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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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7章のエピローグ:必要なのは、そうして過ごす時間。

原作7巻が来週発売となります!

引き続きのご予約、どうぞよろしくお願いいたします!

 星域の門を進んだ先にあった朽ちた神殿は、その姿を消した。



 都市に流れ込みかけた神の朧はかつて、世界のはじまりに存在したという神々の力が溶け込んだもの。

 ひとたび触れれば神々に生命が捧げられ、瞬く間にこの世を去ってしまうだろう。

 その神の朧が消えてから、まだ長い時間は経っていなかった。



 ――――都市の中心にある、大きな橋で。

 夕暮れが迫る頃、空に青と茜色の境目が生まれはじめていたときだった。



「だから、何度も言ってるでしょ!」



 セーラの声が響く。

 彼女の傍には六人の仲間も控えていたが、彼女の声に押されて誰一人として口を開こうとしなかった。



「出し惜しみは一切なし! 急いで戦力を派遣させて!」


「はっ! 帝都に加え、領地からもすぐに手配を!」


「あと、お父様たちにも伝えて! あたしたちを守るより、レオメルのために動くようにって。いい?」


「承知いたしました!」



 慌てて去り行くリオハルド英爵家の騎士に負けじと、その他の七大英爵家の者たちも対応に追われていた。

 皇族派と中立派に属する貴族たちだってそう。

 過去にあったバルドル山脈の変とはまた違う、歴史に残る騒動の影響は大きい。



「なぁ、ちょっといいか」


「はいはい? どうしたのよ、カイト」


「一応、俺は神殿のほうに行ってくるぜ。あっちもあっちで大変だろうし、力仕事があれば手伝えるしな」


「ええ。だけど、すぐに動けるようにだけはしておいてね」


「わかってるって。また何かあったら面倒だしな」



 カイトにつづき、



「でしたらカイト、僕も行きます」


「おう。スコールがいれば神殿の人たちもきっと心強いな」



 スコールが橋を離れていき、残るは五人。

 その五人も、ここでじっとしているわけにはいかなかった。



「私は伯爵のお屋敷に行ってくるわ。リズもついでにいらっしゃい」


「は? ついでって……私、これでもちゃんと周りを見てますけど! 疲れてるなりにしっかり仕事してますけど!?」


「わかってるわよ。でも一緒に来て。リズがいると頼もしいの」


「……そーゆーことならはじめからそう言ってくださいよ、まったく」


「あっ! だったらネムも行こうかな! 町の中に設置されてる施設型の魔道具とかなら、ネムがちゃちゃっと直しちゃえばいいしね!」



 ロフェリア、そしてアーケイにつづいて、アルティアの末裔もまた橋を離れた。

 残ったのはセーラとヴェインの二人だった。彼らはここで貴族や騎士を相手にしたやり取りをつづけ……



 しばらくぶりに一息ついたとき、三人が足を運んできたのだ。



「お疲れさま、二人とも」



 そう口にしたリシアと、レンにフィオナの三人だ。

 彼らもまだ疲れた様子でありながら、休憩とポーションによる回復でだいぶ身体が軽くなっていたようだ。



「ちょ、ちょっと! まだ休んでてよかったのに!」


「そう? でも、私たちだってじっとしてるわけにいかないじゃない」


「はぁ!? そんなの気にしてる場合じゃないでしょ!?」


「平気よ。そうよね?」



 リシアがレンとフィオナに問えば、



「俺たちもそこそこ休めましたし」


「このくらいでしたら大丈夫ですよ」



 もはや何も言うまいと、セーラが深く息を吐いた。

 三人とも、相変わらずの体力というか気力というか……。



「ところで、レンたちはどこに行ってたんだ?」


「さっきまで伯爵の屋敷にいたよ。星域の門の先がどうなってるかとか、話しておかないといけなかったし」


「……神の朧のせいか」


「うん。まだ残ってたら、騎士を派遣するわけにもいかないだろうから」



 神の朧は一切が残されていない。そのことを、三人はミセルの神殿での出来事とともに話してきたばかりだった。

