それぞれの『真実の愛END』
(アンジェラ視点)
「アンジェラ」
大好きな声に名を呼ばれ顔を上げれば、私を見つめる空色の瞳と目があって。
そんな彼は、私に向かって手を差し伸べると、微笑み口を開いた。
「では、お手を」
畏まった口調は、まるで『薔薇姫物語』中に出てきた騎士のようで。
私はその手にそっと自分の手を重ねる。
そうすることで、自分が薔薇姫になったかのような、そんな夢心地な気分になるが、これが夢ではないのだと触れている体温から感じながら頷き答える。
「はい」
そう返事をすると、彼はさらに笑みを深めて……、ゆっくりと、私の手を引き青空の下に広がる庭園へと歩き出す。
温かな春の日差しが照らし、身内を含め、お世話になった方々や沢山のバラに見守られ、私達は婚約式を迎えた。
ちなみに婚約式は、“きみバラ”では描かれていなかったこともあり、未知でドキドキしてしまっていたが、その婚約式もまた『薔薇姫物語』に則った行事だった。
その特徴はといえば、式が終わるまでヴィクトルは騎士を、私は薔薇姫を演じる。
だから先程も、ヴィクトルは畏まって話していたのだ。
こだわりは他にもあって、私が着ているくるぶし丈のドレスは、彼の瞳と同じ空色の地に胸元には淡い黄色のバラを、そして、彼は白と空色の地の騎士服に、胸元のブローチは私の瞳と同じ緑をあしらっている。
まさに、『薔薇姫物語』を忠実に再現しているようなこの式を、私はずっと心待ちにしていた。
そして……。
私とヴィクトルは、備え付けられた講壇の前に立ち、互いに向き合う。
そして、彼は跪き、口を開いた。
「私は姫、貴女を愛している」
「……!!」
彼の口から紡がれた言葉は、予定にはなかった言葉で。
私は思わず驚き、固まってしまう。
そんな私に向かって、彼は言葉を続けた。
「私の心は、永遠に貴女だけのもの。
私は貴女に、永遠の忠誠を誓う」
「……っ」
その言葉で、彼は物語と同じように……、薔薇姫に騎士が捧げた、永遠の忠誠を彼なりの言葉で伝えてくれようとしているのが分かった。
思わず涙が込み上げてしまう私に、彼は微笑みを浮かべると、バラを差し出して口を開いた。
「『私だけの姫。 どうかこのバラを受け取り、私と結婚して頂けますか』」
その言葉に、私は……。
「なんて貴方は、ずるいひと」
「!」
私は驚かせた罰だと言わんばかりに、彼と目線を合わせるためにしゃがむと……、今の想いを口にした。
「永遠の忠誠は、確かに嬉しい。
けれど、私は貴方と共に生きたい。
だから、一緒にいることを望んでくれるのなら、ずっと側にいてほしいの」
「アンジェラ……」
彼が設定を忘れ、皆の前で私の名前を呟く。
私は笑みを浮かべると、彼の持つバラに両手を伸ばし……、笑みを浮かべて言った。
「私を、世界一のお嫁さんにしてね」
「……!」
(私の気持ち、伝わったかしら?)
そんな私達の誓いの言葉に、会場内がわっと歓声に包まれたのだった。
「全く、君達らしいよね」
そう呆れたように口にしたのはクロードで。
私は思わず苦笑いを浮かべると、クロードは言葉を続けた。
「バカップルって言うらしいよ、そういうの。
婚約式くらい形式に則りなよ!」
「そういうのは嫉妬って言うんだぞ、クロード」
ヴィクトルの言葉に、クロードは顔を真っ赤にして怒り出す。
その様子を見て、ベルンが止めることなく苦笑いして言った。
「ごめんね。 あぁ見えて、しっかり君達のことを応援しているんだよ」
「えぇ、知っているわ。 それに、私自身もやりすぎたと思っているしね……」
反省だわ、と肩を竦めた私に対し、今日も尊可愛いエリナ様がぶんぶんと首を横に振り言う。
「そんなことありません! とっても素敵でした! ルイも、素敵だから是非参考にさせてもらおうって言って」
「そ、そんなこと言ってないだろう? エリナ」
「え?」
こちらもエリナ様に暴露されたルイが、顔を赤くして慌てたように訂正する様子を見て、思わずクスクスと笑ってしまっていると。
「アンジェラちゃん」
「……! ローズさっ……、え?」
名を呼ばれ振り返った私は、驚きのあまり思わず静止してしまう。
ローズさんの隣、そこにいた人物に驚いている私に対し、その人は私達に向けて口を開いた。
「おめでとう、アンジェラ、それからヴィクトル」
「あぁ、ありがとう」
言葉が出てこない私をよそに、ヴィクトルがそう礼を述べたのに対し、私は目を瞠ってしまう。
