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悪役令嬢の切なる願い

 どうして今になって、ヴィクトル様に“バラの印”が見えているのか分からず、私は動揺し混乱していた。


(どうして……、今まで誰にも、見えたことなんか)


「……アンジェラ」


 そんな私の同様に気付いた彼は、ゆっくりと口を開いた。


「俺がその“印”に気が付いたのは、ルイの誕生日パーティーの時だ。

 ……君が眠っている時、その“印”が光っていたんだ」

「! ……ひ、光って……?」


 そんなことは、長年苦しんできた私でさえも知らない。

 普通にしている時は、ただの黄色のバラの印が肌に浮かび上がっているだけなのだから。


(眠っている時ということは、“呪い”が私を蝕んでいる時、ということ……?)


 誰にも見えないと思っていた“印”が、ヴィクトル様には見えている。

 そして、それが知らないうちに光っているという初めて知らされる事実に、震えが止まらなくて。


(どうしたら良いの……っ?)


 そんな私の肩に載せられた腕に、少しだけ力が込められる。

 ヴィクトル様は私の瞳をじっと見つめて言った。


「何でも良い。 君の身に何が起きているのか分かるヒントでも良いんだ。

 それがもしあるのなら、俺に教えてほしい。

 ……俺は、君の力になりたい。

 君が傷付いているというのに、何も出来ずに黙って見ていたくはないんだ。

 お願いだ、アンジェラ。

 俺に出来ることは、ないだろうか」

「……っ!!」


 ヴィクトル様の言葉が、冷え切っていた心に波紋のように大きく広がっていくのが分かって。


(……っ、この“呪い”がヴィクトル様には見えるのなら……、説明することも、出来るかもしれない)


 だけど、まだ躊躇う自分がいる。

 この“呪い”を口にして、ヴィクトル様は受け止めてくれるだろうか。

 私の元から離れていってしまう、あるいは、“呪い”を解く鍵は自分が握っていると、彼自身が胸を痛めるのではないかと……。

 それでも、彼のまっすぐな瞳を見て思った。


(……ヴィクトル様は、私を裏切ることはしない)


 幼い頃からずっと一緒にいた。

 私のことを好きだと言ってくれた。

 そんな彼になら、この“呪い”を説明しても良いのではないかと。


(……私は、ヴィクトル様を信じる)


 もし最悪、この話を聞いてヴィクトル様が離れるようなことがあったとしても、私は後悔しない。

 前世から推している最推しに、この“呪い”という重荷を負わせたくはないし、それならそれで良いのかもしれない。

 大丈夫、と胸元に当てた手をギュッと握り、私は意を決して口を開いた。


「これは……、っ!?」


 “薔薇姫の呪い”と口に出そうとした私の言葉は、口から出ることはなかった。

 代わりに、“バラの印”が痛み、喉が締め付けられるような感覚を覚え、耐えきれず顔を背けて咳き込む。

 その様子を見て、彼は慌てたように私の背中を摩ると、ハッとしたように言った。


「まさか、自分の口から説明することが、出来ないのか……?」

「……っ」


 私は彼の的確な言葉に、小さく頷いた。

 それによって、ヴィクトル様もハッと息を呑み、顔を歪めて黙り込んでしまう。

 そんな彼を見て、初めて気が付いた。


(っ、ヴィクトル様は、心から私の身を案じてくれているんだ……)


 そう自覚した瞬間、私の心も叫び始めた。

『助けてほしい』と。

 その気持ちが、目からとめどなく涙となって頬を伝い、こぼれ落ちる。

 そんな私を見て、ヴィクトル様は私の涙を拭ってくれながら、背中を摩り口を開く。


「何か……、口で伝える以外の手段で、分かる方法はないだろうか? 筆記は?」


 その言葉に、私は黙って首を横に振ると、ヴィクトル様は私を抱き締め言った。


「君が苦しんでいるというのに、何の役にも立てないなんて……っ」

「っ、違う、貴方の、せいじゃない……」


 元はと言えば、私が悪いんだ。

 私が“おまじない”を、魔女さんから受け取って、忠告されたのにもかかわらず一人で行った、自分で蒔いた種なのだから……。


(……おまじない?)


