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前世ぶりの最推し…!※これでも反省しています

「アンジェラ様、お仕度が整いました」


 私付きの侍女・エメの言葉に目を開ければ、鏡には可憐な少女の姿……、“アンジェラ”である私の姿が映る。


「……本当に私、この世界(きみバラ)にいるのね」

「え?」


 小さく呟いた独り言は、幸いエメには聞こえなかったらしく、私は笑みを浮かべて言った。


「ありがとう、エメ。 私の我儘を聞いてくれて」

「いえ、そんな! お嬢様が“いめちぇん”と仰った単語の意味が最初は良く分からなかったのですが、なるほど、雰囲気を全く変えることを言うのですね!」


 私はエメの言葉に頷く。


(アンジェラ……まあ私でもあるけれど、以前は自分の好きな服装というより、本気でヴィクトル様に好かれたくて、華美に着飾っていたのよね。

 はっきり言って、普通に今考えたら趣味が悪い上、完全なる黒歴史だわ……)


 そりゃヴィクトル様から、いつ会っても不審な目を向けられるはずだわ、と苦笑する私に向かってエメは言った。


「それにしてもアンジェラ様、今日は格別に素敵ですね!

 以前のお召し物も豪華で良く似合っていらっしゃいましたが、こういう清楚な雰囲気も着こなせるとは、さすが私達のお嬢様です!」

「エメ、それは褒めすぎよ」


 とはいえ、自分で言うのも何だが、本当に“アンジェラ”は何を着ても似合う。

 さすがは乙女ゲーム、元の素材が良い。

 それに、意外なことといえば、アンジェラは周囲に“悪女”と認知されていても、邸の中での侍従からの評判は高いということ。 多分それは、アンジェラを身内で甘やかしている節があるとは思うが、アンジェラ自身も侍従には優しく接していたため、邸内での居心地は最高だ。


(もし呪いが解けて、寿命が延びるのだとしたら、このままこの邸で独り身で過ごしたい)


 と思ってしまうほどに。

 そんな淡い緑色のドレスを着た自分の身嗜みの最終確認を行っていると。


「アンジェラ様、ヴィクトル様がいらっしゃいました」

「! ……すぐに行くわ」


 そう返事をすると、侍女はお辞儀をして出て行く。


「……お嬢様? お顔が赤いようですが」

「だ、大丈夫、少し暑いだけよ。 さて、行きましょうか」


 私の言葉に、エメは「畏まりました」と言って私の後を付いて来る。

 そんな私はというと……。


(さ、最推しに会える〜〜〜!!)


 めちゃめちゃ浮かれまくっていた。

 だって、それは浮かれるでしょう!?

 画面の中にいた推しが目の前で、息して話して動いて生きているなんて……。


(考えただけでも興奮するっ……!)


 まずいわ、私。 呼吸が乱れてる、危ない危ない。

 これではヴィクトル様に一層引かれてしまうわ。

 淑女の仮面を被りつつ、内心推しに会える喜びで浮き足立っていると、侍女が本日のお茶会、もとい“最推しに前世の記憶が戻ってから初めて出会えた記念日”となる会場の扉をノックし、口を開いた。


「ヴィクトル様、失礼致します。

 アンジェラ様がいらっしゃいました」

「どうぞ」


(っ、推しの他所行きの声、キタァ〜〜〜!)


 そんな叫びはおくびにも出さず、私は部屋に入り淑女の礼をして言った。


「ヴィクトル様、私の我儘で突然お呼び立てしてしまい申し訳ございません。

 本日はお越し下さりありがとうございます」


 そう言って顔を上げ……、私は衝撃を受けた。


(な、な、生身の推しィ〜〜〜!)


 白く透き通るような白磁色の肌。 銀色の肩下までの髪はきっちりと切り揃えられ、前髪から覗く空をそのまま映したような青の瞳は、この世のものとは思えない美しさ……。


(神様、ヴィクトル様をこの世に生み出してくれて、そしてその世界に私を一時でも生かして下さってありがとうございます……)


 そう心の中で合掌し、天に召されそうになっていた私は、耳に届いた声によって現実に引き戻される。


「アンジェラ嬢? まだ具合が悪いのではないか?」

「っ!」


 声を出さなかっただけでも褒めてほしい。 だって、


(ヴィクトル様、声の破壊力っ!)


 違う、顔面が、いえ存在そのものが心臓に悪いわっ!!


「いえ、ご心配には及びませんわ。

 お陰様で、すっかり体調は良くなりましたので」

「……?」


 ヴィクトル様は怪訝そうな顔をする。


(あぁ、その表情も良い! ……ではなくて、それもそうよね。

 ()()()()アンジェラとは大分違うもの……)


 今日私が彼を呼んだのには理由がある。

 それは、これから半年の間を大きく左右する“計画”を実行するため。


(清く正しい“推し活”をするためにも、今日の計画を何が何でも成功させなければ、話が進まない)


 私は笑みを浮かべると侍女達に下がるよう伝え、二人きりになる。

 それを確認した瞬間、ヴィクトル様はため息交じりに言った。


「……それで? 話とは何だ」


 突如変わったヴィクトル様の態度に、私は内心悲鳴を上げる。


(これが“アンジェラ”……、幼馴染であり婚約者に見せる素の表情なのね!

 たとえ嫌われているとしても、彼の素が見られるポジションというのは、一ファンとして美味しいのでは!?)


 なんて浮かれていることはおくびにも出さず、私は彼の向かいの席に着くと言った。


「今日貴方をここに呼んだのは、今までのことについてお詫びをしたかったの」

「……お詫び?」


 眉間に皺を寄せる彼に向かって、私は頭を下げて言った。


「貴方を沢山困らせてしまってごめんなさい。

 婚約者であることに甘えて、我儘や無理難題を貴方やエリナ様に対して言ってしまったこと、深く反省しているわ」

「……今更、どういうつもりだ。 どういう風の吹き回しだ」


 その声音から、ヴィクトル様が本気で怒っているのが伝わってきて、私は頷き答えた。


「信じてもらえないものは分かっているわ。

 私自身も、虫の良い話だと思っている。

 ……私が自分の行動を見直すことが出来たのは、あの日……、貴方とお茶会をした日に倒れて体調を崩した時、あまりにも苦しくて死んでしまうかと思ったの。

 そうしたら、自分の今までしてきたことは全て間違いで、愚かで自分勝手な行動だということに気付いたの」


 嘘は言っていない。 私は“呪い”の痛みで前世の記憶を取り戻し、自分を見つめ直すことが出来たのだから。


「私は、貴方が婚約者であることに甘えて、浮かれて最低なことをしてしまった。

 そんな私が、貴方の婚約者である資格はないと思うの」

「! どういうことだ」


 ヴィクトル様の言葉に、私は息を吸うと口を開いた。


「ヴィクトル様。 私との婚約を破棄致しましょう」

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