聖人の右剣。
7巻電子版の予約がはじまりました!
活動報告では書影なども公開しておりますので、どうかご覧いただけましたら幸いです!
リビングではリシアとフィオナがソファに腰を下ろしていた。
帰ったレンがメニュー表をテーブルの上に置いてから、ロビーでの出来事を二人に話す。
「――――なので、話を聞きに行ってもいいと思ってます」
リシアが一度体調を崩したこともある。レンは行くなら自分一人で大丈夫と言葉を添えた。どうせ、ここから歩いて何十分もかからないほど近くなのだ。また現地でヴェインとも会えるかもしれない。
「でしたら、私はリシア様の傍にいます」
「お願いします。そうしていただけると頼もしいです」
「べ、別に、私は一人でいても大丈夫だけど……」
「……いやー」
「……ええ。大丈夫かもしれませんけど、念のため」
「……あ、あの、二人とも?」
別に信用していないわけではないが、遠慮がちというか、自分に付き合わせて時間を使わせてしまうことを嫌うリシアらしい。
だが、レンもロビーで聞いた話がなければ付き添っていただろう。
――――先ほどまでの掛け合いから少しの時間が過ぎて。
食事を終えて、レンが立食パーティへと向かった十数秒後。
「体調、もう大丈夫ですか?」
「うん……さっきも話したけど、割と前から落ち着いてたから」
「ええ。それならよかったです」
つづいて訪れたのは、静けさだ。
ソファに座り、リシアは抱いたクッションに手を添えてもじもじしてみせる。
対してフィオナはテーブルに置いていた食後の茶で喉を濡らそうとカップを手に取る。カップで顔の下半分を多めに隠せると思いながらである。
遂に口を開いたとき、リシアがとても言いづらそうに。
「同じ人を好きな女の子に看病してもらうのが……すごく申し訳なくて」
「…………あのですね」
あまりにも深いため息がフィオナの口から。
さっきまでの言葉に言い表しにくい雰囲気はすぐに消え、いまのため息を聞いたリシアが「え?」と口にしてフィオナを見た。
「別々のことなんですから、ぜんっぜん関係ないじゃないですか」
「それはそう……かもしれないけど」
「でも気持ちはわかります。私も逆の立場だったらその……普段は感じない気分になってたかもしれませんし……」
「でしょ? だからえっと……ごめんなさい、ありがとうございます」
砕けた口調と敬語を混ぜているところに、リシアの性格がよく出ている。
謝罪と礼を交ぜてしまうところも、言葉の整理がついていないことの表れなのだろう。
「だけどリシア様って……ああいえ、私もですけど――――」
「な、何よ! 変な生き物を見るような表情でこっちを見て……!」
「――――そこまでは言わないですけど、リオハルド様が仰ってたことって、やっぱり間違ってなかったかもしれませんね」
「セーラが言ってたこと……って?」
自嘲を交えて苦笑を浮かべた黒の巫女。
彼女のそんな笑みから理解できた白の聖女。
「いろいろ、拗らせちゃってるってこと? レンがどうこうってだけじゃなくて」
「ええ。私たち、結局そういうことなのかもしれません」
あれはウィンデアの騒動が勃発する前だった。リシアとフィオナが思わぬ展開からある衣装に袖を通していた際、それを目撃したセーラが思わず口走った言葉のことだ。
この状況ではリシアも反論が思い浮かばず、フィオナと同じく苦笑した。
「……今度またセーラに言われたら、開き直っちゃおうかしら」
下手に照れてしまうよりずっといい。
そう信じて。
◇ ◇ ◇ ◇
レンたちが昨日寄ったレストランより大きく、より橋や湖に近い。
少し歩いてそこへと向かえば、話していたように受付には伯爵家の執事の姿があった。そしていままさに、ヴェインも受付を終えて入場しようとしていた。
「あれ、レンも出席することになってたんだ」
「さっき急に決まったとこ。って言っても俺だけなんだけど」
「そうだったのか。でもパーティ会場でレンと会うってのも珍しいかも。お互い一人だけだし特に」
「珍しいっていうか、俺たちだけなのははじめてかな」
レンは執事とも話していたように受付を終え、会場となっているレストランへ。
貴族に限らず資産家や神殿の高位神官など。普段のパーティと違い、祈りの夜々が近い影響も感じ取りながら、周囲を見回していたレン。
