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悪役令嬢は恋のキューピッドになりたい③

「アンジェラ様、ヴィクトル様。

 不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」


 ルイの謝罪の言葉に、私とヴィクトル様は息を呑む。

 ルイの隣にいたエリナ様も声を上げた。


「ルイから全て聞きました。 私達のために、アンジェラ様が動いて下さっていたと。

 私からも謝らせて下さい。 本当にごめんなさい!」

「……エリナ」


 ルイがエリナ様を見て名前を呼び、そして彼女と共に頭を下げる。

 私はそんな二人の姿を見て、ゆっくりと口を開いた。


「頭を上げて」


 その言葉に、二人は恐る恐る頭を上げる。

 そんな二人に向かって微笑みを浮かべ言った。


「きちんと二人で、話し合えたかしら?」

「おかげ、さまで」


 ルイの言葉に、エリナ様も小さく頷く。

 その姿を見て私は「そう」と口にすると、笑って言った。


「それなら良かったわ。 私が“悪役”をした甲斐があるわね」

「悪役だなんてそんな……っ」


 エリナ様が首を横に振り、そう口にする。

 そんな姿を見て、私は小さく肩を竦めて悪戯っぽく笑ってみせた。


「それを言ったら、私のやっていることはただのお節介だと思うわ」


 確かに、アンジェラである私は、エリナ様の言動を側から見て苛つきを覚えた。

 また、そんな彼女の無礼な行動を許し、絆されていく周りの様子を見る内に、私はヴィクトル様までもが彼女に取られるのではないかと恐れた。

 だから、半ば八つ当たりでエリナ様に淑女の嗜みを叩き直すつもりで、何かと口出ししたのだ。


「私は今ほど愛想がなかったから、貴女や周りをきっと沢山傷付けたと思う。

 けれど、誤解はしないでほしいの。

 決して、貴女が嫌いだから虐めようとしたのではないのだって」


 そう自然と口にしていて、そこで初めてハッと気が付く。


(そうか、私は本当は……)


 アンジェラとしての本心に気が付いたところで、エリナ様が声を上げた。


「誤解などしておりません!

 ……私は、先程もこの前も申し上げた通り、アンジェラ様に沢山助けて頂きました。

 そんなアンジェラ様に感謝し、憧れてさえいるのです。

 ですから、アンジェラ様が気に病まれることはありません!」

「エリナ様……」


 エリナ様のその言葉に、私の心の中で靄がかっていた何かが晴れたような、そんな気がした。

 そんな思いを胸に、私は息を吸うと笑みを浮かべて言った。


「ありがとう」


 その言葉に、二人は驚いたような顔をしたものの、やがて二人で顔を見合わせ、頷いてくれたのだった。






 その後、四人でお茶会をした私達は意外にも会話が弾み、終始和やかな雰囲気でお茶会は進んだ。

 一番驚いたのは、私に対するルイの口調が以前より攻撃的ではなくなった気がすることだ。

 少しは私に心を開いてくれたのではないかと勝手にそう思っている。


 そんな私は、部屋を抜け出して化粧室に向かった。


「後もうすぐでお茶会もお開きかあ……」


 そう呟いてから、内心頭を抱えた。

 そう、それは。


(エリナ様とルイの、肝心の恋バナを聞けてないぃいいいーーー!!)


 あの流れでは絶対に、ルイはエリナ様に告白したんだと思うんだけど!?

 私があれだけ叱咤激励したんだもの、それでも言わないなんてことはないよね!?

 逆にそれで言ってなかったら、ルイ、それでも男かっ!ってツッコミ入れたいわぁ!


(あぁっ、直接聞きたいのに聞きづらいよぉ〜!)


 人様の恋愛事情をいちいち聞き出すのもどうかと思う反面、前世仕込みの根強いオタク魂が二人の関係を知りたい、愛でたい、共感したい!と叫んでいる。

 そんな狭間で葛藤していると。


「アンジェラ様」

「!?」


 部屋に戻ろうと歩いていた私を呼び止める声に驚き、顔を上げれば、そこには困ったように笑う天使・エリナ様の姿があって。

 エリナ様は申し訳なさそうに言った。


「ごめんなさい、驚かせてしまいましたか?」

「い、いえ、少しボーッとしてしまっていただけだから気にしないで。

 エリナ様も化粧室へ?」

「あ、いえ、そうではないのですが……」

「?」


 エリナ様はもじもじと、どこか恥ずかしそうに顔を赤らめて躊躇っている。


(〜〜〜やばい、ヒロイン可愛すぎる! 

 というかルイ、よくこんな可愛いの塊の幼馴染に今まで告白しなかったね!?

 もし私がルイなら速攻告白してる自信しかないわぁー!)


