No.1よりやっぱり最推し!
(ど、どうしてこんなことに……)
夜会の翌日。
私の元をある方々が訪ねてきた。
その方々とは、ヴィクトル様と……。
「突然で申し訳ないね、遊びに来てしまって」
紛れもないフィリエ王国第一王子であり、“きみバラ”攻略対象であるベルンハルト・フィリエ、本人で。
それにしても。
(……眩しいっ)
昨夜の夜会の際は、遠くから眺めていたから気付かなかったけれど、さすが“きみバラ”No.1、隣にNo.2であるヴィクトル様がいることも相俟って、ただただお二人の姿が神々しい……っ!
(この二人と殿下の護衛騎士として後ろに控えているアランと幼馴染だなんて……、自分で言うのもなんだけれど、アンジェラも美人だから、美形の周りには美形が集まるのね)
推し活したいのに、神々しさに当てられて推し活出来なーい!!
と、前世オタクの複雑な心境と葛藤している私に、ベルンハルトが言った。
「本当なら昨日会えるはずだったのだけど、どこかの誰かさんが独り占めして連れ帰ってしまったからね」
その言葉に、ヴィクトル様がムッとして返す。
「人聞きの悪いことを言うな。
昨日はルブラン夫人の命日だから、墓参りに行くと事前に伝えてあっただろう」
「ふーん? ま、そういうことにしておくよ」
彼はそう言うと、今度は私の方に目を向けて言った。
「私も昨日は行けなかったからね、今日この後夫人のお墓参りに行ってくるよ」
私はその言葉に手を叩き、笑みを浮かべて言う。
「本当!? ありがとう。 それはお母様もお喜びになるわ」
「「!」」
二人と後ろに控えているアランまでも、目を丸くして私を凝視する。
そして私は内心焦る。
(あれ、私何か変なことを言った!? それとも表情が変だったとか……!)
私が首を傾げたのを見て、ベルンハルトは恐る恐ると言った風に口を開いた。
「……本当に君は、アンジェラなんだよね?」
「えぇ、そうよ」
「私の好きな食べ物は?」
「ザッハトルテ。 というより甘い物全般。
7歳の時に虫歯が見つかって『甘いものが食べられない』と言って私達とお茶会をした時に泣いていたことまで覚えているわ」
「そのエピソードまで覚えていたの!?
……ではなく、間違いなくアンジェラなんだね」
「えぇ」
(まぁ、別人として生きていた記憶もあるから、やはりそのせいで別人に見えるのかもしれないわね)
私は笑みを浮かべると、ベルンハルトは咳払いをして言った。
「先月茶会の場で倒れたと聞いて心配していたのだけど、その後具合はどう?」
「お陰様で、この通り元気よ。 ただの疲労だと言われたわ。
皆に心配をかけてしまって申し訳ないくらい」
(自業自得の“呪い”のせいだとは言えないし、たとえ言えたとしても更に大ごとになってしまうだろうから、何としても早急に呪いを解かないと)
そう思った私は、ベルンハルトに向かって尋ねた。
「クロードは元気? 最近お会いしていないけれど」
その言葉に、ベルンハルトは肩を竦めて言う。
「お陰様で、絶賛反抗期だよ。
相変わらず自分の部屋に閉じこもって研究している」
クロードとは、ベルンハルトの弟であり、この国の第二王子である。
もちろん、彼もまた“きみバラ”の攻略対象であり、そして彼こそが私の強い味方……、“呪い”について何か知っているかもしれない方なのだ。
(だから何としても、今は彼に会わないと)
私はそう思い、口を開いた。
「今度、クロードとお会いしたいのだけど、約束を取り付けてもらえないかしら?」
私の言葉に、二人とも驚いたような顔をするから、誤解が生じたことが分かって慌てて言葉を付け足す。
「少し歴史の勉強で躓いたところがあったから、教えて頂こうと思ったの」
「あぁ、そういうことか。
びっくりした、急にクロードと会いたいと言うから何かあったのかと思った」
「クロードでなくても、俺達にも分かるんじゃないか?」
ベルンハルトに続くヴィクトル様の言葉に私は言う。
「彼の専門知識をお借りしたいなと思って」
「……」
その言葉に、何故かヴィクトル様がより一層不機嫌になったものだから驚いていると、ベルンハルトはあははと声を上げて笑った。
「クロードがアンジェラと仲が良いことを知っているから、ヴィクトルは取られるのではないかと気が気でないんだよ」
「おい、ベルンハルト、余計なことを言うな」
「? クロードとヴィクトル様って、そんなに仲が良いのだっけ?」
あれ? ヴィクトル様、震えてるんだけど……。
そんなヴィクトル様の肩をポンポンと叩きながら、ベルンハルトは言った。
「分かった、クロードに伝えておくよ。
まあ、クロードのことだから、君のことだったら喜んで時間を作ると思うよ」
「本当!? 嬉しいわ」
(これで“呪い”を解く別の方法への近道に繋がるかも……!)
問題は、この“呪い”のことについてどうやって伝えるかよね。
(口にするのも書くのも駄目……、直接的な表現は出来そうにない)
さてどうしたものかと考え込んでいると、クスッという笑い声が聞こえてきた。
顔を上げると、ベルンハルトが笑って言った。
「やっぱり、君は変わったね。 アランやエリナ嬢が言っていた通りだ。
……何か変わったことでもあったのかな?」
「!」
彼の金色の髪から覗く紺の瞳が私を捉える。
その瞳の奥は、確かに私の心情を探っているようにも見えて。
(……さすが、王太子であり攻略対象キャラNo.1ね。
普段は優しいのに、時折見せる王子としての一面……、洞察力に優れているところにギャップを感じると、人気を博した)
でも、私の最推しはあくまでヴィクトル様なのよね。
私は笑みを零すと口にした。
「ヴィクトル様からも聞いていると思うけれど、倒れた時あまりにも苦しくて、その際に自分のしてきたことは、傲慢で身勝手なことばかりだったことに気が付いたの。
だから今は深く反省して、同じ過ちを繰り返さないよう努力しているだけ。
分かって頂けたかしら?」
「……そう、分かった。
それなら、私はアンジェラのことを信じるよ」
「「!」」
その言葉に、私だけでなくヴィクトル様まで驚くと、それを見たベルンハルトは拗ねたように口にした。
「私は君達の幼馴染だよ?
それに、アンジェラが嘘を言っている感じはしないし、私は幼馴染として君を信じるよ」
「ベルン……」
思わず最近では呼んでいなかった彼のあだ名を口にすると、彼は笑って頷き、「さてと」と立ち上がり言った。
「私はこれで失礼するよ。
後はヴィクトルが君に話したいことがあるそうだから、ごゆっくり」
ベルンはそう言うと、手を振って行ってしまう。
アランもこちらに礼をし、ベルンの後を追って行ってしまったのだった。