聖地の重鎮――――当然、その人物の名も聞いている。見た目も伯爵家の執事から聞かされていたが、まだ見当たらない。
「俺は挨拶とかしてこないといけないんだけど、レンは?」
「人を探そうとしてた。聖地から来たっていう方がいるらしいから、それで魔王教のことを聞いてみたくて」
「聖地から……ああ! 急遽来ることになったっていう方のことか!」
だが、相手も忙しいだろうし話しかけられるかどうか。
本当なら相手と約束をしてから来るべきなのだが、ここに来ることは急遽決まったから下準備はできていない。
けれど、ヴェインがいたことはレンにとって幸運だった。
勇者の末裔はレンが足を運んだ理由を汲む。
「俺も一緒に行こうか? 俺もレンと同じで魔王教のことは気になるし、挨拶はそれからでもいいしさ」
間を取り持ってもらうという意味でも、たとえば騎士の子という立場のレンよりヴェインがいれば話しやすいだろうし。
「ありがと。すごく助かる」
「よし。じゃあそのレンが言ってた人を探すところからだな」
会場はそれなりに広いレストランだ。
テラスもそれに負けじと広いから、その人物を探すのには苦労するかもしれない。
二人はそう思っていたのだが――――
その人がいたのは、テラスの片隅。
湖沿いのそこで、手すりを背にした男性の姿をレンが網膜に捉えた。
聖地の紋章が施された外套を小脇に抱えた、身なりのいい男性である。近くの手すりには同じく紋章が目立つ長剣を鞘に入れて立てかけていた。
……あの人がいるところだけ、別世界みたいだ。
彼の存在感を言葉にするのに、レンはとても苦労していた。うまく言い表せない清らかさが漂っているように感じる。
どうしてか、男性とレンの目線はその刹那に交錯。
互いに言いようのない存在感を相手から感じ取ると、レンはその男性がいる場所に向けて足を動かしだす。
男性は手にしていたグラスを通りがかったウェイターが持つトレイに置き、一歩前へ。
「レン、もしかしてあそこにいる人が?」
「うん。きっとそうだと思う」
「わかった。とりあえず聞いてみるか」
迷いのない二人の足取り。執事から聞いていた姿通りだったから、きっと間違いではない。
やがて、レンと男性が向かい合って互いを見た。
数秒の間を置いて、先に口を開いたのは男性のほうだった。
「主神エルフェンへと、この出会いに感謝を伝えなければなりません」
男性的な色香を漂わせる彼が、切れ長の双眸を二人に向けて。
「勇者ルインの末裔。そして貴方は、クラウゼルの英雄でしょうか」
「はじめまして。ヴェインと申します」
「私はレン・アシュトンと申します。……ヴェインだけでなく、私のこともご存じだったんですね」
「偉業は時の流れで色褪せることのないものです。それと私の前ではどうか普段通りに、話しやすいようにしていただいて結構ですよ」
男はそう言い、胸の前に片手を添えて小さく礼を。
「ミストルフォ。一人の聖宮騎士です」
聖宮騎士はエルフェン教が保有する戦力のことで、多くの大国の近衛騎士にも勝る実力者たち。
だが……その一人の、とは謙遜しすぎた表現だ。
「一人の、ですか」
「何か気になることが?」
「いえ。俺の勘違いでなければ、ミストルフォ卿は聖地でも数少ない高位神官のお一人でもあったかと思い」
ヴェインと違って確信めいた声音のレンに対し、ミストルフォが。
「一人の聖宮騎士に違いはありません。聖宮騎士も神官も、一人残らず主に仕える人にすぎないのですから」
「……聖人の右剣とも呼ばれる方にそう言われ、つい驚いてしまいました」
ミストルフォの上に立つのは剣王序列第一位、聖人。この世界において、それ以上の剣士は存在していない。
それほどの剣士の最側近とも言えるミストルフォの実力は、常人と一線を画している。以前、剣王の一人、雷帝を前にした佇まいからもそれは明らかなこと。
また彼ほどの人物ともなれば、仕える聖宮騎士たちもその中のさらに一握りである。
ミストルフォが今度はヴェインに顔を向け、目と目を合わせる。
「ウィンデアの戦いはお見事でした。我らも同時期に魔王教と事を構えまして、勝利を収めたと聞いたときは頼もしく思ったものです」
「光栄です。ですが、ここにいるレンがいなかったらあの勝利はありません」
