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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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記憶の籠[後]

原作最新7巻が1月17日に発売です!

数万文字の加筆や特別なSSもご覧いただけますので、書籍版も何卒よろしくお願いいたします……!

 レンは突然の事態に戸惑いを覚えるばかり。

 これがあの人(マシェリア)の……あの人? 誰のことを考えているのかよくわからなくなった。



 自分はいつものように起床して、身支度を終えてリシアと一緒にクラウゼルを発ったのだ。夏休みが終わってすぐのまだ暑さが残るこの時季に、新学期のことを彼女と話したりしながら、普段通りの一日を過ごそうとしていた。



 きっと、立ち眩みにでも見舞われたのだろう。

 レンは申し訳なさそうに笑むと、未だに心配そうにしているリシアの顔を見た。



「多分、立ち眩みしてたみたいです」


「それならいいんだけど……」



 彼女は心配したままレンに向けて指先を伸ばし、慣れた様子で神聖魔法の光を届けた。その心地よさに唇の端を緩ませて、すぐにレンは申し訳なさそうにはにかむ。



「本当に一瞬だったんで、全然気にしないでください」



 そう言うとレンは引きつづき先へと歩いていき、徐々に学院が近づいてくる。

 校門を通り少し歩いたところで、セーラをはじめとした七英雄の末裔たちがその片隅で話をしているのが見えた。

 彼らは二人がやってきたことに気づいて近寄ってくると、いつもの調子で話しかけてきたのだ。



「おはよ、二人とも」



 セーラが言った。

 そこに七英雄の伝説における主人公だったヴェインの姿はない。あるのはセーラとネムという女性陣とカイトの姿だ。つまり主人公の目には、レンとリシアが一緒に登校している姿など見えることもなかった。



 ……もっとも、七英雄の伝説ということも主人公ということも、レンにはよくわからないことだったのだけれど。



「あれ? 今日はセーラたちだけ?」


「ヴェインは前の騒動のことで貴族との会合に出席するって。あたしたちも行くつもりだったんだけど、短時間だから大丈夫ってことみたい」


「こないだは皇帝陛下とも謁見されてなかった?」


「それとは別件。それに皇帝陛下たちは大霊廟でのご公務もあるから、最近はすごくお忙しいみたい」


「ふぅん……あそこでする公務なんてあるのね」


「第一皇子殿下が皇太子になるでしょ? 皇太子になった方は獅子王の墓前にご挨拶に行くならわしなんですって」



 確か、そんな儀式が存在すると教科書に書いてあった。

 皇太子という存在ができるのが数十年に一度ある程度のことだから、授業で触れたりしなければ知らぬままの人も多いだろう。

 ふわぁ、とセーラが不意に欠伸を漏らす。



「まだ夏休み気分が抜けないのよね。……そういえば、リシアたちは夏休みってどうしてた?」


「普段とほとんど変わらないわよ。いつも訓練か仕事をしてたし……あっ、でも剣はいつもより先生に見てもらえたの」


「先生って確か――――」


「言いづらそうにしなくていいってば。セーラが考えてる通り、お母様の妹よ。私の叔母様ね」



 幼い頃に母を亡くしたリシアのことを考えるあまり言いよどんでしまったセーラだったが、そうリシアに言われて「あの方ね」と微笑した。



「ねねっ、そのリシアちゃんの先生も剣聖とか?」


「剣豪よ。私なんかよりすごく綺麗な剣だから、セーラも見たら驚くと思う」



 彼女たちの声を聞きながら、レンは考えた。

 彼だって夏休みがはじまる前と同じで、ほぼ毎日獅子聖庁に……。



(あれ……どうして俺、獅子聖庁って考えたんだろ)



