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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
二章・クラウゼルでの日々

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極炎の中で【前】

 首を大きくひねり、吐き出された炎の息。火山の中を思わせるこの空間において、それらの熱を凌駕する、人知を超越した炎が宙を這う。

 扇状に広がる業火が、瞬く間にレンの目の前へ。



「な――――ッ」



 世界が止まったような感覚だった。

 ブレスが迫る。けれどレンは意外にも冷静だ。

 広がる炎を前に、大きく息を吸って、



「いつまで寝ぼけてるんだよ……赤龍!」



 木の魔剣を頭上へ大きく振り、壁へ生やしたツタで地面を脱する。

 煌々とした火花がアスヴァルの体躯から舞い上がり、超高温の突風がレンに向けて加速した。

 魔法ですら超常現象と言うに相応しきそれなのに、アスヴァルは巨躯に纏ったそれすらも、残酷なほど伝説だった。



『弱き者よ、羽虫の真似事とは滑稽な』


「愚かはどっちだ。魔石になり果てたあげく、女の子を抱え込んでまで戦いを欲したお前と俺――――どっちが愚かだっていうんだッ!」



 飛翔したレンの目の前が揺らいだ。

 圧倒的な熱が迫って、いまにもレンを焼き尽くしてしまいそう。

 けれど、レンはある確信を抱い(、、、、、、、、、、)て拳を突きだす(、、、、、、、)

 疲弊が見える頬を煌々とした風が撫でるより先に――――



「お前が相手なら手段なんて選んでられない! 卑怯と言いたければ好きに言え!」



 突きだしたままの拳の先で、魔力の盾がレンの前方を覆った。

 先ほど、はじめてレベルが上がるに至ったそれは、これまでと比べて更に強固で、レンの意思に従って広く展開した。



(ああ)



 宙で無理やり体制を整えたレンは前方を見て、魔力の盾が一瞬で壊れなかったことにやはり、と頷き、すぐに全体がヒビ入ったことでアスヴァルの強さを再確認。

 煌々と輝く風を突破した後に、懐から取り出した小瓶をアスヴァルの体躯に向けて放り投げた。



 ――――それは、変哲もない小瓶だった。



 中にとある液体が入っただけのそれが、アスヴァルの体躯にたどり着く直前、その体躯に纏う熱により瓶が解けた。

 液体は一瞬で蒸発したが、その僅かな蒸気がアスヴァルを撫でた。



『グ……ォ……ッ!?』



 刹那、アスヴァルが揺らいだ。

 纏う熱は微かに鳴りを潜め、間近に迫りつつあったレンへ瞳を向けた。

 見ていられるだけで身体がすくみ上りそうになる。

 でもレンは、別の小瓶を取り出して中身を飲み干す。



「痛いか! アンデッド!」


『……羽虫め、余を侮辱するかッ!』


「すべて真実だ! お前がアンデッドで、アンデッドにポーションは毒になるってことも!」



 原理は単純。

 怪我や体力の回復に用いるポーションは、その効果自体がアンデッドには逆に作用する。人にとっての治療がアンデッドには効果が裏返ってしまい、苦しみをもたらす。



 が、ポーションの備蓄はあまりない。

 道中、その多くをフィオナに使ったことで、残すはあと数本。

 包み隠さず言ってしまえば、明らかに足りない。

 跳躍し、一瞬の怯みを見せたアスヴァルに近づきながら、レンはその先のことを、文字通り命懸けで考えつづける。



 ……こんなの、その場しのぎだ。



 だが、まだ絶望しなくてもよかった。

 レンはある確信をもってアスヴァルに仕掛けた。それはアスヴァルが、生前と比べて遥かに弱々しいだろう……ということ。

 以前も思いだしたが、アンデッドはそもそもが生前と比べて弱い。

 そこにいまは、アスヴァルがフィオナの力によって顕現していることも加味した。

 目覚めたばかりとあって、アスヴァルの動きがまだ鈍いのもそうだ。




 ……アスヴァルという存在を構築するために、彼女だけじゃ力が足りてないんだ。



 とはいえ、だ。

 相手をするなら、メイダスとカイの二人の方が絶対に楽だったと思う。

 


