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最推しが私以外に辛辣すぎる(そんなところも好き)

お待たせ致しました!

第二章、開始致します。

(ひ、久しぶりの最推しぃぃいいい!!)


 私は歓喜に打ち震えていると、向かいの席で紅茶を優雅に飲んでいた最推しは(その姿も当然ながら絵になりすぎて最高で最強)、銀色の髪を揺らし、静かに口を開く。


「……アンジェラ」

「な、何かしら?」


 不意に名前を呼ばれ、ドキッとする私に、彼は形の良い唇で紡いだ。


「そんなに見つめないでくれ」

「……!? ご、ごめんなさい!」


 私は慌てて目線を外したけれど、尋常でないくらいの動悸を感じると共にオタク魂に火がついた。


(え、今の見た!? めっちゃ照れてたよね!?

 私の妄想による幻覚じゃないよね!?

 というか私そんなに見つめてた!?

 確かに推しの一言一句、一秒足りとも逃すまいと心のシャッターを切りながらいつも穴が開きそうなほど見つめてる自覚はありますけど!!

 気が付かれていないと思ってたぁあああ)


 私が視線を逸らしたのを見て、彼はクスリと笑って言った。


「楽しそうで何よりだ」

「〜〜〜!?」


 百面相していたのだろう、私にそう温かな笑みを浮かべて口にするヴィクトル様の言葉に、火照った頬を抑えた。


 11月に入り、夏の暑さも和らいだ頃、私とヴィクトル様は恒例のお茶会を開いていた。

 ルイの誕生日会からニ週間くらい経っているから、ヴィクトル様と会うのも久しぶりなこともあって、鼓動が速いのも分かる。


(それに)


 久しぶりだからか、ヴィクトル様がいつもより甘い気がするのは気のせい……?


「最近調子はどうだ?」

「!」


 ヴィクトル様の言葉に一瞬驚いたものの、笑みを浮かべて言った。


「お陰様で、この通り元気よ。 心配をかけてごめんなさい」

「いや、それなら良いが」


 ヴィクトル様はそう言ってまた紅茶を飲んだ。

 そんな彼を見て、心の中でごめんなさいと謝る。


(本当は日に日に少しずつ、体調が悪化しているのが分かる。

 それも、この“呪い”のせい……)


 ほんの少しずつだけど、一回に眠る時間が多くなっていっている。

 無意識に眠ってしまうことはあまりなくなった代わりに、一度眠ってしまうとなかなか起きられない。

 両親やエメ、侍従達は心配して、色々なお医者様を連れてきて診てくれたけど、いずれも原因は不明。

 それはそうだ、呪いのことは愚か、このバラの印すら誰にも見えないのだから。


「……アンジェラ」

「何?」


 もう一度名前を呼ばれて顔を上げれば、彼はじっと私を見つめて言った。


「何か俺に、隠し事はしていないか?」

「……! どうして?」


 その声が震えなかっただけでも褒めてもらいたい。

 彼のそう言った瞳の奥で、私の心を見透かされているような気がして。

 “呪い”のことを考えていたこともあって、ドクンと心臓が跳ねる私に、彼は言った。


「……今日の君は、何だかいつもと違う気がしたから」


 気のせいなら良いんだ、と彼は呟くように言う。

 私は少し間を置いて……、口を開いた。


「あの、本当は言おうか迷っていたんだけど……」

「!」


 その言葉に目を見開く彼に向かって、私はおずおずと口を開いた。


「ルイ様が、私と話がしたいって」

「却下」

「は、早くない!?」


 ルイ、という名前を出しただけで、要件も聞かずバッサリと切り捨てた彼に、私は慌てて言った。


「こ、今回は二人きりで話がしたいと言っているのではないわ。

 エリナ様も一緒に来たいと仰っているのよ」

「エリナ嬢が?」


 私はその言葉に頷いた。

 そう、今日そわそわしてしまっていた理由は、お茶会の前にルイとエリナ様が訪問したいとご連絡があったからだ。

 ヴィクトル様に言ったら却下されるかもと思いつつ、内緒で会うことも憚られたため、口にしてみたのだけど……。


「そんな暇はないと俺から断りの連絡を入れよう」

「待って待って!?」


(エリナ様だよ!? エリナ様も来たいと仰っているのに何でそんな辛辣なのぉ〜!?)


