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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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280/288

銀と蒼[後]

7巻が紙の本、電子版ともに予約が開始しております!

今回もたくさんの加筆がありますので、ご一緒にお楽しみいただけましたら嬉しく存じます!

 神殿の内部がどうなっているのか。彼らの存在により、それをさらに強く考えさせられてしまう。



 ……勘違いじゃない。いままでよりずっと強い。



 たったいまリシアが心の中で確認したその感情を、フィオナもまた抱いていた。

 氷魔法と剣戟による連撃がやむことはなく、圧倒的優勢のまま戦いは進んだけれど――――いままでになく精強な魔王教徒たちが気になって仕方がない。



「嫌な予感がします。急いでレン君と合流しないと」



 フィオナに同意したリシアが、さらに苛烈な剣戟にて魔王教徒を圧していく。フィオナもより強力な氷魔法を放ちはじめたところで、



「え――――!?」


「この魔法陣は……!?」



 周辺の宙や地面にはいくつもの魔法陣が展開され、彼女たちを驚愕させた。

 どれも二人が眉をひそめるほどの膨大な魔力を秘めている。

 二人は目にしたことがなかったが、その魔法陣はウィンデアでオルフィデが用いたものにもどこか似ていた。



 魔王教徒の中でも後衛を務める者たちが、大粒の汗を大量に流しながら、懸命に魔法陣の力を解放させようと試みる。



「……あれ、あの人たちの力で扱えるものじゃありません!」



 フィオナが周囲の様子を見て。

 驚愕を交えて、そう断言した。



「だったら、誰かが用意していたものってこと!?」


「ええ! そうじゃないと、あんなの扱えるはずないんです!」


「ふぅん……! だからあんな必死になってるのね!」



 どんな経緯があろうと、あの魔法陣の力を解放させるわけにはいかない。

 見ているだけでわかる圧倒的な魔力の蠢きに対し、できることは二つ。



 逃げるか。

 立ち向かうか。



 実質、二人が選び取る気になれる選択肢は一つだけだった。剣を手にしていた魔王教徒らは袖をまくり、腕に施されていた魔王教の刻印を露わにした。

 皆で力を尽くし、魔法陣へと力を注いでいた。強大な風圧が周囲に吹き荒れ、おびただしいほどの昏い魔力が空気中にも漂いはじめる。



 真正面から攻めようにも、あれらの魔力を無防備な身体に浴びてしまえば……。

 距離を詰めて魔王教徒を打ち倒すには周囲の力が危うい。それなら、とリシアは息を大きく吸ってすべきことを心に定めた。



 同じく自分がすべきことが、フィオナの心の中にも。

 周囲の様子を見回しながらも、二人は背を合わせた。



「一番強い魔法を使って。そのための時間は私が用意するから」


「はい。命を懸けて」




 凛と口にした白の聖女。

 迷わず頷いた黒の巫女。



 それから間もなく、魔法陣が爆ぜた。

 オルフィデが用いたそれと比べれば威力は弱々しかったが、あれが別格なだけ。ここで発動した魔法陣による力は、負けじと魔大陸の呪いを秘めていた。



 それはリシアとフィオナが経験したことのない強烈な圧を放ちながら――――漆黒の魔力が二人に向けて、爆裂しながら一筋の光線となり迫りくる。



 リシアは白焉をいま一度振り上げて、



「そこを退きなさい……魔王教!」



 言い放ちながら、力の限り振り下ろした。

 たった一人で受け止めるには強大すぎる魔大陸の力。魔王教徒たちは自分たちの魔力を際限なく費やしながら、勝利を確信していた。



 だが……相手はただの少女ではない。



 彼女は白の聖女なのだ。悪しき力に対し、それ以上ないほどの力を兼ね備えた存在。魔王教にとっての天敵。

 これほど強力な魔大陸の力に対しても、決して見劣りしない聖い少女である。



「やっぱりいままでと違う……でも!」



 少女も大粒の汗を浮かべ、懸命に腕を前へ押しながら……彼女は何があっても引かなかった。

 そうしていたら少しずつ、纏いが落ち着きはじめたのを感じる。

 互いに限りなくを賭した鬩ぎ合いの果てに――――




「――――フィオナっ!」




 長い膠着状態は遂に終わろうとしていた。

 背中越しに渾身の叫び声により呼び捨ててしまったのは、ただ単に少しでも短い言葉で強く伝えたかったから。



 リシアの焦りが、賢明さが、一度だけのその呼び方を引き寄せたのだ。

 突如足元に漂った蒼い風を感じ……リシアは頬を緩める。



「見せて! 黒の巫女(あなた)の力を!」


「ええ!」



 神殿の遥か上空に及ぶほどの氷の華。

 閉じた巨大な花弁が、周辺の空ごと覆い尽くした。全貌は磨き上げられた宝石のような蒼を纏った、世にも珍しい氷のクリスタルである。



 降り注ぐのは、蒼々と輝く極限の冷気。

 氷の華が花開くや――――空気が、あるいは時間が止まる。咲き誇った大輪から放たれた蒼い閃光は魔法陣にまで届くと、ことごとくを凍てつかせた。

 魔法陣が宿した力は瞬く間にかき消されていくが……それでも、



「……嘘!?」


「まだ足りてないんですか……!?」



 僅かに至らず。

 魔法陣は徐々に……再びあの力を放とうと内部で魔力を迸らせだした。

 氷により崩壊しながら、しかし同時に、残された力を余すことなく炸裂させるために自分から姿を変えはじめた。



 崩壊しながらも膨張しはじめた魔法陣が放つ破壊力は、きっと先ほどにも勝るだろう。そうなればもはや自爆に近い概念によるものでしかない。



