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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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昨晩の魔導船のこと。

7巻電子版の予約がはじまりました!

またカバーイラストも公開となりましたので、ご覧いただけましたら幸いです!

 翌朝に。

 リシアはバルコニーで朝の風を感じると、次にシャワーを浴びて朝の身支度に勤しんだ。

 彼女は自室に戻り、いつも帯剣している白焉を視界に入れて呟く。

 


「……纏いくらいは、使っておかないと」



 それは、剛剣使いにとっての基礎中の基礎。昨晩は剣の訓練をできていなかったから、代わりに全身にうっすらとした魔力を纏わせる。

 感覚が鈍ることのないよう、いつものように。

 朝日を浴びながらそっと目を閉じて意識していたのだが。



「――――え?」



 リシアは纏いを行使してすぐ、少しだけ普段と違う感覚なことに首を傾げてみせた。何となく感覚が違っていたというか……考えていたより少し、強く纏いを使ってしまった気がしていた。

 リシアは「はぁ」と嘆息し、窓に映る自分の身体を訝しむように見つめた。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 昨日までと違い、レンたちは正装に身を包んでその庭園を歩いていた。

 途中、ドレス姿のリシアがため息を漏らして。



「……やっぱり、訓練って大事なのね」


「え? 急にどうしたんです?」



 レンが尋ねればリシアがもう一度息を吐く。



「昨日は剣を振ってなかったでしょ? せめて纏いくらい使って感覚が鈍らないようにしとかないと……って思ったんだけど、調子が悪かったの」


「リシア様、どんな風に調子が悪かったんですか?」


「自分で思ってるより強く纏いを行使しちゃったんです。感覚が鈍った証拠なのかも……って」


「あはは……それなら私も前に、魔法で何度か思い当たることが……」



 こればかりは剣も魔法も、日々の積み重ねが重要ということで収まりがつく。三人はそのことを再確認すると、周囲の様子に目を向けた。



 朝食を終えてしばらく休憩してから三人が馬車で向かったのは、都市の中心部に位置した伯爵の屋敷である。

 この日、クルシェラ伯爵邸の敷地内では立食パーティの他に、庭園で慈善活動の一環として大規模なオークションが行われていた。



「売り上げをすべて紛争の被災地とかに寄付するんですって」 



 屋敷の門をくぐってすぐ、大きな庭園の一角で行われているその様子を見てリシアが言った。

 門の外には数多くの馬車が並び、この催しのために訪れた貴賓の数を物語っている。中には、彼女たちが帝都でも目にしたことのある貴族たちの姿もあった。



「クルシェラらしいというか、お屋敷もすごく綺麗で――――」



 言い終える前にリシアが不意に立ち止まる。

 どうしたのかとレンとフィオナが顔を向けた先で、リシアは一瞬だったけれど身体をふらりと揺らしたのだ。

 しかし、彼女はすぐにハッとして二人を見た。



「な、何でもないから! 暑さで身体がびっくりしちゃったのかも!」


「大丈夫ですか? 具合が悪いなら無理しなくても……」


「平気! でもレン、無理しなくてもって言うけど、私はお父様の名代なんだからね」


「知ってますよ。それでも体調が悪ければ無理にでも連れ帰るって言ってるんです」


「……レ、レンってそんなに強引だったかしら」



 会話の最後のほうではフォオナもまた口にする。



「無理をしたらダメですからね」


「……わかった。何かあったらちゃんと言うから」



 リシアが折れたところで、伯爵家の執事が三人の姿に気が付いて歩を進めてくる。その頃にはリシアもいつも通りに戻っていた。

 常にユリシスの傍に控える老紳士、エドガーのような壮年の執事が言う。



