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元呪われ悪役令嬢の幸福*アンジェラ視点

アンジェラ視点、番外編最終回です!

「アンジェラ」

「!」


 不意に名を呼ばれたと同時に、ふわりと肩にかけられたショールを見てハッとし、慌てて口を開く。


「ご、こごごめんなさい、ヴィクトル!」


 彼が来ていたことに全く気が付かないどころか、窓の外で輝く星々を眺めていたなんてあってはならないこと。 何せ、今日は特別な日なのだから。

 そう思い、慌てた謝罪の言葉を口にしたのに対し、彼は私の背をそっと押して言った。


「疲れただろう? 今日の結婚式は特に華やかなものだったから」

「!」


 ヴィクトルの口から飛び出た“結婚”という言葉に、じわりと嬉しさが込み上げるが、それと同時に僅かに胸をつっかえるものがあって、それを口にしようと彼の名を呼ぶ。


「ねぇ、ヴィクトル」

「ん?」


 私を椅子に座らせてくれてから、彼もまた向かいの席に座ったのを確認してから口を開けば、彼の薄い青の瞳が私に向けられる。

 そして、口にしようとした言葉を発することはなく、代わりに飛び出したのは別の言葉だった。


「の、喉が渇かない? お水淹れるわね」

「それなら俺が」

「平気よ! 私がやるわ」


 そう言って自らピッチャーを手に、近くにあったグラス2つに水を淹れ、彼と自分の前に置く。


「ありがとう」


 グラスの水を受け取り、水を飲む彼の横顔を見つめていると、ヴィクトルは軽く咳払いした後言った。


「……アンジェラ、そんなに凝視されたら飲み辛い」

「!? ご、ごめんなさい」


 慌てて彼から視線を外せば、逆に彼がじっと私を見つめて言葉を発した。


「何か、話したいことがあるんじゃないか?」

「え……」


 ヴィクトルの予期せぬ言葉に向かいにいる彼を見やれば、彼はじっと私の瞳を見つめていて。

 その澄んだ色素の薄い青の瞳にどこまでも見透かされている気がして、私は小さく笑って言った。


「ヴィクトルには何でも、お見通しなのね」

「いや、そういうわけじゃないが……、そうだな、アンジェラの些細な変化も見逃さないように必死なんだ」

「!」


 そう言って、彼は私の隣に座ると、不意に私を抱きしめた。

 その瞬間香る石鹸の匂いと温かい体温に、一気に顔に熱が集中するのが分かる。

 それに気付いたのだろう彼が、クスクスと笑って言った。


「アンジェラ、顔真っ赤」

「わ、わざとやってるでしょ!」


 それでも振り解くことが出来ずに喚く私に対し、彼は私の頭に手を載せる。

 そして、そのまま頭を撫でながら言った。


「少しでも安心してくれればと思って」

「こ、これでは逆効果よ……」

「……そうか」


 彼はそういうと、私から距離を取った。

 蝋燭の灯りだけが頼りの薄暗い部屋の中では、近付かなければお互いの顔色まで分からない。

 だけど。


「……ヴィクトルも顔赤い」

「気のせいだ」

「それは嘘よ」


 軽口を叩いていても、お互いに緊張しているのは伝わってきて。

 私達は顔を見合わせて笑ってしまう。

 そんな私に対し、彼は口にした。


「やっと笑った」

「!」


 その言葉に思わず息を呑む。

 私は恐る恐る尋ねた。


「……そんなに笑っていなかったかしら?」

「いや、そういうわけではない。 ただここ数日、無理して笑っているような気がしていた。

 それはなぜか、聞いて良いのか分からなかったが……、もし何か気にかかっていることがあれば教えて欲しい」

「! ……っ」


 バレていたんだ。

 私がここ数日……、結婚式を前にして普段通りではなかったことに。

 ヴィクトルは最初から気付いていたのね。


「……っ」

「!? アンジェラ!?」


 私の瞳から勝手に涙が零れ落ちる。

 彼は慌てたようにその涙を指の腹で拭ってくれながら口にする。


「ごめん、泣かせるつもりじゃなかったんだ。

 ただ、力になれればとそう思って……、いや、それは余計なお世話だな。 無理矢理尋ねる形になってしまってすまない。

 だから、泣かないでくれ」


 私はその言葉に首を横に振り、答える。


「違うわ、ヴィクトルのせいじゃない。

 ヴィクトルが、そう言ってくれて嬉しい、けど……、これは、私の問題なの」

「アンジェラの……?」


 ヴィクトルは呟き、黙ってしまう。

 きっと、これ以上踏み込んではいけないことだと思ったのだろう。

 そんな彼の優しさがどこまでも胸に沁みて、私は意を決して口を開く。


「私、前世の記憶があるの」

「前世……?」


 思ってもみない言葉に、ヴィクトルが絶句しているのが分かり、ギュッと拳を握り口を開いた。


「嘘だと思うでしょう? でも、本当なの。

 私には、“アンジェラ”としての記憶より前……、別人として生きてきた記憶があるの」

「別人として……」


 ヴィクトルが信じられないといったふうに反芻する。


(……言ってしまったわ)


