私だけの物語*元魔女視点
またまた大変遅くなってしまい申し訳ございません…!
元魔女視点で、エリナ視点と同日のお話です。
『ローズ』
その名を呼んでくれる彼は、もうここにはいないのだとそう思う度、胸が張り裂けるように痛くて、苦しくて。
だから私は、誓ったの。
『もう二度とこんな想いはしたくない、させたくない』と。
そんな時、私は、“彼女”に出会った―――
澄み渡る青空の下、遠くで純白の衣装に身を包んだ幸せそうな二人の姿がある。
そんな二人を見つめていると、隣にいた人物から声をかけられた。
「近くに行かなくて良いのか?」
そう声をかけてきた愛しい人に向かって、首を横に振り答える。
「良いの。 ここで十分」
「そうか」
そういうと、彼は「ん」と私に向かって白ワインが入っているグラスを差し出してくれる。
「ありがとう、アラン」
グラスを受け取り、ワインを一口口に含むと、アランは自身の頭に手をやりながら言った。
「あいつら、ようやく結ばれたなぁ。 もどかしいったらありゃしねえ」
「ふふ、本当。 ……だから、他人事だとは思えなかったのかしら」
「え?」
私の言葉にアランは首を傾げる。
そんな彼に向かって笑みを返しながら言った。
「似ていない? 私達と」
「……そうか? そうでもねぇと思うけど」
二人をしげしげと見つめて答える彼の考えていることが分かって、私は呆れ交じりに訂正する。
「違うわよ、外見じゃなくて……、そうね、上手く説明出来ないけど、お互いに思っていることを素直に伝えられないところ、とか」
「……あぁ」
その言葉に彼も思い当たる節があるようで、目を伏せてしまう。 そんな彼を横目に言葉を続けた。
「だから私は、アンジェラちゃんと自分を勝手に重ねて、あの日、泣いている彼女に声をかけたの」
自分の想いを必死に押し殺して泣いている幼い彼女が、このままでは私と……、かつて薔薇姫と呼ばれていた私と同じ結末を迎えてしまうのではないか、想い人と結ばれないのではないかと。
「ほんの少しのすれ違いで歯車が大きく崩れてしまう。 そう思って、咄嗟に魔法をかけた。 それが彼らのためになると、信じて疑わずに。
……でも結果は、彼らを破滅に導いてしまった」
「!」
隣にいた彼が息を呑む。
(そう、一度彼らは失敗している)
私は自嘲めいた笑みを浮かべて言う。
「あのおまじない……、呪いは、私と同じ死に至らしめるという設定にはしていなかったはずなの。 ただ、一ヶ月だけ仮死状態に陥って、また目を覚ますはずだった。 ……けれど」
「気が付いたら、巻き戻っていた」
「!」
その言葉に今度は私がハッと息を呑めば、アランは「やっぱり」と腕組みをして言った。
「何なとなくそんな気はしていた。 デジャヴっていうか、既視感を覚えることが多くあって。
気付いているのは俺達だけだと思うが」
何せ俺達の存在はイレギュラーだからな、と彼は笑って言うけれど、私は笑って返すことが出来ずに俯き答える。
「そうなってから後悔して……、今でも時々思ってしまうの。 本当にこれで良かったのかって」
「でもローズは、一度目の結末を知っていても、二度目も同じことをしたんだろ?」
アランの言葉に一瞬固まった後、小さく頷き口にした。
「そう。 私は二度目も同じことをした。
泣いている彼女に声をかけて……、でも今度こそ、間違えないようにって」
だから一度目とは違い、彼女の前に何度も姿を現した。
今度こそどうか、二人が結ばれますようにと祈りながら。
「でもそれはやっぱり、驕りだったのよ」
私が行ったことは、ただの自己満足にすぎない。
薔薇姫としてバッドエンドを迎えた自分とアンジェラちゃんを勝手に重ね合わせて、結果彼女を苦しませた。
「余計なことをしてしまったと思っているわ」
「本当にそう思うか?」
「え……?」
アランの思いがけない問いに彼を見上げれば、彼は「ほら」と指を差して言った。
「あんなに幸せそうに笑っている顔を見ても、自分のしたことは間違っていると思うか?」
「……!」
「確かに、一つ何かがかけ違えば、未来が大きく変わるかもしれねぇ。
もしもの話をすれば、かつての俺達が結ばれて、本当に『薔薇姫物語』のようにハッピーエンドで終わっていれば、俺達は互いに転生することも、今ここにこうしていることも、アンジェラやヴィクトルが結婚することもなかったかもしれない。
……何か一つでも違っていれば、それこそ“今”はない。
そう考えたら、こうしてここに今いることこそが幸せなんじゃないか?」
「……アラン」
アランの言葉に、思わず涙が込み上げてくる。
それを見て、彼は慌てたように口にした。
「待て待て待て! 折角綺麗なんだから、せめて泣くのはもう少し後にしろ! ……そう、泣くとしたら大勢いる場所じゃなく俺の前でだけだ!」
「!」
アランのよく分からない励まし(?)の言葉に対し、私は思わず笑ってしまう。 そして、言葉を返した。
「アランは変わったわね」
その言葉に彼は大きく目を見開いた後、ふっと笑みを浮かべて言った。
「そうだな。 俺も、二度と君の手を離さないよう必死なんだ」
「!」
そう言ってそっと私の手を取ると、彼は真剣な表情で言った。
「俺だって、沢山後悔した。
あの時、君の引き止める声を遮った挙句、君と叶えられない約束までして。 君の側を離れるんじゃなかったと、君を失ってから初めて気が付いた」
「……アラン」
「でも、きっと俺は、もし時を遡ったとしても同じ決断を下したと思う」
「!?」
「信じられないって顔をしているな」
そう苦笑いをして言う彼を見て、抗議の声を上げる。
「当たり前でしょう!? 私がいつだって望むのはハッピーエンドだと知っているでしょう!?
