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心強い仲間と共に*ヴィクトル視点

(ヴィクトル視点)


 俺の声を聞きつけた彼女の侍女が、ルブラン侯に知らせたことで、すぐにルブラン侯が駆けつけたが、俺の目には全てがモノクロに映って何が起こっているのか分からなかった。

 それよりも生気のない、まるで人形のように眠っているアンジェラから目が離せなくて。


「ヴィクトル様、お医者様がいらっしゃいましたので、お隣の部屋へ移動しましょう」


 そう侍女に移動を促されるものの、足はその場から動かない。

 そんな俺を見かねて、ルブラン侯が俺の肩を叩き言った。


「ヴィクトル君、とりあえず部屋を移動しよう。

 アンジェラなら大丈夫。 アンジェラは身体が丈夫だから、直に目を覚ますだろう」

「!」


 その言葉に顔を上げれば、ルブラン侯は微笑みを浮かべていた。

 その目元にははっきりと隈が出来ているのが分かり、俺は思わず息を呑む。


(そうだ、アンジェラを心配している思いは、ルブラン侯だって同じだ……)


 俺はぐっと拳を握り、小さく口にする。


「……すみません」

「君が謝ることじゃない。 さあ、部屋を移動しよう」


(違う、これは正真正銘俺のせいなんだ……っ)


 今の俺の口からでは上手く“呪い”について説明出来ないもどかしさに、ルブラン侯に連れられてアンジェラの部屋を後にしたのだった。





 ルブラン侯は俺を部屋まで送ってくれると、医者のいるアンジェラの部屋へ戻って行った。

 わざわざルブラン侯自らに送ってもらったことを申し訳なく思いながら、一人残された部屋で自分の無力さを思い知る。


(っ、こんな時に俺は、何もすることが出来ないなんて……っ)


 その間にも、ドタバタと廊下を走り回る侍従達の足音らしき音が響く。


 しばらくして、部屋の中にアンジェラのことを知らされて駆け付けた、幼馴染に加え、エリナ嬢、ルイも現れた。

 誰もが沈痛な面持ちの中、口火を切ったのはクロードだった。


「……どうして、アンジェラがまだ苦しい思いをしているの?」


 そう口にし、ふらりと俺の元へやってきたと思うと……。


「っ!」

「クロードッ!!」


 俯いていた俺の襟首を強く掴み、持ち上げる。

 クロードは、ベルンハルトの制する声を無視し、鬼のような形相で言った。


「言ったよね!? アンジェラを悲しませたら承知しないって!!」

「クロード!」

「どうして眠りについているの!? まだ時間じゃないでしょう!? 

 それ以前に、君は何故“呪い”を解かずにこんなところで何もせずにいるわけ!?

 君のアンジェラに対する想いはそんなものなのかっ!?」

「クロード!!!」


 ベルンハルトの強い制止の声と共に、クロードがアランによって羽交い締めにされる。

 俺は乱れた襟元を正すこともなく、項垂れていると、ベルンハルトがそんな俺の元に近寄ってきて言った。


「ヴィクトル。 君がアンジェラのことを誰よりも愛しているのは、クロードだって、ここにいる全員が分かっている。 責めるつもりはない。 

 だけど、アンジェラの婚約者である君には、まだやるべきことが残っているだろう?」

「……!」


 その言葉にハッとし、顔を上げる。

 ベルンハルトは俺の目を真っ直ぐと見つめ言った。


「君のことだからきっと、アンジェラを助け出す方法はもう分かっているんだろう?

 ……私達には多分、出来ることが限られてしまうかもしれないけど、精一杯サポートさせてほしい。

 クロードだって同じだ。 君とアンジェラのことが大切だから、強い口調になってしまうんだ。 許して欲しい」

「……っ」


 アランから解放されたクロードが、ギュッと拳を握り俯く。

 その姿を見て、もう一度ベルンハルトに向き直ると、俺は口を開いた。


「……あぁ。 分かっている。 ありがとう。

 お陰で目が覚めた」

「そう? それなら良かった」


 ベルンハルトの口調がいつもの調子に戻ったところで、後ろにいたエリナ嬢とルイも口を開いた。


「私達にも手伝わせて下さい! 

 ……アンジェラ様が“呪い”で苦しめられていたことを今まで知らず、アンジェラ様に沢山助けて頂きました。

 だから私も、恩返しがしたいのです!

 そして、アンジェラ様に元気になって欲しいんです!」

「俺も手伝います。 ……アンジェラ嬢に、まだ何一つ返せていないので」

「! 皆……」


(そうだ、俺がここで挫けていても何も変わらない。

 アンジェラが誕生日を迎えるまで後5日ある。

 解くことが婚約者である俺にしか出来ないのなら、彼女の“呪い”を一刻も早く解かなければ)


 俺は頷くと、口を開いた。


「分かった。 皆、手を貸して欲しい。

 アンジェラを、救うために」

「「「あぁ/はい!」」」


(今、俺に出来ること。 それは……)







「……心配をかけてすまないね」


 ルブラン侯はそう力無く口にする。

 その様子から、アンジェラが“呪い”のせいで眠っているということを知らないことが見てとれる。

 俺はぐっと拳を握ると、口を開いた。


「お願いがあります」

「……何だい?」


 ルブラン侯が戸惑ったように俺を見る。

 俺は息を吸うと、目を離さずに言葉を発した。


「俺を、アンジェラの側にいさせて下さいませんか」


 その言葉に、ルブラン侯は大きく目を見開き、戸惑っていた。

 ルブラン侯が驚くのも無理はない。

 通常ならば、いくら婚約者といえど未婚の男女が一つ屋根の下で泊まるなんてことはあり得ない。

 しかし、今回はアンジェラの身に危険が迫っていることもあり、緊急を要するためこのような願いを申し出た。


(残された時間は後僅か。 彼女の近くにいた方が、“呪い”を解くことが出来るかもしれない)


 そう考えたのだ。

 ルブラン侯はそんな俺の願いに対し、慌てたように言った。


「ヴィクトル君、アンジェラのことを心配してくれているのは分かるが、君は忙しいし、多分ここにいても君に出来ることは」

「いえ。 ……俺にしか、彼女を救えないんです」

「!!」


 その言葉に、ルブラン侯がハッと息を呑む。

 そして、震える声で尋ねた。


「君はもしかして、アンジェラの身に何が起きているのかを知っているのか?」


 俺は、その言葉にゆっくりと頷く。

 ルブラン侯は驚いたように立ち上がり口を開きかけたが……、その言葉を飲み、椅子に座り直して言った。


「賢い君のことだ、私に言えない事情があるのだろう。

 ちなみに、そのことをベルンハルト殿下やクロード殿下は知っているのかい?」

「はい」

「……なるほど」


 ルブラン侯はそう言って顎に手を当てると、やがてゆっくりと頷いて言った。


「分かった。 君をここに受け入れよう。

 アンジェラのことも、君がここにいることも緘口令を敷くから、君は今からこの場に残って欲しい」

「っ、ありがとうございます……!」


 俺が頭を下げれば、ルブラン侯は立ち上がり、俺の両肩を掴んで言った。


「こちらこそ、アンジェラのことを宜しく頼む。

 ……アンジェラは、私とリアーヌの大切な娘だから、救ってやってほしい。

 私にも、出来ることがあれば何でも言ってくれ」

「!」


 その言葉に、俺は気を引き締め、力強く頷いてみせる。

 その心にはもう、一片の迷いもなく、アンジェラを必ず助けるという強い信念だけが胸に残っていたのだった。



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