最推しからの推し活確約!頂きましたー!
「それで、私に話したいことって何かしら?」
(わーわーわー! ヴィクトル様の方から私に話したいことって何!?
嬉しすぎるー! 録音したーい!!)
なんて浮かれている心をおくびにも出さず、にこやかに尋ねた私に対し、彼は困ったような顔をして一向に話し出さない。
(そんな顔もかわ……っじゃなくて!
え、何この流れ。
もしかして……、今度こそ婚約破棄!?)
そんな私が青褪めたことに気が付いたらしい。
彼は「悪い知らせではない、と思う」と早口で言ってから、ゴホンと咳払いをして言った。
「もうすぐ星祭りだな」
「!」
そうだ、あの“呪い”を被ったお祭りが行われる日。
もう来月に迫っているのね……。
そんな私に対し、彼は言う。
「その祭りのことなんだが、その……」
彼はそこまで言って口籠ってしまう。
その様子を見てハッとした。
(もしかして、毎年私二人で行っていたけれど、今年はエリナ様と行きたい、とか……!?)
でないと、ここまで言い出しにくそうにはしないはず。
そう考え、私は口を開いた。
「分かったわ」
「え?」
彼は顔を上げる。
それに対し、私はにこやかに笑って言った。
「今年はエリナ様やベルンも誘って、皆で行きましょう!」
「……は?」
「……え?」
彼が唖然とした表情をするのを見て、私の心は一気に萎む。
「……違うの?」
「!」
(やっぱり嫌よね。 エリナ様と二人きりの方が絶対良いわよね……)
確かゲーム内でもそうだった。
“星祭り”イベントでは、ヒロインが自ら好感度を上げたいキャラ……好きなキャラを直接誘いに行くのだ。
(あんなに可愛く真っ赤になりながら、『一緒に行ってくれませんか?』なんて言われたら、そりゃ好きになっちゃうでしょ……!)
……あれ? よく考えたら、そんなエリナ様のデートの邪魔をしてしまうことになるわよね!?
皆でとか言っちゃったよー!!
(一緒に行けば推し活し放題! なんていう目先の誘惑に駆られたばかりに……っ)
これでは傲慢悪役令嬢に逆戻りだぁー!
と自分を殴りたい衝動に駆られ、私は自分の言葉を撤回しようと口を開きかけたその時。
「……分かった」
「え?」
ヴィクトル様から紡がれた言葉に、今度は私が驚いていると、彼は言った。
「今年は皆で行こう」
「本当!?」
「あ、あぁ」
思わず前のめりに食いついてしまった私に対し、ヴィクトル様は少し引き気味に頷いた。
失敗したと思ったけど、オタクの喜びは止まらない。
(っ、やったぁーーー! これで生のイベント! 聖地巡礼! 生のキャラ!
思う存分推し活出来るぞぉー!!)
淑女の仮面など忘れて頬を緩ませる私を、ヴィクトル様が困ったように笑っていたことになんて無論、浮かれていた私が気が付くことはなかったのだった。
9月に入り、街が星祭りの準備に追われている頃、私は王家が管理している王立図書館へやって来ていた。
目的は一つ。
“薔薇姫の呪い”を解く方法を探すため。
「……とは言っても、“呪い”関連の本なんてどこにもないのよね……」
そもそも、おまじないや呪いなんて言葉すら、どちらも聞いたことがない。
それはそうだ、そのようなものがあることなんて知られたら私のような被害者が出たり、悪い人に悪用されかねないもの。
(薔薇姫関連の本といえば、以前から大衆に愛されている“薔薇姫物語”だけ……)
私は茶色い革表紙のその本を手に取ると、席に着きパラパラとめくりながら思う。
(それにしても、この物語はハッピーエンドなのに、どうして失敗すると“呪い”になってしまうのかが不思議だわ。
それに、物語中にそんなおまじないがあることなんて、どこにも書かれていないし……)
やっぱり、あの占い師に騙されたということかしら、と一人で唸っていると。
「……アンジェラ?」
「!」
不意に名を呼ばれ、弾かれたように顔を上げた私は、あっと声を上げ、その名を口にした。
「クロード!」
「しっ、声が大きい」
「あ……、ご、ごめんなさい」
「大丈夫。 誰もいないみたいだから」
そう言ってふわりと笑う彼の姿を見て、私は設定を思い出す。
クロード・フィリエ。 この国の第二王子であり、ベルンハルトの弟である彼は、ベルンハルトの髪と瞳の色を逆転させた美少年である。
歳は14歳、いわゆる年下キャラのポジション。
そして、アンジェラと幼馴染であり、よく懐いてくる子犬系男子だ。
そんな彼に向かって私は口を開く。
「クロード、お久しぶりね。
また見ないうちに、身長も伸びたわね」
「うん! アンジェラとは一年ぶりくらい、かな。
その間に大分身長も伸びたよ!
多分、アンジェラの身長を越せたんじゃないかな」
「ふふ、頼もしいわ」
クロードは照れ臭そうに笑う。
(クロードは、今でこそこうして私に懐いているけれど、昔から人見知りなのよね。
そして、彼は王家の中では異質の学者を目指している。
そのことで周囲から賛成を得られず、苦しみながらも日々書物の研究をしている……)
つまりは秀才であり努力家だ。
私自身も、そんな彼を弟のように見守り応援していることから、クロードは私には心を開いてくれているらしい。
(そんな彼が反抗期だなんて信じ難いわ)
でも確かに、ゲーム中ではエリナの前でもツンデレだったような気がする。
好きな子に対しては素直になれない系なのかな〜なんて思っていると、彼は私の手元を見て言った。
「まさかここで会えるとは思わなかったよ。
……もしかして、それも僕に聞きたいことがあると言っていた内容に関する本?」
「! 実はそうなの! 私、ば……っ」
“薔薇姫物語について聞きたい”と言おうとしたけど、その言葉は口から出ることはなく、代わりに“呪いの印”が鈍く痛む。
(っ、なるほど、人に伝えようとするとこうなってしまうのね……)
そんな私の様子がおかしいことに気が付いたクロードは、慌てたように言う。
「だ、大丈夫!? どこか具合でも」
「いえ、何でもないわ」
私がにこりと微笑んでみせると、彼は「良かった」とホッとしたように言い、私の手元の本に視線を落とし、あぁ、と口を開いた。
「それ、“薔薇姫物語”だよね?」
「! 題名を見ないでも分かるの!? 凄い!」
そう私が心底驚き称賛すると、クロードは頬を赤らめ言った。
「た、大したことじゃないよ。
僕もその本について、少し調べたことがあったから知っていただけで」
「……!」
(クロードはこの本について調べていたことがある!?
それは尚更、強い味方だわ!)
私はそんなクロードの言葉に身を乗り出し、尋ねた。
「この本について、分かることがあったら教えてほしいの!」
その言葉に、彼は驚いたように声を上げる。
「珍しいね。 まさかアンジェラが、この本に興味を示すとは思わなかった。
何かきっかけでもあるの?」
「! それは……、そう、この本が好きで、もっとよく知りたいと思ったから……」
(くっ、呪いについて言えないから、我ながら言い訳が苦しいっ!)
そんな私の口調に、クロードは少し間を置いて、「そっか」と納得したように頷き言った。
「僕でよければ、研究して分かったことを教えるよ」
「っ、本当!?」
彼は頷くと、口を開くのだった。