『淡い。何とも淡いな――――羽虫よ』



 アスヴァルの胸元で僅かに露出した魔石の内側で、深紅の光が幾度と、幾度と瞬く。

 瞬くたびに、フィオナが苦しそうに上半身を強く抱いた。

 彼女の魔力などの力が、アスヴァルに吸い取られているのだろう。



(時間がない……)



 いましがたの宣告からすぐ、アスヴァルが両翼を目いっぱい広げた。

 穴だらけの翼膜がいたわしくも、煌々と輝く深紅は畏怖すべきそれだ。弓なりに逸らされた逞しい体躯を震わせて、やがて両翼を勢いよくはためかせた。



 愚かしいほどに、凄まじく。

 風圧でレンをいとも容易く吹き飛ばしたアスヴァルが――――



『灰燼と化せ』



風よりも早い爆炎を口元に蓄え、首を振り下ろすと同時に放とうとするも。



「あいにく、まだ死ぬ気はない!」



 レンは吹き飛ばされながらも、その勢いに抗っての投擲。鉄の魔剣をアスヴァルの瞳に狙いすまし、力の限り腕を振った。

 吐き放たれかけた爆炎の上を、火炎を反射した鉄の魔剣が閃光が如く通り過ぎる。突き刺さったところでささやかな痒みにしかならぬであろうそれは、その常識を逸した聖なる槍と化す。



『――――、――――――――ッ』



 声にならぬ咆哮が爆炎をまき散らしながら叫ばれる。

 旺盛に構え、圧倒的強者としてそこに居たはずのアスヴァルが、痛みに喘ぐ赤子のようだった。



(あと、三本だけ)



 アスヴァルの瞳を僅かに穿って消えた鉄の魔剣に変わり、木の魔剣で溶岩が届かない壁に足場を造りながら思う。

 投擲する直前、鉄の魔剣にはポーションを振りかけていた。

 おかげで小さくないダメージを与えられたが、いま確認した残りの本数を思うと頼りない。



 ついでにレンは、ここでその一本を飲み干した。すべてを攻撃に使いたいところもあったけど、

 それでは先に、彼の身体に限界が訪れただろう。



 レンはこの僅かな時間の間に、どう動くか何パターンも考えた。

 盗賊の魔剣でフィオナを奪ってしまうのはどうかと思ったのだが、あまりにも賭けだ。あれは確率で盗める力だから、保証がない。

 それに使う魔力が無駄になればと思うと、しり込みしてしまう。



『クク、ハハ……ッ!』



 ふと、アスヴァルの上機嫌な笑い声。



『嫌いではない。弱き者が手を砕く姿は愛おしさすら覚える』



 レンは嫌気がした。留まることを知らない気に食わなさを覚えた。

 恐らく、傍から見れば自分は奮闘できているだろうし、見る者によってはアスヴァルが本当に伝説なのかと不思議に思うだろうと。



 だが、すべてが勘違いだ。



 アスヴァルは目覚めて間もない。時間が経つにつれて勘を取り戻すはず。

 それに魔石に取り込んだフィオナだけでは、アスヴァルをアスヴァルたらしめる魔力も圧倒的に足りていない。

 だからなのだろう。魔石の中にいたフィオナが苦しそうに身をよじっていた。恐らく、彼女から更に無理やり力を吸っているのだ。

 いまに至るすべてが余興であり、ここからが本番と言わんばかりに。



 ――――それでも、希望はあった。



『……?』



 フィオナから無理やり力を得ていたアスヴァルの足元が、不意にがくっと揺らいだ。

 見れば、巨躯を覆う鱗もところどころが力なく剥がれ落ちていた。

 その奥に見えた肉が更に腐れ、僅かに液化して龍鱗を汚す。



(――――身体が、自分自身の力に耐えられていないのか?)