「そうですか。彼が皆様と一緒に戦われたという……」
レンに対しての興味をさらに強めたということが、彼の視線から伝わってくる。隠すことのない感情は、当たり前のようにレンも感じ取れていた。
一方のヴェイン。
彼はレンと話していた内容に触れるべく、
「もしよければ、猊下たちが戦われたという話もお聞かせください。是非、魔王教に関しての意見交換を」
「喜んで。ですが、これから神殿長へ挨拶に参らねばならないので」
ミストルフォは迷うも、意外な提案を。
「ここは人も多い。のちほど静かなところで改めてお会いするのはいかがでしょうか」
だが、ヴェインにも挨拶などすべきことがある。
そのためレンは、一人でミストルフォと待ち合わせることに決めた。
◇ ◇ ◇ ◇
立食パーティ中は周囲が賑やかだから、あまり落ち着けない。
橋も観光客で賑わってはいるが、場所を選べばあまり人がいないところもあったし、湖面を撫でる風が涼しい。
先に橋を訪れ、周囲の景色を楽しんでいたのはレンだ。橋から湖ではなく町並みに目を向ければ、彼が泊まる宿が立ち並ぶ区域もよく見えた。
「もう少し話したら帰るので」
宿に向けて呟いたレンの横を、穏やかな風が通り抜けた。
風がしたほうを向けば、聖人の右剣がゆったりとした足取りでこちらに近づいてくる。
「お待たせいたしました」
「とんでもありません。ですが、パーティを抜け出してしまってよかったんですか?」
「元より長く滞在する予定ではない日程です。伯爵へも、急遽私が来てしまったことを謝罪しておりますので」
つまり、
「私は予定が済み次第、聖地に帰らなければなりません。あまり多くの方と話す余裕もありませんので、気にせずにいただいて構いません」
その話を聞いて、レンはいくつかのことが腑に落ちた。
道理でミストルフォが誰かと約束らしい約束を交わしていなかったのだ。
「では、すぐに帰られるのですか?」
「一時間後には。祈りの夜々にも参りたかったのですが、これから西方大陸の神殿へ行かなければならないのです」
「……す、すごくお忙しいんですね」
「いいえ。私は私にできることをしているにすぎません」
堅い人となりのようにも見えるが、偏に敬虔な信徒という言葉が似合う。ミストルフォと話しているレンは、徐々に彼を理解できてきたような気がした。
……いまの話だと、ここに来ることも急に決まったみたいだし。
……だからあまり注目されてなかったのかな。
ミストルフォほどの人物が来訪するというのなら、レンたちの耳に入らないはずがないのだ。特にレンにとっては、リシアの天使化のことで彼女とエルフェン教が接触しないよう心掛けていたのだから。
「白の聖女様はいらっしゃらないのですか?」
レンがクラウゼルで英雄と呼ばれていたことを知るのだから、リシアの傍にいることだって知っていて当然だろう。
しかし、レンがリシアのことを考えてすぐの問いかけだったせいで、レンは自分の胸が大きく揺れたような錯覚を覚えた。
「お嬢様は多忙でして。外遊できる時間がなかったのです」
「それは残念です。主の祝福を受けた方へ一目お会いしたかったのですが」
「申し訳ありません。猊下のお言葉は私からお伝えいたしますので」
特に違和感なく彼らが接触しないよう気を付けられただろう。
ミストルフォはそれから言及らしい言及はしなかった。
「ですが、ヴェインと話すのもあれだけでよかったのですか?」
「突然足を運んだ立場の私が、ご予定を妨げるわけには参りません。いずれ然るべきときに、改めてご挨拶させていただくのが道理でしょう」
彼は声を落としながら言った。
「七英雄の末裔の方々が見つけられたという、七英雄の武具にも興味がございました。時間さえあれば一目拝見したかった」
「やっぱり、その話も聞いておられたんですね」
「聖地でも知らぬ者はおりません。いずれ、勇者ルインが手にしていたとされる神剣も見つかればと祈るばかりです」
「ですがあれは、彼がレオメルに帰還してすぐに砕けた……って」
「そのように言い伝えられていますが、柄なども残されていないというのは不思議なことです。それに消えたとされていた武具も見つかったのですから、神剣もどこかに眠っているかもしれません」
