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ルイエリ推しです※最推しはもち別格

「居ては悪いか」


 そう口にしたヴィクトル様の言葉に、向かいの席に座るエリナ様とルイに説明する。


「ヴィクトルも一緒にお話を聞きたいらしいの。 良いかしら?」


 そう、これはヴィクトル様からのお願い。

 私が二人と会う代わりに、ヴィクトル様も一緒に会うというのが彼からの条件だった。


(ヴィクトル様、こうしてみるといつも私が誰かと会う時に来てくれるんだよね。

 もしかして、攻略対象者と私が二人きりで会うことになる度一緒にいてくれているのも、嫉妬からだったりして……)


 そんなことを考えて隣をそっと見上げれば、彼の瞳とバチッと目が合う。

 私は一瞬で頬に熱が集まるのを感じ、パッと顔を背けると、そんな私達のやりとりを見ていたルイは呆れたような目を向けて言った。


「なるほど、察しはつきました。 まあ、別に良いですけど」


 彼のそんな言葉遣いに、私は内心驚いてしまう。


(あれ、ルイの口調結構辛辣じゃない……?

 いや、私の前で辛辣なのは何ら不思議ではないけれど、エリナ様の前でもまさかそんな態度を見せるなんて)


 私の知っているエリナ様に見せるルイの口調は、どれも柔らかく、エリナ様を溺愛しているのが分かるほど甘かった。

 だから、彼女の前で見せる私への態度も、幾分柔らかくなっていたはず、だったのだけど……。

 そんな私の驚きに、エリナ様は驚いたような素振りを見せず、困ったようにルイを窘めた。


「ルイ、私達はお邪魔している立場なのだから、誤解されるような口調で話しては駄目よ。

 それに、今日は謝りに来たのでしょう?」

「謝りに来た……?」


 エリナ様の言葉に私が反応したのを見て、ルイは肩を揺らし、俯いてしまった。

 エリナ様はそんなルイを見て、助け舟を出すように口を開いた。


「実は、私からも謝らせて頂きたくて、今日はこうして来させて頂いたのです。

 誕生日パーティーの日のチョコプレートについてなのですけど……、私、お恥ずかしながらルイがチョコレートを嫌いなことを知らなくて、そのせいでアンジェラ様にご迷惑をおかけしてしまって、本当にごめんなさい!」


 そう言って頭を下げるエリナ様に向かって、私は慌てて言った。


「お、お顔をお上げになって、エリナ様!

 あれは私が勝手にしたことであって、貴女が謝ることではないのよ。

 元はと言えば、貴女がチョコプレートに飾り付けをしている時点で、私が気が付いて止めていれば良かったことだもの」

「! やはり、アンジェラ様はルイがチョコレートが苦手だということを、ご存じだったのですね……」


 そんなエリナ様の呟きに、私は慌てて付け足す。


「ご、誤解しないでね! ルイ様から直接聞いたのではなくて……、そ、そう!

 彼が以前、パーティーの時にケーキに載っていたチョコレートを、エリナ様に渡していたのを見てもしかして、と思ったのよ!」

「み、見ていたのですか!?」


 ルイ様がカッと顔を赤くしながら尋ねるものだから、何だか申し訳なくなるけれど、確かに記憶にあって「えぇ」と頷くと、エリナ様は顎に手を当て呟いた。


「あの時は確か、私の方がチョコレートを好きだからと譲ってくれていたんだわ。

 だから、気が付かなかったのね……」


 エリナ様がそう言ってシュンと絵に描いたように落ち込むのが分かって、私は内心焦る。


(わーん! 私がルイのことを知っているのはただの前世オタク知識があるからなんだけどー!

 それを弁明出来ないのが辛すぎるよぉー!)


 前世では、攻略対象者全員(最推しは別格)に興味があったけれど、アンジェラとして生きている今は、ルイ単体にではなく、ルイエリのカップリングとして推しているのよぉおおお!!

 それをどう伝えろと言うんだ、とグルグルと考え込んでいる間に口を開いたのは、意外な方だった。


「要するに、アンジェラは自分のことより、周りのために行動する子なんだ」

「わ!?」


 そう言ったヴィクトル様の手が私の肩に回る。

 そして、私を見て微笑みながら言葉を続けた。


「だけど、その行動があまりにも彼女にとって不利な時もあって、誤解されやすいのが玉に瑕なのだが……、そんな彼女から目が離せない、守りたいと思うのが、アンジェラの良いところでもあるんだ」

「〜〜〜!?」


 そう言って、今度は肩に回した腕を曲げ、私の頭を引き寄せる。


(ヴィ、ヴィクトル様っ!?)


