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物語の黒幕に転生して~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
七章・白銀が奏でる。

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門の傍での出来事。

7巻の電子版が予約開始となりまして、カバーイラストも公開いたしました!

活動報告への投稿もご覧いただけましたら幸いです!

 少し歩いて。

 互いの宿へ戻るべく別れる直前、



「リシア、あたしからまたちゃんと言っておくから」



 そうセーラが言ったことが、レンの耳には強く印象的だった。



「もういいってば。気にならないわけじゃないけど、セーラたちに迷惑をかけちゃうでしょ」


「そんなことないってば。その、イグナート様も急にあんなことになって……」


「い、いえいえ! 私も大丈夫ですから気にしないでください!」



 リシアとフィオナが仕方なさそうに苦笑いを浮かべたのを見て、レンは何があったのだろうと小首をひねった。



 レンが答えを得られたのは客室に戻ってすぐだ。

 何があったのか知りたそうにしていたレンの様子を察して、リシアとフィオナが少し話そうと提案し、彼の部屋を訪れて間もない。



 リシアはソファに腰を下ろすと、クッションをぎゅっと胸の前で抱きしめた。

 その表情はというと、仕方なさそうな苦笑。彼女は少しの間をおいてから唇を動かしはじめた。レンが向けてくる、心配しているようにも気にしているような表情を見て、申し訳なさそうに。



「帰る途中で英雄派の貴族に会ったんだけど――――」



 そう複雑な内容ではない。

 店が集まった建物を出てすぐに声をかけてきた貴族の言葉により、楽しかった時間の終盤に微妙な気持ちにさせられたというだけ。



「英雄派が最近すごく賑わってるでしょ? それで私が一緒にいたから、クラウゼル家がとうとう中立派から鞍替えか、みたいな内容のことを冗談交じりで聞いてきて。ついでに最近の皇族派は情けないみたいなことを言ってたの」


「え、フィオナ様がいるのにですか?」


「ちょうどフィオナ様は後ろを見てたから。帰りにアイスを買おうとしてお店の前にいたのよ」



 調子のいい言葉も、さすがに相手を見れば気を遣うだろうが……。だとしても発言した内容は目に余るし、聞けばいい気分はしない。



「久しぶりに派閥争いの真ん中に置かれた気がして、ちょっともやもやしちゃった」



 リシアが珍しく、かなりため込んだ息を吐きながらである。

 クッションを強く抱きしめながら足元をばたばたさせる仕草はとても可愛らしいが、その顔に浮かんだ不満は変わらず。



「アルティアさんがその……舌を打つというのか、そうしたことをされたときは驚きました」



 フィオナが遠慮がちに言った。



「え、あのアルティアさんがですか?」


「してたわよ。いつもみたいに楽しそうに笑ったまま、相手には聞こえないようにね」



 きっと、相手が貴族だから下手な騒ぎを起こさぬよう気を遣ったのだろう。

 ……だとしても、舌打ちをしてしまったのは我慢しきれていないかもしれないが。



「むしろ私たちより怒ってくださいましたもんね、皆さん」


「そうね。逆に申し訳なくなるくらいだったと思う」



 リシアがフィオナに対して砕けた口調で話してしまうときは、いつも感情が強く出てしまうときである。

 いまだって、同じような気分になってしまっているのだろう。



「でも、この話はもう終わり。私が友達と一緒にいたいって思うのは、私の勝手だもの」



 だが話をしているうちにも、彼女たちは別の言葉も思い返してしまったようで……。

 いまでこそ笑みを浮かべていたけれど、まだ何か言いたげだった。

 あまりレンにこうした話をしたいと思わないのだろう。だから話そうとしていないのは見て取れたのだが。



「もしかして貴族の軽口って、まだあるんですか?」


「そう!」


「そうなんです!」



 聞いてみれば、やはり。

 そうだろうと思った。



 同じような返事をした可憐な少女たちが、座った姿勢のままレンに向けて身体を乗り出す。美しい四つの瞳に訴えかけられるようなこの状況に、彼がついたじろいでしまった。



「えっと……」



 レンがこの体勢で二人にまっすぐ視線を向けることはできなかった。

 季節が変わり、より多くの面でより磨きがかかっている二人だ。

 レンの前だからこその油断してしまった仕草だったが、目を向ける先に困ったレンは敢えて窓の外を見る。



 照れていたというわけではない。逆に二人を気遣おうとする紳士的な意識によるものだった。



「急にそっぽを向いちゃったけど……レン?」


「何かレン君も気になることがありましたか?」


「大丈夫です。ただの逃げなので気にしないでください」


「そう? ならいいんだけど……」


「逃げ……?」



 レンの言葉の意味に、彼女たちは気が付けなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 夕方の空を満たす茜色がいつもより濃く見えた。

