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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
一章・転生

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状況が悪化していく中でも。

 果たしていまの状況は、七英雄の伝説におけるストーリー上のことなのだろうか。

 それとも、レンという存在のせいで、七英雄の伝説と別のストーリーが繰り広げられているのだろうか?



 答えは、そのレン自身にも分らない。



 どのような結果にしろ、この状況を打開することだけを考えたかった。

 それは奇しくも、ギヴェン子爵がクラウゼルに到着したのと同じ時間のことである。



(整理しよう。ギヴェン子爵がクラウゼル男爵を嵌めようとしてるのは明らかだ)

 


 目を覚まして間もないレンは、火を起こしながら考えていた。



(現実問題、中立派の上位貴族は頼りにならない)



 同じ派閥の属するのに、上位貴族が守ってくれないなら属する意味がない。いくら相手が二大派閥の者であるからって、もう少し気概を見せてほしいものだ。



 とは言え、彼らにも生活があると思えば、情けないと一蹴するのも短絡的だ。

 しかし、助けが来ないのは曲げようのない事実。



(このままだと、クラウゼル男爵は何らかの罪を着せられて失脚する)



 いくら何でも強引だけど、その不条理が許されるのが爵位と派閥の力だ。

 レンはそれでもどうにかしたいと考えていた。



 前までリシアはもちろんのこと、クラウゼル男爵家とも距離を置くべきと考えていたのに、情が移ってしまったのかもしれない。でも、不条理がある世界であるからって、目の前でその展開が繰り広げられるのはいい気分がしなかった。



(けど、どうすればクラウゼル男爵を助けられる? ……俺みたいな子供に何ができるんだ?)



 必死になって考えた。それでも光明は見えてこない。

 だが、これがゲームにおけるイベントに置き換えてみると、



(クラウゼル男爵を助けるんじゃなくて、ギヴェン子爵を倒す……なら……)



 目的意識を変えてみると、思いつけそうな気がしてきた。

 たとえば……ギヴェン子爵がレンの村を襲ったことに加え、何らかの不正の証拠を見つけるとかだ。



 これがあれば、逆にギヴェン子爵に罪を問えるのではないかと思った。



(いやいやいや……俺みたいな子供が証拠を見つけたところで……)



 不条理が許されるこの世界の中で、自分のような少年が何を言っても大きな意味はない。

 結局のところ、これがどうしようもない障害なのだ。

 でも、



(無駄にはならない。時間稼ぎにはなるはずだ)



 クラウゼル男爵も馬鹿じゃない。

 彼は弱小貴族だし派閥の助力は望めないが、時間を稼げば動ける余地は生まれるし、謂れのない罪をかぶせられる未来も回避できるかもしれない。



 だから、動くことは決して無意味ではないはず……。



(で、どこから不正の証拠を得るかって話なわけだ)



 最善なのはギヴェン子爵の屋敷に忍び込むことだが、見つかったときのことを考えると避けるべきで、そもそもそんな時間はない。もうすでに、寝る間を惜しんで急がなければならない程度には切羽詰まっていた。



(これ……詰んでる疑惑があるような)



 せめて自分たちがクラウゼルに到着しなければならない。

 そこで何者かに襲われ、連れ去られた事実を証言するのだ。ギヴェン子爵に雇われた賊の手に誘拐され、命からがら逃れたと言う必要がある。



 その証拠が欠けているのが致命的だが、何もしないよりはいい――――かもしれない。

 腹芸や弁論に不案内ながら、レンはそう考えていた。

 いずれにせよ、何もしないという愚は避けなければ。



(できることはなんでもやるしかないんだ)



 できなければクラウゼル男爵が失脚する。

 そして、



「すー……すー……」



 傍で木の根を背に眠るリシアだって、どうなってしまうかわからない。

 彼女の弱さを見てしまったいまは、以前の暮らしを取り戻してあげたくてたまらなかった。



 可能な限り、彼女の体調も回復させなければ。

 目的を再確認したレンは朝食に加え、リシアに三度目の薬草タイムを強いるための支度に取り掛かった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 ――――数時間が経ち、クラウゼルの町も朝の賑わいに包まれていた。



