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本物の魔女*後半ヴィクトル視点

「本当に、混んでいるわね……」


 城下へ辿り着いた私達は、魔女さんに会った路地裏目掛けて歩みを進めているのだけど、行き交う人々の多さになかなか前に進まない。

 ヴィクトル様はギュッと手を繋ぎ直して言う。


「そうだな。 今日は特別な日ではないはずなのだが……、出直すか?」

「いや、ここまで来たんだもの、何か手掛かりがあるかもしれないから行きましょう?」


 私の言葉に、ヴィクトル様は「分かった」と頷き、繋いだ手に力を込めて言った。


「はぐれないよう、しっかりと手を繋いでおこう。

 もし最悪、はぐれてしまった場合は、馬車を降りた所で待ち合わせしよう」

「分かったわ」


 私が頷いたのを見て、彼はなるべく人の少ない所を選びながら歩いてくれる。

 他にも、私が人とぶつからないように先導してくれたり、決して離さないよう、少し痛いくらいに繋いでくれたその手に、私の心は高鳴る。


(っ、本当最推しがイケメンすぎて尊い……っ!!

 こんなイケメンが私の彼氏で本当に良いのか!?

 前世では彼氏いない歴=年齢、周りからはいつ結婚するんだと永遠言われ続けた前世の“私”に教えてあげたい……っ!)


 貴女の初カレは、最推し(ヴィクトル)様ですよーーー!!


 そう前世の“私”に向かって心の中で叫んでいると、ワッと歓声が上がり、拍手している人々の姿が映る。


(? 何だろう?)


 人集りでよく見えないけれど、何があるのか気になって耳をそば立てる私に、拍手していた人々の会話が聞こえてきた。


「いやー、素敵だねえ!」

「何十年経ってもときめくわぁ! やっぱりプロポーズはこうでなくっちゃね!」


(プロポーズ……!)


 私がそちらに目を向ければ、人集りの隙間から、真っ赤なバラを持ち、涙を浮かべながら微笑んでいる女性と、寄り添う男性の姿が見えて。

 どうやら、街に住んでいる人のようで、男性側から女性側にプロポーズしたようだ。


(っ、素敵ね……!)


 やっぱり“きみバラ”の世界は、『いとしい君へ、このバラを』の題名通り、プロポーズも『薔薇姫物語』から影響を受けているのね!


(この世界に来て、初めてバラを贈るプロポーズシーンを見られたわ!

 やっぱり世界観も最高よね!!)


 良いわ、良いわぁ! と夢中になってその光景を見つめていたら、ドンッと誰かにぶつかってしまう。


「きゃっ……」


 思わずバランスを崩しかけたところで、ヴィクトル様の力強い腕が支えてくれた。


「あ、ありがとう、ヴィクトル。 ごめんなさい、余所見をしてしまって」

「いや、大丈夫だ。 ……人も多いし、俺も一緒にいるから、そろそろ路地に入ってみるか」

「! えぇ」


 ヴィクトル様の言葉に気が引き締まる。


(聖地巡礼に現を抜かしている場合じゃない。 今は魔女さんを探さないと)


 私はヴィクトル様に手を引かれ、路地裏を歩き出す。


 想像していたよりも暗くなく、ヴィクトル様もいるため心細さを感じない。


(星祭りの時はいつも薄暗かったし、一人で迷子という状況だったから、より一層暗く見えたんだわ)


 でも今はまだ夕刻で日が出ているため、路地裏を歩く人も時折見かけるくらいで。


(……逆に、これだけ人がいたり明るかったりすると、魔女さんに会えなさそう)


 私はヴィクトル様に向かって声をかけた。


「ヴィクトル様、魔女さんはいらっしゃらなそうね?」

「っ、あ、あぁ」

「?」


 急に話しかけてしまったからなのか、歯切れの悪い返答をするヴィクトル様に向かって首を傾げたけれど、何だか真剣な表情をしていたから黙って見守る。


(何だろう、怖い顔をして……)


 私が“呪い”をかけられたことに対して、魔女さんに怒っているのかしら……?

 でも、先程まではそんな表情をしていなかった気がするけど……。

 いつもとは違う様子のヴィクトル様に何も聞けないまま、路地裏を歩き続けてみたが、結局魔女さんには会えずじまいで終わったのだった。





(ヴィクトル視点)


 結局、俺達が探していた魔女は、姿を現さなかった。

 そのまま家路に着いた俺達は、馬車に乗り込むと、さすがに疲れたのだろうアンジェラは、スースーと寝息を立てて眠ってしまった。


(……少し、無理をさせてしまった)


 最近は外に出ていないと言っていた中で、人混みの少ない城下を歩かせてしまったことを反省しつつ、彼女の髪をさらりと撫で、俺の肩に寄りかからせる。


「お疲れ様、アンジェラ。 ……今度は、俺の番だな」


 そう呟き、先程の出来事を思い出す―――


 二人で歩く路地裏は、想像よりも明るかったが、二度も彼女を迷子にさせてしまった経験から、何処かへまた行ってしまうのではないかという気がして、何度も隣を歩く彼女の姿を確認してしまう。

