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悪役令嬢は恋のキューピッドになりたい①

「「「わぁ〜/おぉ〜」」」


 私達の目の前に置かれたケーキに、私を含めエリナ様以外の皆は感嘆の声を漏らす。


(エリナ様、ケーキだけではなくその周りにも飾り付けしたのね……!)


 ケーキには、バラの形のチョコプレートに“ルイ”と名前が書かれ、周りには食用のバラの花弁が施されており、そのケーキの周りにも、食用の花弁で形どられた花々が飾られていた。

 エリナ様は多分、ヴィクトル様が私を待っているのを知っていたから、私を先に終わらせてくれたんだ、ということに気が付き、性格までも天使、いや女神様っ!と思っていると、エリナ様の隣にいたルイが口を開く。


「これも全部エリナが?」

「いえ、ケーキのデコレーションはアンジェラ様にも手伝って頂いたの!

 ですよね、アンジェラ様!」


 そうキラキラした目を私に向けるエリナ様と、あからさまにゲッと言わんばかりのルイの表情を見て、苦笑しつつも頷き言った。


「エリナ様と一緒に作らせて頂いたから、味については保証するわ。

 まあ、万が一何かご不満があるのでしたら、私が()()美味しく頂くから言ってちょうだいね?」


 案に、“毒でも入っているのではとか、不味いのではないかと思うのであれば食べなくて良いわよ♡”とルイに向けて忠告する。


(待って、ルイに対しての私って悪役令嬢っぽくない!?)


 なんて今更思ったことはさておき、ルイは言葉の意図に気付いたようで目を丸くすると、憎らしいくらい爽やかな笑みを浮かべて言った。


「せっかく()()()()作ってくれた物だもの、戴くよ」

「ルイ、アンジェラ様も作って下さったのよ」


 ルイの嫌味に、天使・エリナ様が窘めに入ったのを見て内心ほくそ笑んでいると、ルイはそんな私に気が付いたのか一瞬ムッとしたものの、エリナ様にカットされたケーキを手渡され、恐る恐るフォークに一口取り口にする。

 そして……。


「っ、美味しい!」


 ルイの心からの笑みに、私は思わず驚きを覚えつつ、突如前世オタクが目覚める。


(なるほど、これがルイの最高の表情なのね……!)


 (アンジェラ)には死んでも見せないその笑みは、彼がエリナ様の前と大好物を口にした時だけ見られる最高の笑顔。

 前世では、その笑顔に萌えを感じると、その表情が描かれたスチルが缶バッジやブロマイドとして商品化され、ファンの間で入手困難に陥るほどの人気を博した。


(アンジェラとしてはルイは敵だけれど、前世の私からしたらルイエリも良き!と思っていたのを今思い出したわ)


 ルイは、容姿のせいでいじめを受け、エリナと出会うまでいつも独りぼっちだったという設定があるから、他担でさえ幸せになって欲しいと願うファンは多かったように思う。

 私もそれを思うと、やっぱりルイエリを推そうかなぁ……と考えていると、全員分のケーキを切り分けたエリナ様が、チョコプレートを見て言った。


「そうだわ、ルイ、これ私が作ったの! 食べてくれる?」

「「……!」」


 その何気ない一言に、ルイだけではなく私も驚愕した。

 理由は。


(ルイの公式設定、大嫌いな物はチョコレートなんだもの!!)


 嫌な予感はしていた。

 エリナ様がチョコプレートを一生懸命作っていた時点でおかしいとは思っていたけれど、まさかこうなるなんて!


(ルイは彼女に、それを伝えていないということ?)


 ルイはそのチョコレートをまじまじと見つめているが、瞳は戸惑いから泳ぎ、顔色はどう見ても悪い。


(そう、ただ単にチョコレートが嫌いなのではない。 

 その理由は、彼のトラウマから来ているのだもの、無理もないわ)


 迷っている間にも、エリナ様がシュンとしたように尋ねる。


「お腹がいっぱいかしら?」


 そんな可愛らしい表情に、ルイはうっと声を喉に詰まらせ……、何か言おうと口を開きかけている。


(お、素直に苦手だって言うのかな?)


