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心強い味方(幼馴染)…!?

(な、なんでこんなことに……)


 私とヴィクトル様の向かいの席に座る彼は、明らかに不機嫌なオーラを放ち、腕組みをして言った。


「どうして今まで、そんな大事なことを教えてくれなかったの?」

「も、申し訳ございませんでした……」


 私はそう心の中で土下座しながら謝罪すると、彼……、クロードはため息を吐いた。


 事の発端は、クロードとヴィクトル様が突然訪問してきたことによる。

 そんなヴィクトル様が一言、口にしたのだ。


『完全にバレていたから全部話した』


 その一言と一緒にいたクロードの怖い顔により、全て理解した私は今に至る。


(『薔薇姫物語』が好きだというだけでクロードの目を誤魔化せるわけがなかったのよね……)


 学者気質ゆえに観察眼が鋭いクロードは、ゲーム中でもヒロインが隠し事をしようとしても、全てお見通しなのである。

 だから、ヒロインが正直に話すまで、子犬のような見た目で彼女に迫るのだ。


(ということで何が言いたいかというと、クロードに隠し事をするのは無理だったということですね、はい)


 現に、かつてないほど怒り心頭のご様子に、私が縮こまっていると、クロードは息を吐き、眉間を指で押さえながら言った。


「違う、君を怖がらせるつもりはない。

 けど……、どうして僕が怒っているか分かる?」

「……話さなかったから、よね?」

「なぜ、ヴィクトルに話した時点で僕達に話さなかったの?」


 質問を質問で返され、ヴィクトル様を見やれば、彼も私をじっと見て言葉を待っている。


(うっ、尋問されている気分……!)


 穴があったら入りたいと心の底から思いながら、恐る恐る口を開いた。


「これ以上、迷惑をかけたくないと思って……」

「いつ、誰がそんなことを言った!?」

「!」


 クロードの剣幕に、思わずビクッと肩が震えてしまう私を見たヴィクトル様が、「クロード」と窘めるように名前を呼んだ。

 クロードは咳払いして言う。


「……あのね、アンジェラ。

 君が抱えている問題が、どれだけ大きいものか分かる?」


 そう目を伏せ、そう言った彼の言葉に息を呑む私に向かって、彼は言葉を続けた。


「君に残された時間は後一ヶ月。

 それすらも僕達に黙っていたということは……、もし最悪の場合その“呪い”が解けなかったら、僕達は君を失ってしまうということになる。

 そうなった時、残された僕達はそれを聞いてどう思うか、考えたことはある?」

「……っ」


 その言葉に、私はギュッと拳を握った。


(分かっている。 私が一番、その辛さを分かっている……)


 お母様が病気を患っていたことを知らず、突然お母様を亡くした私は、酷い虚無感と同時にずっと考えていた。

 どうして私には話してくれなかったのか。

 私にも何か、出来ることがあったのではなかったのかと……。


 それを思い、黙ってしまう私の近くにやってきたクロードは、跪くと、私の手を取り口を開いた。


「アンジェラ。 君を責めるつもりはない。

 君が僕達を思ってくれているということは、十分理解している。

 ……だけど、僕達だって君と同様、君のことを思っている。

 だから、君が苦しんでいるのを見過ごすわけにはいかない。

 僕は幼馴染としてアンジェラ、君を助けたいから」

「……!」


 クロードの真っ直ぐな言葉が、胸に刺さる。


(『幼馴染として』……)


 その言葉は、ゲーム中のアンジェラでは、かけられることはなかった言葉だ。

 そして、アンジェラ自身が何より求めていた言葉……。


「……っ」


 私は耐えきれず、瞳から涙がこぼれ落ちる。

 それを見て、クロードが慌てる。

 

「ア、アンジェラ!? ご、ごめんっ!」


 私はその言葉に首を横に振ると、そっとヴィクトル様が自身のハンカチで目元を拭ってくれる。

 私は「ありがとう」とヴィクトル様にお礼を言ってから、クロードに向かって言った。


「……私、心のどこかで諦めていたの」

「え……?」


 クロードが私を見上げ、首を傾げる。

 そんな彼の金色の瞳を見て思う。


(悪役令嬢である(アンジェラ)は、記憶がない中で沢山迷惑をかけた。

 だから、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない、嫌われたくないと思ったの)


 この“呪い”の存在が見えるヴィクトル様は、“薔薇姫の呪い”を信じてくれた。

 けれど、他の幼馴染は?