 立ち並ぶ建物の多くに明かりがつきはじめる。夕方の色に染まった湖面と、それに架かる巨大な橋。

 クルシェラを象徴する多くを横目に歩く三人。



「……だいぶ涼しくなってきたかな」


「これだと、夜になったら少し寒いくらいかもしれないわね」



 日中の熱気が鳴りを潜めている。通りを歩くのも随分と楽になったおかげで、より景観を楽しむ余裕を持てた。



 過ごしやすい気温になった一方で、クルシェラの賑わいはほぼ変わらない。

 レストランの多くはテラス席もほとんどが埋まり、通りを進む馬車も数を増やしている。街灯から注がれる橙色の灯りが町中を彩り、クルシェラの夜の美しさを際立てた。



「聞いてた通りですね。観光に向いてる場所は人が減って、町のほうがもっと賑わいはじめてるみたいです」



 フィオナが涼しい風に靡く前髪に手を添え、周囲を見渡して。

 路面を走る魔導列車に乗って近くまで行ってもよかったのだが、もう外は涼しく、人通りも日中ほどではなかったから歩くことに決めた。

 代わりに魔導列車が混み出しているようだったから、ちょうどいい。



 しばらく歩いて足を止めたのは、星域の門の手前にある広場だ。

 レンたちの他に観光客の姿はまばら。周りの人々が話す声や音よりも、近くを流れる水の音のほうがずっと大きく聞こえてくる。



 ここがレンたちが目的としていた水の在り処。

 星域の門も近くで見られるここが、クルシェラで過ごす時間としても都合がいい。



「確か……あっ、見て! あっち!」



 星域の門の前方は深い水場があって、まるで石畳をくりぬいたように底が見える澄んだ水が深くまで満ちている。

 水中から水面へ伸びた石柱が点在しており、それを足場に水門の前へ行けそうだ。

 けれど水場の周囲は真新しい柵で覆われていて、それより先には行けないようになっていた。



「素敵……こんなに綺麗だなんて」



 感嘆の声を漏らしたフィオナの視線の先で、水面から浮かび上がる光の粒の数々が舞う。



 幻想的で――――いつまでも見ていたくなるほどの美しさ。



 一粒一粒の力がまさしく、レンの腕のために求めたもの。

 リシアとフィオナが力を尽くしてほぼ完治するまでに至った彼の腕を、別の側面から癒やすためになるはず。



「ほら、レン」



 リシアに促されたレンが呪いを受けた腕を水面へ伸ばしてみれば、光の粒がいくつも彼の腕へ近づいた。

 宙を泳ぐように穏やかに彼の手に触れると、すっと熱が奪われるような感触にレンが小さな驚きを覚える。



 さっきまでだって腕に違和感があったわけではないのに、また少し軽くなったような気がした。

 手元に握り拳を作ってみたり開いてみるのを繰り返して。



「少しだけ、軽くなった気がします」


「っ……よかった!」


「ええ! 来てよかったです!」


「何度も言ってましたけど、二人のおかげでほとんど完治してたんです! 微妙に残ってた疲れが取れた………みたいな感覚なので!」



 劇的に変わったというものではなく、あくまでレンが口にした通り。彼女たちのおかげでほとんどよくなっていた腕が、また少し軽くなったという感覚だった。



「わかってるってば。気遣ってくれてありがと」


「身体の奥に侵食した呪いでしたし、違いはどうしても出ちゃいますから」



 ついでというわけではないが、リシアとフィオナも手をそっと伸ばせば光が近寄った。二人もその光を受けて身体が軽くなったような気がして、クルシェラに残る神秘を直に体験できた。



 ――――それからもすぐには帰らず、星域の門とその周囲を近くで眺めること、十数分。



 門の前方にある水に光が浮かんだ光景には、夜空に似た美しさが秘められている。

 学院でミレイが口にしていたように、クルシェラは星謳う地とも呼ばれている。星域の門という名についても、確かにと思える理由であった。



「こんなに豪華な門があるのに、その先の神殿のことがよくわからないって不思議」



 フィオナが言った。

 星域の門の奥にあるという神殿は、レンの祖先とされている人物に似て情報が少ない。違うことといえば、セシルはその名を探すことすら至難であること。この先にある神殿の存在は隠されていないということ。どちらも内容がわからないのなら、その違いになんてあってないようなものだろうが。



「普通、少しくらい記録が残っていそうですものね」


「発掘とか調査が終わってない遺跡は多いって、前にラグナさんが言ってました」


「実際、旧市街のジェノ院もそうだったわよね」


「確かに……私たちが行ったあの孤児院も、去年まで何もわからなかったんですよね」



 だから、この奥にある神殿のこともいつかわかるのかもしれない。それがいつになるかは、レンにも想像できなかったけれど。

 さらに日が傾き空のほとんどが夜の帳に覆われはじめたところで、三人は水門前の広場を離れていく。



 その途中で。



『――――』



 やや強い風に三人の頬が撫でられ、その際にレンは何となく星域の門を振り向いた。風に何か声が混じっていたような……そんな気がしたのだが、振り向いてみたところで何もない。



 空耳? それにしては印象深い気がしてならない。

 しかし、耳を澄ましてみても気になる音はもう聞こえてこない。



「……気のせいかな」


「レン? どうかしたの?」


「……いえ、なんでもありません」



 やがて彼は、再びその帰路に顔を向けた。

 宿に帰ったら夕食はどうしようかな……とか、なんてことのないことを考えながら歩を進め、少し。



「今日は剣を振らないでおこうかな」 



 ぽつりと、独り言を。



「一応、宿の地下に運動できる場所があるらしいわよ?」


「ふふっ、そこって魔法も使っていいってお話でしたよね」



 少女たちも本気ではなく冗談を言い、レンが笑う。



 雑談を交えながらの帰り道の途中で――――。

 三人はふと、空を見上げた。



 帝都やエレンディルでは見られない、夜空の美しさに気を取られていたところで……。

 そのとき、三人は見上げた夜空に何かの影を目にしたのだ。



「何かしら……あれ」


「すごく大きいですね。魔導船みたいですけど……」



 空の端から近づく巨影が、魔導船乗り場へと高度をさげていく。

 二人の声につづいてレンも首をひねって呟く。



「……だけど、暗くてよく見えないな」



 そう口にしたが答えは見出せず、彼は再び夜空に意識を戻した。



今日もアクセスありがとうございました。

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