 レンはそう感じた。

 七英雄が倒したと言われているアスヴァルは、普通であればレンでは足元にすら及ばない伝説の存在。

 なのにこうして戦えているのは、偏にアスヴァルが不完全だからだ。



 相も変わらずフィオナの力がどういったもので、アスヴァルに対してどのような働きをしてこの状況を作り出したかは不明ながら、



(アイツの身体は、これ以上の無理が出来ないんだ)



 アスヴァルは不完全なかたちで復活を遂げたのだと、確信した。

 記憶がなく、暴走に近い言動を繰り返している理由もそれで説明できると考えて――――

 レンは微かな希望を前に、大きく深呼吸を繰り返す。



 依然として時間稼ぎは許されない。

 フィオナが危ないし、そもそも先にレンが斃れてしまう。

 だが、どうすればアスヴァルを消耗させられる?



『何故だ……余の身体が言うことを聞か――――』



 すると、不意に。

 アスヴァルが口から炎ではなく、漆黒の鮮血を吐き散らした。

 しかしアスヴァルは、止まらないだろう。

 記憶の多くを欠損して、更に生前の誇りを忘れて気が触れかけている赤龍は、もう身体が滅びるまで戦うつもりだ。



「アスヴァル。俺がお前を止める」


『……アシュトンを僭称せし愚かな小姓よ。恬然たる姿を晒すか』


「好きに言えばいい。俺はどんな姿を晒してでも、そこにいる彼女を取り戻す。――――そのためなら、お前とだって戦ってやるさ」



 それに、と。

 僅かに呼吸を整え終えたレンが、力強さを漂わせる双眸でアスヴァルを射抜く。



「自分自身で過去の誇りを汚すお前は、もう見ていられない」



 レンはアスヴァルがアシュトンを知ることに驚きは覚えていたけど、それを尋ねる気は毛頭なかった。

 アスヴァルは思いだせないと言っていたし、いまはそれを尋ねる状況にない。



 問題は一つだけ。

 どうすればあんな化け物を倒せるか、これに尽きた。

 下手に近づけば熱にやられるため、鉄の魔剣で断つことは容易じゃない。かと言って遠距離から攻撃する術はない。

 目覚めたてではなくなったアスヴァルに対しては、ポーションを使った奇襲もあまり効果は望めないと感じた。



『思い出せぬことばかりで、余の身体もどこかおかしい。だが、余は貴様のような命知らずが嫌いではないぞ――――弱き者よ』



 音が消えた。

 目に見えるすべてを歪ませる濃密な魔力が地下空間を満たすも、その中心に鎮座したアスヴァルの姿だけが鮮明だった。

 遥か頭上から滴っていた溶岩は宙で止まり、逆に上へ上へ舞い上がる。



 このときだった。

 息を呑むレンの目に映る、アスヴァルの頭部で一際存在感を放つ存在……折れていない一本の角。



(まただ。角が輝いてる)



 アスヴァルの角が煌々と輝いた。

 赤光を纏う姿はより一層眩く、先ほどと比較にならない。

 まるで、力を蓄えたことに比例していた。

 それがレンに、あることを考えさせる。



 ――――あの角がアスヴァルの炎や熱を高めているのか?