 本当は言うつもりなんてなかった。

 言っても驚かせるだけだと思ったし、まず信じてもらえるかどうかも分からない。

 けれど。


「どうしても、不安になってしまうの。

 私は、本来ここに……、ヴィクトルの隣にいるべきではない存在なのではないかって」

「!? それは、どういうことだ?」

「……私達が今いるこの世界は、前世の私が遊んでいた乙女ゲーム……つまり、物語の中の世界だった。

 そこで私は、ヴィクトルも知ってる通り“呪い”にかかっていて、本来ならば“呪い”が解けることはなかった。 

 つまり、私は」

「言うな」

「!?」


 ヴィクトルがギュッと私を抱きしめる。

 先程とは比べ物にならないほど、強く。

 その力強さに、驚き目を見開く私に、彼は震える声で言った。


「……それはつまり、俺が君の“解呪”に失敗したということだよな?」

「言いにくいけれど、そもそも“呪い”に気が付いていなかったわ」

「!?」


 ヴィクトルはバッと体を離し、分かりやすくショックを受けた表情をする。

 その顔を見て、慌てて口を開いた。


「違うの! その……、物語の中の私は悪役令嬢と言って本当に悪い女性だったの。

 実際、私も性格が途中で別人になったようだと言っていたでしょう? あれも、前世の記憶を思い出して自分の置かれた立場を自覚したからなの」

「……つまり、俺に婚約破棄を突然迫ったのは、君が“呪い”を解くことを諦めて、その物語とやらの通りに物事を進めようとしたということか……?」


 ヴィクトルの言葉に、私は驚きながらも恐る恐る尋ねる。


「あの、ヴィクトル? 貴方、怒ってるわね?」

「これが怒らずにいられるか? どうしてそんな大事なことを隠して、俺から離れようとしたんだ。 

 それが俺のためになるとでも?」

「だ、だって、“呪い”は解けないものだと物語の結末を知っているからこそそう思っていたのよ。

 解呪条件だって“両想い”だなんて、記憶を思い出してからでは遅いと判断したんだもの……!」


 “呪い”関連の単語を一切口に出来ない上、記憶を思い出すまでにエリナ様をいじめていた私が、改心したところでヴィクトルからの愛情を得られるはずがない。

 それに。


「もし呪いが解けなかったら、また心優しい貴方が傷付くかもしれない。

 そんな思いにさせるのは、嫌だったから」

「……よく分かった」

「!」


 彼はそうため息交じりに口にする。

 私は彼が一気に不機嫌になったのを感じ、慌てて謝った。


「ご、ごめんなさい。 今のは全部忘れて。

 疲れて変なことばかり言ってしまっているだけだか」

「アンジェラ」

「!」


 膝の上に置いていた手をそっと取られる。

 ハッとして彼を見れば、彼は微笑みを浮かべて言った。


「大丈夫だ、怒っていない。 ……まあ、少し怒ってはいるが」

「ごめんなさ」

「謝って欲しいんじゃない。 

 そうじゃなくて、前にも言ったが、君は自分のことよりも他人のことを優先しすぎている。

 それが、俺は嫌だ」

「い、嫌なの?」

「嫌だ、凄く」


 ムスッと繰り返して言うものだから、危うく吹き出しそうになったのを堪えると、彼はそれに気付いたようで言った。


「なるほど、全く俺の言っていることが響いていないということは分かった。

 そうだな、アンジェラが考えを改めないのなら」

「っ、きゃ!?」


 刹那、彼が私を長椅子に寝かせる。

 そして、私の顔を覗き込むようにして距離を詰めると、繋いだ手に口付けを落としながら妖艶に笑って言った。


