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大切な幼馴染*ベルンハルト視点

いいね、ブクマ登録、評価、ご感想とても嬉しいです。ありがとうございます。

『ベルン』


 そう“僕”の愛称を呼ぶ唯一の女の子は、ふわりと笑う。

 その笑顔はまるで可憐な薔薇のようだと、まだ幼かった“僕”は思い、自分が抱いていた淡い気持ちにも名前を付けられずにいた。





「ベルンハルト様」


 そう名を呼ばれ振り返れば、そこには先日私が告白をした彼女の姿があった。

 可憐で清楚、柔らかな微笑みを讃える姿は、そこにいるだけで場を和ませられる、そんな不思議な女性だ。


「エリナ嬢」


 その姿に笑みを返し、彼女の名を呼べば、エリナ嬢は淑女の礼をし、私の隣に来る。

 そして、静かに口を開いた。


「今夜も、綺麗な空ですね」

「そうだね」


 その言葉に空を見上げれば、無数の星が輝いていた。

 そして、その澄んだ夜空を見上げたことで、昔の遠い記憶が呼び起こされ、そんな光景に思いを馳せていると、エリナ嬢がこちらに顔を向けて言った。


「実は、こうして参りましたのも、この前の告白の返事をさせて頂きたかったからなのです」


 その言葉に、私はエリナ嬢へと視線を戻す。

 すると、彼女は頭を下げ口にした。


「ごめんなさい」


 その言葉は、予想していたものだったからか、あまり衝撃は受けなくて。

 私はすぐに口を開いた。


「顔を上げて」


 そう口にした私に対し、彼女はゆっくりと顔を上げる。

 そして、ギュッと自身の手を握り言った。


「あれから、きちんと考えたのです。 私はこれからどうしたいか。

 ベルンハルト殿下にゆっくり考えて良いと仰って頂いたことで、自分の気持ちに素直に向き合うことが出来たのです。

 ……そうしたら、私はやはり」

「知っていたよ」

「えっ……?」


 エリナ嬢が驚いたように目を丸くする。

 私は、微笑みを浮かべて言った。


「君の気持ちは、既に別の男性にあると。

 知っていた上で、私は君に告白したんだ。

 ……それで、君はきちんと自分の気持ちに向き合えたかな?」

「! ……っ、はい、お陰様で。

 殿下は、全てご存知だったのですね」

「そうだね、粗方予想はついていたかな。

 どうなるかは、流石に私にも予想は出来なかったけど」

「そう、だったんですね……、お恥ずかしい限りです」

「恥ずかしいことではないよ。 君達が幸せになって、私はホッとしているんだ。

 ……たまには、お節介も悪くはなかったかな?」


 そう悪戯っぽく笑ってみせれば、エリナ嬢は笑ってくれるかと思えば、急に黙り込んでしまう。


「エリナ嬢?」

「あの、本当に不躾な質問だとは思うのですが、その……、ベルンハルト殿下にも、()()()お慕いしている方が、お側ににいらっしゃるのではないですか?」

「……」


 そう口にしたエリナ嬢にも、どうやら私のことも見透かされているようで。

 ただ、この場で肯定も否定もすることを憚られた私は、夜空に目を映し言った。


「私は、二人が幸せになってくれれば、それで良いんだ」

「……!」


 そう呟くように紡いだ私の言葉は、ひんやりと頬を撫でていく夜風にさらわれる。

 それでも、きちんとエリナ嬢の耳には届いていたようで、彼女はもう一度頭を下げた。


「……本当に差し出がましいことを申してしまい、申し訳ございません」

「いや、良いんだ。 私は、君達も含めて、この国が幸せになることを願っている。

 だから、そんな君達を見守り、支えることの出来る存在でありたい。

 ……そう、願っているんだ」

「!! ベルンハルト殿下……」


 そう呟いたエリナ嬢を見つめている人影に気が付き、私は笑って言った。


「ありがとう、エリナ嬢。 君と話していると時間を忘れてしまいそうになるが、そろそろ君を返さなければ、君の騎士様のお怒りを買ってしまいそうだ」


 そう口にした私の視線の先にいた彼女の婚約者の姿に気が付き、彼女は夜空の下でも分かるほどに赤面すると、慌てたように言った。


「そ、そうですね! 

