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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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彼女の嘘。

来週の原作7巻発売に先立ち、電子版1~6巻が各ストアさんでセール中です!

1/22(木)23:59までとなっておりますので、書籍版がまだの方も是非、この機会にどうぞよろしくお願いいたします!

 窓から見えるクルシェラの景色がぐんぐん遠ざかっていく。

 つい数日前には、ほとんど同じ景色を見てどんな夏休みになるだろう……って、三人とも考えていた景色だった。



 帰路に就く三人は考え事に耽っていた。

 思い思いにここ最近のことを考えていたが、いずれも決して、この数日が辛く大変だったということばかり思い浮かべていたわけではなかった。



 というのも。



「一応、夏休み中なんですが」



 レンが苦笑を浮かべて言えば、リシアとフィオナが口を開いた。



「一応っていうか、きちんと夏休み中よ」


「それも夏休み序盤……ですね」


「……そうなんですよねー」



 落ち着いて、クルシェラに来た理由を考えてみる。



 祈りの夜々に関連した貴族の集まりに、リシアとフィオナが両親の名代として足を運ぶべき用事があったこと……。

 そしてもう一つは、レンの腕にわずかに残っていた呪いの影響を完全に取り除くためだった。

 それらが滞りなく済んでからは、クルシェラでゆっくり過ごす予定だったのだ。



 それが気付けば、レンがミストルフォから聖宮騎士に勧誘され、マシェリアたちと命の奪い合いをしていたし――――



「リシアは剣聖になりましたしね」


「それはそうだけど……私のことより、もっと大きいことがあったでしょ?」



 それこそ神の朧のこととか。もっと掘り下げるなら、レンが炎剣アスヴァルを手にしたことだってそうだ。



 もちろんレンは、あれから腕輪を見て炎剣アスヴァルの名を探した。

 だがそこにあるのは、炎の魔剣の文字だったのだ。特定条件下での覚醒とあったから、普段は違うのかもしれない。



「いろいろありすぎたので、どこから話せばいいのか自分でもよくわかってないのかも」


「それは……私も似てる感覚だけど」


「ミセルの神殿では、神子のこともありましたものね」


「そうよ! 神子のこと! やっとわかってきたじゃない!」



 だが、どの神の寵愛なのか、など気になることは先日話したときと変わらず残っていた。



「そのことも、今度ラグナさんに話してみます」



 ミューディの隠れ家探索から時間が経っているし、何か別の発見があるかもしれない。

 それとは別に、ラグナにはクルシェラでのことを話さなければならない。

 神子のことはこれ以上話せる情報がなく、三人の話題は自然とリシアが剣聖へと昇華したことに戻った。



「リシアの権能ノ剣も、早く効力がわかるといいんですが」


「まだ考える余裕はないかも。剣聖になった感覚だってほとんどないし。はじめの頃は音色にも気が付いてなかったの」



 苦笑いを浮かべたリシアがフィオナを見た。



「あのときの音、フィオナ様は聞こえてた?」


「途中からはっきり聞こえてきましたよ。そういえば……纏いの感覚って、それ以前と比べてやっぱり違うんですか?」


「少し違うかも。まだはっきりとはわからないけど……」



 ついでといえばついでなのだが、レンはリシアとフィオナの話し方が気になった。

 以前からリシアは砕けた口調になってしまうことが時折あったが、いまではフィオナの声音も含めて、彼女たちの接し方に違いが生じているような気がしてならない。



 とはいえ、レンが敢えて口にすることはなかったけれど。



「俺もはじめはそうでした。使ってみたらはっきり違うんですけど、はじめのうちはよくわからないんですよね」



 レンが自分のときと重ねて言えば、



「……やっぱりそうなんだ」



 リシアが静かに声を漏らしながら頷いた。

 そうして自分の身体を少し眺めてみたけれど、当然だが違いはわからない。あくまで気持ちの問題として確認してから、リシアは再び口を開いた。



「何度か考えたの。この前の私の体調って、剣聖のことも関係してたのかもしれない……って」



 伯爵の屋敷を発つ前にも少し気にしたことだ。急にどうしたのだろうと自分でも気になっていたのだが、関係している気がしてならない。

 剣聖になるために必要な意識、そのきっかけ。リシアが必要としていたのはそれだけだったから、やや纏いにも変化があったのかもしれない。



 レンとフィオナも、リシアの言葉に確かにと考えさせられた。

 レンが剣聖になったときとは違ったが、纏いの変化にかかわる前後は個人差が大きい、と前にエステルも言っていた。



「帰ったらエステル様に伝えなくちゃ。最近もずっと気にかけてくださってたの」


「きっと喜んでくれると思います。――――ちなみにいまさらですけど、剣聖になるのに必要なきっかけって何だったんですか?」


「え、ええと……それは、その……」



 剛剣使いが剣聖になるためには、何かしらのきっかけが必要とされている。それは個人差があるから一概には言えないが、主に心因的な要素であることがほとんどだ。



 リシアの場合、レンと違い確証があった。

 それは自らの原点に立ち返ることなどを含め……様々な思いによりたどり着けたきっかけだ。ただ、そこに彼の存在が深くかかわっていたから口にするのは気恥ずかしいにもほどがある。