可能性がゼロとは言わない。あくまでも、レンが知る七英雄の伝説の知識には一切の情報がなかったが。
本題に入る前ではあるが、レンはその話に興味を抱いて耳を傾けた。
「神剣はその聖なる力により、自然に調和します。神剣の一部分でも残されていれば、それを守ろうとして、周辺の自然に覆われていたことでしょう」
仮に人の手で封印されていれば話は別だ。
しかし、これまでの英雄装備の例を思えば、砕けた神剣の一部がどこかにあっても不思議ではなかった。
「木々に覆われているかもしれませんし、水に沈んでいるかもしれません。あるいは……そうですね」
ミストルフォが、何の気なしに。
「岩などを引き寄せ、自らを封印している可能性もあるかもしれませんね」
「そうなると、絶対にわかりませんね」
「ええ。だからこそ、今日まで見つかっていないのでしょう」
これでようやく、話が一段落。
レンはいつかヴェインが手にすべき神剣が見つかるかもしれないと思いながら、話題を変えた。
「先日、魔王教と戦われたとのことでしたが」
「数ある戦いのうちの一つです。魔王教の幹部がいたため、私を含めた戦力が派遣されました」
「もしかして、オルフィデがウィンデアの前に襲った都市のことですか?」
「いいえ。かの司祭がウィンデアを訪れたのと近い日ではありましたが、エルフェン大陸西部でのことです」
大陸西部といってもどの国のことか。
気にしていたレンに告げられるその詳細。
「メディル公国はご存じですか?」
「はい。禁書の暴走で滅亡した国だったかと」
「いまの話に出た都市は、そのメディル公国から遠くない中立都市です。その地にあるのは希少な大神殿。我々は敵の情報を得てその地にて魔王教を迎え撃ちました」
「聖人の右剣ほどの方が派遣される実力者がいたんですか?」
「相違ありません」
ミストルフォの実力をレンが自分の目で見たわけではない。
七英雄の伝説においても、設定資料で軽く触れられていただけの人物だ。それでもレンがミストルフォのことを知っていたのは、彼が剣王序列第一位の側近であるためだ。
「司祭、あるいはさらに上の実力者でしょう」
その言葉を聞いてレンが思い浮かべる、ある男のこと。
オルフィデから聞き出したということにして、ラディウスらに共有してある人物。七英雄の伝説Ⅱにおける最後の敵。
司祭たちを率いる、司教の位にある者のことだが、
「女性のようでしたが、魔王教のローブのせいで素顔まではわかりませんでした」
「え? 女性だったんですか?」
「はい。我々にわかるのは声だけですが、何か疑問が?」
「いえ……そういうわけでは」
自分が知る情報と違うから生じた戸惑いだった。
けれど、司教が一人と明言されていたわけではないから、むしろこれは自然なことなのかもしれない。第一、魔王教を率いる教主の下にもイヴを含めた大幹部が二人いるのだ。司教の地位にある人物が一人かどうかも不確かだ。
そもそも、まだ司教であると断言されているわけではないが。
……もし司教だったとしても、俺が知ってる相手じゃない。
……仮に司教がまだいるってことなら、それはそれで厄介だけど。
レンが密かに考え込んでいることなど知る由もない。
彼の傍にいた聖人の右剣は当時のことを語りつづけた。
「結局、都市の外で生じた小競り合い程度。それでも互いに相応の犠牲を出しています」
「相手はどんな力を?」
「数ある魔法を。各属性の魔法を行使したと思えば、固有のそれと思しきものまで自在に放ってみせました」
だが、ミストルフォは主に神殿の守護にあたっていたから、直接の戦いにはならなかった。
「それほどの才能を持ってる。あるいは専用の装備を……」
「どちらが確かかはわかりません。前者ほどの才を生まれ持った存在など、私も数人しか存じ上げませんので」
話に聞くほど多くの魔法の才を持っていた人物がいるとは。
世界最高の魔法使いに数えられるクロノアもその例に該当するだろう。しかし、敵ではないからまた別の話だ。
つづきが気になるレンは、相槌を一つだけ打って傾聴に尽くした。
「メディルの魔女……マシェリア。たとえば彼女です」
ミストルフォが湖面を見ながら言った。
「マシェリア?」
「メディル公の子です。類まれな魔法の才能に恵まれ、生まれながらにこの大陸でも過去に例のない逸材と呼ばれていました」