 わけもわからぬまま足を止め、焦点が定まらない眼で足元に視線を落とした。



「アシュトン? おーい、アシュトーン?」



 どうしたのかと思い、レンを見るカイトをはじめとした七英雄の末裔たち。

 しかしリシアは学院に来る途中のやり取りもあって表情が変わる。再び心配した様子でレンの手を取った。



「レン、やっぱり何かあったの?」



 レンはすぐに、なんともないと言う代わりに笑みを浮かべた。

 そして、リシアを見て――――。

 普段通りの声音で彼女へと話しかけたのだ。



「忘れものをしてきた気がして」



 と言い繕った後に。



「だから大丈夫ですよ、リシア」



 リシアが、セーラが、カイトが。

 そして、近くを歩いていた生徒まで。

 ふと、空気そのものが止まったかのような状況の訪れとともに、リシアはレンを見たまま唐突に肌を上気させた。



「な、なななな……!?」



 いままでになく慌てて、信じられないといった様子でレンを見つめる。

 周囲のざわつきはすでに、彼女の耳に入っていなかった。



「も、もう! 急にどうしたの!? 嫌とかじゃないけど! でも……!」



 すると、それまで黙っていたセーラたちが口を開いたのである。



「レン!? どうして急にリシアを呼び捨てにしたの!?」


「え? いつもリシアって呼んでるじゃないですか」



 それにはリシアが慌てて口を挟み。



「呼んでないから! 前にお願いしたときはダメだって言ってたのに、どうしていまなのよ!」


「そうよね。だから前にあたしに相談しに来てたんだし」


「え!? そうだったのリシアちゃん!?」


「セーラは余計なことを言わなくていいの! そ、それでレン! いきなりどうしたの……!?」



 慌てたリシアに詰め寄られる中、戸惑っていたレンの視界は徐々に霞んでいく。

 彼女たちの声もそう。

 急激な頭痛に見舞われていたら、リシアが照れながらも喜んでいる様子がどこか遠くへと過ぎ去っていった。



 過ぎ去っていくのを見ながら、レンは違和感の正体に気付きはじめていた。



「違う。いまのは……」



 いまのは、現実なんかじゃない。

 どこか違う場所の出来事の回想に、いままでのように傍観者ではない当事者として入り込んでいただけだ。



 つづく光景の中でもレンはその感覚にいて――――

 しかし、次の刹那には。



「……リシ、ア?」



 学院の大講堂。壇上。

 まぶしいほどの照明に照らされたそこに、二人。

 レンは腕に抱いていた少女が少しずつ冷たくなるのを感じながら、いままでにない負の感情に心を覆われた。



 床には鉄の魔剣が落ちている。

 リシアの胸元を見れば、それに貫かれた痕があった。

 何かを考えるより前に大講堂の扉が開かれるや、ヴェインたちが壇上の光景を見て駆け寄った。



「なっ────レ、レン!? お前、何をしてるんだッ!」



 あの一枚絵のシーンが。

 いまはレンが、その中の一人となって。

 そのとき、レンの口はほとんど自然に動いた。意識していなかったのに、あのときと同じ言葉がその口から発せられる。



「見てわかるだろ? 俺はいま、彼女を殺したんだ」



 世界はめまぐるしく変貌していく。

 いつしか腕に抱いていた微かな温かさは消え、大講堂も消えた。見た覚えのある景色が広がりはじめたと思うと……



 今度は、意識を失う前と同じ場所に立たされていた。

 いままでと違い、穏やかに揺れ動く神の朧。

 それがいま、彼の声に反応していたのである。



『ミセル、お前の試練を受ける。だから俺は――――』



 彼は言い、世界はようやく消え去った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ 




 次に目を開けたとき、レンはどれほど時間が経っていたのだろうと不安に思ったが、実際には数秒も過ぎていない。



 睨みつけてきたレンを見て、マシェリアは数秒の沈黙。