 ゲーム中ではエリナ様に優しかったはずなのにどうして!? と驚く私に、ヴィクトル様は面白くなさそうに呟いた。


「……あの二人に君を取られたくない」

「はぅあっ!?」


 急なヴィクトル様の拗ねた口調に、私は悲鳴を上げる。


(は、破壊力がハンパないっ……!?)


 可愛すぎるよ私の最推しぃいいい!! なんて悲鳴を上げている場合ではなかった。

 理由は、いつの間にか私の隣に座っていた彼に手を握られたから!?


「!?!?」


 そして、私の手を取りそっと引くと、空色の瞳に戸惑う私を映して言った。


「あの二人ではなく、俺だけを見ていて欲しい。

 誰にも、君を取られたくない」

「〜〜〜!?」


 その瞳の中に、確かな熱が宿る。

 ヴィクトル様は、その唇で柔らかい口調で紡ぐ。


「……アンジェラ」

「っ!?」


 そう口にした彼との距離が徐々に縮まり、鼻先が触れそうになる……距離で、私は声を上げた。


「〜〜〜い、いくら貴方のお願いでも、今回だけは二人に会わせて欲しいのっ!」

「!? な、何故!?」


 ヴィクトル様が驚き、私の両肩を掴む。

 私はそんな近距離で最推しのご尊顔を直視することが出来ず、少し俯きがちに言った。


「きっと誕生日パーティーのことだと思うから、その件に関してきちんとエリナ様にも謝りたいと思って」


 エリナ様が丁寧に作ったチョコレートを、いくら仕方がなかったとはいえ、私が食べてしまったのだ。

 しかも、それについて謝ることが出来なかったから、来て下さると言っているのなら直接謝りたい。

 それに……。


(っ、もしかしたら、私がルイに説教し喝を入れてしまったことで、あの二人にも進展があるかもしれないもの……っ!!)


 もしエリナ様がルイルートに入っているのなら、きちんとこの目で見届けたいっ!

 充実した推し活を、今度こそ満喫したいのよぉおおお!!!

 そんな野望を私が抱いていることなどつゆ知らず、ヴィクトル様は「だが」と困ったように言った。


「ルイと君を会わせたくない。

 君に対する彼の言動は、目に余る」

「!」


(ヴィクトル様は、私のことを思って言ってくれているのね……)


 そんな彼の優しい心が嬉しくて、胸に温かな気持ちが広がるのを感じながら、それでもと口にした。


「どうしても、彼らともう一度お話がしたいの。 ……ダメかしら」

「っ!!」


 自らルイと会おうとは思わないけれど、でも、今回はエリナ様も一緒だし、きみバラファンとしては絶対に見逃したくないところだわっ……!

 という強い信念(オタク魂)を胸に、私はヴィクトル様の瞳をじっと見つめる。

 そんなヴィクトル様は、うっと声を喉に詰まらせ、手を口元に当て考え込んでから口を開いた。


「〜〜〜分かった! 君が良いと言うのなら、会うと良い」

「本当!?」

「あぁ。 ただし……」





 三日後。


「本日はお招き頂きありがとうございます、アンジェラ様」


 ふわりと効果音でもつきそうな柔らかな笑みを讃えて口にするエリナ様に対し、私も笑みを浮かべて返した。


「こちらこそお越し下さりありがとう、エリナ様。 ルイ様も」

「お時間を作って頂きありがとうございます」


 ルイはそう言って、他所行きの笑みを浮かべた。

 慣例の挨拶もそこそこに、部屋に案内して人払いを済ませた後で、本題を切り出そうとした私の前に、ルイが口を開いた。


「あの、一つ伺っても?」

「えぇ、何か?」


 ルイは向かいの席、私の隣に座る人物を見て口を開いた。


「何故ここにヴィクトル様が……」


 その言葉に、私の隣で腕組みをし、明らかに不機嫌オーラを全開に彼は目を釣り上げて言った。


「居ては悪いか」


 そう口にした最推しを見て、私は思わず苦笑してしまうのだった。





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