 龍にとっての角は重要な存在であると、昔、何かの本で読んだことがある。

 角を砕くことで一時的にでも巨躯に纏う熱を消し去れたら、フィオナが封じられた魔石にたどり着けるかもしれない。

 とはいえ、角までたどり着くことすら至難に変わりはないが。



 そのことを考えていたレンを見て、アスヴァルが嗤う。



『眠るように息絶えよ』



 消えていた音が戻り、辺りを歪ませていた濃密な魔力が深紅に爆ぜた。

 暴風、爆風が溶岩や炎を引き寄せながら、やがてアスヴァルを中心にして生じた深紅の壁が、地下空間全体へ波及していく。



 逃げ場はなかった。盾の魔剣で防げる気もしなかった。

 勘を取り戻し、フィオナから力を得たアスヴァルが放つ力は、言うまでもなく伝説。

 それがアンデッドと化して生前と比較にならぬ弱体化を遂げたところで、その炎はマナイーターの炎がマッチ棒のそれに見えるほど。



 ……だが、覚悟を決めたところで、状況が変わった。



 レンが居る周囲が凍結し、瑠璃色に燦然と輝く氷塊が彼を包んだ。

 漂わせる冷気は周囲の溶岩をも凍てつかせ、迫る深紅の壁からレンを守る。



「これは――――」



 やがて溶け切った氷塊。

 普通であれば肌を焼くはずの蒸気が、つづけて生じた冷気でかき消された。驚くレンはアスヴァルの魔石に目を向け、そこに封じ込められたフィオナに目を凝らす。



『逃げて……ください』



 一瞬、彼女の目が開いた気がした。

 彼女の瞳がそう訴えかけてきた気がして、レンの心が更に猛る。

 だがそれっきりで、彼女は苦しそうに身体を抱く。

 守られたと知り、レンの鉄の魔剣を握る手に力が入った。



「貴女だけを残して逃げるなんて、できません」



 それに――――アスヴァルの様子が。



『ぐぉ……ぉ……これは……何が起こって……ッ……』



 顔を歪ませ、巨躯を揺らす。

 半壊し、あるいは腐った龍鱗をまき散らしながら、アスヴァルは苦し気にわめいた。



 それを見て、レンはアスヴァルへ近づくべくあらゆる手段を用いた。

 壁を伝って距離を詰めれば、今度は溶岩を避けながら地面に戻り、これまでと同じように懸命に駆ける。



 ……取り込まれたフィオナに意識は残されている。

 彼女も必死の抵抗を繰り広げていると知り、救うために必死になった。



(恐れるな)