「イグナート様、クラウゼル様でございますね。ようこそお越しくださいました」



 三人は伯爵家の執事に案内されて庭園を横切ると、屋敷が誇る広いエントランスに足を踏み入れる。

 立食パーティ会場として開かれたエントランスの一角に、伯爵はいた。



「旦那様。イグナート家、クラウゼル家のお二方がいらっしゃいました」



 執事の紹介を経てリシアが、フィオナが伯爵の目の前へ。

 可憐でありながら、優雅で洗練された所作など。彼女たちの振る舞いに、むしろ伯爵のほうが緊張しているように見えた。



「これは光栄だ。いまレオメルでもっとも高名な両家の令嬢とお会いできるとは」



 伯爵が言えばまずはフィオナが口を開き、リシアがつづく。



「もったいないお言葉です。伯爵、父が直接ご挨拶できなかったことを謝罪しておりました。いつか帝都で改めてご挨拶を、と」


「私の父からもです。祈りの夜々に参加できず申し訳ないと言付かって参りました」


「何を申されるかと思えば。二人のお父君には幾度となく世話になっている。そうだ。近いうちにクラウゼル近郊都市へ向かう魔導船についても――――」



 やがて話は変わって。



「外の催しも見ていただけただろうか」


「はい。売り上げをご寄付されるとか。フィオナ様と私も拝見してその規模に驚いておりました」


「大変多くの方々で賑わっておられましたね」


「数年前にはじめて以来、いまではエルフェン教の助力も得てマーテル大陸などへの支援物資を用意できているのです」



 一瞬、エルフェン教と聞いてリシアがぴくりと眉根を揺らしたが、それだけ。話題もすぐに別のそれへと変わっていたから、特筆すべきことはなかった。

 やがて伯爵が別の客人へと挨拶に行くために「失礼」と口にする。



「それでは。今宵の祈りの夜々も、是非堪能していかれますように」



 伯爵が立ち去ってからも、父の名代として幾人かの大人と挨拶をしなければならない。

 幸い、三人は経験を積んできたからこうした時間にも慣れている。パーティ向けの笑みを浮かべることだって苦ではなかった。



 しかし、



「リシア?」



 何度目かの挨拶を終えたところで、ふとリシアの身体が揺れてレンに触れた。

 手元の肌と肌が触れ合った際、レンは彼女の体温が熱すぎないことをすぐに感じ取る。間違いなく風邪ではないだろう。頬を見ても血色が悪いというわけではないのだが、心なしか疲れているように見えた。



「ごめんなさい、ちょっと力が抜けちゃって」



 返事を聞いてから腕時計に目を向けたレン。

 フィオナもリシアの表情を見てから、今度はレンと目配せ。

 そのときのリシアはいまにも倒れそうな表情というわけではまったくなかったが、だからといって無視することはできない。



「そろそろ宿に帰りましょうか。もうご挨拶はすべて済みましたものね」


「でも、まだそんなに時間が――――」


「あまり経ってませんけど、大丈夫ですよ。別のパーティでも早く帰る人っているじゃないですか。ほら、レン君も同じことを言いたそうにしてますよ」


「ですね。俺が言いたかったことはフィオナ様が言ってくださいました」



 リシアは自分一人で立てないわけではなかったが、そんなのは関係ないと言わんばかりにレンが彼女の腕をいつもより強くエスコート。



「ふ、二人とも! 大げさだってば!」


「いやでも、疲れてるのは一目でわかりますし」


「そうですよ。祈りの夜々で外に出るの、リシア様も楽しみにされてたじゃないですか。夕方からに備えて休憩しておかないと」


「……もう、大丈夫なのに」



 リシアは申し訳なさげそうに言いながら、身体を気にかけつつ歩く。



「でも……急にどうしたのかしら……」



 そう、自分でも不思議に思ったままその場を後にする。

 何度も考えたし口にもしたのだが、体調が悪いという感覚は一切ない。だからこそ、さっきのことが自分でもよくわからなくてたまらなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 ほとんど強引に宿に帰ると、皆は早速私服に着替えてしまう。