 いつの間にか魔女探しより、迷子にさせてしまった時のことを思い出し、不安な気持ちに駆られていると。


『大切な彼女を救いたいと願っている騎士(ナイト)さん』

「……!?」


 まるで頭の中に響くように聞こえてきたその声に、思わず立ち止まり振り返る。

 そんな俺の様子を不思議に思ったアンジェラが、「ヴィクトル?」と俺の名を呼ぶ。

 そして、声をかけてきた人物……若い女性の声が語りかけてくる。


『私の声は貴方にしか聞こえていないわ。

 もし、彼女を助けたいのなら、彼女には言わずに聞いて』

「ヴィクトル? 疲れた?」


 女性の言う通り、アンジェラにはその声が聞こえていないらしく、突然立ち止まった俺に向かって首を傾げる。

 俺はなるべく平常心を装い、「大丈夫だ、行こう」と口にし、アンジェラの手を引いて歩き出すが、内心はバクバクと鼓動が速さを増していた。


(っ、これが魔女の力だというのか!?)


 そんな俺の心情が伝わったのだろう魔女(?)は、笑って口にする。


『そう、私が貴方のお探しの魔女よ。

 彼女に“おまじない”を渡したのも、この私』

『っ、何が望みだ!』


 言葉に出さなくても話が通じていると分かった俺は、魔女の言う通り声に出さずにそう尋ねる。

 そんな俺の言葉に、魔女は言った。


『それが知りたければ、私の元へ来て。 場所は後で教えるわ』

『何!?』

『ただし、一人で来なさい。 アンジェラちゃんや他のお友達には言わずにね。

 もし言ったら、私には会えないと思って』

『な……っ!』


 どういうことだ、と口にしても、もう魔女は俺の呼びかけには答えてはくれなかったのだった―――




 そんなことがあった翌日、早めに仕事を切り上げて俺はある場所へ向かっていた。

 それはもちろん、魔女の指定した場所である。


(……本当に、こんなところにいるのか……?)


 昨夜、ベッド脇のサイドテーブルに置かれていた、“おまじない”の紙と同じ大きさくらいのメモ。

 そこには、魔女の居場所と思われる手書きの地図が描かれていたのだ。

 一人で来いと言われたため、誰にも言わずメモを持って邸を出た俺は、迷うことなくその場所へ向かおうとしたのだが。


「魔女が示した場所が、まさか立ち入り禁止の森とはな……」


 一面が木々で覆われ、昼間でも薄暗いその場所は、一度入ったら出られないとまで言われている、今では王家が立ち入り禁止区域に指定している場所だった。

 明るい太陽が照らす森の入り口でも、一歩踏み出せば闇に染まる。

 俺は思わずゴクリと唾を飲んだ。


(怖いわけではない。 だが、ここは王家が立ち入り禁止にしている場所だ。

 ……本当に、こんな場所に魔女がいるのだろうか?)


 逆に、こういう場所だからこそ、魔女が住んでいるというのか……?


「おっそいわよ、騎士(ナイト)さん」

「!?!?」


 背後から突然話しかけられ、驚き飛び退く俺を見て、深々とマントを被った女性はケラケラと笑う。


「そんなに驚かれるとは思わなかったわ!

 本当、貴方ってば真面目なのね。 王家が禁止しているからって入るのを躊躇うなんて!」

「……」


 アンジェラの言う通り、魔女は俺達とさほど歳は変わらないように見える。

 マントから出ている亜麻色の髪に、同色の瞳。

 マントを被らなければ、普通の少女のようにも見えるが……。


「あら、私は魔女よ? 貴方が何を考えているのかも、全てお見通しだからね?」

「……なるほど、確かに君は魔女なのか」

「貴方に“君”って呼ばれるほど若くはないんだけど……、そうね、まあ良いわ。

 ここで立ち話もなんだし、私の家へ移動しましょう」


 そう言って迷いなく指差したのは、鬱蒼とした森の中……地図に示した場所のようで。

 思わず黙ってしまう俺に対し、彼女は手をヒラヒラと振って言う。


「そんなに驚かなくても、取って食いはしないわよ。

 そうね、明るいのをお望みなら、こうすれば良いのかしら?」

「っ!?」


 そう魔女が口にした瞬間、彼女の手の平から淡い金色の光が放たれる。

 それは、森目掛けて一直線に飛んでいくと、木々の間を貫いた。

 刹那、木がザワザワと揺れ、二手に分かれてまるで道を作るかのように木が退いて……。


 魔女の本物の力を目にし、固まっている俺に向かって、魔女はにっこりと笑うと言った。


「さあ、行きましょうか? 騎士(ナイト)さん」


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