 そう確信し頷きながら、助け舟を出す。


「もしかして、私に何かお話ししたいことがあるのかしら?」

「あ……、はい、その、ご相談させて頂きたいことがあって……」


 エリナ様が頬を赤らめて頷いたことに、私は察して頷き言った。


「分かったわ。 では、二人で少しお話ししましょう。

 立ち話もなんだし、部屋を変えましょうか」

「あ、ありがとうございます……!」


 エリナ様の言葉に私はこちらこそ、と言いかけて慌てて口を噤み、笑みを返す。

 だって……。


(これはぜっっったいルイ関連だわ!!

 嬉しい! ついにエリナ様から直接恋バナが聞けるなんてぇえええ!)


 最っ高に美味しいポジションじゃない!?

 しかも以前は、エリナ様から恋バナを聞くことなんて悪役令嬢である私には無理だと思っていたけれど、この流れでの“相談”は……!


(絶対にそうよーーー!!)


 そんな叫び倒したい衝動を何とか堪え、案内した部屋は自室だった。


「こ、ここはアンジェラ様のお部屋ですか?」


 エリナ様の言葉に、私は頷きながら言った。


「えぇ。 他の応接室でも良いかなと思ったのだけど、ヴィクトル様やルイ様のいる応接室から近くなってしまうから、ここなら大丈夫だと思ったの。

 ……きっと、部屋から抜け出して私の元へ来たということは、彼らに聞かれたくない話なのではないかと思って」

「! ……は、はい、その通りです……」


 エリナ様はそう言って、私に促され向かいの席に座ると、口を開いた。


「あの、ずっとお聞きしたいことがあったのですけど……」

「何かしら?」


 私の言葉に、エリナ様は意を決したように言葉を発した。


「ア、アンジェラ様はヴィクトル様のことをどうやって好きになりましたか!?」

「……え!? わ、私!?」


 エリナ様がコクンと、真剣な顔をして頷く。

 私はというと、かなり動揺していた。


(ま、まさか私に振られるとは思わなかった……!

 てっきりエリナ様の話を聞くだけだと思っていたから、油断してたぁー!)


 顔に熱が集中するのが分かり、慌てて誤魔化すように尋ね返した。


「何故、そのようなことを?」

「っ、それは……」


 エリナ様はギュッと膝の上で手を握り、口を開いた。


「私も、分からないのです。

 この感情が、“好き”という気持ちなのか」

「分からない?」

「はい」


 エリナ様は胸元で手を握りしめて言葉を続けた。


「私は、星祭りの日にある方に告白されたんです」

「! 告白……!?」


(星祭りの日に告白されている!? それは誰!?

 口ぶりからしてルイではないわよね!?

 ということは……)


 私の驚きに、エリナ様は言う。


「その時も、“好き”という気持ちがよく分からず、今でもその方には返事を保留にして頂いているのですが……、今度はこの前の誕生日会の日、ルイに告白されたんです」

「!! ルイ様から!?」


 予想していた言葉に、私は歓喜の声を上げて尋ねると、エリナ様は小さく頷いた。

 それを見て、私は心の中で拍手する。


(よくやった、ルイ!! 偉いぞぉ!(何様)

 でも知らなかったわ。 まさか星祭りの日に告白されていたなんて……。 

 ということは、その方のルートを歩んでいたところに、私がルイの背中を押したことで、またシナリオ改変が起きているということね)


 私がそう結論付けると、エリナ様は言った。


「ルイのことは、もちろん好きです。

 ただ、それが幼馴染としてなのか、恋人になりたいという“好き”なのか分からなくて……」

「だから、幼馴染同士で婚約している私に相談したいと仰ったのね」

「はい……。 アンジェラ様とヴィクトル様は、どちらも本当に想い合っているのが伝わってきて、素敵だなと思って……」


(それってあれよね。 ヴィクトル様が私を溺愛していることを指しているのよね!?

 ほ、他の人から指摘されると尚更恥ずかしすぎる!!)


 “不可抗力”といえど、もう少し自重してもらえるよう、ヴィクトル様に直談判してみよう……と決意を新たにしたところで、私はコホンと咳払いして言った。


「分かったわ。 私でよければお話しするわ」

「ほ、本当ですか!?」

「えぇ」


 私はそう言って微笑みを浮かべれば、エリナ様からキラキラとした瞳で見つめられる。


(本当はめっっっちゃ恥ずかしいけど、相談に乗ることでエリナ様の恋が進展するのなら!

 ファンとして、一肌脱ぎましょう!!)


 これも清く正しい推し活をするため!

 ヴィクトル様に失礼のないよう言葉を選びつつ、エリナ様の後押しをしなければ!!

 と気合を入れ、口を開くのだった。

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