どんな砂糖菓子よりも甘すぎます!!
ルイ・オドランの誕生日パーティー。
それは、ルイルートでエリナが彼の誕生日を祝うために企画した、小さなパーティーのことである。
きっかけは、ルイが誕生日を祝って欲しいと冗談交じりに言った言葉を、エリナが喜んで承諾することで発生するイベントだ。
(これで、エリナ様がルイルートを歩んでいる可能性が高いというのは分かったけど……)
問題は、そのイベントが本来二人きりのはずであること。
つまり、私達に招待状が来ている時点でおかしいのだ。
(考えたくはないけれど、これはまた私が悪役令嬢をしていないことが原因の、シナリオ改変に繋がっているのだとしたら)
エリナ様の手紙には、こう書かれていた。
“この前の星祭りイベントの時、ルイが楽しそうにしていたので、是非また皆様に集まってお祝いして頂けたら、彼も喜ぶと思います。”
(……間違いなく私のせいですねー!)
ルイが星祭りイベントで楽しそうにしていたのは、ただ単にエリナ様と一緒にいられるから。
そして、今回もルイはきっと、エリナ様だけにお祝いしてもらいたいと願ったつもりが、私達のことも誘って皆でパーティーしよう!とエリナ様が言い出したとしたら……。
(あれ、何だかデジャヴを感じるなぁ……)
と、遠い目になりかけたところで、クロードは言った。
「僕もアンジェラが行かないのなら行かないけど」
「同感だ。 ルイ・オドランとは別に親しい間柄ではないからな」
「は、はっきり言うのね」
二人の冷めた口調に驚く私に対し、ヴィクトル様は眉間に皺を寄せて怒ったように口にした。
「当たり前だろう。 君にあんな真似をするやつの誕生日など祝いたくない」
「そ、それは説明したでしょう!? 私が悪いんだって!」
「どんな理由があれ、人気のない場所に君を連れ込んだ罪は重いと思うが?」
そんなヴィクトル様の発言に、クロードが反応する。
「え!? あいつそんなことしたの!? それは許せな」
「ストップストーップ! 落ち着いて、ね!?
それはもう過ぎたことだから!」
私が慌てて二人を制すると、二人は不満そうな表情をするも大人しくなる。
(もう、本当に二人共私のことになると熱くなるんだから)
ヴィクトル様は両想いだし婚約者だからともかく、クロードは私に懐きすぎじゃね!?と思いながら、軽く咳払いをして口を開いた。
「私としては、ルイ様とエリナ様は幼馴染同士だし、二人でお祝いした方が良いのではないかと思ったのだけど……」
(それに、ルイには嫌われているしね)
なんて考えながら口にしたのに対し、クロードは「あぁ、それなら」と口を開いた。
「既に兄上は参加すると伝えたらしいよ。 エリナ嬢も喜んでいたみたい」
「!? べ、ベルンハルトが!?」
「うん」
その言葉に私は頭を抱えた。
(なんてこった! まさかベルンが行くなんて……、ハッ、そうか、もしかしたらベルンもエルナ様のことが好きなのかもしれない!?!?
え、そうなったらどっちを応援すれば良いのぉ!?
私ヴィクトル様以外の攻略対象は箱推し状態なんだけど!?)
ということはつまり、ルイ、エリナ様、ベルン、それから彼の護衛であるアランの計四人が、現状パーティー出席メンバーとなっているわけで……。
…………。
「あの、私……」
「アンジェラ様、クリームの出来はどうですか?」
「後もうちょっと、かしら」
私はエリナ様の問いかけにそう返しながら、内心驚きを隠せずにいた。
(まさか、こんなことになるなんて……)
クロードの話を聞いて悩んだ末、パーティーに出席することにした私は、すぐに返事を出した。
(だってやっぱり、エリナ様の恋の行く末が気になるもの……っ)
これが二人きりのところに行く、となったら完全にお邪魔虫でしかないけれど、先にベルンとアランが行くと言っているんだもの、これは行かないと損じゃない!?
(これまで幾度となくチャンスはあったのに、エリナ様の推し活は出来ていないんだもの、今度こそ見届けたいっ!)
という前世オタクの野次馬根性で手紙を送ったところ何と、エリナ様から誕生日パーティー前にケーキ作りをするから手伝ってくれないかと誘われたのだ!