 もう昼食時だった。ルームサービスでも宿の中にあるレストランの食事を楽しめるから、それでいいだろう。



 三人がいたのは、レンの客室だ。

 ソファに座るリシアはその手に光を宿し、自身に神聖魔法を行使したが、



「何にも変化がないから、やっぱり気のせいだと思う」



 申し訳なさそうに苦笑を浮かべていたが、それを許さないのがフィオナである。



「ダメです。いま調子がいいだけなのかもしれませんし、しばらくゆっくりしていましょう」


「……フィオナ様も、いつもより強引なんですね」


「だって、私は幼い頃ずっと病弱だったんですよ。朝起きて調子がいいなーって思ってたのに、お昼になったら涙が涸れるくらい痛かったときだってあるんですから」


「うっ……それは……」


「ふふっ。我ながら、いまのは説得力がありすぎたかもしれません」



 それを言われるとリシアは何も言い返せない。いままでになく心配されてることもわかっていたし、ここで食い下がるほど愚かではなかった。



 ただリシアだって、意味もなく食い下がろうとしていたわけではない。

 実際もう平気だったこともある。二人に心配をかけているから、もう大丈夫! と繰り返しただけなのだ。



「ですので、油断は禁物ですからね?」



 得意げに言ったフィオナが、今度はレンに顔を向けた。



「ルームサービスのお料理を選びましょうか」


「そうですね。確か机の上にメニュー表が置いてあったような」



 と思っていたのだが、見つからない。机の傍にあった気がしたのだが、こうして探しているのもと思ったレン。



「受付で新しいのをいただいてきますね」


「い、いいわよ! そこまでしなくて!」


「いえいえ。冷たい飲み物も欲しかったので、ついでに行ってこようと思います」



 するとレンは、リシアが反論する間もなく話題を変えた。

 不意に脳裏をよぎったことを、確認しなければならないと感じて。



「――――一応聞いておきたいんですけど、魔石は大丈夫ですよね?」



 白の聖女の胸に宿るもの。

 本来、魔石は魔物しか身体に宿せない代物だ。

 けれど歴代の白の聖女と呼ばれる存在のうち、特に力ある白の聖女のみが身体に魔石を宿していた。



 その事実を知る者は家族などの僅かな人数に限られるが、フィオナもまた、秘密を共有している少女だ。



「全然何ともないけど……ってその目、ちょっと疑ってるでしょ? どうしても気になるのなら、もう確かめてもらうしかないんだけど」



 他意はなく、リシアはため息交じりに抵抗の意を示した。

 ジト目まで浮かべて、心配しすぎとレンを見るようにしたまま。

 


「……当たり前ですけど、確かめませんよ」


「? リシア様の魔石って、どこにあるんですか?」


「改まって聞かれると恥ずかしいですけど……その、この辺りです」



 鎖骨の近く。リシアが遠慮がちに服の上から示したのは、その付近。

 そこまで詳細に聞いていなかったフィオナにしてみれば、いくら冗談であっても大胆に思えてならず。



「もう! リシア様!」


「だ、だからあんまり言いたくなかったんだってば!」



 最終的には何も反論できず、リシアはソファに置いてあったクッションを昨日のように抱きしめて誤魔化した。

 急に訪れた沈黙。

 それを打ち破るついでに、今度こそロビーへ向かうことに決めたレンが言う。



「フィオナ様、リシアが俺たちを気遣いすぎるせいでまた変なことを言うかもしれませんので、お願いします」


「ええ。任せてください」


「わかってるなら言わないでいいじゃない! ってか、フィオナ様も素直に頷かないでください!」



 フィオナに飛びかかっていきそうな勢いのリシアを見れば、さっきはやはり、夏の暑さに負けてしまったのだろうと思わされる。



 ――――レンが地上階に下りてロビーで聞けば、メニュー表はいくつか用意があるという。いくつかのメニュー表を借りたレンが部屋に戻ろうとしていたら、入り口に伯爵家の執事が姿を見せた。