 そして笑った。心の底からの大きな笑い声を漏らした。



「あーっはっはっはっはっ! そうか、やっとわかった! 人のことを散々化け物みたいに言っておきながら――――」



 マシェリアは先ほどレンが体験した世界そのものを見たわけではない。

 それでも、マシェリアは言い放った。



「誰より化け物なのは……君のほうだ!」



 ここで殺す。

 何としても、自分のすべてをなげうってでも。

 レン・アシュトンはいま、ここで死ぬべきなのだと。

 今度は一本……深紅の巨剣へと禁書の力をさらに注ぎ込めば、禁書の影響を受けて黄金の巨剣にその見てくれを変えた。

 されどレンは顔を歪めるようなこともなく、構えた。



 ……マシェリアに記憶を覗かれそうになって何かが痛い。頭の奥……もっと深いところが……。



 瞼の裏に浮かんだ、まぶしい光景。

 痛い。心があまりの痛さで死にたくなるくらい。



『――――から、ね。レン』


『も――――これで』



 あまりの痛みに倒れ込みそうになりながら、レンはその声に耳を傾けた。

 知っているはず。きっと白の聖女(あの子)の声。

 だけど、その声を聞くと泣きたくなって、どうしようもない孤独感に押し潰されてしまいそうになってしまう。

 それでも、彼は。



『――――だから……約束』



 最後にその声を聞き、苦しみのすべてを振り払った。

 頭の中で繰り返される彼女の声を聞きながら、それまで閉じていた目を大きく開く。

 ここで諦めたら、すべてが消えてしまいそうな……。

 何か、大切なものを失ってしまいそうに感じて。



「絶対に……諦めない!」


「っ……これでも死を恐れないなんて!」


「ああ! 諦めるより怖いことなんて、一つもない!」



 黄金の巨剣を、真正面から。

 禁書というこの世に存在する特に稀有で、特に力を秘めた魔法的物体。その力を借りて生み出された剣魔の剣に対し、それでも彼は受け止めきった。

 だが、勢いが止まらず、徐々にレンの身体が押しのけられていく。



「マシェリアはお前の哲学を否定する。だが、神の理をも欺くお前の生きざまは肯定しよう」


「さっきから、わけのわからないことばかり言って……!」


「わからなくてもいいさ。だって、理解できないことだろうから。こんなのは、誰に話したって理解してもらえない」



 そして――――ミスリルの魔剣は砕け散った。

 だが、貫かれまいと強引に身体をひねる。脇腹を切り裂かれてしまいながら、レンは勢いに身体を預けて大きく後退。



 さらに禁書が読み取ったのは、アスヴァルの炎である。

 レンは自然と苦々しい思い出を振り返り、眉根を寄せた。



「……想像してた! けど、その炎まで生み出すなんて……っ!」


「ふふっ! これは神代の炎だ! 龍王の力がどうして君の記憶にあるのかな!」


「そんなの――――俺が戦ったからに決まってる!」



 盾の魔剣を消すと、水の魔剣を召喚して振り上げる。

 神に連なる聖なる水のベールが生じ、石畳を覆って……押し寄せる炎を防ぎ……。二つの力は、その刹那に相殺された。

 美しい蒼の剣を石畳に突き立て、召喚しなおしたミスリルの魔剣を手にして、



「こんなんじゃ、なかった」



 レンは息を切らしながら言った。

 その声に宿る覇気は、決して消えない。



「あいつの炎はこんなに弱々しくなかったぞ! マシェリア!」


「……どこまでも、諦めないんだな」


「ああ!」



 マシェリアが今度こそレンの命を奪わんとして、禁書に触れた。




 二人以外の足音が階段の上から響いたのは――――そのとき。

 白銀の剣圧と凄烈な冷気が迸れば、亡国の姫君は片手をかざしてすべてを弾く。



「……君たちは」



 その声を、マシェリアは階段の上に見えた者たちへ。



「三人は卑怯、なんて言わないわよね」


「言えるはずがありませんよ。いつも無辜の方たちを襲ってるんですから」