(しかも、攻略対象者達がいないまさかの二人きり!
それこそ断ると言う選択肢はないでしょ!?)
というわけで、誕生日パーティーの開かれる前の少し早い時間に、エリナ様のお邸・ホワイト伯爵邸へやって来たのだ。
(まさかヒロインの家に来れるとは思わなかったっ)
と全てに感謝しながら、エリナ様に連れられて厨房へ来て、現在に至る。
回想しながらクリームを泡立てる私に、エリナ様は嬉しそうに口を開いた。
「アンジェラ様とお菓子作りがしてみたかったので、今回それが叶ってとても嬉しいです!
お忙しい中お時間を作って頂きありがとうございます」
「こちらこそ、お声をかけて下さって嬉しいわ。
この前は失敗してしまったけれど、今度こそ美味しく作れるように気を付けるわね」
「はい! ルイも喜びます」
そう嬉しそうに笑みを浮かべるエリナ様の姿に、私はそれはないかなと小さく苦笑し、手を動かしながら思う。
(ルイの公式設定は、ショートケーキが好きなのよね。
今私達が作っているデコレーションケーキもショートケーキだから……、さすがエリナ様、幼馴染だから把握しているのね)
そんなことを考えている内に、クリームが大分固まってきたところで、エリナ様に声をかける。
「エリナ様、次は何をすれば良いかしら?」
「では、そのクリームを搾り袋に入れて、円の淵にデコレーションして頂けますか?」
「私がやって良いの?」
「はい、デザインはお任せ致します」
「分かったわ」
私は彼女の言う通り生クリームを搾り袋に入れている時、ふとエリナ様の方を見やれば、彼女は丁度チョコプレートに文字を書いていた。
熱心な彼女の姿を見て、ふと思い出す。
(あれ? チョコレートは確か……)
「「出来た!」」
二人で顔を見合わせ、ハイタッチをする。
(ヒロインと共同作業からのハイタッチ……、幸せすぎるぅ!)
そんな喜びを噛み締めている私の横で、エリナ様は言った。
「後はやっておきますので、アンジェラ様は先に着替えて待っていて下さい!」
「あら、私も手伝うわよ?」
「大丈夫です、すぐ終わりますので!」
「そ、そう? では、お言葉に甘えるわね」
どこか必死な様子のエリナ様に首を傾げつつ、厨房の扉を開くと。
「アンジェラ」
「!?」
ふわりと、どんな砂糖菓子よりも甘い笑みを浮かべて立っていたのは、紛れもない私の婚約者兼最推しであるヴィクトル様で。
「ヴィ、ヴィクトル!? 貴方来るの早過ぎじゃない!?」
「アンジェラが手伝いをしていると聞いて、君に早く会いたくて来てしまった」
「……!?」
(っ、あ、あんま〜〜〜い!!)
言葉の破壊力に悶絶する私に、最推し様は更に追い打ちをかける。
「だが、やはり来て正解だった。
君のエプロン姿を見ることが出来て良かった。 ……凄く可愛い」
「ひょえっ……」
(や、やばいってぇーーー!)
最推しの照れ交じりの“可愛い”に、意味の分からない悲鳴をあげ、赤面する私を見て、彼の“例の”スイッチが入ってしまったらしい。
ヴィクトル様は不意に私に一歩近付いたかと思うと、私の頭に顔を近付け、スンッと鼻を鳴らした。
「……君から甘い匂いがする。 何を作っていたんだ?」
「っ、ケ、ケーキ……、ケーキを作っていたの!」
そう言いながら、距離の近さに思わず反射的に彼の胸を押し返そうとすると、逆にその手を取られる。
え、と驚く間もなく、彼は顔を上げた私を見て、「だからか」と口にすると……。
「……!?」
私に顔を近付けたと思ったら、チュッと軽いリップ音と共に頬に柔らかな感触が訪れる。
私はバッと頬を押さえた。
(い、いいい今のは、キ、キス……っ)
そんな私に、ヴィクトル様はにこやかに告げた。
「頬にクリームが付いていた。 ……甘いな」
「〜〜〜絶対嘘よぉーーー!!」
頬に熱が集中し、動揺しまくる私を見て、ヴィクトル様はクスクスと笑うのだった。