 証拠もないのに、こんな話をして引かれてしまうのではないか。

 もうゲーム中のアンジェラのように、ヴィクトル様に振り向いてもらおうと悪あがきするくらいなら、いっそ自力で“呪い”を解くことに専念して、それが駄目なら諦めようとさえ思っていた。

 そんな時、ヴィクトル様には“呪い”を知ってもらえて、それだけでも幸せだと……、ゲーム中のアンジェラより遥かに幸せだと、そう思っていたのだ。

 だから、これ以上何も望まないようにしていた……。


「“呪い(これ)”のせいで、皆に迷惑をかけたくない。

 今の私の状態を見て、貴方方に心配をかけたくないって、そう思っていた。

 ……けど、それは違うのね」

「!」


 驚くクロードに向かって、私は笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。


「ありがとう、クロード。 私の話を、信じてくれて」

「……! っ、当たり前でしょう?

 僕は、アンジェラの幼馴染なんだよ。

 ……僕にとっても、大切な女の子なんだよ」

「!」


 クロードが向ける視線に、僅かな熱を感じて……、ハッと息を呑んでしまう私の手を、別の手に取られる。

 驚き見上げれば、今度はヴィクトル様が不機嫌な表情を浮かべて言った。


「アンジェラは俺の、大切な婚約者だ」

「ヴィ、ヴィクトル……」


 明らかに張り合っている彼の言動に焦る私に対し、クロードはいつもの調子でそれに乗るように言った。


「あー、嫌だ嫌だ。 本当、昔っから独占欲丸出しなところ、変わらないよね。

 婚約者にしたのも、僕達に対する牽制のつもりなんでしょ?」

「え……? わっ」


 クロードの言葉に驚く私の耳を、ヴィクトル様に塞がれる。

 その後ヴィクトル様が何かを言い返し、言い合いを始めた。


(こ、婚約が牽制? 一体、どういう意味!?)


 何のこと!? とぐるぐると考え込む私の耳を、彼は少しの間の後解放した。

 ヴィクトル様に向かって何の話かを尋ねようとすれば、彼に顔を背けられる。

 そんな私達をよそに、クロードは立ち上がり言った。


「とにかく、この話は幼馴染間の中では共有するから」

「えっ!?」


 思わず声を上げれば、クロードは眉間に皺を寄せて言った。


「当たり前でしょう? 協力者は多いに越したことはない。

 特に、兄上やアランに相談した方が得られる情報もあるかもしれない。

 ……父上や他の大人に話すと、騒ぎになるだろうからそれは避けるけど、君が何と言おうと協力者は増やす。 分かった?」

「……ごめんなさい、クロード」


 彼からの提案のご尤もさと、その説明を自ら話すことが出来ないもどかしさから私がそう口にしたのに対し、クロードは私と視線を合わせて言った。


「それを言うなら、“ありがとう”、でしょ?」

「!」


 クロードの悪戯っぽい笑みに、私はふふっと笑って口にした。


「ありがとう、クロード」


 その言葉に、クロードは心から嬉しそうに笑い、言った。


「……うん、やっぱり好きな子から“ありがとう”って言われるのが一番嬉しい」

「「!?!?」」


 さらっと口に出たクロードの言葉に、私は目が点となり……、その言葉の意味を理解した途端、一気に顔が熱に集中する。


(嘘!? い、いいい今クロードからこっ、ここここくは)


「悪いが」

「……!?」


 そう背後から声がしたかと思うと、突如後ろから抱きしめられる。

 そのよく知る温もりに、顔だけではなく全身が熱くなり、鼓動が速くなるのが分かって。

 そんな私を、ヴィクトル様は抱きしめたまま口を開いた。


「アンジェラは、()()だから」

「……〜〜〜!?!?」


(ま、まままままま待って!?!?

 わ、私はヴィクトル様のもの!?!?

 え、最推しからの“俺の”宣言はやばいってえええ!!!)


 突然の最推しの独占欲に、はわわぁぁぁあああと語彙力を完全に消失する私に対し、クロードは怒ったように言った。


「はいはい、知ってますよーだ!

 ……だけど、彼女を悲しませようものなら奪うつもりでいるから。

 アンジェラも、愛想を尽かしたらいつでも僕のところに来て良いからね?」

「え……」

「クロード……」


 ヴィクトル様が彼の名を呼んだことにより、また火花を散らし始める二人。

 それを見て私は、心の中で叫んだ。


(私、悪役令嬢なんですけどぉーーー!?!?!?)




 そんなこんなで、“薔薇姫の呪い”を解くために、心強い幼馴染達が新たに加わったのだった。

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