「ですが、メディル公国の貴族は皆――――」
「命を落とした。メディル公が禁書を暴走させたことにより、公都ごと地の底に沈んでいます」
だから確かなことを言っているわけではなくて、ミストルフォとしてはそうした人物もいた……くらい。
「ただ、あの惨状のメディルから生き延びたとは到底思えませんが」
結局はこの言葉に帰結してしまう。
メディル公国の跡にあるのは、底が見えないほどの暗闇に包まれた大穴だ。
それが、メディル公が禁書の力を暴走させた代償。いまでは大穴に瘴気が満ち、人が立ち寄ることは叶わない。
「話を戻しましょう。先の戦いのことは、帝都へも聖地から同じ内容の手紙が届くはずです。我らも機密としているわけではございませんので、それがレオメルのためになることを」
「ありがとうございます。やっぱり、聖地周辺の国には共有されることになってたんですね」
「周辺諸国に限ったことではございません。つい先日はエルフェン大陸を離れ、ある王に謁見した際にも申し上げて参りました」
「────王?」とレンが首をひねった。
「きっとあなたもご存じの方です。天空大陸と言えば、おわかりいただけるでしょうか」
「まさか、雷帝ですか?」
ミストルフォは首を縦に振って返すと謁見した日のことを口にしだした。
「雷帝は傑物だ。もしお会いすることがあれば、私の言葉を思い出せるでしょう」
「でも、俺が天空大陸の王と会う機会はなさそうなので……」
ミストルフォはレンに返事をする際にこれまでより言葉を選んだ。
雷帝を正当に評価しつつ、その人物像を語るために。
「むしろ、あの王とは極力顔を合わせないほうがいいかもしれません。彼は何物をも喰らおうとする本能と、それに見合う力を知恵で支えているお人です。私の部下たちも、瞬く間に飲まれてしまったのです」
「――――そんなにすごい方なんですね」
「すごい……ええ。彼以上に王らしい王は存在しないと思えるほどには」
話が若干それてしまった。
これまでも本題でなかったわけではないが、レンが何より聞きたかった人物についての話はまだできていない。
「もう一つ聞きたいことがあるんです」
「構いません。私に答えられることでしたら」と快諾したミストルフォだったが、
「――――イヴという女性のことを知りませんか?」
というレンの言葉を聞いて様子が変わった。
一瞬、レンが身構えそうになるほどの圧が漂ったと思えば、聖人の右剣はすぐに圧を消し、まっすぐとレンを見つめてその瞳の奥を見定める。
イヴに対しての強烈な敵意が感じられた。身体ごと貫かれそうな強い意志が秘められたまなざしから、レンは決して目をそらさなかった。
「失礼。レオメルでもその情報を手にしていたことを失念していました」
「い、いえ、俺のほうこそ急に聞いてしまいましたから」
オルフィデとの死闘により、聞き出すことに成功した情報ということでレンがラディウスに話していた。
当然、イヴの名前などはすでに二人以外にも共有されている。
「エルフェン教は教主とイヴ、それにもう一人の幹部を含む三人と戦ったはずです」
それはエルフェンの涙を奪われたときのことだ。
「確かに我々は魔王教の頂点を相手に戦いました。いくつか聖地に関わる秘密もございますから、貴方たちが知らない情報もあるかもしれません」
「お願いします。俺はどうしてもイヴの情報が欲しいんです」
これまでより力強く、まっすぐに。
覇気すら感じられる佇まいのレンを前に、ミストルフォはその根底にあるものに興味を抱いた。イヴ以外の幹部についても知りたいはずなのに、それでもイヴを気にする意図に対しても。
知りたい。
何故この少年が、魔王教の中心人物に近づこうとしているのかを。
「いいでしょう」
先ほどまで前向きな返事ではなかったミストルフォの肯定的な言葉に、レンが驚きながら「ありがとうございます!」と声高に返した。
「ですが、私からも条件があります」
「……それが俺にできることでしたらいいのですが……」
「結構。その条件ですが」
ミストルフォが一歩、そして二歩……と。
急に距離が狭まったことに困惑するレンの眼前に立つと、彼は射貫くような力強い視線を向けてきて……。
「レン・アシュトン、あなたに――――」
今日もアクセスありがとうございました。




