生身の最推しの破壊力…っ(悶絶)
「わぁ……っ」
(これが、星祭り……!)
目に飛び込んできた光景……、活気づいた街の様子に私は圧倒される。
(凄い凄い凄い! 確かに毎年訪れている記憶もあるけれど、前世の記憶を取り戻した今は、聖地巡礼感覚で本当に楽しい……っ!)
「アンジェラ様、何だか嬉しそうですね」
そう声をかけてきたのは、天使の微笑みを浮かべるエリナ様だった。
その構図にも内心歓声を上げる。
(聖地にヒロインがいる……っ!
アングルはどこから見ても完璧!!)
さすがはヒロイン、これは皆がメロメロになる!
私も男性だったら確実に惚れているわ!
そんな感情はおくびにも出さず、笑みを浮かべて言う。
「えぇ、もちろん。 年に一度のお祭り、それもこうして貴女や皆と周れるとは思ってもみなかったから、これでもかなり浮かれているの」
うふふ、と上品に笑ってみせると、エリナ様は屈託なく笑った。
「私もです! アンジェラ様からお声がけ頂いたと聞いて、本当に楽しみにしておりました。
ありがとうございます」
「こちらこそ。 今日は目一杯楽しみましょうね」
「はい!」
(これよこれ! “悪役”なんかではなく、わたしは純粋に推し活をして、ヒロインとガールズトークをする仲になりたかったのよぉ……!)
何だか後ろから若干一名、刺すような視線を感じるけれど、そんなこと知ったことではないわ。
今日は全員集合したんだもの、絶好の推し活日和だと思わない!?
(ただ困るのは、聖地巡礼+ヒロイン+攻略対象5人を同時に見ることが出来ないもどかしさっ……、わーん、圧倒的目が足りないよぉ!)
せめてカメラ! 誰かカメラプリーズ!!
という切実な思いで、前を歩きながらベルンと話している最推しの横顔をじっと見つめていると。
「あっ、見て下さい、アンジェラ様!
スタードームがありますよ!」
「!?」
エリナ様の“スタードーム”という言葉に、私の意識はそちらに集中する。
(っ、これが、あの……!)
私はキャーッと心の中で手を叩いた。
“スタードーム”とは、“スノードーム”にちなんだ、ゲーム内に出てくるアイテムのこと。
スノードームとは違い、ドームの中が“雪”ではなく、“星”に見立てた金の粒が入っている。
(星祭りの際に攻略対象キャラからもらうことで、シークレットエピソード……、いわゆる糖度高めのエピソードが読める仕様なのよね!!)
これをもらうには、その時点でかなり高い好感度が必要になるから、エリナの会話の選択肢は、ほぼ全て好感度が一番高い正解を選ぶことが必須。
(私もこれを読むために各キャラを何周したことか。
だけど不思議なことに、何故かこのシークレットエピソードが、ヴィクトル様とそれからアランだけないというね……!)
私はまずヴィクトル様がないことを知らず、私のゲームだけバグが生じているのかと大号泣しながら、何回もやり直している内に、公式からその二人だけはないということが発表されたのよね。
(それを知ったファンは大激怒からの炎上していたっけ……)
本当に二人だけないのが不思議だわぁ……。
「エリナ、何か好きなものはあった?」
「どれも素敵だから目移りしてしまうわ」
そんな二人の会話が隣から聞こえてきて見ると、エリナ様と話しているのはルイだった。
(え、ここへ来てルイにもフラグが立っているの!?)
わーん、めちゃめちゃエリナ様の恋愛事情が気になるーーー!
(残念ながら今の私には、エリナ様から恋バナを聞けるほどの友情が育っていないのだ……っ)
それどころか、ついこの前までいじめていたやつに、誰が『私の好きな人はこの人です♡』って教えると思う!?
(いや、女神エリナ様なら聞いたら教えてくれそう……)
いっそ当たって砕けろ、いや砕けたくないから一か八かで聞いてみるか?