「っ……!」



 リシアの目は死んでいなかったが、この状況に歯を食いしばった。

 次なる一手を自分は防ぎきれるだろうか。もし防ぎきれなかったら……そんなのは考えるまでもない。

 リシアはいま、不甲斐なさに心を震わせた。

 だが、それは……。



「もし……防ぎきれなかったら?」



 心が震えたのは、自分の力が及ばなかった場合に限ったことではない。

 一瞬でもその結末を考えてしまった自分に何より苛立ち、白焉を握る手により力が入った。 



 もう一度前へ、一歩。



 するとリシアは、前方に彼の背を見たような気がした。負うべき背中を垣間見て、その彼が神殿の奥にいることを思い浮かべる。



「……こんなんで、レンの隣に立てるわけないじゃない」



 一度、彼女は目を伏せ深呼吸。

 いまここで、彼女自身と彼の立ち位置を再確認。



 不甲斐ない気持ちを募らせるのは、それまでだった。

 誰より勇敢で、誰より諦めることを知らず、そして誰より心優しい少年の強さを思い浮かべるだけではない。



『誰かの背を追うのも間違いではないが、それにばかり気を向けすぎるなよ。ということだ』



 エステルが口にしていた言葉の意味が、少しだけわかったような気がする。

 恐れるべき魔大陸の圧は健在。それを目の当たりにしながら、リシアは先ほどよりさらに一歩前へ足を動かした。



「魔法、まだ使える?」



 白の聖女が、黒の巫女へと問いかけた。

 彼女たちの間にこれほどの信頼関係が結ばれたのはいつからだろう。

 もしかするとそれは、はじめて会ったそのときから垣間見えていたのかもしれない。



 こくりと頷いたフィオナが、再び「命を懸けてでも」と平然と言ってのけたのを聞き、リシアはその頼もしさに笑って剣を握る手に再び力を込めた。

 この先へ行くために、もう一度。



「追い縋ろうとするだけなんて……そんなの、私らしくない」



 ただ追うだけではない。極限の状況にありながら、リシアは到達すべきところへとその足を近づける。



 そのために、足掻きつづけた。

 足掻いて……どこまでも足掻いて……。

 その先に待っていたのは一欠片の輝き。五感がいままでになく鋭さを増していき、纏いの様子が徐々に変わりゆく。



 ふと――――リシアは全身がいままでにない感覚に満たされた。

 どこかそれは、先日体調を崩したときにも似ていた。違っていたのは、あのときと違って全身の感覚が研ぎ澄まされていることだろう。



 いつしかその不可思議な感覚は、音色へと変わりつつある。

 が、その音色はまだ弱々しく、定まっていない。フィオナが以前エウペハイムで聞いたことのある音色に比べると、存在感が希薄すぎた。



 一瞬だけ顔を覗かせた(きた)るべき時は、いまではなかった。

 しかし、



「絶対に諦めない! 私は――――っ!」



 白焉は、その一振りだけ波動を纏う。

 奏でかけたことによる名残が、そこに。




「私は――――リシア・クラウゼル!」




 ダイヤモンドダストを思わせる、煌めきに満ちた美しい波動。

 ほとんど無意識のうちに振り下ろされた白焉から解き放たれ、氷に覆われた魔法陣へ……さらなる力を放とうとするそれへと届いた。



 彼我の距離がゼロになり、まばゆい閃光が飛び散った。

 魔法陣はその力を失い雲散し、白銀の輝きと氷の残滓が舞う幻想的な景色が生み出される。

 地を這う冷気も徐々に鳴りを潜め、力を使いすぎた魔王教徒たちが一人残らず芝の上に倒れ意識を失っていた。



 ……ふらりと身体を揺らしたリシアの隣に、フィオナがすぐに駆け寄る。



「……頑張ったわね、ってお互いを褒めたいところだったんだけど」


「それは後で、って仰りたいんですよね」


「ええ。じゃないと、私たちが来た意味がないもの」



 魔法陣が崩壊したときの破壊力によるものか、神殿を塞いでいた壁も消えていた。

 二人は意識を失い倒れた魔王教徒らを横切って中へと進みながら、リシアの神聖魔法で身体を癒やしつつ言葉を交わす。



「ただの教徒たちじゃなかったのって、魔王教がいままでより本気になったからでしょうか」


「そうかもね。剣もそうだったけど、魔法の腕前も私たちが戦ったことのある教徒たちよりずっと上だったし」


「では、この神殿にそれだけの価値がある……そういうことですね」



 そうでなければあんなことにはなっていないし、わざわざ賑わうこの時期にここを標的にするだろうか。

 何か、この時期のクルシェラでなければならない理由があるはずなのだ。



「さっきの、レンが言ってたオルフィデの魔法に似てたと思わない?」


「呪いの力とか、似てるところが多かったですもんね」


「そ。使用者が違うから、そっくりってほどじゃなかったけど……」



 たとえば誰があの魔法陣を用意していたのか、とか。もし仮に魔法陣を発動させるのが教徒ではなくさらに力ある者たちだったのなら、いったいどれほどの破壊力を誇ったのだろうか、とか。

 気になることはいくつもあったのだが。



「ほんと、ずっと先にいるんだから」



 あれよりさらに強力な呪いに対し、たった一人で立ち向かった。

 彼女たちはレンがウィンデアでどう戦ったのかを思い描き、苦笑を交わした。



「それで、さっきのリシア様の剣と音は……!」


「それは後でね。結局、まだ何か変わってるわけじゃないし」



 なぜなら、まだ掴みかけただけでしなかないから。

 二人の足音が、神殿の中に響き渡った。




今日もアクセスありがとうございました。

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