シナリオ改変が私得でしかないんですが!?
(わぁ〜〜〜! これが、エリナ様が企画したルイの誕生日パーティー!)
エリナ様プロデュースということもあり、前世のお誕生日会を思い出すような可愛らしい飾り付けに、ワクワク感と共に懐かしさを覚える。
ルイには申し訳ないけれど、ルイルートの二人きりの誕生日パーティーへ来ることが出来た、予期せぬ聖地巡礼に嬉しみが止まらん!とキョロキョロと辺りを見回している私の隣で、クスッと笑いながらヴィクトル様が口を開いた。
「何だか楽しそうだな」
「えぇ! だってこういう会にお呼ばれするのは初めてだもの、とっても嬉しいわ」
夜会とは違う手作り感のあるパーティーというのは、前世以来の経験で心が躍る。
ヴィクトル様も「そうだな」と頷き、辺りを見回しながら言った。
「こういう親しい友人だけで集まるパーティーというのは、アットホームな雰囲気で良いものだな」
「そうよね!」
私もヴィクトル様に同意すると、後ろから声が聞こえて来た。
「楽しそうで何よりです」
「!」
声のした方を振り返ると、そこには本日の主役・ルイが立っていた。
私はルイに向かって口を開く。
「お誕生日おめでとう。
エリナ様にご招待して頂けたこと、とても嬉しく思うわ。
今日は一緒にお祝いさせて頂くわね」
「……チッ」
(え!? 今舌打ちしなかった!?)
というかめちゃめちゃ機嫌悪いじゃん……、それもそうか、二人きりのつもりだったんだものね、と納得し苦笑いする私だったけど、それを知らないヴィクトル様は爽やかな笑みを讃えて言い放った。
「今私の婚約者に舌打ちしたように聞こえたのだが、気のせいだろうか?」
「嫌だな〜気のせいですよ、ヴィクトル様。
ただ、アンジェラ様が来たことによってまたやらかしてパーティーを台無しにしないか、心配だなと思って」
その言葉に、ヴィクトル様から笑みが消え、目が据わり氷点下の空気を放つ。
「……貴様、誰の婚約者を愚弄しているか分かっているのか?」
「ヴィ、ヴィクトル! 良いのよ、実際その通りなんだから」
「そんなことは」
ヴィクトル様の言葉を制し、私はルイに一歩歩み寄ると、口を開いた。
「そうね、貴方の誕生日会なのだし、粗相のないように気を付けるわ。
ただ、これだけは言わせてちょうだい」
「!?」
私は彼に更に近付き、彼にしか聞こえない声の音量で口にした。
「いくらエリナ様と二人きりになりたかったとはいえ、自分の思い通りにならないからと人に当たるのは、駄々っ子のすることよ」
「……っ!」
その途端、ルイの顔がカッと赤く染まる。
私はルイが固まっている間にヴィクトル様の隣に戻ると、ニコリと笑って言った。
「というわけで、不本意でしょうけれど、今日は私とヴィクトル様も一緒にお祝いさせて頂くわね」
「……」
ルイは何も言わず、黙ってしまった。
それを横目に、私は「行きましょう」と驚くヴィクトル様と共にその場を移動する。
「……何を言ったんだ?」
ヴィクトル様の言葉に、私は肩を竦めて返した。
「態度を改めるように、軽く窘めたつもりなんだけれど……、少しいじめすぎたかしら」
「それくらいが丁度良いんじゃないか」
「……一応、彼が今日の主役なのだけどね」
そんな会話をしていると、招待されていたベルンやアラン、クロードも加わり、攻略対象者+エリナ様、私のシナリオ改変誕生日パーティーが始まった。
「本日はお集まり頂きありがとうございます」
そんなエリナ様の可愛らしい声から始まった誕生日パーティー。
それにしても。
(エリナ様可愛すぎやしないかっ!?)
エリナ様の服装がシナリオ改変されたのと同時に変わっており、確かゲーム中の二人きりの誕生日パーティーは、ワンピースタイプだったけれど、今回はシナリオ改変されて人数が増えたこともあって、私と同じくるぶし丈の簡易ドレスを着ている。
全体が白地で出来ており、色とりどりの小さな花が刺繍され、腰元には桃色のリボンが施されたドレスを着た天使の姿に、思わずかんわぃいいと叫びそうになったほどだ。
(ルイには本当に悪いけど、シナリオ改変グッジョブ過ぎん!?)