 レンたちが神の朧の流出を食い止めてから、まだ二時間も経っていない。



『危険です! 星域の門の先からまたあの光が――――!』



 そのとき。

 伯爵家の騎士に制止されることもあったが、セーラたちはそれすら振り払ってミセルの神殿を目指した。



『危険とか関係ないわ。だって、友達がいるんだもの』


『そういうことだ。だってのに、俺たちだけ安全な場所にいられないだろ?』


『カイト! カッコつけてないで行きますよ!』



 彼らだって、星域の門付近で再び溢れ出た神の朧の対処に消耗していたのに。それでも一人たりとも怯むことなく、迷うことなくその先へと駆け出したのだ。

 天を貫かんとするほどの炎が現れたのは、それから十数分もしないうちのことだった。

 空を覆いはじめていた暗雲が晴れ、神の朧の名残もそれを消したのである。 



「でもこれで、やっと終わったんだ」



 レンの声に、二人の少女が微笑みを浮かべる。



「今日は昨日より熟睡できそう」


「あはは……部屋に帰ったらすぐに寝ちゃいそうです」


「それ私も。ベッドに横になったら一瞬だと思う」



 砕けた口調で言葉を交わすリシアとフィオナの様子もまた、戦いの終わりを象徴しているかのようだった。

 彼ら三人の姿を見るセーラとヴェインは、それが美しい一枚絵のように感じた。



「レン」



 勇者の末裔が言った。



「どうして、メディル公国の公女が……」


「あんなことをしたのか、って?」


「……ああ」



 禁書を持ちこれほど遠くのレオメルまでやってきた理由。

 そのことなら、マシェリアが節々を語っていた。

 神の朧を得て禁書を完成させること。神の朧に宿る世界の記憶を読み取り、聖地の陥落のために何かを行おうとしていたということ。



「本当のところはわからないけどね」


「そうよねー。あたしも、あいつらが本当のことを話すって言いきれないし」


「確かにな。あまり遠くない理由で動いてたのは事実だと思うけど」



 いずれにせよ、記憶の禁書は危険すぎる代物だった。

 あれが本当の意味で完成を迎えていたら、いままでになく魔王教の力が強化されていたことだろうし。



 わざわざ人が多い時期に来たのは、偏に神の朧のためである。

 クルシェラの力が高まる祈りの夜々の時期でなければ、神の朧は現れない。戦っていたときにレンはそう結論付け、皆と話していた。

 だから、祈りの夜々が行われるこの時にやってきた。そうでなければ、閑散期を狙ってミセルの神殿へと向かっていたはずだ。



(もしそれができていたら、俺たちもここにはいなかった)



 祈りの夜々と神の朧に関係がなかったら、そのときはいまごろ、一帯の地形ごとメディル公国のように地の底へ沈んでいたかもしれない。

 周辺の大地ごと、きっと。



「……七英雄の伝説ではどうなってたんだろ」


「レン? 何か言ったか?」


「ごめん。ちょっと独り言」



 七英雄の伝説では、この時期にこうした騒動があった記憶はない。マシェリアがミセルの神殿に足を踏み入れていなかったということだ。

 あちらの世界線との違いは多くあるから、いまの段階で魔王教がどう動いていたのか……とか、優先順位まではわからなかったけれど。



(……でも、あの言葉があるし)



 マシェリアに記憶を探られていた際に見聞きしたこと。レン・アシュトンが口にしていた、ミセルの試練を受けるというのは、いったい。



 ……それならやっぱり、マシェリアはミセルの神殿に行ってない。

 ……もしかしたら、時期は違ってもレン・アシュトンに負けて行けなかった……とか?



 そう考えるとしっくりくる。

 まさか同じ行動をしていたのかと思うと苦笑いが浮かんでやまず、そのことに気が付いたレンはふと湖に目を向けた。



「それと、司教も暗躍してるのは本当みたい」


「それもマシェリアが?」


「うん。前に俺が噂で聞いた姿のこともあるから、帝都に帰ったら共有できるようにしとく」


「助かるわ。最近はレンたちのおかげであたしたちも動きやすくなってるし」



 というのはレンにラディウス、ユリシス・イグナートを中心として魔王教の調査をしていることから。

 兼ねてよりリシアとフィオナも力を尽くしていたことだ。



(ヴェインたちより、俺のほうが調べやすいこともある)



