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二人で描く未来を、共に…*後半ヴィクトル視点

「ごめん……っ」


 ヴィクトル様からの謝罪の言葉に、私は驚き口を開く。


「どうして、貴方が謝るの? 謝るべきなのは、貴方を巻き込んでしまった私の方で」

「違う! 俺がっ……、俺があの時、君の願った“おまじない”に応じていれば……、名前を書いていれば、君をこんな目に遭わせる必要はなかったかもしれない……っ」

「!」


 ヴィクトル様の言葉に、私は驚く。


(覚えていたのね。 この“おまじない”のこと。

 迷子になった私が、魔女さんから貰ったものをそのまま見せて、彼にお願いしたことも)


 私はヴィクトル様の腕の中で首を振り、背中に腕を回し抱きしめ返して言った。


「違う、貴方のせいなんかじゃない。

 全て、私が悪いの。 ……私が、貴方の言葉を信じていれば良かったの」


 全ての始まりは、お母様を亡くしたばかりで傷心していた私が、ヴィクトル様の言葉を信じきれず、“おまじない”に頼ろうとしたことが原因なのだ。

 だから。


「私が勝手に、貴方の名前を書いて“おまじない”を実行してしまったのがそもそもの原因なの。

 本当は忠告されていたのよ、それぞれが名前を書かなければいけないって。

 その言葉を無視してしまった私が悪いの」

「! ……“おまじない”をもらった人に?」

「えぇ」


 ヴィクトル様の言葉に頷けば、彼は「では」と口を開いた。


「その人に聞けば、君のその“呪い”を解く方法が分かるのか?」

「……いえ、その方に再度会ったのだけど、教えてはもらえなかったわ。

 何でも、教えてしまったら“呪い”は解けないらしくて」

「いつ会ったんだ!?」


 ヴィクトル様が私から離れ、驚いたように私の瞳を見て尋ねたため、私は恐る恐る言葉を返す。


「……実は、星祭りで貴方達とはぐれてしまった時……」

「! 怪我を手当してもらっていたと言っていた時か」


 その言葉に小さく頷けば、彼は「なるほど」と口にし、尋ねた。


「では、その人について何か分かることはあるか。 職業とか名前とか」

「職業……、彼女は、っ」


 “魔女”だと言葉に出せず、私が咳き込んだのを見て、彼は慌てたように私の背中を摩り呟いた。


「“呪い”の類は、君からは説明出来ないようになっているんだな……」


 その言葉に、私はギュッと手を握りしめて謝る。


「ごめんなさい」


 その手をヴィクトル様は解すようにして手を重ね、首を横に振り言う。


「君が謝ることじゃない。 

 そもそも、ずっと一緒にいたはずなのに、君の変化に気が付けなかった俺が悪いんだ。

 ……いや、正確には気が付いていたんだ。

 君が、何故俺に固執するのだろうと……、それが恋をしているとは思えないくらい必死だったから、俺と同じ気持ちでいてくれているのではないのだと勝手に決めつけてしまったんだ。

 君がこんなに苦しんでいたとを知らずに、俺は……」


 彼が重ねた手をギュッと握る。

 そんなヴィクトル様の言葉に、私は思う。


(そう、アンジェラである私は間違えたの。

 彼の心をこちらに向けようと必死で、なりふり構わず周りを傷付ける方法を選んでしまった。

 その結果、自分も、それからヴィクトル様をも不幸にしてしまったの)


 だけど、今度は違う。

 私には味方になってくれる人達がいる。

 それから……。


「……貴方が、このことに気が付いてくれて本当に良かった。

 ありがとう、ヴィクトル」

「……っ」


 その言葉に、ヴィクトル様は泣き出しそうな顔をして首を横に振り言う。


「違う、俺は、礼を言われる立場ではなくて」

「いえ、貴方がこのことに気が付いてくれたから、私はそれがとても嬉しかった。

 ……でなければ、私は誰にも話すことはなく、孤独のまま死んでしまうところだったんだから」

「! っ、絶対に君を、死なせはしない……っ」


 彼のその言葉に、私はまた泣いてしまって。


(その言葉だけで十分、幸せだわ)


 私はもう片方の手を握っている彼の手に重ね、彼の大きな手を包み込むように握ると、涙交じりに口を開いた。


「私に残された時間……、誕生日までの残り一ヶ月。

 私と一緒に“呪い(これ)”を解く手伝いをしてほしいの。

 私も、貴方とこれからもずっと一緒にいられる未来を、諦めたくないから」

「!! ……そんなの、当たり前だろう?」


 ヴィクトル様はそう言うと、私の額に額を付けて言った。


「俺は、君と一緒にいる未来しか思い描いていない。

 だから、必ず……、絶対に、何としても君の“呪い”を解いて、君を幸せにしてみせる」

「ヴィクトル……」


 そう言った彼の瞳も、涙でうっすらと滲んでいて。

 私と彼は、互いの頬に手を伸ばし、そっと涙を拭うと、その言葉を誓うように口付けを交わしたのだった。






(ヴィクトル視点)


