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回想:薔薇姫の呪い

 ヴィクトル様に送ってもらい帰宅した私は、寝る仕度をして部屋に一人になると、自室の本棚を漁り出した。


「確かこの辺に……、あぁ、あった」


 私は本を数冊取り出し、その奥に仕舞い込んでいた箱を取り出した。

 その箱は両手ほどのサイズで、幼い頃よく使っていた箱だ。


「当時は大きいと思っていたけれど……、こんなに小さかったのね」


 私はそう呟き、そっと箱を撫で南京錠に触れる。

 その南京錠は、決められた数字4桁を合わせて解錠する仕組みになっている。


(確か、その番号は……)


 私は4桁の番号を記憶の通りに揃えれば、ガチャリと音を立て錠が外れた。


「やっばり。 私とヴィクトル様の誕生日よね。

 私、どれだけ彼のことを好きだったのよ」


 まあ、今も好きだけれど! と突っ込みながら、その箱の蓋に手をかける。


(落ち着いて、私。 大丈夫だから……)


 深呼吸をしながらそう言い聞かせ、震える手で何とかその箱を開ける。

 そして、中にあった物は。


「やっぱり、ここにあったのね……」


 その箱の中には、一枚のボロボロの紙だけが入っていた。

 その紙には、私の“呪い”の元凶となった魔法陣と、まだ幼い不器用な字で名前が二つ書かれていた。

 そう、これが全ての……、“薔薇姫の呪い”を被ることになってしまった、悲劇の始まりだった―――






 今から七年前、私が8歳の時。

 お母様を亡くし、塞ぎ込んでしまった私は邸から外に出ない日々が続いていた。

 そんな私を、ヴィクトル様は“星祭りに行こう”と誘ってくれた。

 正直全く気分が乗らなかったものの、毎年ヴィクトル様と訪れていたということもあり、お父様にも勧められて祭り会場である街へと向かった。

 けれど、人混みの中でヴィクトル様と離れてしまい、近くにいたはずの護衛の姿もなく、一人迷子になってしまった私は、改めて“孤独”に対する恐怖へ陥った。

 その時、フードを目深に被った女性に声をかけられた。


「寂しいのね」


 不意に投げかけられた言葉に、私は泣き出してしまった。

 声音は高く、若い女性のようだったけれど、見知らぬ人であることには変わりない。

 いつもだったら警戒するはずが、その時ばかりは的確に自分の心を読まれてその場から動けなくなってしまった。

 その女性は私の目の前でしゃがむと、ハンカチを取り出して私の目元を拭ってくれた。

 そして、優しい声色で言ったのだ。


「泣かないで。 代わりに、占い師である私が“おまじない”を教えてあげるから」


 そう言って取り出したのは、一枚の紙だった。

 それには、何やら複雑な記号が描かれていた。

 驚く私に、彼女は言った。


「これはね、“薔薇姫のおまじない”と言うの。 

 薔薇姫様が騎士と交わしたおまじないよ」

「薔薇姫様と騎士様の、おまじない……?」

「えぇ。 これはね、“魔法陣”と言うのだけど……、この円の上に想い人と自分の名前を書くと、ずっと一緒にいられると言われているわ」

「! ずっと、一緒に……?」


 私の言葉に、彼女は頷き「ただし」と口にした。


「自分の名前と相手の名前は、それぞれ本人が書かなくては駄目。

 そうでないと、災い……悪いことが起きると言われているから気を付けてね」

「!」


 驚く私に、彼女はそのメモを私の手に握らせる。

 その手は暖かく、綺麗な手だった。

 私がもう一度彼女を見ようと顔を上げた時にはもう、その方の姿はどこにも見当たらなかったのだった―――






「……そして私を、ヴィクトル様はその後すぐ見つけ出してくれたのよね。

 その時に、この紙を見せて頼んでみたのだけれど、ヴィクトル様は幼い頃から現実主義者で、言ったんだわ」


『そんなおまじないなどなくても、僕は君の側にいる』


 その言葉で満足すれば……、信じれば良かったのに、幼い私はお母様を亡くしたばかりでその言葉を信じきれなかった。

 帰宅してからも、占い師のお姉さんの“ずっと一緒にいられる”という言葉が頭から離れなくて……、忠告されたのにも拘わらず、ヴィクトル様と自分の名前を私が書いてしまった。

 それによって、魔法陣が光り出したと思ったら、淡い黄色の花弁が8枚、私の胸元に飛んできて……、それがそのまま肌に張り付くように浮かび上がるようになった。


 私はパニックに陥った。

 いくら剥がそうとしても取れず、急いでお父様や侍女に知らせようとしたが、“薔薇姫のおまじない”関連の言葉は口から発することも書くことも出来ない。

 また、この胸のバラの印も魔法陣が描かれた紙も、誰にも見えなかったのだ。


 その翌朝、変化が起きた。

 魔法陣の紙の裏に、文字が現れたのだ。

 そこには、“薔薇姫の(のろ)い”という文字と共にこう書かれていた。


「“花弁が16枚となる16歳の誕生日までに、想い人と両想いにならなければ眠りにつくだろう”」


 ボロボロになった紙には、今でもそう書かれている。


「だから私……、アンジェラは、ヴィクトル様と何が何でも両想いになろうとしたの」


 その結果、悪役令嬢と化し、好かれるどころか嫌われたまま、ゲームでは突然死を迎えてしまった……。


「寂しさから逃れようとして起こした行動が、結局更に孤独を抱えることになるなんてね」


 だからといって、私はあの自分を占い師だと言った女性を恨んでいない。

 あの占い師は、確かに私に忠告したのだから。

 私が“おまじない”を“呪い”に変えてしまったんだ。


(名前を、本人が書かなかったから)


 でも、もしこれが仮に本人が書いたとして、彼自身に万が一“呪い”が降りかかってしまっていたらと思うと、私だけに止まって良かったのかもしれない。


(いや、一番はそんな怪しげなものを信じた私が悪いのだけれど……、それは自業自得なのだから、後は自分で何とかしなくては)


 幸い、今の私には一人強い味方がいる。


(こういったことに詳しそうな“彼”ならば、何か分かるかもしれない)


 まずは自分に出来ることを……、呪いを解く方法が他にないか探さなくては。


「よし、早速行動開始ね!」


 何としても呪いを解いて、ヴィクトル様の幸せをこの目で見届けなくちゃ……!

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