そして、思わず尋ねてしまった。
「ア、アラン、いつの間に?」
ローズさんと共に親しげに寄り添い現れたのは、私の幼馴染であるアランで。
その言葉に、二人は顔を見合わせ……、ふわりと幸せそうに笑う。
その姿に、私は再度目を見開いた。
それは脳裏に、ある光景……『薔薇姫物語』中の最後の場面と重なったからだ。
「っ、やっぱり……」
導き出された答えに、思わず口元を押さえ、その手が震える。
思い出されたのは、ゲームのアランルート。
(だから、ヴィクトルだけでなく彼のルートにも、“星祭り”のシークレットエピソードや恋愛エンドがなかったのだとしたら……)
そんな私の様子を見て、ローズさんは私の目の前まで歩み寄ってくると、口を開いた。
「おめでとう、アンジェラちゃん。
……もう私には魔法は使えないけれど、祝福させてね」
「っ!」
そう言って、彼女はふわりと私を抱きしめる。
そして、私にだけ聞こえるくらい小さな声で口にした。
「今度こそ、お互い幸せになりましょうね」
「……っ、はい!」
堪えていた涙が零れ落ちる。
それを見たヴィクトルが、慌てて飛んできて私の目元をそっと拭って言った。
「ど、どうしたんだ! また何か言われたか!?」
「っ、何でもないの。 ただ、幸せだなぁって」
「!」
その言葉に、ヴィクトルが目を見開く。
その空色の瞳を見つめ、笑みを浮かべて思う。
(半年前、悪役令嬢として転生してきた私が、こんなに素敵な景色を見られることになるだなんて、誰が想像しただろう)
“きみバラ”の世界に転生した私が与えられた役割は、余命半年の呪われ悪役令嬢。
幸せになれるはずがない、そう思い、その代わりに願ったのは、最推しであるヴィクトル様の幸せ。
最初は大好きな乙女ゲームの世界に転生出来たことが嬉しくて、推し活が出来るだけで十分幸せだと思っていたけれど、過ごすうちに、ヴィクトルも含めて、家族も、仲間もよりかけがえのない存在になっていった。
そしてヴィクトルこそが、私の見失っていた“本当の願い”……、永遠の幸せを見つけて出してくれた。
だから、今度は。
「ヴィクトル」
そう名を呼べば、大好きな彼の瞳が優しげに細められ、言葉を紡ぐ。
「何だ?」
その言葉に、私は今の想いを、気持ちを全て笑顔に込めて口を開いた。
「私、貴方のことが大好き! この気持ちは、例え何度生まれ変わってもずーっと変わらない!
だから、覚悟していてね?」
「!」
その言葉に、彼は驚き目を見開いていたけれど……。
「っ、わ!?」
刹那、強く腕を引かれ、その腕の中に閉じ込められる。
そして。
「望むところだ。 そして、俺の方がもっと大好きだ」
「…………はぎゃ!?!?」
その破壊力に、前世私が悲鳴を上げる。
そんな私の様子に、彼は耐えきれないと言うように、ふはっと心から幸せそうに笑ったのだった。
そんな彼を見て、私は誓った。
これからも最推しの笑顔を守り続けると。
そして……。
(一生推す!!!)
と―――――
Fin
これにて『余命半年の呪われ悪役令嬢〜』完結です!いかがでしたでしょうか?
連載約1ヶ月半、毎日更新がギリギリの状態の私を見守って下さった読者様には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
小説を通して皆様に元気を届けられたら、と思っている作者ですが、そんな皆様の応援にいつもこちらが元気を頂いていました。
本当にありがとうございます…!
まだまだ執筆したい気持ちでいっぱいなのですが、少しお休みを頂き、番外編は頭の中で整理をしてからと思い、完結表示とさせて頂きました。そのため、準備が出来次第番外編の更新をさせて頂こうと思っておりますので、是非もう少しお付き合い頂けたら本当に嬉しく思います。現段階で、二人のその後、ヴィクトル視点、騎士視点を予定しております。
また、作者の初書籍『その政略結婚、謹んでお受け致します〜』は、第一巻が発売中、コミカライズも予定しておりますので、是非そちらもお手隙の際にお読み頂けたら嬉しいです。
長くなってしまいましたが、最後にここまでお読み頂いた皆様、ブクマ登録、評価、ご感想、いいねを付けて下さった皆様、本当にありがとうございました!
そして、引き続きお付き合い&お待ち頂けたら幸いです…!
2022.9.14.




