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薔薇姫の騎士*??視点

お待たせいたしました!

番外編、開始いたします!

トップバッターは、あの騎士様からです♪

(アラン視点)


 ―――――

 ―――

 ―


「アラン様、好きです」


 そう告白してきたのは、“アラン()のことを好きなのではないか”と友人達が噂していた、容姿端麗な侯爵令嬢だった。

 目の前にいる彼女をよく見ると、その手は震えており、勇気を振り絞って想いを伝えてくれたのが分かる。

 そんな彼女に、俺も誠心誠意答えなければ。

 そう思い、口を開こうとして……、ふと、脳裏で声が響いた。


『アラン、浮気は駄目よ?』


「……っ」


 その声に、思わず開きかけた口を閉ざし、拳を握る。


(……まただ)


 いつもそうだ。

 女性の声を聞くと、()()の声と重なる。

 その声もまた女性で、その声を聞くと胸が締め付けられ、呼吸が苦しくなる。

 知らないはずなのに、どこか懐かしくて、温かい気持ちになる。 それと同時に、焦燥に駆られ、今すぐにその声の主を探し出さなければ……と、そんな衝動に囚われる。


「……アラン様?」

「!」


 再度呼ばれたことで、目の前にいるご令嬢に意識が戻る。

 そして、今度こそ告白の返事をしようと口を開いた。






「なあ、また告白を断ったんだって?」


 そう口を開いたのは、俺の同僚である近衛騎士の男だった。

 俺はため息交じりに口を開く。


「職務中だ」

「相変わらずつれないな、お前は。 俺は心配してるんだよ、お前があまりにも女性に興味がないんだから」


 余計なお世話だ、と思わず悪態をつきそうになるが、グッと我慢する。

 隣にいるこの男は、とにかく女性との噂が絶えない。

 きっとこいつのことだ、俺が告白を断ったというのも女性から聞いたんだろう。

 よくもまあそんなに多くの女性と付き合えるものだと呆れて物も言えないが、価値観は人それぞれなのだと割り切ることにしている。


(別に、女性に全く興味がないというわけではない)


 女性に対して、綺麗だとか可愛いだとか普通に思うのだから。

 ただ、どうしてもいざ女性と付き合おうとすると、歯止めがかかる。

 それは違う、それは駄目だと誰かに言われるように、そして、自分自身が罪悪感に苛まれるのだ。

 ……その理由は、何となく分かっている。


(あの声が……、俺の脳裏にこびりついて離れないから)


『アラン』


 夢の中や、ふとした瞬間。

 そう俺の名を呼ぶ柔らかな声は、知っているようで知らないような。

 懐かしさを覚えて、思わず泣きそうになるのに、胸が苦しくなるのに、まるでそこだけ霞がかかってしまったように思い出すことは出来なくて。

 ただ、顔も名前も知らないその声だけを頼りに、俺はずっと……、ずっと、その声の主を探している。


(君は、誰なんだ)


 そして、そんな顔も名前すら知らない彼女に、どうしようもないほど、今もなお恋焦がれ続けているんだ。



 ―

 ―――

 ―――――



「アンジェラを助けるために、どうか力を貸してほしい」


 いつもは無口で感情表現が苦手な幼馴染のヴィクトルが、顔を歪めてそう告げると、頭を下げた。

 その様子が尋常でないことに気が付き、この場に集まった幼馴染達の間には、一瞬にして緊張が走る。

 そんなヴィクトルに向かって声を上げたのは、俺の主人であるこの国の第一王子、ベルンハルトだった。

 そんな彼が先の言葉を促したことで、ヴィクトルが言葉を選ぶように口を開く。


「……8歳の時、アンジェラが星祭りで出会った人物からある紙を渡されて、それを彼女が実行した」

「紙?」


 思わず首を傾げてしまう俺に対し、ヴィクトルは頷き言葉を続けた。


「その紙には、魔法陣と俺達二人の名前が描かれていた。

 何でも、それはかつて薔薇姫と騎士がずっと一緒にいられるようにと交わした、“おまじない”だと、当時幼かった彼女は言っていた」

「っ、おまじない……?」


 俺は、ハッと目を見開いた。

 思わず呟いたその言葉はヴィクトルの耳には届かなかったらしく、ヴィクトルは続けて言った。


「そのおまじないの名は、“薔薇姫のおまじない”」

「……!!」


 その名前を聞いた瞬間、脳裏にまた“あの声”が蘇る。


『見て! “薔薇姫のおまじない”! 