 その後、アンジェラはまた眠りについた。

 その寝顔があまりにも綺麗で……、それと同時に不安になる。

 アンジェラがこのまま、目を覚まさなくなってしまうのではないかと。


「アンジェラ……」


 彼女の寝衣から覗く胸元には、やはり“バラの印”が不気味に光り輝いている。


(彼女の一番近くにいたのに、彼女が苦しんでいたことに何年も気が付かなかったなんて……っ)



 7年前の星祭りの日の出来事は、よく覚えている。

 俺とアンジェラがまだ8歳の時、彼女の母親であるリアーヌ夫人が亡くなったばかりの当時、天真爛漫だったアンジェラは元気が無くなり、痛々しいほどに傷心していた。

 当時の俺はそんな彼女に何と声をかけて良いか分からず、彼女を励ます言葉や口実を必死に探していた。


 そんな時、ルブラン侯爵からアンジェラを星祭りへ連れ出してくれないかとお願いされたのだ。

 その言葉に二つ返事で承諾した俺は、彼女と星祭りへ向かった。

 彼女は浮かない顔をしていたが、少しでも彼女の気分転換になれば、また前を向いて歩けるようになってくれればと願って、彼女の手を引いて祭りを回っていたのだが。

 人混みの中で手を放してしまい、そのまま見失ってしまったのだ。


 護衛もついていたはずなのに、あまりの人混みで護衛をも撒いてしまったらしく、俺は必死になってアンジェラを探した。

 すると、彼女は人通りの少ない路地裏から出てきた。

 そんな彼女は、俺を見つけて数ヶ月ぶりの笑顔を見せて、言ったんだ。


『この“おまじない”をすれば、一緒にいられるんだって! 薔薇姫が、騎士様とやっていたものらしいの!』


 その言葉に、俺はその紙を見て何だか嫌な予感を覚えた。

 だから、こう返した。


『そんなおまじないなどなくても、僕は君の側にいる』


 と。 それを聞き、アンジェラは……。


「っ、どこか寂しそうに、笑ったんだ」


 その日を皮切りに、アンジェラは人格が変わったように振る舞うようになった。

 最初は、俺に好意を寄せてくれているのかと思い、俺と同じだと嬉しかった。

 だけど、その束縛は、どちらかというと“好意”というよりは“執着”に近かった。

 リアーヌ夫人を亡くしたから、これ以上誰かを失うのは怖いからだろうと思っていたが、その言動は次第にエスカレートしていって、しまいには周りに八つ当たりするようになっていった。

 そんな彼女を止めることはできず、度々口論になっていた……ところで、また彼女は変わったのだ。


『ヴィクトル様。 私との婚約を破棄致しましょう』


 そう告げられた時、俺は酷く焦り、傷付いた。

 そして、何とか婚約破棄は回避出来たものの、性格が一変した彼女からより一層目を離せなくなっていた。

 それこそ、以前の……、“あの日”までと変わらない彼女が戻ってきたような、そんな心地になった。


(今思えば、それは全て、彼女が“呪い”に対して一人で戦おうと決めてのことだったんだ)


 いつも口癖のように言っていた。


『貴方には幸せになってほしい』


 そして、ルイの誕生日パーティーでは、


『私、強くなりたい』

『今度こそ、誰も傷付けたくないの』


「….っ、何で……」


 クシャッと前髪を握り、後悔の念に駆られる。


(どうして俺は、今まで気付かなかったんだ)


 彼女は何度も、SOSを出していたというのに。

 彼女はどんな気持ちで、今まで俺と過ごしていたのだろうか。

 そう考えると、自分に対する苛立ちだけが募る。

 それに先程も、眠る前に彼女はこうも言っていた。


『“呪い”のことは、私と貴方との秘密にしてほしいの。

 ……これ以上、誰にも心配や迷惑をかけたくないから』


 そう言った彼女の儚い笑顔が、脳裏にこびりついて離れない。


(っ、こんなことになっても、君は他人のことばかり……っ)


 俺は、ギュッと膝の上で拳を握る。

 そして、眠っている彼女を見て誓う。


(君が周りを思いやる分、俺は君を大切にする。

 そして必ず、“呪い”を解く方法を見つけ出す。

 だからアンジェラ、君も絶対に、“呪い”を解き、幸せになること……、俺とずっと一緒にいることを、諦めないでくれ)


 そう祈るような気持ちで彼女の手を取り、その甲にそっと口付けを落としたのだった。





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