 いまのアスヴァルは弱い。

 生前と比べ何分の一くらいだろう? 正確にはわからないけど、不完全な復活のせいで、本来の力を取り戻せないどころか、長時間身体を維持することすらできていない。

 恐らく、意識を失いきっていないフィオナが抵抗しているのもあろう。

 そうでなければ、レンが戦える相手ではない。



『ままならぬ――――が、』



 声を昂らせたアスヴァルが剛腕を振り上げ、角を煌々と輝かせた。

 勢いよく振り下ろされたそれが、距離を詰めていたレンの進む先に振り下ろされる。

 溶岩に囲まれた舞台が揺れ、飛沫を上げる波と化した溶岩流が押し寄せる。



 レンが軽業で避けた先に向いた鎌首の上で、アスヴァルが。



『余は、アスヴァルであるぞ』



 無情なブレスが、レンに放たれる。

 いったいどれほどの熱を孕んだ炎なのか。溶岩流すら抉る勢いで迫るブレスを視界に収め、レンは自然魔法のツタを生み出し、それに掴まることで一瞬の旋転。

 器用にも宙で方向転換し、灼熱のブレスを避けようとした。

 けれど、その灼熱が僅かに腕を掠めてしまう。



「ッ……」



 言葉にならない痛みだった。

 掠めたと言っても、ほんの一瞬。しかもブレスの端の端だというのに、この威力。



『炎が余を祝福している』



 今度は振り下ろすのではなく、地面を抉るように溶岩流を散らした赤龍。

 その飛沫は、肌に触れるだけで身体を溶かす熱の結晶。降り注ぐ溶岩を躱しながらも、レンは猛烈な熱の中を懸命に進む。



『恐れぬか。弱き者』


「ああ! 怖くないさ!」


『勇猛だ――――しかしそれは、気の迷いに等しい。一瞬でも心が折れれば、その身は竦み、恐れと惑いで溢れかえろう』



 アスヴァルが広げた両翼から、紅の閃光が放たれた。

 無造作に、縦横無尽に地下空間を襲う。

 そのうちの一つが、レンの真横を通り抜けた。



「ぐ……ッ」



 肌を焼く熱波が身近で生じた。

 紅の閃光がもたらした熱波と溶岩がレンの前方を阻み、溢れかえった溶岩流が背後から迫る。

 赤龍の包囲網に対し、一瞬の怯みを見せたレンの足場が瞬く間に狭まった。



『恐れたか? 弱き者』


「……もう一度言うぞ。俺は少しも怖くない」



 包囲網の外から届いた声に強がって、レンは大きく息を吸った。

 熱の影響で肺が痛みを訴えかけたけど、それよりも身体に酸素を満たすことを優先し、生唾を飲み込む。



『では、何とする。死を待つばかりの貴様に何ができる』


「――――そんなの』



 鉄の魔剣を振り上げて、前方に立ちふさがるすべてへと。



「こうするんだよッ!」



 剛腕を振り上げ、そして振り下ろしたアスヴァルに倣っての力技。

 剣閃から生じた圧が僅かに熱波を払い、鉄の魔剣が地面に叩きつけられた際の衝撃で、溶岩が左右に切り開かれた。

 まだ若干の熱波が残るその道に、レンは一切の迷いを抱くことなく身を投じた。



 ……熱くて気が触れそうだ。

 ……嫌だ。逃げたい。



 熱が届いた柔肌が一様に訴えかけてくるけど、気が付かないふりをして前に進む。

 残されていた貴重なポーションを片手で取り出して飲み干し、空き瓶を放り投げれば溶岩に溶けた。



『すべての炎は余の思いのまま』



 ふと、散見される溶岩流の中から。

 その表面が隆起して、いたるところで炎の渦が波打ちながら姿を見せる。それらは意識を持った腕のように、進むレンを縦横無尽に襲う。



 レンはほぼ一瞬で焼き尽くされると知りながらも、自然魔法を駆使しながら刹那のせめぎ合いで躱していく。かろうじて残された地面へ伸ばしたツタや木の根を支えに、幾度も宙で旋転し、ときに飛翔することでアスヴァルに迫った。



『余の圧にも耐え、よくぞ走り切れるものだ』



 アスヴァルは最初に比べて圧倒的な余裕がある。

 それを裏付けられるだけの落ち着きを取り戻し、勘を取り戻しているからだとすぐにわかる。

 


『人が神に勝てぬように、弱き者では余に勝てぬ――――論ずるまでもないことよ』



 悠々と構えていたアスヴァルまであと少し。

 迫ったレンの前で、アスヴァルは一度だけ両翼をはためかせ、首を持ち上げる。



『地を這い、燃え尽きよ。貴様の影すら残すつもりはない』



 レンの遥か頭上に位置したアスヴァルの頭から注がれる、扇状に広がる獄炎の吐息。獄炎の吐息が届くその直前、レンは足元に生やしたツタを複雑に絡ませ、駆け上がるための道を作る。



 扇状に放たれるブレスから後退はせず、避けることもなく。

 レンは真っすぐ、アスヴァルに向けて更に加速した。

 猶もその場から動かず、座したままのアスヴァルを見ていたレンはいまが頑張り時なんだ、と身体を更に苛め抜いた。



『愚かしいほどに無策よの。前に進むことしか知らぬとは』


「無策だって? 悪いけど俺は、これでも本気だ!」



 避けたところで燃え尽きる。

 後退しても影すら残らない。

 どうやっても灰燼にすらなれずこの世から消えてしまうのなら、前進して一か八かに掛けるしかなかった。



『終焉を受け入れよ――――弱き者』



 既に足場に使ったツタの束は燃え尽きて、宙に駆けあがったレンに支えは一切ない。

 余力を込めて酷使された脚が彼をアスヴァルの頭部の高さまで導いて、真正面からのブレスを迎え入れようとしていた。

 レンがそこで不敵に笑った。



「やっぱり、あまり動けなかったんだな」



 ぴくりとアスヴァルの眉が動く。

 アスヴァルが不完全な身体を労わっていることを、レンはもう看破していた。

 ずっと同じ場所に座し、移動しようとしていなかったからである。




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