 これで貴方と私は、ずーっと一緒にいられるわ!』


「……っ」


 ハッと口元を押さえる。

 今度は声だけではなく、彼女の容姿がぼんやりと映し出された。

 目鼻立ちは分からないが、まだあどけない雰囲気を纏い、嬉しそうに言葉を紡ぐ少女の姿が。

 そして……、風に吹かれさらりと揺れる柔らかな髪は、亜麻色で……。



「アラン?」


 そこまで声の主である彼女の姿が導き出されたところで、ハッと現実に引き戻される。

 俺の名を呼んだのはベルンハルトらしく、クロードとヴィクトルは話を続けていた。

 俺は頭を横に振り、「大丈夫だ」と答えると、ベルンハルトは二人の方に視線を戻した。

 そんな三人の様子を見て、俺は首を横に振る。


(今はアンジェラを助けることに集中しないと……)


 彼女は俺の幼馴染であり、同時に幼馴染の大切な婚約者でもある。

 そんな彼女をまずは助けなければ。


(声の主を探すのはその後でも遅くはない。

 それに……)


 もしかしたら……、いや、もしかしなくても、アンジェラに“薔薇姫のおまじない”を渡した人物は……―――






「アンジェラ」

「! アラン」


 何の前触れもなく、突然俺が訪問してきたことに驚いた彼女は、目を丸くして言った。


「アランが一人で邸まで訪ねてくるなんて、驚いたわ」

「あぁ、アンジェラにこれを渡したくて」


 そう言って花束を差し出せば、彼女はそれを受け取り、嬉しそうに笑って「ありがとう」と口にする。

 そんな幼馴染の元気そうな姿にホッとし、笑みを浮かべて言った。


「改めて、“呪い”が解けて良かったな」

「えぇ。 ヴィクトルやあなた方のお陰だわ。

 今ではこの通り! すっかり元気よ」


 そう言って、彼女はその場でくるりと一周回って笑ってみせる。

 そんな無邪気に笑う彼女の姿に、また亜麻色の髪の女性の姿が重なって……、いよいよもって重症だと自分自身に苦笑いしてしまうと、アンジェラは花束をじっと見つめた後、俺を見て口を開く。


「それで、本題は?」

「!」

「何か私に聞きたいことがあるんじゃなくて?」

「……ははっ、さすがだな」


 アンジェラは恋愛事に関しては疎く、ヴィクトルが必死になって鈍感な彼女に振り向いてもらおうとする様は見ていて微笑ましいくらいなのに、こういうところの勘が鋭いところが、彼女の侮れないところだ。

 そう結論付け、俺は息を吸うと……、彼女に向かって尋ねた。


「“薔薇姫のおまじない”。 あれを君に渡した人物の名前を、教えて欲しいんだ」

「! ……魔女さんのこと?」

「あぁ」


 そんな俺の問いに対し、彼女は狼狽え、困惑したような表情をする。

 その表情からするに、どうして俺が魔女の名前を知りたがっているのか分からないと考えていることが伝わってきて。

 俺はぐっと拳を握ると、彼女の瞳をじっと見つめ、懇願するように口を開いた。


「教えて欲しい。 その人の名前を。

 どうしても、知りたくて……、知らなければ、いけないんだ」


 そんな俺の必死な様子に、彼女はハッと息を呑んだようだったが、やがて短く息を吐くと、小さく口を開いた。


「……その魔女さんの名前は、ローズさんよ」

「…………!!!」


『ローズ』


 その名前を聞いた瞬間、やっと俺の名を呼ぶ声の主の姿が鮮明に思い出された。

 髪と同色の、亜麻色の瞳。

 怒ったり、笑ったり、泣いたり……、どんな時だって俺の近くにいた、かつて国を納めていた王家の姫であり、そして……、一生の忠誠を誓った、俺の唯一の愛しい人。


(何故俺は、今までこんな大事なことを忘れていたんだ……っ)


「……アラン?」


 アンジェラが、俺の名を呼ぶ。


「……会いたい」

「え?」


 俺の声を聞き取れなかったアンジェラに対し、俺はみっともないほど縋るように訴える。


「教えてくれ……っ! 彼女は今、どこにいる!?