という私の心の叫びはさておき、天使のエリナ様は、ルイに話をするよう促すと、彼は少し戸惑ったような表情をしながらも笑みを讃えて口を開いた。
「本日は私のためにお集まり頂きありがとうございます。
誕生日をエリナ以外に祝って頂くことは初めてなので、嬉しいです」
そう朗らかに口にする彼に、私は内心驚く。
(あら、先程の不機嫌さは何処へやら、きちんとお世辞を述べることは出来るのね。
まあ、ただ単に先程のは私に対する当てつけなのでしょうけど)
そうだとしたらめちゃめちゃ恨まれてるわねぇ、と内心思いながら、彼の話が終わると、エリナ様の音頭によって乾杯をして、意外と和やかなムードでそれぞれの談笑が始まった。
「エリナが飾り付けしてくれたんだってね。 ありがとう」
「貴方が喜んでくれたなら嬉しいわ。 お誕生日だもの、特別な日にしないとね」
「! エリナ……」
ルイとエリナ様のそんなやりとりと、流れるほんわかとした空気に、傍観者の私は癒される。
(くぅううう! さすが幼馴染ペア!!
幼馴染という強い絆に加えて、二人の空気感がひたすら和む、そしてビジュが癒しという、前世で話題になった二人の姿を生で拝める日が来るなんてぇえええ!)
カップリング的には、この二人推しのファンが多かったなぁ、確かに分かるわ〜と頷いていると。
「やあ、アンジェラ」
その言葉に後ろを振り返り、私はその方の名を呼ぶ。
「ごきげんよう、ベルンハルト。 それからクロード、アラン」
「ごきげんよう、アンジェラ」
私の言葉に返したのはクロードで、アランは拳を胸に当て騎士の礼をする。
当然ながら、シナリオ改変したこともあり、ヴィクトル様を加えて三人の衣装は見たことのない装いである。
特に、ヴィクトル様の場合は……。
「そのドレス、よく似合っているね。 ヴィクトルから贈られたんでしょう?
ヴィクトルとペアルックな感じがいかにも婚約者!って感じで、ヴィクトルの独占欲が伝わってくるよ」
「……っ」
そのまま私の心を代弁するかのようにベルンに口にされ、戸惑っていると、更にベルンはからかうように続けた。
「それに、この前までは、“ベルン”って呼んでいたのに、いつの間にか“ベルンハルト”呼びに戻っているし。
全てヴィクトルの仕業だね」
「……俺の婚約者を独り占めして何が悪い」
「!?」
そう言ってさりげなく私の一歩前に立つヴィクトル様を見上げ、私の心臓はドキッと高鳴る。
(っ、これが彼の言う“不可抗力な場合”ですかあああ!!)
というか確信したわ。
ヴィクトル様という存在の全てが萌えでしかないから、こうして婚約者として立っている時点で、何をしてもトキメキが止まらんのだぁっ!と改めて認識したところで、アランが口を開いた。
「そういえば、今日のパーティーの準備、アンジェラも手伝ったんだって?」
「そうなの?」
アランの言葉にクロードが驚いたように口にする。
それに対し、「少しだけよ」と口にし、補足した。
「私は後で出てくる予定のデコレーションケーキの飾り付けを担当したの。
エリナ様と共同作業をして作った物だから、楽しみにしておいて」
その言葉に、クロードが目を輝かせて言った。
「アンジェラが作ったんだね! ……そっか、楽しみにしているよ」
「ふふ、ありがとう」
その反応に、ベルンやルイだけではなく、クロードも甘い物が好きだとは知らなかったなと思いながら、何気なく隣を見て気が付いた。
(ヴィクトル様?)
何だか顔が険しいような……。
そんな彼に向かって、具合でも悪いのか尋ねようとしたものの、ケーキの準備が出来たという言葉に遮られ、聞けずに終わったのだった。