 “約束”しましたよね!?

 これは不可抗力の内に入るんですかぁあああ!?!?

 とは思いつつ、私はそんな彼の言動に嬉しさが込み上げてくる。


(ヴィクトル様、そんな風に思ってくれていたんだ……)


 明らかに、前世の記憶を取り戻す前の私の言動は、誉められたものではない。

 確かに、自ら悪役になりに行ってしまったところもあるけれど、全てが全てそれを善だとは言えない。

 けれど、改心した私を見て、ヴィクトル様は私を、私の言葉や行動を信じてくれている。


(それが何より、一番嬉しい)


 ヴィクトル様を見上げれば、それに気付いた彼が破顔する。

 そんな彼から目が離せないでいると、私の正面に座る彼女が口を開いた。


「……素敵ですね」

「え……」


 そう言って、エリナ様は手を合わせて微笑みを浮かべて言った。


「ヴィクトル様の仰るように、以前から私もアンジェラ様は素敵な方だと思っておりました。 

 困っている人がいれば、必ず助けて下さるような方だと。

 私もそのうちの一人なのです。 

 だから私は、アンジェラ様にずっと憧れておりました」

「……え!?」


(悪役令嬢である私に!? エリナ様が!?)


 驚く私に、エリナ様は言葉を続ける。


「その理由が、アンジェラ様とヴィクトル様は、まるで、『薔薇姫物語』の薔薇姫様と騎士様のように私には見えるんです」

「わ、私が薔薇姫のように……!?」

「はい」


 驚く私に、エリナ様は笑って頷き言った。


「身分こそ全く違いますが、淑女の鑑と言われているアンジェラ様と見守るヴィクトル様のお姿が、また違う『薔薇姫物語』を見ているようで素敵なのです。

 ……私の、憧れです」

「エリナ様……」


 彼女の言わんとしていることが何となく分かる気がして、私が口を噤めば、その隣で黙って聞いていたルイが口を開いた。


「……だから俺は、アンジェラ様のことが嫌いだったんだ」

「え……」


 そう彼の口から紡がれた言葉に、私は思わず固まると、私の隣でヴィクトル様が殺気を放つ。

 ルイはその視線を受けたまま言葉を続けた。


「俺は、アンジェラ様が羨ましかったんです。

 ……エリナを本当の意味で助けていたのは、貴女だったのだから」

「……!」


 その言葉に、私はハッと目を見開く。

 それでようやく、今までアンジェラとして見てきたルイの言動の真意が掴めた。


(ルイが私を嫌っていたのは、ただ単にエリナ様に厳しく当たっていたことに対してではない。 エリナ様に社交場においてのマナーを教えたり、忠告したりしているアンジェラの行動こそが、彼女のためになると気が付いていたからなんだわ)


 ルイは、エリナに救われた恩を感じて、エリナを助けたいと必死だった。

 だから、苦手なはずの社交界で敢えて華やかに振る舞い、女性陣と仲良くすることで情報を得ようとしていた。

 全ては、エリナ様を守るために。


 だけど、ただ守るだけではエリナ様のためにならないと分かっていた。

 そんなところに、(アンジェラ)という存在がエリナ様を結果的に救う形となって現れたのだとしたら、ルイにとっては面白くないのは当然で。


 私がそれに気付いた時、ルイはギュッと拳を握り口を開いた。


「自分でも、分かっていました。

 自分のやっていることは、本当の意味でエリナのためにはなっていないと。

 そんなところにアンジェラ様が現れて、エリナを助けていることに気が付いたんです。

 そんなエリナもまた、アンジェラ様に憧れを抱き始めているのが分かって、自分のやっていることが馬鹿みたいに思えてきたと同時に、焦りと苛立ちを覚えました。

 ……エリナを守れない、自分に対して」

「! ルイ……」


 エリナ様はそんな彼を見て目を見開く。

 ルイは、エリナ様をチラリと見てから、私に向かって頭を下げ、口にした。


「アンジェラ様、ヴィクトル様。

 不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」

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