「君が自分を大事にしない代わりに、俺がその分も全て、君を駄目にしてしまうくらい甘やかす、ということでどうだろうか?」

「!?!?!?」


 突如出現した、久しぶりの最推し距離感バグに私の思考は一斉停止する。

 そんな私の表情に、彼はふはっと吹き出して笑い、軽く頭を小突かれた。


「君のその顔を久しぶりに見た。 冗談だ」

「し、心臓に悪い冗談は、いくら浴びでも慣れないのでやめてください……」

「それは良いが、多分これくらいは慣れておかないと結婚生活が大変だろうから、一応忠告はしておく」

「!?」


 その言葉に、今この置かれている現状を思い出し、慌てて椅子から転げ落ちるようにして彼から距離を取る。

 そんな私に、ヴィクトルは心臓に悪い笑みを浮かべたままクスクスと無邪気に笑ってから言った。


「大丈夫。 俺は、一生隣にいるから」

「……!」

「むしろ、物語の中の自分を殴りたいくらいだ。 一生そこで泣いてろ」

「し、辛辣!」


 ヴィクトルの捨て台詞に思わず口にしてしまえば、彼は「当たり前だ」と口にした後言葉を続けた。


「言っておくが、俺はそんな物語のようにはならない。 というか、なってたまるか。

 俺が好きなのは、昔も今もその先も、アンジェラだけだ」

「……!」


 驚く私に、さらに言葉は続く。


「だから、君以外に何もいらない。

 いつだって隣にいてほしいのはアンジェラ、一生君だけだ」

「……っ」


 それは、私が一番求めていた、欲しかった言葉。

 その言葉を聞いて、ただ泣きじゃくることしか出来ない私に向かって彼は微笑むと、腕を広げて言った。


「アンジェラ」


 その腕の中に私が飛び込めば、彼は私を受け止めてくれる。

 そして、私にだけ聞こえるくらい小さな声で言った。


「誰よりも、君だけを愛している」


 と。だから私も、笑ってこう返した。


「私も、一生貴方だけを愛しています!」


 そして、一生最推しです!と。

 心の中で呟き、伝わる体温と幸せに身を委ねたのだった。




『余命半年の呪われ悪役令嬢に転生した私、悪役→推し活にジョブチェンジします!』番外編 完結




アンジェラ視点、いかがでしたでしょうか?

呪いという試練を飛び越えた彼らの二人の絆が、皆様に伝わっていたら嬉しいなと思います。

これにて番外編、終了です!

全キャラ執筆に三ヶ月という時間をかけてしまいましたが、無事に執筆できましたのは皆様の応援のおかげです。

温かいご感想を頂き、本当にありがとうございました!

次回作は昨日より連載開始しておりますので、よろしければこちらもお読み頂けたら本当に嬉しいです!

『愛されない悪役令嬢に転生したので開き直って役に徹したら、何故だか溺愛が始まりました。』

https://ncode.syosetu.com/n8505hz/

今作と同じ悪役令嬢ものとなっております!作者史上最強ヒロインです(笑)

最後になりましたが、最後までお読みいただいた皆様、ブクマ登録、いいね、評価等下さった皆様、本当にありがとうございました!

2022.12.31.

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― 新着の感想 ―
[良い点] お互いスッキリして幸せに向かうのでよかったです。 [一言] お疲れさまでした。 楽しくドキドキ、幸せに読めました。
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