 七英雄の伝説で得た知識を共有するには、それがこの世界でも正しいのか確かめなければならない。新たな情報を得られる機会でもあると思えば、レンが率先して動くこと以上のことはなかったのだ。

 ふと、セーラが。



「――――マシェリア、どうなったと思う?」



 マシェリアは最後、神の朧の中へと姿を消した。

 文字通り彼女は世界から消えたのか、それとも彼女の言葉通り、神の朧の中で世界の記憶を読み耽っているのか――――。

 


 答えを見いだせず沈黙で答えたレンを見て、セーラは「こんなの聞かれても、レンだって困るわよね」と苦笑い。

 それから話題が少しだけ変わった。



「いるだろうって思ってたけど、まだ司教が残ってるのよね」


「セーラ、ため息をついてもしょうがないでしょ」


「わかってる。面倒な連中って改めて思っただけよ」


「けどレンが言ってた司教って、三人が戦ったマシェリアと比べるとどのくらいなんだろうな」


「強いのかどうかってことなら、あたしも気になるかしら」


「まぁ……さすがに、記憶の禁書みたいなものは持ってないと思うけど」



 七英雄の末裔二人が話すことに同じく興味を抱き、白の聖女と黒の巫女がレンを見た。

 二人の視線を受け、



「強いよ。間違いなく」



 レンの言葉は推測として発せられたけれど、しかし不思議と説得力のある言葉とも受け取られる。

 彼が言うなら、と誰しもが思わされるほど。

 どこか遠くを見ながら言ったレンへと、勇者の末裔が素直な感想を吐露する。



「どのくらい強いかなんて、想像できないな」


「うん。それは俺もかも」



 確証はないという口ぶりのまま、その話は終わる。



「三人はそろそろ宿に戻ったら?」


「どうしたのよ、急に」


「そりゃ、リシアたちが一番疲れてるんだし」



 着替えていたし傷の処置も終えていたが、疲れは残っていたし、頬や腕にも戦いの余波は見えた。戦いから時間が経っているからボロボロというほどではないのだが、隠しきれていない消耗があった。



「イグナート様だって、もう少し休んでいないと」


「平気ですよ。こう見えて体力はあるほうですから」


「はぁ……そういう返事だろうと思ってましたけど……」



 呆れた様子のセーラはフィオナからリシアへと顔を向けた。



「こっちは大丈夫だから、もう少しだけ、あっちの日陰で休憩してきなさい。いい?」



 皆がいた橋の一角にあるのは、この緊急時に必要な物資が積み重ねられたところだ。

 いまならあまり人通りもなく日陰だし、ここよりは多少静かだからゆっくりできるはずと思いセーラが指さしたのだ。



 レンをはじめとした三人が、遠慮がちに頷いて返す。

 ここまで気を遣われて断るのも悪い。疲れが残っていることは事実なのだし。



「ありがと。何かあったら呼んでね」


「はいはい……別にないと思うけど、あったら教えに行くわ」



 レンたちが足を運んだ日陰にはベンチがあった。

 いまは支援物資などが詰め込まれた木箱がいくつもあって、ほとんど人目につかない。普段は湖を一望できる特等席だった。



「じゃあ、えっと……少しだけ休んでいきましょうか」


「そうですね……ここ、静かで涼しくて気持ちいいですし」



 ベンチに腰を下ろす前後でリシアとフィオナが言葉を交わし、



「――――もう、こんな綺麗な景色に戻ってたんだ」



 レンがようやく落ち着いて、町を見渡して口にした。 

 より冷静に考えられるようになって、あの言葉が思い浮かぶ。



『古き神の寵愛を受けた神子の末裔……君となら、私は世界を変えられる』



 マシェリアはあのとき、こう言っていた。

 そのことを思い出していたレンが、「古き神の寵愛……」と声を漏らす。

 どの神の寵愛なのかはわからなかった。二人は戦いが終わってからあのときの言葉をレンから聞かされていたため、つづくレンの声にも声を返せた。



「冒険家アシュトンはアスヴァルの角を軽々と折ったらしいので、神の寵愛を受けてたって聞いても違和感はない……のかも」


「でも、はっきりしてよかったじゃない」


「そうですね。何もわからなくて、ずっとモヤモヤしてましたもの」


「……ですね。一つ進めた気がします」



 まだ騒動の後始末であまり手が届かないだろうけれど、ミセルの神殿も調査が進むだろう。

 そう思いながらレンが考えさせられるのは、



(結局、誰の声だったのかな)