 白の聖女と黒の巫女。

 彼女たちが階段から声を発し、すぐさまレンの隣へと降り立った。

 寄り添ったリシアが放つ白銀の光。それがレンの身体に溶け込んだ。痛みや消耗が完全に消えたわけではなかったが、傷口は瞬く間に塞がっていく。



「ど、どうして二人がここに!?」



 レンが立ち上がりながら二人に言えば、彼女たちが深々と息を吐いた。その表情からは呆れていたことまで伝わってくる。



「バカなの?」


「ええ。ほんとに」


「い……いえ! 俺は本気なんですが!」


「はぁ……本気ならやっぱりバカね」


「……そうですよ。私たちを侮らないでください」



 彼女たちはレンの一歩前に立ち、彼を振り向きざまに言った。



「レン君がまだいるじゃないですか」


「そ。ほら、さっさと終わらせて帰るわよ」



 マシェリアに記憶の禁書を使われたときから残る、心を揺らす切なさ。それがいまでは一切鳴りを潜め、ただ二人の輝きに目を奪われた。

 彼女たちが前を向きなおすと、マシェリアが何かを感じ取り呟いた。



「道理で彼が、すべてを捨ててでも力を求めたわけだ」



 レンがこれほど追い詰められたのはイェルククゥと戦ったとき、アスヴァルと戦ったとき、それか剣魔と戦ったとき。

 どれも彼が死に瀕したときだったが、この状況はそのどれにも劣らないように感じた。

 記憶の禁書が再び光を孕み、マシェリアが手をかざす様子に目を向けた少女たち。

 レンが二人に、「あれは、相手の記憶を読み取る力を持ってます」と。



「――――剣魔の剣と、アスヴァルの炎を召喚してました」



 一瞬、頬が引き攣りかけた少女たちがすぐに気を取り直した。

 驚いてしまったが、惑いも怯みも一切ない。



「イェルククゥの召喚とかは?」


「あと、オルフィデが使っていた呪いもです」


「まだ使われてませんけど――――使えると思います」



 それもそのはず。剣魔とアスヴァルの力を再現しようとするならば、それ以下の力は造作もないことだろう。



「でも、どうにかできるはずです」



 フィオナが強烈な冷気を漂わせながら。



「だって、そのどれも乗り越えてきたんですから!」



 地下空間に生み出された数多の氷の刃が、空を切り裂く。マシェリアを狙い済ませば、幾本かがその手にある禁書目掛けて切っ先を輝かせた。

 しかし、炎が宙で焼き尽くす。

 アスヴァルが放ったブレスにも似た炎の渦が、三人に向けて放たれた。



 対するは、神聖魔法による光の壁。

 レンがそれで守られた経験は何度もあって、はじめてはイェルククゥと戦ったときだ。

 しかし、当時とは別格。いくらレンがアスヴァルのそれより弱いと言っても、再現されたそのブレスを防ぎきった。



 足取りが重いレンがそれでも勢いよく前に踏み込んだとき、隣にいたのは白の聖女だ。正面からレンが、背後に回ったリシアが共に剣を振り上げる。

 だが、マシェリアの視線は二人に向けられていなかった。



「三人なら勝てるって、そう思ったのかな」



 彼女は言い、瞬時に深紅の巨剣を周囲に生み出しそれで防ぐ。さらに一本をフィオナに向けて放つが、分厚い氷の壁に防がれた。



 炎に巨剣、遂にはリシアが使う神聖魔法やフィオナの氷までもが再現され、それらが禁書の特性によりさらなる破壊力により猛威を振るった。

 嗤う亡国の公女に疲れはおろか、消耗した様子すら一切ない。

 だが、少女たちは違う。



「っ……何、これ……っ!?」


「記憶から力を読まれたから……っ!?」



 二人は強烈な頭痛に足を止めることもあった。

 彼女たちはレンと同じくそれでも戦いつづけたのだが……マシェリアには、その様子がひどく虚しく見えた。



「神の朧は世界の記憶」



 もう、終わらせよう。

 亡国の公女は言い放つ。



「マシェリアは知りたいだけ。世界のすべてを、この先を」



 記憶の禁書が本質を露わにする。

