解呪条件会議②
「まずこの紙に書いてあることから、両想いを前提とした解呪条件があるというのは確かなんだが……、その条件を考えるよりも、君にその“おまじない”を渡した人物を探した方が早いという結論に至った」
そう口にしたヴィクトル様の言葉に黙って居住まいを正せば、彼は言葉を続ける。
「今年の星祭りでアンジェラが会ったという人物は、“魔女”で間違いはないか?」
「っ、どうして」
分かったの? と尋ねようとして、唇にヴィクトル様の人差し指が触れる。
それに対してハッと息を呑む。
(さ、最推しの指がっ……、って違ーう!
そうだ、“呪い”のためにも反応しないようにって言われたんだった)
慌てて口を噤む私に、ヴィクトル様はそっと指を離すと口を開いた。
「その反応は正解ということだな。
……ベルンハルトに“魔法陣”の話をしたら、関与は不明だが、魔法が使える“魔女”の存在がいるという話になったんだ。
というのも、前国王陛下の元に“魔女”と名乗る人物が訪れてきたらしい」
「前国王陛下……、ということはつまり、二十年以上も前、ということになるわよね」
思わず声を発した私に対し、ヴィクトル様は首を傾げる。
「何か引っかかることがあるのか?」
「あ、その……、私が会った方は、そんな年には見えなかったというか……」
(私よりも少し歳上くらいに見えたから、その前国王陛下がお会いした方とはまた別の方、なのかしら?)
私の言葉に、ベルンハルトが口を開いた。
「“魔女”というのが合っているのだとしたら、たとえ同一人物でなくても、相談に乗ってくれるのではないかな」
その隣から、アランも口を開く。
「それこそ、魔女が使える“魔法”を使って、若く見せているのかもしれねぇし。
なんでも、魔女が前国王陛下の元に現れたのは、誰かを探してるっていう名目だったらしいからな。
ま、とりあえず魔女と名乗る人物をどうにかして見つけ出さねぇと。 時間もあまり、残されていないんだろ?」
(魔女さんは、誰かを探していた……?)
一体誰を、と思ったけれど、今は自分の“呪い”を解くことに集中しなければと思い直し、アランの言葉に頷けば、ヴィクトル様が私に向かって尋ねた。
「何か、魔女と接触することが出来る手段はないか?」
「手段……」
(私が“おまじない”をもらった時と今年の星祭りで会った時の共通点ってことよね)
私は考えながら口を開いた。
「……手段と言えるかは分からないけれど、ニ回会った内、どちらも星祭りで、一人で迷子になったというのが共通しているわ」
その言葉に、三人は顔を見合わせ困った顔をして口を開いた。
「流石に、また迷子になれというのはな……」
「そもそも、アンジェラ一人でなければ会えないということ?」
「一人でいるところに現れるのだとしたら、そういうことになるな」
ヴィクトル様に続き、ベルン、アランがそう口にしたところで、私は閃いて言った。
「後、共通点といえば、どちらも星祭りが開催されていた城下の路地裏でお会いしたわ。
一人で迷子になったところをいつも助けてくれたの」
「確かに、アンジェラの言う通り、君が迷子になった時、決まって路地の入り口付近にいたな」
「そう、気が付いたら一瞬で送り届けてもらっていたから……」
私の言葉に、アランは目を丸くし、「それが魔法の力なのかもな」と驚いたように言った。
ヴィクトル様は「では」と立ち上がり言う。
「早速今から行ってみよう」
「今から!?」
私が声を上げると、彼は私の手を取り言った。
「少しでも早い方が良いだろうし、今日は君の顔色が良く見えるから、行くだけ行ってみよう。
辛かったら、馬車の中から場所だけ確認して帰ってくれば良い。
どうだ?」
ヴィクトル様の言う通り、早く行動した方が良いかもしれない。
(今日は確かに体調が良いから、動くなら今なのかも)
私はヴィクトル様の言葉に頷き立ち上がると、向かいに座っていたベルンハルトも立ち上がりながら言う。
「大人数で行くと、魔女に会えない可能性が高くなってしまうから、私達はお暇するよ。
何か分かったことがあったら言って。
私も、魔女について何か分かることがないか、引き続き調べてみる」
「ありがとう。 ベルンハルト、それからアラン」
その言葉に、二人は頷いてくれた。
城へ戻るベルンハルトとアランに別れを告げ、ヴィクトル様もお忍び用の服に着替えるために、一度邸へ戻ったのを見送ってから、私も城下へ向かうため着替えるのだった。
「いきなり城下へ行こうと言ってしまってすまない」
それぞれの準備が整い、迎えに来てくれたヴィクトル様と共に馬車に乗り込んでから、彼がそう口にしたものだから私は首を傾げる。
「なぜ貴方が謝るの? 全て私のためを思って動いてくれているというのに」
「いや、それはそうなんだが……、最近は君の“呪い”を解くことに必死で、自分でも周りが見えなくなってしまっているような気がして……、君も無理をしていないか、心配になって」
私はその言葉に目を見開くと、微笑みを浮かべて言った。
「無理していないわ。 それに、貴方が私のために“これ”を解こうとしてくれていることが伝わっているから、素直に嬉しいと思うわ。
でも、前にも言ったけれど、私も貴方に無理してほしくない。
だから、そんなに気負わないで、ね?」
「……分かった」
ヴィクトル様の言葉に私は頷き、「それに」と彼の大きな手を取り、笑って言った。
「不謹慎かもしれないけれど、久しぶりに外に出ることが出来て……、それも、貴方とデートが出来て嬉しい」
「!!!」
ヴィクトル様はその言葉に、大きく目を見開く。
そして……、固まった。
(あ、あれ?)
さすがに不謹慎すぎたかしら……! と慌てる私の手を、彼はギュッと握り返してくれる。
そして、口元を押さえ言った。
「〜〜〜っ、そう来るとは思わなかった……」
「え???」
パチリと目を瞬かせれば、彼は自分側にある窓の方を見遣り、口にした。
「っ、可愛すぎる……」
「〜〜〜!?!?」
彼の口から呟かれた言葉は、ばっちり私の耳に届いてしまって。
顔に熱が集中する私と同様に、彼の耳も赤く染まっていることに気が付き、私は嬉しさやら恥ずかしさやらで身悶えてしまうのだった。
私達を乗せた馬車は、当初の予定とは違う場所……、星祭りの時と同じ所へ到着した。
理由は、星祭りほどではないけれど、街中が混んでいたためだ。
「今日に限ってこんなに混んでいるとは思わなかったな……。
アンジェラ、歩けるか?」
「だ、大丈夫! お、お姫様抱っことかしなくて良いから!!」
私がそう言って首を横に振れば、彼は少し悪戯っぽく笑って言った。
「そうか? それは喜ばしいことだが、反面残念だな」
「っ!?!?!?」
彼の意図している意味……からかっているのが分かって、少し頬を膨らませて怒ってみせると、彼はクスクスと笑って私に手を差し伸べた。
「それでは、行こうか」
「! ……えぇ!」
差し伸べられた手に手を重ねると、彼の手にそっと力が込められる。
私はその手に引かれて、星祭り以来の城下へと足を向けたのだった。