 レオメル帝国では、すべての都市に神殿が設けられている。

 神殿の中には必ず大広間があった。そこでは神事の他、貴族をはじめとした有力者の審判が行われることもある。

 帝国法に定められた傍聴人を招き入れ、所定の流れを踏む審判の儀だ。



 ……それは崇め奉られる主神エルフェンの下で、一人残らず嘘が許されぬ清廉な儀である。



「はじまりますな。ご当主様」



 席に着いたクラウゼル男爵の隣で、騎士団長のヴァイスが言った。

 神殿の外ではクラウゼル男爵を呼ぶ声が響き渡る。対称的に、神殿内は静かだった。

 そうしなければならないという決まりがあるからだ。



「ふふっ」


「……なぜ笑うのですか?」


「おかしくてな。ヴァイスも見てみよ、我らの対面に座ったあの男の顔を」



 彼らが座る席は神殿奥の祭壇の手前にあった。

 申立人であるギヴェン子爵と相手方となるクラウゼル男爵の席は、祭壇を挟む形で向かい合っておかれている。



 そのため、反対側に座ったギヴェン子爵の顔がよく見えた。



「なっ……あの男め……ッ」



 ヴァイスが見たギヴェン子爵は、クラウゼル男爵を気にする様子がない。

 ギヴェン子爵は自身が連れてきた騎士と歓談に勤しんでいたくらいだ。



「この日の弁論を心配する必要はない、そう言っているようではありませんか……ッ!」


「実際そうなのだろう。この場で徹底的に私を糾弾し、明日の判決で勝利を収めることに自信があるのだろうさ。……これほど強引な立ち回りをしても、絶対に勝てるとと思えるだけの準備をしてあるということだ」