彼女に会いたいんだっ!」

「……!」


 アンジェラが、そんな必死な俺の様子に驚いている。

 それでも、これだけは譲れなかった。


(今度こそ、彼女が近くにいる……っ!)


 俺の頭の中は、もう一生彼女を手放したくないと、叫んでいた。


 そして……―――





「……アラン」

「……ん」

「ねえ、アランってば!」


 怒ったように、俺の腕の中にいる彼女が抗議の声を上げる。

 そんな彼女を見やれば、そこには真っ赤な顔をして頬を膨らませる彼女……、ローズの姿があって。


「いつまで、こ、この体制でいるつもりっ!?」


 恥ずかしさからか、声を詰まらせながら慌てる彼女の瞼に口付けを落とせば、更に顔を赤くさせる彼女に向かって、俺は尋ねる。


「……嫌か?」

「〜〜〜!?」


 抱きしめたままそう尋ね返せば、彼女は黙ってしまう。

 そんな彼女の赤く染まった耳元に顔を近付け、俺は言葉を続ける。


「やっと……、やっと、巡り会えたんだ。

 もう少し、君がここにいるんだってことを、確かめさせてくれ」


 彼女を探し続けること、転生5回目。

 500年という長い長い年月は、本当に長かった。 

 そうして出会えた彼女を、もう手放すことなんてとても考えられないし、考えたくもない。

 そんな俺の言葉に、彼女は容赦なく傷口を抉る。


「……私の手を離したのは貴方の方なのに?」

「うっ」


 それは、当時薔薇姫と呼ばれた彼女との約束を破った、哀れな騎士()のことを指しているのだろう。

 俺は申し訳なさに謝ろうと口を開きかけたが、それを制するように唇に彼女の人差し指が触れた。

 それに驚き目を見開くと、彼女は目を逸らして口にした。


「なんて、それはお互い様よね」

「!」

「ま、私だってもう離さないけれど」

「!!」


 そう言って、ギュッと俺に抱きついてきた彼女に、一気に鼓動が速さを増す。

 そして……。


「……限界」

「え? ……ん!?!?」


 彼女の可愛さに耐えきれず、その唇を勢いのまま塞いでしまう。

 慌てたように彼女が俺の胸を叩いたことで、惜しむようにゆっくり唇を離せば、彼女は荒く息を吐きながら涙目でキッと俺を睨んだ。

 そんな彼女に対し、肩を竦めながら俺は愛おしい気持ちを微笑みに込め、言葉を紡いだ。


「ローズ、愛している」

「……っ」


 そう口にすれば、顔を真っ赤にして黙り込んでしまう彼女のそんな姿も、狂おしいくらいに愛おしい。

 そんな彼女の姿を目に焼き付けたくて、じっと見つめてしまっていれば、彼女は俺が返答を待っていると勘違いしたのだろう、意を決したように口を開いた。


「……わ、私だって、愛しているわ」

「っ、ローズ!!!」

「きゃ!?!?」


 今度こそ、勢い余って彼女と二人ベッドに倒れ込んでしまう。


「「!?」」


 ハッとして慌てて二人で顔を見合わせてしまったが……、どちらからともなく笑いが込み上げてきて、そのまま笑い合って唇を重ねたのだった。

アラン視点、いかがでしたでしょうか?

番外編のトップバッターを務めて頂いたのは、作者が書きたかったからです…(笑)

次回、ヴィクトル視点をお送りいたしますので、楽しみにお待ち頂けたら嬉しいです♪

更新は不定期、マイペースとなってしまいますが、もう少しきみバラの世界にお付き合い頂けたら幸いです!どうぞよろしくお願いいたします!

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