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急なギャップ萌えには対処出来ませんっ!

 ヴィクトル様に連れられて向かった先は、城下を見渡せる小高い丘の上だった。


「っ、わぁ……」


 城下のお祭りの様子が上からよく見えて、その明るい光と街を照らし出す夕陽が何とも素敵で簡単の声を漏らすと、ヴィクトル様は言った。


「気に入ったか?」

「えぇ、とても!」

「……そうか」


 ヴィクトル様はそう言って柔らかな笑みを浮かべる。

 その表情に驚き、思わず見惚れてしまう私に対し、彼は歩み寄ってくると……、隣に来て、私の肩に頭を置いた。

 ……って、私 の 肩 に 頭 を 置 い た ! ?


「!?!?」


 過去一パニック状態に陥る私に対し、ヴィクトル様は掠れた声で呟いた。


「……君を、一人にさせてしまってすまない」

「!」


 その弱々しい声から、彼がどれだけ心配してくれていたのかが伝わってきて、キュッと胸が締め付けられる。

 私は努めて明るい口調で言った。


「こちらこそ、心配をかけてごめんなさい。 けれど、大丈夫だから!

 ……私はもう、一人でも大丈夫よ」

「……!」


 私の言葉の意図に気付いた彼が、ハッと息を呑んで私を見つめる。

 私もその瞳をじっと見つめ返し、微笑んだ。


(やっぱり、私の幸せは貴方の幸せ。

 貴方が笑顔で日々を楽しく過ごせているのなら、それで良いの。

 ……もうこれ以上、私という荷物を背負わないで)


 そんな思いを込めて彼からの返事を待っていると、ヴィクトル様はポツリと呟いた。


「……俺のことが、嫌いになったのか?」

「え……?」


 思いがけない言葉に目を瞬かせると、彼は私の両肩を掴み言った。


「っ、ずっと一緒にいようというあの言葉は、嘘だったのか……!?」

「ヴィクトル様」


 空色の瞳が、戸惑ったように揺れる。

 そこに映る私も、彼と同様戸惑いを隠せずにいた。


(っ、そんなことを言われたら、解釈違い……都合の良い勘違いをしそうになる……)


 だから私は、小さく口にした。


「貴方のお荷物にだけは、なりたくないの」

「誰が君のことをお荷物だなんて言った」

「……!?」


 彼はそう強い口調で、殺気を露わにして尋ねる。


「ルイか? 今まで野放しにしていたが……、やはりあいつは害悪でしかないな。

 よし、俺が一度シメて」

「ち、違うわ!!」


 ヴィクトル様の口からあらぬ誤解と物騒な言葉が飛び出したところで、慌てて口を開く。


「私がそう思っているの。 ……私が、貴方に相応しくないと思っている」


 私は“バラの印”がある胸元に手を置いてそう口にすると。


「……俺が君のことを必要だと言ったら、君はその考えを変えられるのか?」

「え……っ!?」


 刹那、彼の腕の中にいた。


(あ、う、え、えーーー!?)


 ま、待って待って待って!? これは夢?

 ……なんて、現実逃避している場合ではない。

 彼にきつく抱きしめられているため感じる温もり、匂い、髪にかかる吐息まで、全てが現実だと思い知らされる。

 それに……。


(っ、ヴィクトル様の心臓、速い……)


 最初は私の心臓の音かと思っていたけれど、間違いなくその鼓動は、触れている彼の胸から伝わってきて。

 動揺して固まってしまっている私に、彼はギュッと回した腕に力を込めて言った。


「君は、俺のことを全く分かっていない」

「っ、え……」


 そんな掠れた声で、耳元で囁かれるように縋り付くように言われたら……、私の中で芽生えている感情が加速して止まらない。


(ま、まさか、いや、そんなわけが……)


 グルグルと考えてしまう私に、彼は言った。


「今日だって、本当は二人で来たかった。

 だが、君が『皆で来たい』と望んだから承諾した。

 ……君の喜ぶ顔が、見たかったから」

「っ!」


 彼がそっと身体を離し、私の頬に優しく触れる。

 そして視線が交じり合うと、彼の瞳の中に甘い熱が込められているのが分かって。

 その瞳から目が逸らせなくなる私に、彼は尋ねた。


「目を離してしまったせいで、君に怪我を負わせてしまったが……、それでも、今日の祭りは楽しめたか?」

「!」


(そんなの、決まっている)


 私はスッと息を吸うと、今自分に出来る最高の笑みを浮かべて言った。


「とっっってもたのしかった!!」

「! ……そうか」


 そう言って彼がふわりと笑ったその時。


「あ……!」


 彼の背後で、夜の空を眩いばかりの星が一筋流れる。

 それを皮切りに、沢山の星がまるで競い合うかのように光を放ちながら流れていく。

 その視線に気付いたヴィクトル様は、私に手を差し伸べて微笑みながら口を開いた。


「一緒に願い事をするか?」

「……!」


 それは、幼い頃に私と彼と交わし、毎年欠かさず行っていた“約束”だった。


(『手を繋いでお願いをすれば、ずっと一緒にいられる、きっと神様が願いを叶えてくれる』って……)


 しかも、その提案はヴィクトル様からのものだった。

 私はそっと彼の手に自分の手を重ねると、彼の私より大きな手に力が込められる。

 そんな彼の行動に、心拍数が上がるだけでなく、心がギュッとなるのを感じながら、私は目を瞑り祈りを捧げた。


(私の願い。 それは……)―――






「ヴィクトル様、本当に私達だけ何も言わず、先に帰ってきてよかったの?」


 私がそう恐る恐る尋ねれば、彼はこちらに目を向け、あぁ、と口を開いた。


「大丈夫だ。 あちらはあちらで楽しくやっているだろう」

「そ、それなら良いのだけど……」


(エリナ様は無事に、想い人と二人で流星群を見られたのかしら?

 それ以外の攻略対象達は、男性陣だけで見たのかしら……)


 私からお誘いしたのに、結局彼らをそっちのけ状態にしてしまったのよね……、やっぱり近い内にベルンやアラン、クロードに謝りに行こうと考えていると。


「……君は、俺と二人きりにはなりたくなかったのか?」

「!」


 そうシュンとして口にするヴィクトル様の表情に、ズギュンッと心臓が撃ち抜かれる。


(か、かわっ……! 子犬みたい……!)


 なんだ私の最推しっ! 格好良いと可愛いを兼ね揃えているなんて、私聞いてないぞぉっ!?

 そんなヴィクトル様を目の前に、淑女の仮面を被ろうとしたのだけど……。


(っ、やばい、頬が熱いっ!)


 想像以上の最推しのギャップの破壊力に、完全に語彙が萌え、萌え……! しか出て来ず、顔を抑える私の向かいで、最推しはポツリとつぶやいた。


「……なるほど、アンジェラは押しに弱いのか」

「え……っ!?」


 その途端、最推しが突如立ち上がり、私の隣に移動してきた。


「!?!?」


(ち、近いんですけどーーー!?)


 馬車の中は広いのに、ヴィクトル様は何故か私との距離を詰めるように座ってきたのだ。

 そして、固まる私をよそにそっと私の手を取ると、口を開いた。


「俺は星に願うよりも、君にお願いしたいことがある」

「わ、私!?」


 近すぎる距離感(最推しの距離感バグは本当に心臓に悪いっ!)と唐突なヴィクトル様のお願いにキャパオーバー寸前の私に向かって、彼はゆっくりと口を開いた。


「以前のように、俺のことは“ヴィクトル”と呼んでくれないか」


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