 憤りを覚えたヴァイスは拳を震わせていた。

 彼が放つ迫力が空を伝い、神殿内を驚かせる。



 ここまで余裕の様子だったギヴェン子爵はついヴァイスを見て、彼の憤怒に駆られた顔を見て息を呑んだ。



「落ち着け」



 だが、クラウゼル男爵は落ち着いていた。



「ですが――――ッ」


「いいから落ち着くのだ。落ち着けぬのなら退席させるぞ」



 主君の毅然とした態度にハッとしたヴァイスが目を伏せた。

 勘気に恐れをなしたのではない。

 落ち着いていない自分に恥を覚えたのだ。



「――――聞いておきたいことがある」



 ふと、落ち着いた声でクラウゼル男爵が言った。



「ヴァイス。お前から見て、レン・アシュトンはどういう少年だ?」


「きゅ、急にどうされたのですか……?」


「いいから今一度教えてくれ。いまの私にとってはそれが重要なんだ」



 有無を言わさぬ強い語調に対し、ヴァイスはこれ以上の無駄口を叩くことを避ける。



「前にもお伝えした通り、強い子です」


「それはお前が数年前に帝都で見た、七大英爵家の嫡子と比べてもか?」


「はっ。私はレン・アシュトンが七英雄の末裔に比肩するどころか、上を行く逸材であると考えております」


「……ふふっ。ならばいいのだ」



 満足した様子で唇の端を緩ませた主君を見て、ヴァイスはなぜ余裕があるのかと思った。

 ほぼ間違いなくクラウゼル男爵が嵌められて終わるだろうに、この余裕の正体がわからない。



「ここだけの話だが、私はとある貴族(、、、、、)と連絡を取っていた」



 唐突で、予想していなかった言葉にヴァイスが目を見開く。



「とある貴族……ですか?」


「ああ。まだ詳細は明かせない――――が、そのお方は約束してくれたぞ。時と場合によっては私に口添えをしてくださるとな」


「あのお方、つまりご当主様より格上の貴族なのですね」


「そうだ。そして、ギヴェン子爵よりも格上のな」



 それなら最低でも伯爵だ。

 このことを知ったヴァイスは喜びに頬を緩めた。

 今日の今日まで中立派の誰も味方をしてくれないと思っていたのに、主君が密かに味方を得ていたとは知らなかった。



 しかもその味方は、大貴族に数えられる者なのだ。



「だが、ギヴェン子爵がこれほど早く動くとは思わなんだ」



 クラウゼル男爵が肩をすくめて自嘲する。



「そのせいで、確証もなしにレン・アシュトンの資質にも頼らねばならなくなったのだ」


「ご当主、どうか私にもわかるようにご説明を」



 クラウゼル男爵は答えようとせず、苦笑いを浮かべていた。



「しかし少年は……」


「リシアと共に連れ去られた、か?」



 いまだ後悔が残るヴァイスが静かに頷く。

 でも、



「だとしてもレン・アシュトンを信じ、彼の資質を頼らねばならないのだ」



 クラウゼル男爵は信じていた。

 噂に聞くレンの力があれば、賊から逃れることもできるはずだ、と。

 そこにリシアが共に居てくれたら、この状況もあるいは――――。



「皆様、時間です」



 法務局の文官が宣言した。

 この場の中央に立った文官は全体を見渡し、皆が自分に注目を向けたことを確認して次の句を口にする。



「これより、偉大なる帝国法に則り弁論が行われます。まずは申立人である――――」



 片や余裕のあるギヴェン子爵。

 片や余裕のないクラウゼル男爵。



 レンがこの場に居れば出来レースと呟いたであろう弁論が、ギヴェン子爵からはじまった。



 ……その弁論は、想定していた通りの展開だった。

 もちろん、クラウゼル男爵だって何もしなかったわけじゃない。

 彼はギヴェン子爵が何を言うか想定して、反論できる材料をいくつも用意していた。

 


 騎士をどのくらい派遣して、どれほどの戦果を挙げたのか、など。

 また、ギヴェン子爵領にほど近い村々で実際に被った被害状況を提示して、ギヴェン子爵の言い分が誤りであると主張した。



 短期間で用意したにしては上出来すぎる内容で、余裕を気取っていたギヴェン子爵を驚かせたほどである。



 しかし、すべて無駄に終わった。

 最終的に、法務局の文官がギヴェン子爵の言い分を認めたのだ。

 すべて最初から決まっていたと言わんばかりに、あっさりと。



「此の程の判決は弁論を参考に、我ら法務局が偉大なる帝国法に則り精査いたします。告知は明日の朝、本日の弁論開始と同じ時刻となりますので、努々お忘れなきよう」



 どうせわかりきっている判決だ。

 苦笑いを浮かべたクラウゼル男爵が俯いて、



「稼げても二日だな」



 有罪となった貴族は帝都に移送されるのが習わしだ。

 だが、クラウゼル男爵が帝都に移送されるとなれば、この領地を統べる者が居なくなる。その後釜を決めるわけではないが、残された文官や騎士に指示を出さなければならない。



 言い換えれば、引継ぎに要する時間は認められるということだ。



「いえ、もっと稼げましょう。裁定に不満有りと申し立て、次に帝都での審判に臨めばよいのです。それでも駄目なら、神前審判を――――」


「無理だ。この様子では開廷に至る前に妨害されるだろう。リシアたちのことを持ち出し、私を脅してくるのは間違いない」



 ヴァイスもそう思っていたが、実際にクラウゼル男爵からそう告げられると怒りが募って止まない。

 そのヴァイスは対面のギヴェン子爵たちを睨みつけたが、彼らはどこ吹く風。



「子爵」


「ああ。迅速を貴んだおかげで、まだ皇族派の横やりも入っていない。ようやく事を終えられそうだ」



 対面で笑みを浮かべたギヴェン子爵。

 彼はクラウゼル男爵が気丈に振舞う姿に眉をひそめ、若干の苛立ちを覚えた。

 だがそれでも、勝ちは勝ち。

 もう抵抗できるはずもないのだ、と息を吐く。



 ――――翌朝。

 法務局の文官がクラウゼル男爵の罪を認め、処罰するに値すると判断した。



 だが、その処罰の内容はまだ確定していない。

 今回のように貴族が罰せられる際には、最終的に皇帝の認可を以て執行となる。

 もちろん、皇帝は元老院などの皇帝に助言をする者たちに加え、法務局などを交えてそれを決定づけるため、公平性は保たれる。



 ……どうしてこれら多くの手順を踏むのかと言うと、貴族の罰には領地の没収や爵位の剥奪があり、これらを決定づけるのが皇帝であるからだ。

 また、処刑に至れば影響が大きいことも関係してくる。



 いずれにせよ、審判という段階を踏んでの判決を覆すことは容易ではない。

 近日中にでも此度の判決結果が皇帝の耳に届けられ、帝都に移送されるクラウゼル男爵の今後も決まることになろう。



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