 過去、メディル公国を地の底に沈めたほどの力があって、三人を相手にこれ以上を披露できないはずもなかった。



「君たちを消す。この世界から!」



 禁書のページに記されたのは数多の魔法陣と、神代の文字。そこに宿る魔力は、記憶されていた魔法は……メディル公国を滅ぼしたもの。



「っ――――二人とも!」



 頭痛で足を止めたばかりの二人へ駆け寄り、彼女たちの前に立ったレン。

 あれが発動したら、絶対に止められない。だったらいまできることは……しなければならないことはただ一つ。

 いまできるすべてを以て、あの力をねじ伏せるのみ。



 けれど、いまは一人じゃない。

 少女たちはレンの隣に立ち、その覚悟を見せつけた。



「抑えきれなかったら……なんて考えなくていいわよね」


「もちろん。早く終わらせて帰りましょう」


「ええ。私たち三人で……絶対に」



 光り輝き爆ぜようとしていた一枚のページが威を示さんとした、その直前に。

 荒れ狂う白銀と漆黒の波動が、蒼く輝く氷がつづき、星殺ぎが周囲の魔法へと作用。だが、公都を滅ぼしたほどの魔法に対し、まだ足りていなかった。



「これじゃ……!」



 辛そうで、苦しそうで、いまにも倒れ込みそうなほど。

 必死に耐えるレンの横顔を、リシアは見た。

 彼は最初、リシアとフィオナをたった一人で守ろうとしていた。それなのに自分は……何をしているのだろう。



 ……私の力が、足りてないから。

 ……まだ私じゃダメなの?



 何度だって死線をくぐり抜けてきて、今日を迎えたのに。

 それが、あんな古びた本の力で終わらせられるだなんて。



「――――そんなの!」



 受け入れていいものか。



 (レン)の背を追った。彼のようになりたいと思った。

 そして、常に彼の剣に目を奪われていた。



「っ……俺たちは、必ず……!」



 だが、レンの声が遠ざかっていく。

 記憶の禁書が放つ衝撃により、リシアの身体が後退させられていたから。

 同じく耐えきれていないフィオナと共に身体を支え合いながら……ぎりっと強く歯を食いしばり、レンの背を前方に。



 悔しくてたまらない。

 何度だってこの気持ちに苛まれてきたが、またこんな気持ちになるのは耐えがたい屈辱だった。



「私はまだ足手まといなの……!?」



 認められない。認めてはならない。

 レンの背が離れていくのにつれて思わされる。いま離れてしまったら、二度と彼の隣に立つことはできない……と。

 追いつかないと……彼の傍に行かないと。



 そう考えてすぐ、リシアは心の奥底から生じた感情に従った。



「……違う」



 追いつく、ただそれだけを思っていればいいのだろうか。



「絶対に、そうじゃない!」



 外で戦っていたときだって、似ている疑問を抱いた。

 追いつく。本当に求めていたことはそんなんじゃないはずだ。それであっていいはずがないのだ。

 そう考えていたとき、どうしてか彼女の頭をよぎったのは昔の一場面。




『────貴方がレン・アシュトン?』


『ああ……俺がレン・アシュトンだけど』




 追い求めるだけが自分ではない。そんなのは、はじめて彼と会ったときのことを思い出せば明らかではないか。



 彼女の焦点は変わりはじめて、彼の背から隣へと。

 振り絞れる力はもう絞り尽くした、そんな気がしていた。だが、まだ懸けることのできるものがあった。




『私はリシア・クラウゼル────『白の聖女』よ』




 昔、リシアが彼に告げた言葉。

 あの言葉に宿っていた誇り。



 すべてを剣に賭し、自分自身の存在そのものの価値を問う。纏いは応え、絞り出せたと思っていたそれが嘘であると彼女に教えた。

 すると、はじめて彼と会ったときよりも、いまその場所がはっきりとして見えたのである。




今日もアクセスありがとうございました。

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