 彼が地下神殿で目を覚ましたときに聞いた声だ。

 落ち着いたいまだからその疑問が再び頭の中に浮かんできたが、いまもよくわかっていない。

 よくよく思えば、レンがはじめて星域の門を訪れたときの帰りもそうだった。あのときの、風に交じった声にも似た音の存在が頭をよぎる。あそこが遊戯の神に縁のある場所と明らかになったいまは、その関係が気になるが。



(……結局、よくわかんないや)



 ミセルの神殿の最深部へと足を運んでいたと思しき、レン・アシュトンがしていたこと。それが何か自分にも関係があるのかもしれない。いまはそのくらいしか考えられなかった。



 いつしか――――



 三人に訪れたのは、穏やかなひととき。

 湖を流れる水の音を聞いていたら、静かな風が横顔を撫でていく。自然と言葉数が減るが、その静寂が嫌どころかむしろ好ましかった。



 波に反射した陽光の煌めきが、緩やかに揺らぐ。

 戦いが終わったことを、星謳う地が彼らに語り聞かせていた。



「……少しだけ、休もうかな」



 それ以上の言葉は、もう三人には必要ない。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 それから、およそ三十分が過ぎた頃だった。

 きちんと三人は休んでいるだろうか。自分の目を盗んでどこか手伝いに行ってはいないだろうか、とセーラは疑心暗鬼になりながらもヴェインの隣を離れた。

 あるはずのベンチに近づいたとき、彼女は笑った。

 自身が気にしていたことが杞憂であることを知ると、



「……ほんっと、仲いいんだから」



 思わず目を点にした後に呟いた。

 セーラは穏やかな笑みを浮かべ、軽い足取りで戻っていった。



「三人はどうだった?」


「静かにしてあげましょ。ちゃんと休んでたから」



 話をしてすぐにヴェインが席を外し、残されたのはセーラただ一人。

 ややあって、セーラを訪ねたのは伯爵が遣わした執事であった。



「クラウゼル様、イグナート様、そしてアシュトン様を探しているのですが……」


「そうね、その三人なら――――」



 教えるべきだと思った。

 けれど、いまはそうするべきではないとも思った。

 だからセーラが思い浮かべた結論は、



「しばらくしたら伝えておく、って伯爵に報告していただけるかしら」



 深くは答えず、濁しながら告げた。

 だが、執事にはわかった。奥に見えた物陰のベンチにセーラが一度目を向けたことで、彼女が何を言いたいのかを。



「……いいえ」



 執事は口にすべき言葉をすぐに思い浮かべた。



「お三方に心ゆくまで風をご堪能いただけた頃に、また」


「ありがと。じゃあそうさせていただこうかしら」



 セーラは執事が立ち去ると、手すりに背を預けて風を浴びる。

 彼女は風に揺らぐ髪を片手で押さえ、誰かがその先の物陰へ向かってしまわぬようにと一人残った。



 少しして、空からいくつもの音が下りてきた。

 見上げれば、数多くの魔導船が魔導船乗り場へと向かっている。騒動は終結しても事後処理はつづく。

 そのための人員が、いままさに到着間近だった。



「これでまた、あたしたちも忙しくなりそう」



 しかし、忙しくなるのは自分たちだけでいい。あの三人にはもうしばらく、誰にも邪魔されず身体を休めていてほしかった。

 物陰にあるベンチを再び流し見ると、セーラは唇の端を緩ませる。



「……ってことだから、あなたたちはしばらくそうしてなさい」



 ベンチに座り目を閉じ、穏やかな寝息を立てた三人のひとときを妨げることは、たとえ皇帝であっても許されない。

 いいや。それどころか相手が神であってもきっとそう。

 セーラはそう強く信じ、




「あなたたちに必要なのは、そうして過ごす時間ってこと」




 その声を、風に乗せた。



7章はあと数話つづきます……!

また、昨日のように更新のお休みをいただく際はXにてお知らせしております。他の告知などもしておりますので、是非ご覧いただけますと幸いです!

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