と悶々と考えていると。
「アンジェラは何か好きなのあった?」
「え……」
声をかけられ隣を見れば、いつの間にかクロードが金色の瞳をこちらに向け、ニコニコとしていた。
(やばっ、全然スタードームのほうを見ていなかった!)
エリナ様の恋愛事情が気になりすぎて……と自分に言い訳しながら、慌ててそちらに目を向け、誤魔化すように言う。
「えーっと……、どれも素敵で選べないわ」
「そう? じゃあ、ここにある物全て買ってあげようか?」
「……え!?」
思いも寄らないクロードからのぶっ飛んだ提案に、私は言葉を失うと、その後ろから彼の兄であるベルンが窘めるように言った。
「こーら、クロード。 アンジェラが困っているよ。
……それに、そういう役目は婚約者であるヴィクトルに任せてあげないと」
「「!?」」
ベルンから突然話を振られたヴィクトル様は驚いたように目を見開き、こちらを見た彼と視線が重なる。
(な、何この急展開!?)
え、ヴィクトル様ルート、幻のシークレットを私が体験するの!?
(ま、ままま待って!! それともこれは私に都合の良い解釈違い!?)
そんなパニック状態に陥り石化していることなどつゆ知らず、ヴィクトル様は私の背後にやってくると、圧倒的イケボで口にした。
「何が欲しいんだ?」
「!?!?」
(ち、ちちち近いんですけどっ!?)
生身の最推しに出会って分かったこと、それは。
(距離感がバグってるっ!!)
アンジェラである私に、こんなサービス精神旺盛だなんて聞いてないんですけどぉ!?
つまり、何が言いたいか。
〉〉〉心臓がいくつあっても足りん〈〈〈
「アンジェラ?」
(あ〜〜〜名前を耳元で呼ばないでぇ〜〜〜)
最推しの破壊力にぴえんの私は、全力疾走した後状態の息苦しさを感じながら、何とか意識をスタードームに向ける。
(でも本当に、どれも素敵……)
星祭りは恋人のイベントということもあり、どれもカップルモチーフの作品が多い。
実はこの私も、前世公式にスタードームの商品化を切望する声を上げた者の一人だ。
(まさか転生して、本物をこの目で拝める日が来るなんて……っ!
デザインも凄く凝られていて、一つ一つ違うのね。
手を繋いでいるものとか……、あ、キスしてるのまである! こっちは結婚式!?
え、本当にどれも素敵!)
「……ふっ」
「ヴィクトル様?」
頭上で吹き出し笑いが聞こえ、顔を上げてヴィクトル様を見上げると。
「……っ」
私は思わず息を呑む。
(ヴィクトル様が、笑ってる?)
彼が微笑む姿は、ゲーム内のスチルを含め何度も拝見したことがある。
けれど、今彼が浮かべている表情は、普段クールで大人びている彼からは想像もつかないほど、無邪気でまるで少年のような悪戯っぽい笑みを浮かべていて。
惚けている私にヴィクトル様は言った。
「いや、君の表情がコロコロ変わるものだから、見ていて面白くて、つい」
「〜〜〜面白い!?」
(可愛いと言われないのがさすがアンジェラ!
可愛い担当はエリナ様だものね!
いや、可愛いと言われたらそれはそれで息の根が止まってしまいそうだから良いのかも……)
「って、私表情がそんなに変わっていたかしら?」
「あぁ。 楽しそうで何よりだ」
「〜〜〜い、行きましょうっ!」
「あ、おい、まだ何も買っていないぞ?」
「良いの!」
(本当は一つだけ、目を奪われたものがあったのだけど……、もし後で買えそうだったらお土産で買って帰れば良いわ)
それよりも、今は頬が熱い……。
私はヴィクトル様の背中をグイグイと押して、不可抗力で赤くなってしまった顔を見られないように俯くのだった。