 私はそこまで考えてハッとした。


(っ、もしかして……!)


「アンジェラ?」


 私はヴィクトル様の胸から顔を上げると、ヴィクトル様の横をすり抜けて、ベッドから立ち上がり鏡台に直行した。


「ア、アンジェラ?」


 ヴィクトル様の戸惑ったような声が私の名を呼ぶが、私は鏡台の机の引き出しを開ける。

 そして、私の目当てのものを取り出すと、速る気持ちでそれを持ち、ヴィクトル様の元へ戻るとそれを彼に差し出す。

 それを見たヴィクトル様は、驚いたように口にした。


「これは……、宝箱か?」


 幼い頃、私がヴィクトル様に見せてそう言っていたのを覚えてくれていたことに嬉しさを覚えつつ頷くと、錠を開けて箱を開こうとした……が、手が震えて上手く錠の数字を動かすことが出来ない。


「貸してみろ」


 ヴィクトル様はそんな私から箱を受け取ると、錠前の数字を私とヴィクトル様の誕生日に合わせ、カチャッと錠を開けた。

 驚く私に、ヴィクトル様は少し笑ってみせると、私に箱を手渡した。


「……開けてみてくれ」


 ヴィクトル様の言葉に、私は開けようと試みるが……。


(っ、怖い……)


 “バラの印”が見えていても、これがもし、ヴィクトル様に見えなかったら?

 私は今度こそ、一人でこの“呪い”と向き合わなければならないの……?

 そんな私の気持ちを悟ったのか、箱に置いた私の手に、そっと彼の手が重なる。

 ハッとして彼を見上げれば、ヴィクトル様は頷き言った。


「一緒に開けよう。 ……大丈夫、何があっても俺は君を助ける、絶対に」

「! ……ありがとう」


 ヴィクトル様の言葉にそう口にすれば、彼は少し笑って真剣な表情になると言った。


「開けるぞ。 せーの」


 彼の掛け声の合図で、蓋にかけた手に力を込める。

 そして、その中から出てきた例の物……、“薔薇姫の呪い”の描かれた紙を見て、彼はハッと目を見開いた。

 私はその紙を取り出し、彼の目の前に紙の表面である魔法陣と名前が描かれたものを見せる。

 そして、恐る恐る口を開いた。


「これが何か、見える?」

「っ、これ、は……」


 ヴィクトル様の薄い青の瞳が、驚愕に大きく見開かれる。

 その続きの言葉を祈るようにじっと待っていれば、彼はその紙を私の手から取り、食い入るように見つめて言った。


「……これは確か、昔、君が迷子になった星祭りの日に持っていた、“おまじない”か……?」

「……!! や、やっぱり、見えて、いるの……?」


 私の言葉に、彼もまた驚いたように私を見て口にする。


「他の人には見えないのか?」

「……っ」


 私は瞳からまた涙が込み上げてくるのを我慢することができず、俯いたまま首を縦に振れば、彼はその紙の裏紙を見て、そこに書かれていた文字を読み上げた。


「“薔薇姫の呪い……花弁が16枚となる16歳の誕生日までに、想い人と両想いにならなければ眠りにつくだろう”……!?」


 ヴィクトル様がそう口にし、驚いたように口にした。


「では、その“バラの印”は、この“薔薇姫の呪い”から来るものだというのか!?」


 彼の言葉に、私は黙って頷くことしか出来ない。

 そんな私に対し、彼は困惑したように口にした。


「だが、俺達は正真正銘両想いのはずだ。

 それなのに、何故“呪い”が消えないんだ……?」


 その言葉に、私は答えようとして……、やはり、声は出なかった。


(私の“本当の願い”を叶えることが条件だと、あの時魔女さんは言っていた。

 それすらも、彼には伝えることが出来ないのね……)


 代わりに、何とか別の言葉で伝えようと試みる。


「……その他にも、条件があるらしいの。

 だけど、口には出せないし、第一私自身もよく分かっていなくて……」

「条件……」


 彼はそう呟き、黙りこんでしまった……かと思うと、次の瞬間私は彼の腕の中にいた。


「!!」


 驚く私に、彼は震える声で口にした。


「ごめん……っ」



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