貴方が傷付くなんて……、誰が好き好んで愛しい人を戦場に向かわせるのよ!?」
「でも、どっちみちそうしなければ、共にはいられなかった。 ……そのことに、君も気付いているんだろ?
だから、『薔薇姫物語』でも騎士を戦場に送り出す描写は変えなかった。 違うか?」
「……っ」
アランの言う通りだった。
現実的に考えて、姫という立場でありながら、騎士と恋仲になるのは御法度である。
だから、そんな彼と一緒にいられる方法は、戦場へと彼を送り出し、彼が武勲を立ててくること、あるいは。
「……駆け落ちだなんて真似だけは、絶対にしたくなかった」
「っ!」
アランの言葉に思わず絶句してしまう。
それを見て、彼は慌てたように言った。
「覚悟があるないの話じゃねぇ。 そんなことよりも、姫を……、ローズを幸せにすることだけを願っていたんだ」
そつ言って、彼がそっと私の頬を優しく撫でる。
そして言葉を続けた。
「だからあの時、戦場へ向かったんだ。 どんなに苦しくても、生きて必ずローズの元へ帰るんだと」
「……失敗、したけど」
「うっ……、本当にそれは申し訳ないことをしたと思っている」
アランがそう言って項垂れてしまうものだから思わず笑ってしまうと、彼もまた困ったように肩を竦めて言った。
「とにかく、何が言いたいかっていうと、誰がどうしたら良いかなんて正解は誰にも分からねぇ。 だからこそ、人生は面白いんじゃねぇか?」
「! ……アラン」
私に向かって、彼は辺りを明るく照らしている太陽にも負けないくらい、眩しいばかりの笑みを浮かべた。
その様子を見て、口を開く。
「貴方、少しおじさんくさい」
「え!? やっぱり!?」
転生5回目じゃそうなるのか!? と本気で慌て出す彼を見て私は今度こそ声をあげて笑ってしまう。
そして一頻り笑った後、口にした。
「アラン、大好きよ!」
「わ!?」
彼の大きな身体に飛びつくようにして抱きつけは、彼は受け止めてくれてから抱きしめ返してくれて。
そして、どちらからともなく顔を寄せ合った、その時。
「ローズさ〜ん!!!」
「「!」」
遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえてきて、弾かれたように彼から距離を取り、振り返った私の胸元に飛び込んできたのは。
「!?」
それは、真っ赤な大輪のバラの花束だった。
驚き顔を上げた私の目の前で、その花束を持ってきた人物である彼女は、満面の笑みを浮かべて言葉を発した。
「次はローズさんが幸せになる番です!」
「!」
そんな彼女の……、アンジェラちゃんの言葉に、私はようやく何かから解放されたような、そんな感覚を覚える。
そして。
「ありがとう」
ようやく告げられたその言葉と笑みには、もう一点の曇りもなくなっていたのだった。
運命は、自分で決めるもの。
魔法は、自分の心の中にある。
だから、もう迷わない。
自分の、自分だけの物語を歩んでいこう。
最愛の人の手を取り、最高の人生を。
大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございません…!
気付けばもうすぐ年明け、日々に忙殺されており、何とか一段落した今日この頃です。
ようやく元魔女視点を描くことが出来た!と一人歓喜している作者、彼女の視点で語られるアンジェラでさえも知らない裏話と真実をお楽しみ頂けていたら幸いです。
次回でいよいよ!番外編最終回です〜!
アンジェラの本編より少し後のストーリー、出来上がり次第更新させて頂きたいと思います!
出来れば年内目標!つまり、今日明日中に更新したい…と思っております、もう少しだけお付き合い頂けたら幸いです。
よろしくお願いいたします。




