様が論破して下さっていたけど)


 私も過去の行いが悪いから仕方がないと言われたらそこまでなのだけれどね……、なんて遠い目をしていると。


「そちらのお嬢さん。 お飲み物はいかがですか?」

「いえ、結構で……って、あら」


 私は声をかけた人物を見て一度瞬きをし、声を上げた。


「アラン! 驚いた、びっくりさせないで」

「驚いたか? 悪ィ悪ィ」


 そう飾らない砕けた言葉で話す青年は、赤髪に橙色の瞳を持ち、騎士服姿の私の幼馴染であるアラン・フィネルだった。


(そして彼もまた、“きみバラ”の攻略対象……)


 そんな彼がここにいることに驚き、私は言った。


「貴方、こんな所にいて良いの? ベルンハルト殿下の護衛は?」

「ん〜……、まぁ大丈夫だろ」

「そんな適当な……」


 彼は私の隣に立つと、「ん」と再度グラスに入った飲み物を私に差し出した。


「……中身は?」

「グレープジュース」

「それなら頂くわ」


 私は彼の手からグラスを受け取ると、そのジュースを口に含んだ。


(実は丁度喉が渇いていたから嬉しい。 こういうところが彼の気が効くところね)


 私はそんな彼をチラリと見上げ、設定を思い出す。


 アラン・フィネル。 歳は私より四歳年上の20歳。

 私と同じ侯爵家の三男で、王立騎士団に所属している騎士である。 四年ほど前に剣の腕前を買われ、第一王子の護衛に任命された。


(身分が同じだから、アランとも家族ぐるみの付き合いなのよね)


 今気が付いたけれど、アンジェラの幼馴染が攻略対象の5人中4人を占めているのよね。


(アンジェラからしたら、そんな彼等を皆虜にしてしまったエリナのことを面白くないと思ったのかもしれないわ)


 などと考えながら、もう一度彼を見て確信した。


(うん、ドキドキはするけれど、ヴィクトル様程ではないわ。

 最推しを目の前にする時とではやっぱり違うわよね)


「……って、ヴィクトル様! ねぇ、アラン、ヴィクトル様を知らない?

 私、今日一度も彼をお見かけしていないのだけど」

「ヴィクトル“様”?」

「そ、それについては良いから! ともかく、彼はどこ? エリナ様も近くにいるの?」


 私の言葉に、アランは気まずげに目を逸らす。

 その姿を見て思った。


(あぁ、私が彼女をまたいじめると思っているのね)


 確かに忘れていたけれど、この夜会でもゲーム内では大きな声で悪口を言って恥をかかせようとしていたわね……。

 私はそんなアランに向かって言った。


「いきなりこんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけれど、私、エリナ様にただ嫉妬していたの」

「嫉妬……?」

「えぇ。 ……私、ヴィクトル様を彼女に取られたくない一心で彼女を困らせるようなことをした。

 今思えば、本当に馬鹿なことをしてしまったと思っているわ。 反省している。

 だから、もう嫌がらせなんてしない」


 私の言葉に、アランは少し考えた後言った。


「では、アンジェラはヴィクトルのことが好きなのか?」


 私はアランの言葉に対して答える代わりに、別の言葉を口にした。


「私は、ヴィクトル様の幸せを願っているわ」

「あ、おい!」


 私は笑みを浮かべると、空になったグラスを置き、その場を後にしたのだった。


「……確かに、まるで別人じゃねぇか」


 そうアランが呟いた声は、私の耳に届くことはなかった。




 私が探していたヴィクトル様は、予想通りエリナ様と一緒にいた。


(これだけの人がいても最推しを見つける探知能力(センサー)、さすが私。 いや、ヴィクトル様が凄いんだわ。

 だって、彼の周りだけキラッキラに見えるんだもの……!

 さすが私の最推しっ! 一生推すーーー!)


 と心の中でペンライトを振り回していると、ふと視線を移した先に、もう一人共にいる人物を見て、私は思わず声を上げそうになる。


(ベルンハルト……!)


 ベルンハルト・フィリエ。 この国・フィリエ王国第一王子にして、アランが護衛を務めている主でもある彼はもちろん、“きみバラ”攻略対象だ。

 それも王道な王子というポジションもあり、金髪紺眼、優しくて甘い性格も相まって、前世でヴィクトル様と一、二を争う人気を誇ったキャラクターである。

 同じ歳ということもあり、幼い頃は私、ヴィクトル様の三人で良く遊んだりした幼馴染だ。


(ベルンハルトがエリナ様と一緒にいるということは……、ルートはヴィクトル様とのどちらかということ!?

 え、どちらなの……!?)


 そのどちらかで大分私の身の振り方が変わってくるのだけど! と三人の様子を固唾を呑んで見守っていると。


「ねえ」

「……!?」


 突然背後から声が聞こえたことに驚き、バッと反射的に振り返れば、そこにいた人物にまたも悲鳴を上げかける。


(ルイ・オドラン……!)


 言わずもがな、彼もまた“きみバラ”の攻略対象だ。

 予期せぬ彼との遭遇に思わず固まる私に対し、彼は艶やかな笑みを浮かべて言った。


「アンジェラ様。 少し外でお話出来ませんか?」

「え……」


 こちらもまた予想外の誘いに、思わず歯噛みをする。


(っ、もう! せっかく推し活しようとしたところで一番面倒臭い人に邪魔された……っ!)


 彼は私を見て、「ほら」と手を差し伸べる。

 私を見つめるその目は、いつもながら全く笑っていない。


「……一人で歩けるわ」

「相変わらずつれないねぇ」


 彼のわざとらしい口調にひと睨みすると、私は先を歩き出し、ルイは後ろから付いてくる。

 そんな彼の公式設定を思い出す。


 ルイ・オドラン。 私より二つ年上の18歳。

 黒髪紫眼、前世では当たり前だった黒髪だけれど、この国では珍しいとされていることから、昔はいじめられていたらしい。

 今ではその容姿を強みにして、常に女性に囲まれているような人だ。


(アンジェラである私は、軟派な彼を嫌っていた)


 そして、彼自身も……。


 私は会場の外に出て、会場からは見えない廊下で立ち止まると、クルッと踵を返し彼の方を見て言った。


「それで? 私に話って何?」


 苛立ちを隠さない私に対し、彼もまた冷たい笑みを浮かべて口を開いた。


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