「内緒、ってことにしておいて」 



 腑に落ちない返事だったがリシアが妙に上機嫌だったから、レンとフィオナは仕方なさそうに笑みを浮かべていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 しばらくすれば、どこかもわからぬ雲の上。

 天空を漂っていると夕暮れもいつもと一味違い、窓には雲海に浮かんだ茜色の陽光がどこまでも広がっていた。



 少し早めに夕食を終えると、リシアはレンの客室を訪ねた。

 先の戦いにおいての負担もあり、例によって神聖魔法を使っておこうと思って。



「――――レン?」



 だが、扉を何度もノックしてみたが返事がなかった。



 どうしたのだろう。

 彼の傷はもう大丈夫なはずだが、もしかして何か残されていて……。

 なんて考えるとリシアは気が気でなく、様子を見に行くべきだろうとも思った。



 しかし、勝手に入っていいものか。悩みながらもドアノブに手を伸ばすと鍵がかかっておらず、ほとんど勝手に回ってしまう。



 彼女は静かに足を踏み入れながら、



「レン、入っても平気?」



 と声に出した。

 しかし、やはり彼の返事はなかったし、シャワーを浴びているような音も聞こえてこない。



 勝手に入ってしまうのはよくない。

 でも、あの戦いから間もないとあって心配になってしまう。葛藤を抱きながら遠慮がちに数歩歩いたところで、リシアはようやく安堵の息を吐いた。



「はぁ……よかった」



 彼は窓際の椅子に座っていた。窓の縁に頬杖をつき、穏やかな寝息を立てている。返事がなかったのも仕方がないだろう。

 それなら、軽く神聖魔法を使ってあげてから立ち去ろう。

 リシアが彼の隣に歩いていって、夕暮れに照らされた彼の横顔を見た。



「……疲れて寝ちゃってたのね」



 呟いてからふと――――立ち止まって、考えた。



 また、命懸けを共にした。

 今回も多くのことがあって、気持ちの変化もありながら剣聖に至ることができた。

 そのきっかけを強く自覚できていたからこそ、リシアはまた強くレンを意識していた。



 彼の隣に立つ。

 それは剣に限られた話ではない。


 

 たとえ剣がなくても、彼の隣にいたいと思っていた。

 絶対に……そのことは何より自信を持って言える。だから、もっと自分のことを見てもらえるようにならないと。



 しかしただ漠然と一緒にいたところで、その願いが叶うことはないだろうと思った。

 必要なのはその先へと進むための勇気と踏ん切り。そしてきっかけ。



「だから、内緒って言ったんだからね」



 彼の隣で口にしながら、神聖魔法を指先から迸らせる。

 頬杖をついていないほうの腕に触れて。




『――――から、ね。レン』


『も――――これで』



 最近、時々頭に響く自分の声だ。

 覚えのないやり取りをレンとかわしているようだったから、困惑も生じる。

 また、その声を聞くたびに言いようのない切なさに苛まれる。どうしてか、より強く彼の隣にいたいと思わされる一因だった。



 ふと、リシア・クラウゼルの心に浮かんだ言葉。



「もっと、勇気を出さないと」



 その言葉は、自分自身の気持ちを確かめるため。

 剣聖になったことも一つのきっかけだったのだろう。心境の変化を生み、一歩先へと進みたいという気持ちをさらに育んだ。



 ――――だから、いまより少しだけ先へと進むことに決めたのだ。



 隣にいるレンに対して。

 そして、自分に対して。



「あれ……リシア?」


「勝手に入ってごめんなさい。その……返事がなかったから、心配になっちゃって」


「っと、すみません。部屋に戻ってきてすぐに寝ちゃってたみたいです」


「ううん、いいの。疲れてるのにごめんなさい」



 目を覚ましたレンへとそう告げ、神聖魔法の光を消す。

 立ち上がろうとしていた彼に「あっ、見て」と窓の外を指させば、彼はすぐにリシアが向けた指先を見た。



「えっと、何か外にありました?」


「ほら、あっちのほう」


「あっちって、ただ空があるだけのような……」



 だが、何も見つけられなかった。

 レンがリシアに顔を向きなおそうとしたとき――――



 二人の距離は、いままでになく近かった。




「――――嘘。あるのはこっち」




 レン・アシュトンの頬に触れた、温かな感触。

 リシア・クラウゼルの唇が、一瞬だけ。



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