 彼はレンを見かけ、すぐに早足で近づいてきた。



「レン・アシュトン様でございますね」


「はい。先ほどは急に帰ってしまい申し訳ありません。けど、どうして俺の名前を?」


「何を仰います。アシュトン様はご令嬢方に負けじと名を馳せておいでではございませんか」



 普段、自分のことにあまり頓着しないレンらしい言葉だった。



「屋敷の者からクラウゼル様のことを聞き、伯爵の命により参りました。その後、いかがお過ごしでしょうか」


「さっきは外の暑さで疲れちゃったみたいです。いまは部屋でゆっくりしてますよ」



 伯爵邸で別の者に告げてから立ち去ってはいるが、同じ内容を執事に告げた。

 すると執事は胸を撫で下ろし、安堵の声で。



「もし何かございましたら、何なりとお申し付けください」


「いえいえいえ! こちらこそ宿まで来ていただいてしまい……! リシ――――お嬢様にも伝えますので!」


「もったいないお言葉です。ですが皆様大切なお客様ですので、どうかご遠慮なく」



 相手は伯爵。子爵家であるクラウゼル家より格上だというのに、わざわざ執事を派遣してまでの対応にはそつがない。

 深々と礼をしてみせた執事は去り際に言う。



「そういえば、昨夜、空を飛んでいた魔導船はご覧になりましたか?」


「あのすごく大きな魔導船のことですよね?」


「はい。あちらは聖地から訪れた船でして、普段はレオメルで見られないものでございます。もしご興味がありましたら、魔導船乗り場などでご覧いただけるかと思います」


「聖地から……ですか?」


「そのようにお伺いしております。伯爵が仰っておりましたが、クルシェラで行われる大規模な催しの売り上げは、すべて紛争被害への寄付金でございまして……」



 数年前から始まったその催しへは、いまではエルフェン教の助力もある。

 以前より容易にマーテル大陸などへの支援物資を用意できている、と伯爵が言っていた。



「聖地の重鎮が急遽いらしてくださいまして、昨今の魔王教について伯爵も意見交換されておりました。クルシェラ領の周辺も、魔王教の被害がゼロだったわけではございませんので」


「なるほど……だから聖地の方が」



 その話を聞いて、レンが無視できるはずもない。

 執事がつづけて話したのは、その重鎮がどのような人物であるのかなど。それにはレンも驚かされた。



 レンが頭の中に思い浮かべたのは教主の妹、イヴ。

 七英雄の伝説における惨劇。それにアシュトン家の血筋が関係しているという口ぶりであった彼女の情報は、何より求めるそれなのだ。



「このあと、橋の近くにあるレストランで立食パーティがございます。伯爵は邸宅でのパーティがあるため不参加ですが、そちらのレストランで貴族の方々とも意見交換をされると聞いております」



 執事がさらに言う。



「アシュトン様もご興味がおありでしたら、ご参加してみてはいかがでしょう」


「ですけど、俺は招待状がありませんよ?」


「屋敷のパーティと招待状が共通でございます。アシュトン様もお二方にご同行された方として記名されておりますので、問題ないかと。私もこれから立食パーティ会場へ向かいますので、受付の際はお手伝いいたします」


「……そういうことでしたら」



 行ってみたい、そう思った。

 会場でエルフェン教の人と話ができるかどうか、確約はなくとも。



「勇者ルインの末裔殿もいらっしゃるとお伺いしておりますよ」


「あっ、ヴェインも行くんですね」



 執事はレンにレストランの名とおおよその場所を告げると、深々と頭を下げてからその場を後にした。



 レンは昇降機に向かい自身の客室に戻る途中、一人じっと腕組みをしながらイヴのことを考えた。エルフェン教はレオメルより多く魔王教と戦っている。それどころか彼らは、教主らとも直接相対した過去があるのだ。



 ……イヴのこと、何か知ってたらいいんだけど。

 ……あと、それを俺に教えてくれたら。



 なんていうのは都合がいいかもしれないが、この状況で何もしないということも考えられない。



『教主と仰ぐ存在と共に神殿を襲い、互いに多くの犠牲者を出しながら奪い取ったようだ』



 これは何年か前にラディウスがレンに話したこと。

 エルフェン教の聖遺物、エルフェンの涙が盗み出されたときの話。

 そして、



『教主らしき人物と二人の側近はローブに身を包み、仮面で顔を隠していたと言っておりました』



 これはラディウスが密命を終えて帰還したエステルから聞き、それをレンたちも報告の形で共有した情報だ。

 この二つが確かなら、エルフェン教もイヴともう一人の側近に関する情報はこれ以上持っていないかもしれない。最近、何か新しい情報を得ているとすれば話は別だが。



「どんなことでもいいから、何か聞けたらいいけど……」



 レンは上層階で昇降機から降りて歩きながらも呟きを漏らし、自室のドアを開けた。

 執事から聞いたパーティだが、行くなら自分一人でと考えながら。




今日もアクセスありがとうございました。

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