 ベルンハルト殿下、ありがとうございました。

 このご恩は、必ずお返し致します」

「そんな、とんでもない。 君達の幸せを祈っているよ」


 その言葉にエリナ嬢は目を丸くしたかと思うと……、「ありがとうございました」と淑女の礼をして去っていく。

 その姿が彼女の婚約者殿の元へ戻ったのを確認してから、一人バルコニーの手摺りに肘をつき、グラスを仰いだ。

 そうして、空になったグラスを見つめ、苦笑する。


「まさか、バレていたとはね。

 やはり、慣れないことはするものではないな」


 たまには“彼女”のように、お節介を焼いてみようと思ったのだ。

 身体を“呪い”が蝕んでいるという辛い状況でも、いつでも明るく、人のために奔走し、婚約者の溺愛にも気付かない、まるで一輪の大輪のバラのような、それでいて繊細な面も併せ持つ、幼馴染の彼女のことを。


「……私は、彼らのことが大切なんだ」


 私も間違いなく、“彼”と同じ想いを抱いていた。

 しかし、その想いに気が付いたのも、その想いの大きさも、彼女を幸せにするという確固たる自信も、全て“彼”の方が遥かに上回っていた。


(だから私は、この気持ちに見て見ぬ振りをし、蓋をした)


 今更、この気持ちを伝えるつもりはない。

 だけど、間違いなく私の心の中で、“彼女”が特別だということには変わりはなくて。


(でも、それと同時にそんな彼女の婚約者である“彼”のことも、幸せになってほしいと願うんだ)


 彼女の本当の願いを叶え、“呪い”を解くことが出来たのも、きっと“彼”にしか出来なかった。

 何せ“薔薇姫の呪い”なんていう名前がつき、それを彼らが解いたということは、そこに入る隙がどこにあるというんだ。


(彼らこそ、薔薇姫直々に認められた二人と言っても過言はないだろう)


 そもそも、元から二人の間に割って入ろうだなんて思う勇気があったら、とっくの昔に行動していた。

 それをしなかったのは、二人に幸せになって欲しかったし、どう見ても私に勝算の見込みはなかったから。


(互いに笑い合っている姿は、どこからどう見ても相思相愛だったし)


 私も、そんな二人を見ていて心から幸せになってほしいと思った。

 だから私は、決めたんだ。


(彼らがいつまでも、末永く幸せに暮らしていけるような、そんな国を、未来を作っていこうと)


 次期国王として、そして、彼らの幼馴染として。

 その名に恥じぬよう……、ベルンハルト・フィリエという名に誓って、この国を明るく照らし出せる王になることを。


「ベルンハルト!」

「!」


 不意に呼ばれた声に、弾かれたように顔を上げれば、そこには大好きな幼馴染達の姿があって。

 そんな私に対し、彼女はあの頃と何ら変わらない……、いや、大人になってずっと綺麗になった、そんな笑みを浮かべて口を開いた。


「クロードが探していたわよ、兄上がいないと人見知りが発揮されて落ち着かないって」

「半泣き状態に陥ったと、休憩室で絶賛待機中だ」

「そうか、それは大変だ。 何せ、いつもは引きこもりがちの弟にとって久しぶりの社交の場だからね、ここは兄の出番だね」

「ふふ、さすが頼りになるわね! 次期国王陛下であるお兄様は」


 そんな彼女の言葉に、私とその隣にいた彼女の騎士と目が合い、思わず笑ってしまう。


(……あぁ、幸せだな)


 こうして笑い合っていると、まるで昔に戻ったかのような、そんな錯覚に囚われて。


「……ベルンハルト?」


 そんな私の様子に気が付いた彼女が、首を傾げたのに対し、私はただ笑って「いや」と口を開いた。


「こんな時間が、いつまでも続いたら良いのになって」


 その言葉に、二人は顔を見合わせ……、そして、不思議そうに口を揃えて言った。


「続くも何も、私達はずっと“幼馴染”でしょう?」

「あぁ。 もうこの関係で十数年こうして一緒にいるんだ、今更変わることもないだろう?」

「……!!」


 そう当たり前のように口にする二人に対し、私は目を丸くすると……、あははと笑って言った。


「うん、そうだね、そうに違いない。

 やっぱり私は、二人のことが大好きだ!」

「「!?」」


 その言葉に、二人は目を丸くし絵に描いたように目を丸くする。

 そして、彼は恐る恐ると言ったように口を開き、その後に彼女も続く。


「ど、どうした、ベルン? 酔いでも回っているのか?」

「そ、そうね? いつものベルンは、こういうことを言わない、わよね?」

「まあ、そういうことにしておいてくれれば良いよ。

 言いたくなっただけだからさ、気にしないで」

「そ、そうか……?」


 そう言った今も、完全に動揺している二人を見て、私の心は幸福で満たされる。

 そして、そんな驚く二人の名を呼び、口にした。


「アンジェラ、ヴィクトル。 これからもよろしくね」


 二人はもう一度互いに顔を見合わせると、やがて私に向かって大きく頷き、私が心から守りたいと願う大好きな笑顔を浮かべてくれたのだった。




ベルンハルト視点、切なくも彼の優しさが伝わるように、という思いを込めましたがいかがでしたでしょうか?

アランの兄的男前とはまた違う、優しく見守る兄タイプで、出番は少なかったものの、コメント欄は彼に寄り添って下さる読者様もいらっしゃったので、そんな彼の魅力がお話を通して伝わっていたら嬉しいなと思います。

思ったより長くなりましたので、クロード視点は次回更新とさせて頂きます…!更新頑張ります!



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