 そう思った私だったけれど、彼から紡がれた言葉は予想外の言葉だった。

 彼はエリナ様に顔を近付けると、妖艶に笑って言った。


「エリナが食べさせてくれる?」

「「!?」」


(な、な……!)


 なんでそこで自分を追い込むような真似をするのぉーーー!?!?


(言っておくけど、顔面蒼白でそれを言ってもまっっったく格好付かないからね!?)


 そう思わずツッコミを入れる私だったが、エリナ様は気が付かない。

 ただ彼の顔の近さに顔を真っ赤にして、恐る恐るそのチョコプレートをフォークに載せる。


(〜〜〜あぁ、もう!)


 見てられない! と私は思わず席を外した。


「アンジェラ……?」


 ヴィクトル様が驚いたように私の名前を呼ぶ。

 その間にも、エリナ様は顔を赤くさせたまま、チョコレートを載せたフォークをルイの口元へ……。


「あ、あ〜ん……、!?」


 エリナ様が息を呑む。

 その場にいた誰もが、息を呑み部屋の中が静まり返った。

 それは、私がエリナ様のフォークを持つ手を取り、自分の口にチョコプレートを入れたからで。


「ア、アンジェラ様っ?」


 エリナ様が驚愕し、桃色の瞳に私を映す。

 ルイも同様に、目を見開き私を見ていた。

 静まり返る部屋の中で、私は場違いのような声音で口を開いた。


「ルイ様ったらいつまでも頂かないのだもの、私が代わりに頂いてしまったわ。

 エリナ様が作っている時から、美味しそうだなと思っていたから、つい。

 エリナ様、ごちそうさま」


 そう言って私は悪役令嬢っぽく、艶っぽい笑みを浮かべてエリナ様に言うと、エリナ様は少し顔を赤らめて「そ、そうだったのですね」と慌てたように口にする。

 私はそんなエリナ様に内心謝りつつ、口を開いた。


「また今度、スイーツを一緒に作る機会を頂けたら嬉しいわ。

 その時には是非、このメンバーで集まってお茶会でもしましょう。

 ……ルイ様には、チョコレートを戴いてしまったお詫びに、何か()()()()()()()それまでにエリナ様に伝えておいて」

「……!」


 ルイの目を見てそう告げると、私は静まり返っているその場の空気にさすがに耐えられず、笑って言った。


「ジュースがあまり無いようだから、給仕に頼んでくるわ」

「そ、それなら私が」

「いえ、大丈夫よ。 私が行ってくるわ」


 エリナ様の申し出に私はそう返すと、その場を逃げるように後にする。


 部屋から出て扉を閉めたところで、私は思わず頭を抱えた。


(……やってしまったぁああああ!!!)


 だってあの場ではそうするしかなかったじゃない!?

 チョコレートを食べたルイの反応で、エリナ様がガッカリするところなんて見たくはないし、あれしか……、私が悪役になって乗り切るしか方法がなかったのだから!!


(さすがに皆ドン引きしてたわよぉ〜……)


 自分でも引くわ。

 だって、推しのために作ったものを、他キャラに目の前で横取りされるってことでしょ?

 まじふざけんなどころで済まされる問題じゃないわっ!!

 そんな考えに行き着いて、今度こそしゃがみこんだ。


(はい、エリナ様とルイに恨まれるの確定〜……乙すぎる、私)


 馬鹿だわぁ、もう少し考えて行動出来ない? ありえないわぁ……と自分を責めまくっていると。


「ねえ」

「!?!?」


 気配に気付かず、頭上から降ってきた声に思わず飛び退き立ち上がる。

 そして、その声の主……、他ならないルイは、言葉を続けた。


「アンジェラ様。 少しお話出来ませんか?」


(……そうなりますよねぇえええ)


 デジャヴを感じるその展開に、私は思わずため息を吐きそうになりながらも、渋々頷いたのだった。



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